みんななかよく

辻信太郎(つじしんたろう)氏は、サンリオの創業者であり、ハローキティ(以下「キティ」)をはじめ、多くのキャラクターを世に送り出してきた経営者です。NHKの連続テレビ小説「あんぱん」(2025年度前期放送)にも辻氏をモデルにした人物が登場し、話題となりました。

冒頭の言葉「みんななかよく」は、サンリオの企業理念です。サンリオらしいユニークさですが、これには、「カワイイ」という言葉だけでは片付けられないような、辻氏の平和への想いと、企業・サンリオの経営哲学が詰まっています。

辻氏は大学生の頃、故郷・甲府で空襲を経験しました。実家も街も燃え、多くの人々が苦しむ姿を目にしましたが、周りの大人は「戦争だからしょうがない、相手を倒して生き残るしかない」と言うばかり。辻氏はこれに反発し、「人と人がなかよくなる仕事をしたい」と情熱を燃やすようになります。それがサンリオ創業の原点でした。

辻氏の哲学が実際の事業に現れている例として、キティをはじめとしたサンリオのキャラクターたちと異業種の「コラボレーション」が挙げられます。あるときはロックバンド、またあるときは他会社のアニメキャラクター、そして2025年の大阪・関西万博では、日本館にて「藻(も)」のコスプレをしたキティまで登場しました。

「なぜ、変わったコラボレーションばかり?」と思うかもしれませんが、辻氏はこう言います。「企業は競争ばっかりしてるでしょ。でもよい商品やよいサービスはみんなでけんかして競争するんじゃなくて助け合ってやってったらいいじゃないかと思うんです」と。辻氏いわく、「サンリオはキャラクターの会社ではなく、コミュニケーションの会社」。キティたちは企業同士にとっての「なかよしの象徴」であり、皆が手を取り合って発展していくための大切なキーパーソンなのです。

ビジネスに競争はつきものですが、「相手を倒すこと」が競争の目的になってしまうと、その企業は次第に進むべき道を見失っていきます。大切なのは、企業として社会で何を実現したいのか。「あの企業に負けるな、倒せ」としか言わない経営者よりも、「もしもあの企業と手を組んだら、もっと面白いことができるかもしれない」と言える器の大きい経営者のほうが、社員にとって魅力的ですよね。

「みんななかよく」の精神の下、サンリオのキティたちが実現した数々のコラボレーションは、私たちに「そんなことができちゃうの?」という、一種の“ワクワク感”を与えてくれています。2025年は、サンリオの機関誌「いちご新聞」が50周年を迎えましたが、辻氏は今なおコラムを連載し、平和の大切さを発信し続けているそうです。キティたちが「カワイイ」の象徴として、世界中の人々をつなぐ架け橋となっていることからも、サンリオが実践し続ける理念が、平和な世界へと向かう確かな一助となっているのがうかがえます。

出典:「企業理念」(サンリオ公式ウェブサイト)

以上(2025年11月作成)

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