書いてあること

  • 主な読者:さらに成長するためのヒントが欲しい経営者
  • 課題:自分の考え方をバージョンアップするためにもがいている
  • 解決策:他の経営者の思考習慣も聞いてみる

1 経営者ならではの考え方

社員には理解してもらえないが、経営者仲間で話をすると「そうそう!」と分かり合える、経営者ならではの考え方があります。会社の成長、自分と家族の生活、社員とその家族の生活、社会への貢献などについて責任を負う経営者は逃げられません。

それが社員との視点の高さや広さの違いとなり、経営者ならではの考え方につながっています。経営者が社員と同じレベルで考えているようでは物足りませんが、その一方で、独り善がりになるのも問題です。

今回は、「経営者の英才教育が部下を潰すこともある」「縁の下の力持ちの生産性を高める」「タフな交渉だからこそ前に出る」という3つの思考習慣を取り上げます。経営者ならではの考え方と、独り善がりにならないためのポイントを紹介します。

2 経営者の英才教育が部下を潰すこともある

部下を平等に扱おうと考える上司は少なくありません。今どきは、パワーハラスメントなどの問題もあるので、日ごろの接し方はもちろん、処遇もあまり差をつけないほうが無難であるという考えが広まっているためかもしれません。

しかし、多くの経営者はこのようには考えません。部下の能力や就業姿勢、会社への貢献度には顕著な差があるため、そもそも平等に扱うこと自体が平等ではないのです。実際、経営者は「見込みがある!」と感じた社員に英才教育をします。

例えば、今のその社員の実力では対応が難しい仕事を任せてみたり、年上のメンバーがいるチームをマネジメントさせたりします。そして、壁にぶつかった社員がどのように対応するのかを観察し、必要に応じてサポートしながら、困難に向き合う考え方や、それを克服する手法を教えていきます。

ただし、経営者の英才教育を受けて成長できるのは、素養と熱意がある社員だけです。「困難を乗り越えて成長したい。足りないことは勉強する」と考える部下は、経営者の指導を意気に感じて仕事に打ち込むでしょう。

しかし、そうした気持ちがない、あるいは壁を突破できずに気持ちが後ろ向きになってしまった部下は、経営者の期待をプレッシャーに感じます。その部下はやがてやる気を失い、ボタンの掛け違いが起こるとパワーハラスメント問題に発展したり、会社を辞めてしまうこともあります。

良い意味でひいきをするのが経営者の考え方ですが、場合によっては優秀な社員を失ってしまう恐れがあることも忘れないようにしましょう。

3 縁の下の力持ちの生産性を高める

パレートの法則は、俗に「28の法則」や「262の法則」と呼ばれるもので、「収益の80%は、上位20%の顧客から生まれている」というのが基本的な考え方です。最も効果が大きいところに注力するのが経営の定石なので、収益を上げるには上位20%の顧客にアプローチすることになります。

また、パレートの法則は社員の働きぶりに当てはめて議論されることもあります。その内容は「社員は優秀な20%、普通の60%、いまひとつの20%に分かれる」というもので、定石通りなら、優秀な20%の社員を重視したマネジメントをすることになります。

しかし、多くの経営者はそうした組織運営ではうまくいかないことを知っていて、普通の60%やいまひとつの20%に配慮します。なぜなら、優秀な20%の社員が輝けるのは、その他80%の社員のサポートがあるからです。それに、優秀な20%は放っておいても成果を上げます。経営者はそうした社員に権限を与え、任せておけばよいのです。

手が掛かるのは残りの80%の社員です。優秀な20%が立ち上げたビジネスを、実務家としてこなすのは普通の60%の社員、さらに役割分担の隙間に生じる、単純だが面倒な仕事をしているのはいまひとつの20%の社員です。そうなると、普通の60%の社員といまひとつの20%の社員をマネジメントすれば、全体の生産性が高まりやすくなるのです。

ただし、20%、60%、20%の割合を意識し過ぎてはいけません。この割合は社員の能力を相対的に比較した結果です。仮にドリームチームであっても、20%、60%、20%が生じます。

また、上位20%にいる社員が常にそこに居続けられるわけではありません。とても優秀な社員が入ってくれば、それに押し出されて普通の社員になる優秀な社員が出てきます。この社員のフォローを怠ると、直前まで優秀な社員のグループにいた貴重な戦力がやる気を失ってしまいかねません。

経営者は、縁の下の力持ちになっている社員のマネジメントをすると同時に、相対的に生じる20%、60%、20%だけではなく、個々の社員の業務遂行力の総和を高める努力をしなければなりません。

4 タフな交渉だからこそ前に出る

大幅な減額要請やライセンス契約の打ち切りなど、ビジネスではタフな交渉に臨まなければならないことがあります。このようなとき、「今回は守勢に回らざるを得ない」と身構える人が多いでしょう。相手を怒らせないことが肝心だと思っているからです。

しかし、経営者はそのようなときこそ強気に出るという選択肢も持っています。日ごろ、相手の要求をできるだけ受け入れながら低姿勢でビジネスを進めるのは、こびへつらうわけではなく、いざというときにきちんと主張するためです。大幅な減額要請などを受けたとしたらそれは緊急事態です。

また、相手もそれなりに検討しての結果のはずなので、こちらが気を使ったところで要求が緩和されることはほぼないでしょう。また、相手の要求を簡単に受け入れて、「すんなりと減額できた」と軽い印象を残すのもよくありません。

そのため、社員から見て守るしかないというときに、経営者は前に出る選択をすることがあるのです。普段はおとなしいこちらが強く主張すると、相手の機嫌を損ねるかもしれません。結果的に大きな減額を受け入れざるを得なくなったとしても、そこに至るまでのプロセスは全く違ったものになります。その場は厳しい結果になっても、こちらの誠意と熱意を伝えることで、次につながる可能性があります。

ゼロサムの交渉で損失を食い止めることを重視するか、最悪の事態も覚悟した上でプラスサムを目指すのか。どちらが正しいかはケース・バイ・ケースですが、大事な局面でこそ、経営者ならではの発想で進むべき道を決断しなければなりません。

ただし、こうした交渉ができる前提は、日ごろからきちんとサービスを提供していることです。ミスが頻発しているなど、相手のこちらに対する評価が低い状態で強い交渉に臨めば、その場で契約解消の話が出てきても不思議ではありません。このようなときこそ、経営者は窓口になっている社員の言葉に真摯に耳を傾けなければなりません。

以上(2020年7月)

pj10027
画像:pexels

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