年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回ご紹介するのは、
特別企画、埼玉大学で行われた講座「実践ベンチャー論:Z世代スタートアップ実践の実情を聞く」(2022/6/24開催)です。
この講座は、「Z世代に向けて、Z世代起業家がスタートアップの実情を語る」内容で、他では聞くことのできない、志も高く実績もある起業家4名による講義です。事業や起業の実情を詳しく語った4名の起業家。そして、真剣に耳を傾け、時間が足りなくなるほど質問もたくさんしてくれていた埼玉大学の学生などの聴講生。講義後、「起業の志が固まりました!」と決意も新たに顔つきがすっかり変わった聴講生もいたほどです。
本当に大げさでなく、聴講生たち(年齢問わず)の今後の人生に影響を与えたであろう、かけがえのない暑いアツい夏の一日が凝縮されていました。この記事では、講義の中で4名のZ世代起業家がお話してくださった内容を一部ご紹介します(とても伝えきれない、盛りだくさんで素晴らしい内容と熱量!)。なお、起業家4名の中には、かつてこの「岡目八目シリーズ」でご紹介した方々もおられます。後ほどそれぞれの岡目八目シリーズ記事へのリンクもご案内しますので、ぜひ覗いてみてください。
●登壇 Z世代起業家
後藤 学氏 :株式会社Helte 代表取締役
福田 駿氏 :株式会社Diary 代表取締役、就活YouTuber
西側 愛弓氏:株式会社COXCO 代表取締役
大槻 祐依氏:株式会社FinT 代表取締役
●モデレート
杉浦 佳浩氏:代表世話人株式会社 代表取締役
1 どのような事業をしているか?
まずは自己紹介を兼ねて、「どのような事業をやっているか」「なぜその事業をやっているか」といったことを最初にそれぞれお話してくださいました。そこからしてもう、面白くて勉強になる情報が満載です。お話してくださった順番にご紹介します。
1)大槻さん 株式会社FinT
大槻さんの株式会社FinTでは、主に、メルカリなどの企業のSNSマーケティング支援や運用、ライブ配信、メディア運用などを行っています。とにかく勉強家で実績もあり、突破力も実行力もハンパない大槻さん。ビジコンで優勝したこともある大学時代には、インターンながら一事業部を担当し、力強く仕事をして社員のマネジメントもしていたそうです。
ビジコン優勝特典でシリコンバレーに行ったり、シンガポールに1年間留学したり、大学3年のうちに起業したりとさまざまな経験をしてきた大槻さん。聴講生向けにさっそく「私自身、たくさんチャレンジしてたくさん失敗してきました。皆さんも多くのチャレンジと失敗をしてください。今私たちの会社は、インターン生20人くらい社員40人くらいで、インターン生もすごく活躍していて年齢は関係ないなと感じてます。ぜひ頑張ってください」と激励を。場作り、リーダーシップも素晴らしいと感じました。
会社としてのパーパスを変えたという大槻さん。その思いを次のように話していました。
「今のパーパスは“みんなの強みを活かして、日本を世界を前向きに”です。日本を、世界を前向きにしたい、それが今一番やりたいこと。日本の技術など日本の『何か』を使ってグローバルスタンダードをつくっていけるようにしようとしています」
●株式会社FinTのウェブサイトはこちら
2)後藤さん 株式会社Helte
後藤さんの株式会社Helteでは、日本のアクティブシニア層と海外の人たちがオンライン上で、“日本語で”交流できるプラットフォーム「Sail」を開発展開しています。「Sail」はまさに、すぐに海外とつながれる、自分の世界を広げる窓。参加国は実に154カ国、総利用者数は26,000人以上(2022年9月時点)とすごい数です。海外の人たちを集めるために、コネ無し知り合い無しの状態でタイなどの海外を“飛び込み”で回った泥臭いガッツの後藤さん。その様子を、まるで当たり前のように飄々と語る感じがまた、聴講生を惹きつけていました。
「Sail」を使って交流した後の分析にハマっているという後藤さん、そうした中で海外の人が日本で就職する際の支援のようなこともやっているそうです。
また、東京大学と一緒に、「Sail」を使ったことによる人の行動変容(ICTの理解度が上がった、海外の人に対する偏見が減ったなど)の分析なども行っており、これに関心を持った自治体などとも連携が実現。これからもどんどん全国各地、そして世界に拡がっていきそうです。
海外の人たちが参加した日本語スピーチコンテストを実施した後藤さん。こう語ります。
「今回は、全世界80カ国を超える1500人が参加、日本語でビジコン的にプレゼンしてもらいました。彼らの大きな夢を日本語で聞いて本当に感動した。これからの日本を支えるのはきっと彼らのような海外の人たち。ぜひ一緒に色々な事業ができたらと思います」
●株式会社Helteのウェブサイトはこちら
3)福田さん 株式会社Diary、就活YouTuber
