書いてあること
- 主な読者:幹部社員との付き合い方に悩む経営者、幹部社員に辞めてほしくない経営者
- 課題:幹部社員の信頼を失いたくない。同時に幹部社員にもっと成長してもらいたい
- 解決策:幹部社員との付き合い方を、根本的かつ具体的に見直してみる。一方、「幹部社員に対する考え方のバージョンアップ」も忘れないようにする
1 明日から幹部社員がいなくなってしまったら……
幹部社員の離職は経営危機に直結します。中小企業の場合は特にそうです。人材不足の日本では中高年の転職も活発化しており、もはや幹部社員の流出は身近な問題です。
今やどのような会社でも幹部社員の流出リスクはあります。そこで社長がやるべきことは、
「幹部社員はいつまでもついてくる」という勘違いを改め、いま一度、幹部社員と信頼関係を築くこと
です。具体的にどういうことなのか確認していきましょう。
2 社長が幹部社員に抱く勘違い
1)社長は絶対的な存在ではない
一般社員と幹部社員とでは、社長に対して抱く印象が異なります。一般社員は社長と接する機会が少ないため、「社長はすごい人」という印象を抱きます。一方、幹部社員は社長に近い存在なので、社長の言動をよく見ています。ビジネスパーソンとしての実力はもちろん、人間性に至るまで冷静に社長を評価しています。
社長は、「幹部社員は自分をよく理解していて、いつまでも自分についてくる」と思い込んでいるかもしれませんが、実際は違います。社長をよく知っている分、逆に愛想を尽かすことがあります。幹部社員が離職する理由として、「社長への不信感」は結構多いのです。
2)幹部社員も一社員である
社長は幹部社員を頼りにしています。その前提は、「幹部社員は、自分のことを理解してくれている」と信じているからです。これは間違っていませんが、幹部社員が理解しているのは社長の能力や人間性であって、社長という立場の重さではありません。社長と幹部社員の間でしばしば起こる感覚のズレは、社長と社員という圧倒的な立場の違いから生まれます。
社長は、幹部社員なら自分と同じ感覚を持っていると考えるからこそ相談し、意見を求めます。しかし、幹部社員から見れば、「それは社長しか分からない。答えようがない」といった相談も少なくありません。幹部社員は「幹部であっても一社員」なのです。
3)幹部社員の焼きもちは激しい
社長は、幹部社員に相応の権限を与えており、その範囲の中でビジネスを自由に進めて、会社に貢献してほしいと願っています。そのため、幹部社員を管理するつもりはなく、特別な事情がなければフォローもしません。
これは社長ならではの信頼の示し方ですが、幹部社員によっては、「もう自分は期待されていない」と、大きな勘違いをすることがあります。また、社長は次世代の幹部社員を育て、今の幹部社員がもう一段上に行ける体制を整えようとします。しかし、こうした社長の意図が正しく伝わらず、幹部社員は次世代の幹部社員候補に焼きもちを焼くこともあります。
4)放っておけば幹部社員の気持ちは離れていく?
以上から分かるように、社長は幹部社員のことを正しく理解できていない面があります。幹部社員は、社長と違う価値観を持っています。これは、話し方や服装にも及びます。例えば、社長が幹部社員に対し、「もっとおしゃれになれ」と思っている一方で、幹部社員は社長に対し、「若作りするな」と思っています(あくまで一例です)。
社長と幹部社員にはこうした擦れ違いがあります。また、互いに心が強いため、言葉を選ばずに言うと「一度こじれると厄介」です。社長の考え方にもよりますが、幹部社員を失わないためにも、社長は他の社員以上に幹部社員に配慮をしなければなりません。
3 見直そう、幹部社員との付き合い方
1)必要なら、労働条件はすぐに改善すべき
特に技術系の社長は、自分の役職などに無頓着なことが多いもので、幹部社員の労働条件にもあまり気を使わないことがあります。しかし、労働条件に関する理由で転職する30~50代(幹部社員)は少なくありません。
労働条件に対する幹部社員の不満は、比較的容易に解決できる問題です。幹部社員の労働条件を確認し、世間の相場と大きく乖離(かいり)しているようなら、あるいは幹部社員が不満を持っていそうなら、早急に改善を検討しましょう。
2)仕事を集中させ過ぎない
中小企業の幹部社員は、社長から依頼された仕事や、部下を含めた同僚のサポートの他、自分の仕事もこなさなければならず、かなり多忙です。「幹部社員は多忙が当たり前」というのも一理ありますが、仕事の質と量によります。
