書いてあること

  • 主な読者:SDGsに本格的に取り組みたいけれど、企業としての損得勘定も気になる経営者
  • 課題:経済性と社会性を両立させるSDGsの取り組み方を知る
  • 解決策:SDGsのポイントはパートナーシップにある。自社の取り組みに自己満足せず、課題解決のためのつながりを広げていく

1 「自己満足」に陥らないSDGsを目指す

前回は、SDGsで経済的なメリットを享受するまでの「成果」と「出口戦略」を決める方法について、お話をさせていただきました。

企業が社会課題解決に取り組むときに陥りがちなのが、「自己満足」です。

設定した成果は、誰が幸せになっているのでしょうか? 誰が褒めてくれるのでしょうか? 出口戦略では、その「誰」を事前にしっかり決めておくことだとお伝えしました。最終回となる今回は、この、

自社のSDGsによって幸せになる人や、自社のSDGsを褒めてくれる人が「誰」なのかを深めることが、自社のSDGsの価値を高め、そして新たなイノベーションを生む

ことをお話ししたいと思います。

2 自社だけで取り組むSDGsは「真のSDGs」ではない

SDGsのゴール17に、「パートナーシップで目標を達成しよう」というゴールがあります。その他の16の政策的なゴールに比べると、ちょっと忘れがちですが、一般社団法人SDGsマネジメント(以下「SDM」)では、SDGsの中で最も重要なゴールであると位置付けています。

そもそも国連がSDGsを定める際に、なぜゴール17を設定したのでしょうか? それは、SDGsのゴール1~16を達成するためには、世界中の国の政府、国民、技術者、地域、企業といった、ありとあらゆる人たちが結束してSDGsに取り組むことが必要だからです。つまり、誰かがやってくれるのを待つだけでは達成されないし、主体的に取り組むにしても自分一人では達成できないのがSDGsなのです。

「自社だけでSDGsをやっている」と語る企業は、本質的にやり方を間違っている

のです。

では、どのようにパートナーシップを構築したらよいのでしょうか? SDMは、団体フィロソフィーに、「社会課題に対して、あらゆるパートナーと連携し、ビジネスという手法を通じて、新しい価値を生み出し解決をする」と定義しています。

変化が激しく、社会課題も複雑な現代において、中小企業が単体の機動力で対応することは、人的資源、経済的資源の観点から考えても困難です。だからこそ、SDGsのゴール17を活用し、それぞれの機関や立場の人の強みを活かした「オールスターチーム」を組むほうが、柔軟性と創造性が増すと考えております。

3 産官学の「オールスターチーム」を組む方法

では、具体的にはどのようにオールスターチームを組めばよいのでしょうか?

SDMでは、産官学モデルを推奨しています。もちろん、皆さんの会社は「産」の立場でパートナーシップを作っていくことになります。

ここでポイントなのは、

自社だけがもうかるための、上下関係のパートナーシップは作らない

ということです。

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1)社会課題だけを抽出した団体を立ち上げれば、「産」同士が連携できる

パートナーシップの中心となるのは企業の利益ではなく、社会課題解決です。そこでSDMでは、社会課題解決のための団体を立ち上げることをお勧めしています。

前回も触れましたが、SDMの共同代表である西岡徹人さんが経営するSUNSHOW GROUP(以下「SG」)の事例を紹介しましょう。SGでは、SDGsゴール5:「ジェンダー平等を実現しよう」のために、女性活躍や働き方改革を推進する団体として一般社団法人WOMAN EMPOWERMENT PLATFORM(WEP)を立ち上げ、女性社員が理事長を務められています。

確かにSGのSDGsゴール5に対する取り組みは先進的ですが、1社だけでは本質的な解決はできません。とはいえ、企業体であるSGの活動に、SGとは利害関係のない他の企業が関わるというのも難しい話です。

そこで、社会課題だけを企業体から抽出することで、利害関係のない他の企業もSGの取り組みに賛同しやすい仕掛けを作っているのです。

2)「産」同士が連携すると「学」と連携しやすくなる

社会課題解決のための団体の立ち上げは、「産」のパートナーシップだけに効果を発揮するものではありません。

次にパートナーシップを作るのは、大学や研究機関などの専門家・研究者といった「学」です。SDGsに関わる研究を進めている専門家は、多くの企業事例を求めていますので、本来、「産」と「学」はもっと積極的に交流すべきです。

なぜ中小企業と「学」との連携が進まないかというと、中小企業は自社の事例だけしか提供できないため、研究対象になりにくいからです。その課題を解決するのが、前述した社会課題解決のための団体です。「産」で集めた社会課題解決の企業事例を「学」に提供することで、社会課題解決の企業事例が、専門家の研究のための「エビデンス(数値的な根拠)化」するのです。

