1 リフレクションとは?

近年、人材育成の場面でリフレクション(reflection)が注目されています。リフレクションは直訳すると“反射”という意味ですが、人材育成におけるリフレクションは、経験や自分の内面を客観的・批判的に振り返る“内省”という意味で使われます。経済産業省が提唱する「人生100年時代の社会人基礎力」においても、あらゆるスキル習得の前提となる力と位置付けられており、リフレクションを鍛えることで、経験から自ら学び、自分をアップデートする力を身に付けることができると考えられています。

2 自分で気づけば主体的に学習できる

リフレクションによって自分で考え、自分で学べるようになることは、人に言われて学ぶよりもモチベーションが保ちやすいといわれています。

子どものころ周囲の大人から「宿題しなさい」と言われ、やる気がなくなった記憶がある人は多いでしょう。他人から指摘されたり強制されたりすると、自分で始めた場合よりもモチベーションが下がりがちです。他人から言われる前に自分で改善点を見つけ主体的に行動できれば、成長しやすくなるでしょう。

3 無意識に行っているリフレクション

リフレクション=内省(振り返り)というと、何となく哲学の用語のようで、難しそうな印象を受けるかもしれません。しかし、実は誰もが意識せずに自然にリフレクションをしています。

例えば、仕事で頼まれていた資料を提出期限までに作成できなかったら、誰に言われなくても遅れてしまった理由を考えるでしょう。できごとの原因と結果を推測するのも、リフレクションの1つです。

本稿では、こうしたわたしたちが自然に行っているリフレクションの内容を改めて整理し、経験から多くを学ぶための考え方を紹介します。

4 リフレクションと“経験学習モデル”

リフレクションの具体的な内容を説明する前に、リフレクションが注目された背景を理解するため、デイヴィッド・コルブが提唱した“経験学習モデル”を紹介します。経験学習モデルは、人が経験したことを振り返って学んでいくプロセスを示した理論です。

経験学習モデルとは、4つのプロセスを繰り返すことで、ただ経験を重ねるだけよりも大きな学習効果を得られると考えています。

1.でまず経験をしたら、2.では俯瞰(ふかん)的な視点でその経験からいったん離れ、自分の行為や感情、できごとの意味を整理します。3.では2.で得られた教訓や法則を整理し、4.で実際の業務や次のアクションに落とし込みます。

リフレクションは、この4つのプロセスのうち、2.のプロセスに当たります(3.や4.のプロセスを含めることもあります)。リフレクションの力を鍛えることで、一見しただけでは分からない問題の本質に気づき、経験したことがない問題を解くヒントを得られるようになります。

5 リフレクションの4つのレベル

リフレクションは、過去の経験を未来に活かすことが目的です。リフレクションの日本語訳である“内省”と似た言葉に、“反省”がありますが、反省は過去の失敗や過ちに対して行うのに対し、リフレクションはポジティブなできごと(成功体験)に対しても行います。失敗したか成功したかにかかわらず、経験を知恵に変えることが大切だからです。

1つの経験から複数の教訓を得るには、できごとの原因と結果を整理するだけでは不十分です。また、問題の原因を他者や環境に求めるだけでは、有効な対策をとることはできません。そこで、リフレクションは学びの質を向上させるため、次の4つのレベルに分けて行います(注)。

(注)ディスカヴァー・トゥエンティワン「リフレクション = REFLECTION : 自分とチームの成長を加速させる内省の技術」(熊平美香、2021年3月)を参考にしています。

レベル1:結果のリフレクション

できごとや結果についてのリフレクションです。事実を正しくとらえることは大事ですが、このレベルのリフレクションに終始していると、経験を学びに変えることはできません。

レベル2:他責のリフレクション

他者や環境についてのリフレクションです。一見正しい有意義な学びですが、他者や環境に原因を求めていては、未来を変えるヒントを得ることはできません。

しかし、実際には多くの人がこのレベル2にとどまってしまいます。なぜなら「指導に時間を費やしているのに部下が育たない」というような課題があった場合、部下の課題ばかりに目が行って、自分の関わり方や指導方法に目を向けるのは難しいからです。

他責

レベル3:行動のリフレクション

自分の行動についてのリフレクションです。自らの行動を振り返り、結果と結びつけることで、次にとるべき行動が見えてきます。

とはいえ、「自身の行動を振り返っても、状況を変えることができない」と悩んだ経験がある人も多いでしょう。経験を振り返っても、次の打ち手を試してみても課題を解決できないときは、経験の前提にある内面に意識を向ける必要があります。

レベル4:内面のリフレクション

自分の内面・持論についてのリフレクションです。私たちの行動の前提には、「こうすれば、うまくいくはずだ」という考えがあります。意識せずとも、過去の経験で培った知恵を活かし、日々行動しているのです。そうした行動の前提にある持論を振り返ることで、行動の前提にある自分の価値観を俯瞰します。

自分の行動が他者や結果にどんな影響を与えたか、もし適切な行動がとれなかったとしたらそれはなぜなのか、ということまでリフレクションを深めることで、望ましい結果を導く適切な行動をとれるようになります。

変化の激しい時代には、前例を踏襲するだけではうまくいく保証はありません。そのため、現代は自己の内面を振り返るレベル4のリフレクションの重要性が高まっているといわれます。

6 なぜ感情や価値観と向き合うことが大切なのか

自覚するのは簡単ではありませんが、わたしたちの行動や考え方には、感情や価値観が深く関わっています。例えば、仕事ができる人がマネジャーになると、部下に仕事を任せるべきだと分かっているのに「自分でやったほうが早い」と、なかなか仕事を周囲に振れないことがあります。頭では、部下に仕事を任せる方法を学ばなければならないと分かっていても、できないのです。

そうした人の話を詳しく聞いてみると、実は「人に指示を出す口先だけの人より、自分で率先して動いて解決する人のほうがかっこいい」といった価値観を持っていることがあります。いまの状況に合った行動ではなく、自分の価値観に合った行動を無意識に選んでいるのです。

できごとの原因と結果を正しく認識するだけでは、自分の行動や考え方を変えられないのはこのためです。しかも、この価値観の根っこにその人のご両親が忙しく働いていた姿などがある場合、本人にはなかなか自覚できないのです。

リフレクションによって自分でも忘れてしまった価値観に自覚的になると、変化を受け入れやすくなります。

【参考文献】
ディスカヴァー・トゥエンティワン「リフレクション = REFLECTION : 自分とチームの成長を加速させる内省の技術」(熊平美香、2021年3月)

以上(2023年5月更新)

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画像:Unsplash
画像:taka-Adobe Stock

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