福田さんは株式会社Diaryの代表かつ、就活生向けのYouTubeチャンネル「しゅんダイアリー」を持つ就活YouTuberでもあります。YouTubeで11万人、TikTokで9.7万人の登録者がいて(2022年9月時点)、そこを軸に就活サービスを展開。また、企業の採用広報も手掛けています。
YouTuberとして、日頃から色々な人にインタビューもしている福田さん、今回の講義でも自分の話をしつつも聴講生に「しゅんダイアリーって聞いたことある人、手を挙げてもらっていいですか?」とインタラクティブに展開。
続けて「僕は石川県金沢市出身で金沢大学に行っていて、留学もインターンもしたことなかったんです。でもどうしても東京の大学に来たかったし、東京で仕事したかった」「埼玉大学と金沢大学はなんか雰囲気が似ていてめちゃめちゃ親近感あります」「中学生のころから起業を考えていたけれど、自分は何者でもないし何もできないので、とりあえずYouTubeで結果を残したいと思った」「最初は旅行系の動画とか配信してまったくうまくいかず、『自分の言いたくないことを言おう』と仮面浪人に失敗した体験談をアップしたら初めて10万回再生」「仮面浪人人口は2万人しかいないと気づいて、大学3年の就活タイミングで就活系に切り替えて、毎週東京に行って東京の会社で自分がガチで面接を受ける様子を動画にしたらちょっとずつウケて今につながる」などなど、聴講生から見るととても分かりやすく親近感がわく、そしてぐんぐん引き込まれるストーリー。聴かせます。福田さんは目指す未来もしっかり語ります。
「僕は中学生のころから世界と戦いたいと思ってきた。時価総額という会社の『企業価値』というものがありますが、時価総額10兆円の会社にすることが今の目標であり課題です」
●株式会社Diaryのウェブサイトはこちら
4)西側さん 株式会社COXCO
今回、西側さんはなんと、フィリピンからのオンライン参加でした。こういうスタイルも、聴講生にとってはとても良い刺激になります。
西側さんが展開するのは社会課題と向き合うアパレルブランドです。西側さんは「服の形をしたメディア」とも表現しています。「大学時代にバックパッカーをした経験から、貧困問題などさまざまな社会課題を肌で感じた」という西側さん、ファッションを通して社会にとっていいことをしたいと考えるようになったそうです。例えば、不要になった繊維(洋服)からつくられた再生ポリエステルを使って、できるだけ長く愛されるデザインの服を仕立てる、しかも受注生産で気に入ってくれた人にだけ提供するなどを行っています。
そして今は、「フィリピンでファッションスクールをつくる」というチャレンジもしているそうです。
フィリピンではファッションショーも開催している西側さん、その思いを語ります。
「2015年から、フィリピンで暮らす子どもたちが思い出になる場所をつくろうと、ファッションショーをやっています。今回で8回目になります。ファッションを通してみんなで夢を描く、みんなで胸を張って生きていこうという体験をつくりたいです」
●株式会社COXCOのウェブサイトはこちら
「挑戦」。4名の自己紹介含めた事業の話からまず感じるのはこの言葉です。グローバルな目線を持っている、そもそも生き方が枠にとらわれていない。そして難しいこと、でもやりたいことに果敢に挑み続けていることがうかがえます。
2 なぜ、どうやって起業したか? 起業ストーリー
起業の理由、起業ストーリーも各者各様で、特に今回は起業を志す聴講生も多かったため、かなり聞き応えがあったのではないでしょうか。「海外留学」「バックパッカー」といった、世界に触れられる環境も起業要因の一つと思いますが、そうした環境以上に「これをやりたい、やってみる。やり切ってみる」という志、そして行動することがとても大事だと感じました。ここでは、それぞれが講義で語っていた濃い起業ストーリーの特徴的な点をご紹介します。
●大槻さん
- 起業した理由は、広く言うと「自分が生まれてきた意味を持ちたい、私が生まれたから世界が良くなったという風にしたい」から
- シンガポール留学時代から「金融課題を解決するサービスをやろう」と一緒に練っていた仲間と大学3年のときに起業。後にサービスは変化
- 起業当初は両親が大反対。起業して、オフィスに寝泊まりするくらいずっと仕事漬けで必死だったがうまく行かず。お金もなくなり。仲間とは解散したり。そうした過酷な毎日でも、1人でやり切ると頑張っているうちに親の見る目が変わってきた
- 今では、税理士事務所で働く母が経理担当として会社をとても支えてくれている
●後藤さん
- 誰もが知る大企業に就職するも1年で辞めて起業。泥船でもいいから早く出航したかった
- 大学時代にシアトルに留学、インドにも行き、その他にも色々とバックパッカーで世界を放浪する日々。それが後に「海外の仕事に貢献したい」につながって、その気持ちが爆発
- 起業していく中でさまざまな人のご縁を感じる。フランス人の事業家が最初に出資してくれたり、中国人の投資家がいてくれたり