3)「産」「学」連携は「官」にとっても好都合

実は、企業事例が研究のためのエビデンス化するというのは、「官」である政府や行政にとっても好都合なのです。政府や行政の官僚にとって一番重要なのは、自分たちの政策の成果が出ることです。そのため、政策を立案するに当たっては十分な事例を検討する必要がありますが、政府などは中小企業との強いネットワークがあるわけではありません。

社会課題解決のための団体である「産」の私たちの事例が、「学」によってエビデンス化され、「官」に情報提供される仕組みができれば、より大きな社会課題解決のパートナーシップが構成されるようになるのです。

4)オールスターチームのラインアップ表を作成

SDMでは、この産官学モデルのパートナーシップを構築することを大前提として、オールスターチームのラインアップ表を作るようにしています。「産」で共に社会課題解決に協力してくれる企業は誰か? 「学」でその社会課題に対して研究をしている専門家は誰か? 「官」では、政府や地方自治体で、この社会課題に取り組んでいる担当部署はどこか? またその政策作りを担当しているのは誰か? などを調べ上げるようにしています。

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ラインアップ表ができたら、ラインアップした機関や人を巻き込む仕掛け作りをします。仕掛けは、例えば次のようなものがあります。

  • 企業と専門家による社会課題検討をするためのワーキンググループなどを主催する
  • 自社などの企業事例を専門家に研究材料として提供する
  • 専門家の最新研究を自社に取り込み、自社で社会実験を実装してみる

中小企業のSDGsにおいて、最大の課題は情報とネットワークであると考えています。産官学モデルを参考にしていただき、パートナーシップの考え方の視座を上げていただけると、今までにない価値創造ができると思います。

4 まとめ

経済性と社会性を両立していく取り組みについて、中小企業だからこそできるSDGsをイメージすることはできましたでしょうか? ポイントになるのは、社会課題と政策への感度を高め、成果と出口戦略を設定し、そして自社だけでない幅広いパートナーシップを構築することです。

最後に、SDGsの思考フローを整理してみます。

1.経営者の想い、事業計画を深める

経営者の事業への想いを社会課題とマッチングさせながら深めていきます。また既存の事業計画においても、問題意識を共有できるようにします。

2.行政の掲げる政策を読み込む

「経済財政運営と改革の基本方針(=骨太の方針)」や、自社の商圏の総合計画・マスタープラン・政策集を読み込みます。それによって、日本や商圏の現状と未来と課題を捉えることができるとともに、自社の事業にマッチングする行政セクションを探すことが可能になります。

3.成果を決める

自社が具体的にどんな社会課題=指標に対して、明確な変化を起こすのか? を決めます。そのときには、経営者の想いと総合計画・政策集との整合性を考え、対外から見た視点でも、分かりやすい成果設定をします。この場合の成果設定は、政策の実施計画に合わせて、長期的な指標と1年で達成できる短期的な指標を作ることが望ましいです。長期指標だけだと具体性が乏しくなり、また短期指標だけだと目線が下がってしまって、目的を見失う可能性があります。

4.誰とやるのかを決める

成果が決まったら、共に運動をしてくれそうなパートナーを探します(図表1の産官学モデルをご参照ください)。政策から導く場合には、政策を担当している省庁や市町村の担当課にアプローチをします。その際、公的機関は一企業だけの利益になるような情報提供はしないため、ビジネスという目線だけではなかなか話を聞いてもらえないケースがあります。その場合には、社会課題解決に特化した一般社団法人の設立なども視野に入れた上で、パートナーシップ構築をすることをお勧めします。

5.運動を決める

成果を残すための具体的な運動(推進事業または提言事業)を決めます。お勧めは行政の政策と連動した推進事業です。それを展開する中で、政策の弱点も見えるようになりますので、提言事業につなげるとよいでしょう。

6.出口を決める

一生懸命に取り組んだ運動の成果について、誰に自社を評価してほしいのかを明確にストーリーにします。「この社会課題解決を通じて誰かからの評価が高まる」→「自社の評価が高まり、経済的な利益を得る」→「経済的な利益を得られるので、さらに社会課題解決に取り組む」という連鎖を起こし、結果的にビジネスに好影響を与えるという解釈(すなわち「事業のローカライズ」)をします。

ここまでできたら、あとはやり切るだけです。途中で多くの問題に突き当たるとは思いますが、ぜひそのプロセスを記録しておいてください。記録を広く公開することで、他社の参考になるだけでなく、自社の知名度や評価を高めることにもつながります。

記録する媒体は、一般社団法人サステナブルトランジションが提供する「Platform Clover」がお勧めです。自社のSDGsの取り組みについて、アクティビティの発信、プロジェクトの管理・評価が体系的に行えるオンラインプラットフォームです。

■Platform Clover■
https://platform-clover.net/

SDGsはゴールを宣言するだけでは意味がありません。ゴールに向かって経済性と社会性の両立をマネジメントすることで、まさに社会課題解決の取り組み自体を持続可能な形で発展させていくことが、これからのSDGsには求められています。

以上(2021年10月)

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画像:Sakosshu Taro-Adobe Stock

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