例えば、低レベルの仕事に時間を取られるようでは、幹部社員の成長機会が失われます。また、忙しさの度が過ぎれば、転職の動機になります。こうならないように、社長は幹部社員の仕事量をコントロールしなければなりません。
3)重要事項は必ず相談する
社長は、会社の重要事項については必ず幹部社員に相談しましょう。幹部社員にとって、「社長は、重要なことは必ず自分に相談してくれる」ことが、高いモチベーションになります。
中には、社長に遠慮して意見を言わない幹部社員もいて、社長は物足りなさを感じます。しかし、それでも社長は重要事項を幹部社員に相談するべきです。他の社員よりも先に社長と課題を共有することで、幹部社員は自分のポジションを確認できるからです。
4)意思を尊重し、成長意欲を促す
タイプによって表現の仕方は異なりますが、幹部社員が社長や周囲に認められる存在になったのは、常に自分を高める勤勉さと、それを継続する情熱、そして、もちろん仕事そのものへの使命感や喜びを持っているからに他なりません。
社長は、こうした幹部社員の長所と呼べる点を尊重し、さらに伸ばしていく努力をしなければなりません。そのためには、幹部社員を型にはめず、自由に動けるフィールドを確保しておくことが大切です。
5)不在時のリーダーシップをたたえる
普段はあまりリーダーシップを発揮しないものの、社長が不在のときは先頭に立って組織を切り盛りしてくれる幹部社員がいます。しかし、当の社長はその場にいないので、幹部社員の頑張りに気付くことができません。
こうした擦れ違いを避けるために、社長は自分が不在のときの幹部社員の働きぶりを、別の社員に確認しましょう。自分が不在のときに幹部社員が組織をまとめてくれていたら、これほど頼りになる存在はいません。心からたたえましょう。
6)特別なお店で食事をする
会社の中で、社長が一緒に食事をする機会が最も多いのは幹部社員でなければなりません。同じ空間で、同じものを食べながら、会社のことを話し合うのは有意義です。また、特別感があればなおさら効果的です。
毎回というわけにはいきませんが、社長が接待などで使うお店に幹部社員を連れて行くのもよいでしょう。幹部社員にふさわしいグレードのお店ということです。幹部社員にとっても、普段、あまり行かないお店で食事をすることは良い経験になります。
7)「大人の合宿」に出掛ける
幹部社員は、「社長は何を考え、どこに進もうとしているのか」を気に掛けています。日々の仕事の多くは過去の延長線上にありますが、そればかりをしていても、厳しい競争に勝ち抜くことはできないことを分かっているからです。
社長と幹部社員は、事あるごとに会社の展望を話し合っていると思いますが、たまには会社とは全く違う場所に出掛け、時間を気にすることなく議論できる「大人の合宿」をしてみるのも悪くありません。
8)家族に対しても感謝の気持ちを示す
幹部社員に家族がいる場合、その家族にもきちんと感謝の気持ちを示しましょう。例えば、幹部社員がお正月の休みに帰省する場合、お酒の1本でも贈るくらいの気遣いがあってもよいでしょう。
また、幹部社員が40~50代の場合、その親は相応の年齢です。幹部社員の実家が会社と離れている地域にある場合、将来のことを考え始める時期でもあります。社長は、そうした相談にも乗り、テレワークの実現など、働き続けられる環境を一緒に考えていく必要があります。
4 社長と幹部の2.0
ここまでは「幹部社員に長くついてきてもらうために、どのように付き合うべきか」を見てきました。一方、急速な環境の変化の影響で、旧来のビジネスだけでは勝ち残ることが難しくなっている現在、次のような考え方もあり得ます。
「そもそも、幹部社員とはどのような社員か? 社歴が長いからうちの業務には慣れているが、それだけで幹部社員といえるのだろうか」
「幹部社員が流出することは本当に損失か? 社員という形でなくとも、一緒にプロジェクトを良い方向に進められる関係なら、幹部社員の独立や転職はむしろアリではないか」
幹部社員が大切な存在だからこそ、社長は「自社にとって幹部社員とは?」を考え、必要に応じてバージョンアップしていかなければなりません。
以上(2024年5月更新)
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画像:photo-ac