会社経営には、いい時もあればしんどい時もあります。いい時には気が緩みがちで、経営者のお金の使い方も荒っぽくなることがあります。場合によっては、公私混同してしまうことも少なくありません。逆にしんどい時には、それこそお金儲けに必死になり、お客さまや社員を大切にすることを忘れがちです。しかし、強い会社を見ていると、やはり、ビジョンや理念をどんなときにも大切にしていると感じます。そうであるからこそ、強い会社と言えるのではないでしょうか。
1 忘れられない言葉
経営コンサルタントとして独立してすぐのことで、かれこれ20年前のことですが、今でも忘れられない出来事があります。
ある事情があってつぶれる直前の会社で研修を行ったことがありました。その会社は、研修の数カ月前には40人ほどいた社員が、解雇されたり自主的に辞めたりして20人ぐらいに減っていました。給与の支払いも遅れ、ボーナスも出ない状態でした。実際、その会社は研修後半月ほどで倒産しました。
1研修では、社員さんに、「思っていることを話してください」と、ひとりずつ前に出て話してもらいました。そのなかで、新卒でこの会社に入った入社2年目の女性社員が言った一言を、私は、一生、忘れないだろうと思います。
彼女は、こう言ったのです。
「社長のセルシオのために働いていると思うと、アホらしくて働けない」
その女性社員は、社長の私利私欲のために働かされていると感じていたのでしょう。
2 最も長く続く組織は「宗教団体」
この話を聞いて、私は、その時に分かったことがあります。
「社員は、会社が通常の時には給料についてくる。しかし、しんどい時にはビジョンや理念についてくる」
社員は、平常時は、どんなにイヤな社長がいる会社でも、社風の悪い会社でも自分の生活のために我慢して働くことができます。すぐに独立したり、転職できたりする人ばかりではありませんから、会社からノルマを課せられても、経営者の志が低くても、どうにか頑張ることができるのです。
しかし、会社そのものが傾きかけたら話は別です。お金も十分に払えず、先の見通しも立たない。そのような状況では、「お客さまが求める商品やサービスを提供する」「働く人を活かし、幸せにする」といったビジョンや理念など、会社の存在意義が浸透しているかが、社員がついて行こうとするかどうかの最後のよりどころとなります。
またこれは、危機の時だけの話ではありません。平時でも、同じようなビジネスをしている同業の中で、図抜けて高いパフォーマンスを出す会社がありますが、このような会社は、「考え方」、ビジョンや理念の浸透度合いが違うのです。さもなければ、「恐怖政治」のようなことをやっている会社でも、まれに好業績のところもありますが、社員は疲弊し、業績も長続きはしないのです。
考え方を求心力にした組織、たとえば宗教団体が1000年以上も組織を維持できる一方、お金などを求心力にした組織は長続きしないものなのです。
3 経営者は「考え方」の宣教師たれ
経営者はビジョンや理念の大切さを十分に認識しなければなりません。松下幸之助さんは、理念の大切さに目覚めた昭和7年を、わざわざ創業命知元年としているほどです。逆に言えば、それに気づかないうちはまだまだ本物の経営者ではないということです。
だからこそ、ビジョンや理念はお題目で終わらせてはいけません。経営者が先頭に立って体現していることが大切なのです。ビジョンや理念が大事だ、お客さま第一で良い仕事をしていこうと言いつつ、お客さまそっちのけでゴルフに行ってしまうような経営者のもとでは、ビジョンや理念が育まれるはずがありません。
社員は、経営者が思う以上に経営者のことをよく見ています。
表向きは、もっともらしいビジョンや理念があっても、実は経営者の金儲けのためだけに存在している会社なのか、その“本質”を見抜いています。
暗いところから明るいところはよく見えるけれども、明るいところから暗いところはよく見えないものです。舞台の上と下を思えば分かりやすいのですが、暗い観客席からは明るい舞台はよく見えてもますが、舞台から客席はよく見えません。経営者は、明るいところにいます。社員からはとてもよく見えています。経営者が社員を見ているよりも何倍も社員は経営者を観察しています。
どこの会社にも、お客さまを大切にする、社会に貢献する、社員を幸せにするといったビジョンや理念があると思いますが、経営者自身が、正しい考え方をベースにそれらを率先垂範していることが大切です。
企業経営においては、強い組織を作るための考え方を求心力にすることが最も重要です。経営者はその根幹になるビジョンや理念の宣教師にならなければなりません。
以上
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