皆さんは、「信じる」ということの意味をどのように捉えていますか。私は、「信じる」とは、相手の人間性についてはもちろんのこと、相手の実力をも信じることだと考えています。

分かりやすく、スポーツに例えてみましょう。サッカーチームに、性格はとても良いが実力は三流の選手がいたとしたら、その彼にエースストライカーを任せることはできないでしょう。点を取ってくれるとは思えないからです。逆に、実力は一流だが性格に難がある選手がいたらどうでしょう。やはりエースストライカーを任せることはできません。ひねくれたプレーをして、せっかくのチャンスを台無しにしてしまうかもしれないからです。

偉大な成績を残して現役を引退したイチロー選手のように、一流と呼ばれる選手は、人間性と実力を兼ね備えています。だからこそ周囲は「信じる」ことができるのです。

さて、ここで管理職の皆さんに質問します。

「信じられる部下を育てていますか?」

注意してほしいのは、私は「部下を信じていますか?」とは聞いていないことです。皆さんの仕事は部下を信じるだけではなく、信じられる部下を育て、その上で信じることです。人間的に未熟な部下には、仕事に取り組む姿勢を教え、技術的に未熟な部下には、スキルアップの機会を与えなければなりません。それも、適切なタイミングで部下の成長を後押しする必要があります。

私が課長だった頃、上司からの信頼を強く感じた出来事があります。私は大きな商談を担当していて、最終コンペまでこぎ着けました。その当日、上司は次の言葉で私を送り出してくれました。

「楽しんできなさい!」

その上司は人の何倍も準備をする人でした。通常なら直前まで私を指導し、「とにかく慎重に!」と送り出したはずです。それなのに「楽しんできなさい!」と言われたので私は驚きましたが、すぐにその言葉は私への信頼の証しだと分かり、やる気が倍増したのを覚えています。当時、私は本当に入念にコンペの準備をしていました。後から聞いた話ですが、上司はそのことを同僚から聞いていたこともあり、私を信頼してくれたようです。

「啐啄同時(そったくどうじ)」という言葉があります。「啐(そつ)」はひな鳥が卵の内側から殻をたたく状態、「啄(たく)」は親鳥が卵の外側から殻をたたく状態を示します。親鳥は、ひな鳥がいよいよ殻を破って外に出るタイミングを見逃さず、その手助けをしているのです。

先ほど例に挙げたコンペのとき、上司から「とにかく慎重に!」と言われていたら、私はそれほど上司からの信頼を感じなかったはずですが、まさに上司の絶好のタイミングの一言でやる気が倍増しました。部下は一気に成長しません。しかし、ブレークスルーのタイミングは必ずあります。上司はそれを見逃さず、「啐啄同時」でサポートすることが大事なのです。

以上(2019年7月)

pj16966
画像:Mariko Mitsuda

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