1 すしのうんちく
この記事では、知っていればすしを食べるのがより楽しくなる、すしのうんちくについてみていきます。なお、以降で紹介するのは諸説あるうちの一説であり、異なる見解があることをご了承ください。
2 すしの起源
すしは、東南アジア起源の外来の魚の加工法で、日本へは稲作の伝来とともに中国から伝わったとされています。もともとは漁期に捕れた魚を保存しておくために考えられたもので、魚を塩で味付けし、炊いたご飯やあわなどの穀物に漬け込むという方法で作られたとされています。この作り方は、魚を穀物と塩に漬け込むことで乳酸発酵が起こり、魚が腐敗することを防ぐ効果を利用したもので、「なれずし」といわれるものだそうです。このすしは、魚を保存することを目的としているため、魚と一緒に漬け込んだ穀物類は食べずに、魚だけを食べます。
なお、なれずしは奈良時代から平安時代ごろにかけて朝廷への貢ぎ物として利用されていました。
3 なれずしから生なれずしへ
この伝統的ななれずしで、今なお現存するものとしては、琵琶湖周辺の人たちが家庭で作っている「鮒(ふな)ずし」があります。鮒ずしは、ニゴロブナと塩とご飯のみを乳酸発酵させて作り、漬け込んだすし飯は食べずに魚だけを食べる最も古い形式のすしです。
室町時代になると、出来上がるまでに時間がかかるなれずしにかわり、なれずしよりも漬ける期間が短い「生なれずし」と呼ばれるすしが作られるようになりました。生なれずしであれば、魚などは生々しいものの、当時の貴重な食料であったご飯も魚肉とともに食べるようになります。ここでやっと米の料理としてのすしが現れることになります。
4 早ずし、押しずしの登場
生なれずしが誕生すると、塩味と酸味の付いた飯そのものが楽しまれるようになり、漬け込む材料も魚介以外に野菜や山菜など、いろいろな種類に広がってきました。すしおけに塩をまぶした魚と飯を交互に重ね、ふたをして重しをすると数日で軽い酸味がしみ込みます。これが、「押しずし」や「箱ずし」の原型となりました。
江戸時代には、米酢が広く販売されるようになり、生なれずしをさらに手早く作れるように工夫されたのが「早ずし」です。早ずしは簡単に酸味が付き、一晩ほどで食べられるようになります。
5 革命的だった「握り」の発明
早ずしよりもさらに早くすしが食べたい。その願いをかなえるために改良されたのが、握りずしです。握りずしの出現は、江戸後期の文政年間ごろであろうといわれています。その考案者はすし売りから身をおこし、両国に「与兵衛ずし」を開店した華(花)屋与兵衛(以下「華屋与兵衛」)とも、深川六間堀に店を構えていた「松が鮨(すし)」ともいわれていますが、諸説があり、正確なところははっきりしていません。ただ、すしといえば関西生まれの押しずしや箱ずしが主流だった時代に、屋台や歩き売りのすし売りたちが、もっと手軽に食べられる新しいすしを求めて、創意工夫を重ねた成果だったということは有力な説となっています。
すしの世界に突如として登場した握りずしは、あっという間に庶民の間に一大ブームを巻き起こしました。多くの店がこれまでの押しずしをやめて握りずしを商い始め、すしの売り歩きから商売を始めた華屋与兵衛の店は、一躍江戸中に名前の鳴り響く超高級店に成り上がったそうです。
長い時間をかけて出来上がるなれずしに始まり、生なれずし、早ずし、押しずしと徐々に作り方が簡略化されていったすしですが、握りずしの登場によって、庶民のためのファストフードとしての地位を確立したと考えられています。
6 「江戸前」ってなんだろう
すしは「江戸前」といいますが、もともと江戸前という言葉を使い出したのはうなぎ屋のようです。彼らは、江戸近辺で捕れるうなぎを「江戸城の前にある沼で捕れた」という意味で江戸城前、すなわち江戸前と称して串に刺して商っていました。やがて、それが江戸の前の海(東京湾)で捕れる魚介類を指すようになり、握りずしの普及に伴って江戸前ずしと称されることになったといわれています。
江戸前ずしが登場した当時は、魚の鮮度を保つため、コハダのように塩や酢で締めたり、穴子やハマグリのようにゆでて味付けしたりといった下ごしらえが必要でした。そのため、本来の意味での江戸前ずしとは、現在の東京湾で捕れた魚に「仕事」と呼ばれる何らかの下ごしらえをした上で握ったものを指すことになるといえるかもしれません。
7 すしをもっとおいしく食べるための豆知識
1)ネタを食べる順番は?
すしネタは、自分の好きな順に食べるのが一番おいしく食べられるのではないでしょうか。ただし、食べたいものを一通り食べるのならば、最初のうちに白身などの淡白なネタを食べ、それから濃いネタを頼んだほうがそれぞれの味を楽しめます。そして、最後はかっぱ巻きや新香巻きなどのさっぱりした巻物でしめるとよいかもしれません。
2)すしは手づかみ? はし?
すしを食べるときに、手づかみとはし、どちらで食べるか考えたことはありませんか?
握りずしが誕生したころは、屋台は立ったまま手づかみですしをつまむのが普通でした。しかし、カウンターで椅子に座って食べるようになると、はしを使うようになりました。
つまり、すしは手づかみでもはしでもどちらでもよいのですが、手づかみで食べるときは普段よりもよく手を洗うようにしましょう。
以上(2023年3月)
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