書いてあること
- 主な読者:退職を申し出た社員を引き止める社長、引き止めない社長
- 課題:自分なりの引き止め策は講じているけれど、別の考え方もあれば聞いてみたい
- 解決策:他の社長の考え方も参考にしつつ、自身の取り組みもバージョンアップする
1 【提案】社長のモノサシをバージョンアップしよう!
会社にはさまざまなルールがありますが、ある意味それらのルールの在り方を決定づけているのが「社長のモノサシ」です。社長のモノサシとは、
会社経営における社長の価値観や行動基準
であり、日々の判断はこのモノサシを基準に行われます。
さて、社員から退職の申し出があったら、皆さんはこれを引き止めるでしょうか? ケースバイケースといえばそれまでですが、根本には「縁があるのだから引き止める」「去る者は追わない」など、社長の考え方があるはずです。そして、これこそが社長のモノサシです。
社長である筆者も、「社長、ちょっといいですか?」と社員から退職の申し出を受けたことが何度もあります。引き止めるか否かは相手次第でしたが、実際に次のような経験をしました。
- 頼りにしていた幹部から退職の申し出があったときは、本気で引き止めをはかり、1年間かけて話し合ったが、結局、辞めてしまった
- かねてから問題を感じていた社員から退職の申し出があったときは、正直ほっとして、すぐに退職の手続きに入った
人手不足で売り手市場の昨今、社員の退職がますます増えていくことは覚悟しなければなりません。そうした事態に備えるためにも、他の社長が社員の退職をどのように考えているか気になりませんか?
この記事では、当社が292人の社長に行ったアンケート結果を紹介していきますので、参考にしてください。ちなみに、
社員の退職をうまく思いとどまらせた経験のある社長は40.1%
です。また、こちらに悪気がなくても、社員への引き止めが「ハラスメント」と言われてしまうこともあります。昔のような考えで引き止めるのでは通用しないケースもあり、社長のモノサシのバージョンアップが必要な時代になったようです。
2 社員が退職の申し出をしてきたら引き止めるか?
まずは、社員が退職の申し出をしてきたときに引き止めるか否かですが、社長の回答は次の通りでした。
注目したいポイントは、引き止めるか否かが明確に決まっているのは54.2%で、状況によるという回答が45.9%もあることです(四捨五入などの関係で、合計で100.1%となります)。日々が決断の連続である社長を対象にしたアンケートの割に、明確な回答が少ない印象です。裏を返せば、それだけ社員の退職に関する問題は難しいものなのでしょう。
3 社員の退職を引き止める理由は?
社員の退職を「引き止める」と回答した社長に、その理由を聞いてみたところ、次のような結果になりました。
こちらは、「大切な自社の社員だから(縁ができたから)」という回答が75.6%と最も多く、次いで「人材不足だから」の57.0%が続きます。小さな会社の場合は特に社長と社員の距離感が近いため「縁」を感じやすく、こうした結果になっているのでしょう。
ただし、「5 どのような社員なら引き止める?」の章で紹介しますが、いかに「縁」があるとはいえ、全ての社員が引き止める対象になるわけではありません。
4 社員の退職を引き止めない理由は?
逆に社員の退職を「引き止めない」と回答した社長に、その理由を聞いてみたところ、次のような結果になりました。
こちらは上位が拮抗していて、「去る者は追わない主義だから」の58.3%が最も多く、「社員の意思を尊重したいから」の56.9%が続きます。筆者のまわりにも、「一切、引き止めない」という社長は少なくなく、社長の価値観が顕著に表れるところです。
5 どのような社員なら引き止める?
次に、どのような社員なら引き止めるのかについて聞いてみました。この結果はほぼ皆さんの予想通りの結果になっているのではないでしょうか。
最も多い回答は「社員の能力が高ければ引き止める」の76.1%で、「社員の人柄が良ければ引き止める」の53.7%、「社員の仕事が専門的ならば引き止める」の50.7%が続きます。いかに「縁」があったとはいえ、どのような社員でも引き止めるわけではなく、このあたりはシビアに状況を判断していることが分かります。
転職支援を生業とする会社のウェブサイトには、「(転職者に対して)ほぼ間違いなく退職を止められるので注意」などと書かれていることがありますが、これは極端すぎる意見で、実際は相手(社員)次第です。
また、そうしたウェブサイトには「会社から退職を引き止められたときの対処法(断り方)」として、「とにかく退職届を出すこと」「とにかく退職の強い意思を伝える」などと紹介されています。こうした情報を参考にしている社員は、態度がかたくななのですぐに分かります。こちらは対話をしたいだけで他意がなくても、そうした社員を引き止めると、「辞めさせてくれない」とトラブルになる恐れがあるので注意しましょう。
6 社員の引き止めは成功した?
最後に、社員の引き止めが成功したかを聞いてみました。その結果は次の通りです。
引き止めに成功した社長は40.1%と半数以下となっています。一度退職を決めた社員を引き止めることは簡単ではないことが分かります。筆者の経験からもハッキリと言えるのは、退職の申し出を受けた時点で未来はほぼ決まっていて、それを覆すことは相当に難しいということです。
7 他の社長はどうやって引き止めている?
アンケートでは、どのようにして社員の引き止めに成功したかについても聞いてみました。すると、
賃金など条件面の改善
を行ったケースが最も多く、次いで多かったのが、
該当社員とのコミュニケーションを密にする
というものでした。意外とドライだなと感じますが、社員に退職を思いとどまらせるには、条件面の改善など分かりやすい形が必要なようです。一方、社員の引き止めに失敗した理由には、
夢を語り過ぎた
というものもありました。年功序列や終身雇用が維持されていた頃と比較して、日本企業の労使関係は大きく変わっています。「縁」や「情」だけでは解決できない問題も多く、ここは社長のモノサシのバージョンアップも必要なのでしょう。
以上(2024年5月作成)
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画像:健二 中村-Adobe Stock