- 事業がしんどい局面は何度もあったが、ふと誰かが助けてくれたり、そういうご縁の中で「生かされている」と感じる。感謝の気持ち、恩返しをしたい気持ちがとてもある
●福田さん
- 金沢の大学で就活生をしているときは「大企業に行っている人が勝ち組」と思っていた
- サイバーエージェントやDeNAのインターンに参加してショックを受ける。東京の大学生は1年次からインターンやってるとか起業しているとかいう人がゴロゴロ
- 東京と地方では、大学生が使っている言語、見ている景色、情報がまったく違うと、大きな格差を感じる。そうした格差をなくしたいと、就活チャンネルを立ち上げ起業した
- お金はクラウドファンディングなどで120万円、商工会議所で一人1万円ずつなど人力で180万円くらい集めて、300万円くらい集まったタイミングで東京に引っ越してきた
- 親を説得する自信はなかったので、起業については事後報告
●西側さん
- 起業した理由は「(ファッションという)好きなことができたから」
- 起業する前はサイバーエージェントに就職し、2年ほど働いた
- 大学3年のとき、現在フィリピンで活動している団体を立ち上げた。そこから、ファッションスクールをつくろうと頑張ってきている
- ファッションスクールをつくるなら、卒業生の将来を考える必要があると思い、起業した
- 社会課題解決のためにアパレルブランドを立ち上げたが、「会社」という体がないと話を聞いてもらえない、契約してもらえないという観点からも起業した
3 キラキラばかりではない。課題、失敗の連続。それでもその先を考える
インターン、海外留学、バックパッカー、起業、スタートアップなどのキーワードから、何も知らないとキラキラしたイメージを持ちそうですが、それだけではありません。というより、そうではありません。課題も失敗もたくさんあります。それが実情です。この4名のZ世代起業家もそうです。そして、課題や失敗がどれほどあろうとも、今後の展開を考え続け、前に進み続けます。それぞれの課題感、そして今後について印象的な点をご紹介します。
●大槻さん
「課題はたくさんあります。常にあります。起業をしていてとても面白いと感じるのは、目の前に毎回、壁が出てくること。例えば、組織がよくない感じになっているという壁があったとして、やっとその壁をよじ登って超えたと思ったら、また別の壁が出てくる。それが病みつきになります。これをずっと繰り返す、成長ってそういうもんだなあと楽しくて、社長やっててよかった、起業してよかったと思います」
「今後3〜4年後には海外展開というか、日本のものを海外に出していく軸もつくりたいです」
●後藤さん
「日々の仕事に追われてインプットが難しいときがあるのが課題。余白が生まれたほうが新しいチャレンジやコミュニケーションの方法などが分かってきて、それが事業につながると思うので、そういう余白があるようにしたい」
「今後はグローバル展開のギアを上げていきたい。今年に入ってから、積極的に英語やフランス語でプレゼンするようにしている」
「会社も、インド人やフランス人など色々な人がいるようになってきたので、そういう色々な考え方をまとめて編集して力を付けていく、これも課題」
●福田さん
「僕らの一番の課題は採用。自分たちよりも優秀で素直な人を仲間にしていくのが課題。凡人が後天的に努力していく、そういう仲間。自分たちもそうありたい」
「採用するときは一緒に山に登る。山登りは苦しいから本音が見える。スマホも使えないので、みっちり話ができる」
「採用するときは、親にも会いに行って、娘さんおよび息子さんを私にください、一緒に社会をよくする会社をつくっていくと伝える」
「今後は、世の中の人に行動してもらえるようにWeb3の領域で事業展開も考えている。試験的にやっていることもある」
●西側さん
「起業するとお金周りも課題になると思う。お金を借りるとなると大きな責任も負うし、本当に大変」
「起業はキラキラしたイメージかもしれないが、実際に人に見せないところで起業家は皆大変だし、根気がいること」
4 講座の最後。途切れない質疑応答
もっともっと話を聞いていたいところでしたが、最後の質疑応答へ。4名のZ世代起業家の話に、質問したい聴講生がたくさん。もしかしたら、今までにない質問の多さだったかもしれません。中には、4名の会社でインターンをしてみたいという聴講生もいました。
聴講生からの質問は、例えば次のようなものでした。登壇してくださったZ世代起業家、熱心に参加されていたZ世代が中心の聴講生。本当にアツくて濃い時間、有り難うございました!
●聴講生からの質問例
- 海外とビジネスをやっていく中で、どうやって海外の方とつながったのか?
- 就活サービスについて、他のナビサイトとどうやって差異化を図っていくのか?
- パーパスが変わったことで、社員の行動変容、変わったアクションはあったか?
- どうやって自分のビジョンに合う人(仲間)を見つけてきたのか?
- VCからの資金調達を考えているか?
以上(2022年10月作成)