今朝は「裏切り」についてお話しします。「裏切る」という言葉には、味方に背いて敵方に付く、約束・信義・期待などに反するといった意味があり、「悪い行い」と認識されています。しかし、少し視点を変えてみると、必ずしも悪い行いとは言い切れない場合もあります。
歴史上の人物で例を挙げると、勝海舟(かつかいしゅう)が該当します。海舟は、明治維新における新政府軍と旧幕府軍の戦いで、旧幕府軍の交渉役として新政府軍の西郷隆盛(さいごうたかもり)と会談し、江戸城の「無血開城」を成し遂げた人物です。
海舟は江戸を戦火から救った人物として評価されていますが、明治が始まった頃の評価は高くありませんでした。新政府軍との戦いで旧幕府軍の多くが戦死したのに、海舟は戦わずして生き延び、明治維新後は新政府の要職を歴任しました。そのため、海舟のことを幕府の裏切り者と噂する声が少なくなかったのです。
しかし、海舟には生涯持ち続けた1つの信念がありました。それは、「日本を諸外国と渡り合える強い国にする」こと。アメリカに渡った経験を持つ海舟は、当時の日本の文化や政治が、いかに諸外国に遅れているかを知っていました。
だからこそ、彼は国内の争いによって諸外国に攻め込む隙を与えないよう、無血開城に踏み切り、明治維新後も、日本を強くするため、新政府への協力を惜しまなかったのです。
しかし、明治が始まった頃の日本は、まだ海外に関する情報が少なく、海舟のようにグローバルな視点で物事を考える人は少数でした。だから、表面上の行いだけを見て、彼を裏切り者と決めつけてしまう人が多かったのでしょう。
ビジネスにおいても「仕事の進め方を教えたのに、その指示を守らず失敗した」など、部下が上司の信頼を裏切ってしまうケースがあります。皆さんがこうした裏切りにあった場合、私からぜひともお願いしたいことがあります。いきなり部下を否定するのではなく、「なぜ、部下はそんな行動をしたのだろう」と考えてほしいのです。
もしかすると、部下は独自の着眼点で仕事を進めようとしたのかもしれません。その進め方はまだまだ未熟かもしれませんが、そこは周囲がフォローしてあげてください。
不祥事のような悪質なケースでなければ、部下を否定するのは、その「裏切りの真意」を知った後でも遅くはないはずです。なぜなら、こちらから見れば裏切りでも、その真意は正義であり、勇気ある行動であることが多いからです。部下の正義と勇気を知ろうとすることで、皆さんも管理職として成長することができるでしょう。
以上(2022年2月)
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画像:Mariko Mitsuda