書いてあること

  • 主な読者:組織変革を考える経営者
  • 課題:現在の市場環境と社内の状況に合わせ、適切な組織形態を選択したい
  • 解決策:組織形態の基本的な形を紹介し、理想の組織のヒントをまとめる

1 組織形成は社長の仕事

小規模な組織は職務・責任・権限の所在が明確で、組織間のコミュニケーションも取りやすいものです。ただし、組織は“生き物”です。事業拡大、人材不足などさまざまな要因で組織は機能不全を起こします。

そのため、社長は常に組織の状態を確認しつつ、社内外の環境変化や自社の中期計画に沿って組織変革を進める必要があります。こうした社長の参考となるよう、本稿では組織形態の基本を紹介していきます。

2 職能別組織(機能別組織)

企業の規模拡大によって、仕入れ、製造、販売、財務、総務といったような機能の分化が起こります。このように、組織をその果たす機能・役割によって分化させたものを職能別組織(または機能別組織。以下「職能別組織」)といいます。

職能別組織において、各職能別組織の長は、与えられた職能に関する個別の意思決定はしますが、全社的な意思決定は社長に委ねられます。職能別組織は、事業環境が安定し、事業分野が限定されている企業にとっては効率的です。

一方、機能分化によって部門間のコミュニケーションが不足し、販売部門と製造部門が対立する状況が典型です。また、事業規模が拡大して経営が多角化した場合などは、職能単位での意思決定を集約しても、企業全体での方向性を見失う可能性もあります。

さらに、職能別組織の責任者は専門性を深めることはできますが、事業の全体像を見る機会が少ないため、次代の経営を担う人材を育てるのが難しいこともあります。選別された人材の、組織横断的な人事ローテーションが必要になります。

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3 事業部制組織

企業が成長し、多角化や地域的な拡大を図った場合、職能別組織では対応が困難になっていきます。例えば製品の多角化によって複数の製品を製造する場合、同一の製造部門に複数のラインを持つことでマネジメントがかえって複雑になる恐れがあります。

事業部制組織は、事業に関して製品開発から販売までを垂直的に統合し、併せて人事・経理などの機能も組織内に包含する事業部が複数存在する形態です。事業部はあたかも1つの企業のように権限と責任を持って行動することになります。

事業部制組織は、製造から販売までの一貫体制が保たれるため、市場の声を反映しやすくなります。一方、事業部が独立採算制で運営され、他の事業部との競争が生じます。短期的な収益を追いがちで、中長期的な視点のマネジメントを阻害することがあります。

そのため、中長期的な視点から事業ポートフォリオを作成する経営企画部門や、基礎的研究を行う部門を置くことが必要ですが、当初は経営企画部門と事業部門のコミュニケーションが上手くいかないケースも多々見られます。

なお、中小企業においては大企業のような事業部制組織をつくるケースは少ないようですが、過去に成熟産業の分野で業績を伸ばした中小企業の中には、その部門を一定規模に縮小し、新規事業部門を新たに設けるといった事例も見られます。

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4 プロジェクト・チーム

明確な目的のもと、一定の期間を設けて編成されるのがプロジェクト・チーム(以下「PT」)です。PTは、その組織を必要とする期間が有限である場合や、既存の組織の枠内では対処することが難しい課題などを取り扱う場合に組成されます。

一般的に、PTの構成メンバーは新規事業の検討や経営ビジョンの策定といったプロジェクトの目的に応じて、組織横断的に選任されます。多くの場合、構成メンバーはそれぞれの組織のエース級で、本来業務との兼務となります。

PTが困難なテーマに取り組む場合、構成メンバーが本来業務へ逃げてしまったり、各部門の利益代表になってしまったりという問題が発生します。この回避策は、プロジェクト・マネジャーのリーダーシップと適切な業績評価システムです。

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5 マトリックス組織

マトリックス組織は、1人の組織構成員が同時に2つの組織に所属する形態です。1人の構成員が構造的に2人以上の上司を持ち、2つ以上の命令系統によってコントロールされることになります。

マトリックス組織の分かりやすい事例は、自動車の開発生産体制です。新車開発では、マーケティング・設計・試作・テスト・生産準備・本格生産まで多くの職能別組織の構成員が新車開発のプロジェクト・マネジャーの下で、業務を推進します。

マトリックス組織は指揮命令系統が多元的であり、運用は容易ではありませんが、成功すると大きな成果を収めるといわれます。成功のためには、あらかじめ職能別組織の長にマトリックス組織の役割を十分に理解してもらうことが不可欠です。

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6 ラインとスタッフ

ラインとは、メーカーにおける製造部門と営業部門、流通業における仕入れ部門や販売部門など、企業の目的を直接的に達成するための部門です。そのため、「直接部門」と呼ぶこともあります。

一方、スタッフとは、企画部門、研究開発部門、広告宣伝部門、管理部門など、ラインに助言を与えて支援するための部門です。そのため、「間接部門」と呼ぶこともあります。

一般的に事業規模が拡大し、経営に必要な専門的知識や経験が増すと、スタッフの数が増加します。しかし、スタッフは企業の収益に直接的に貢献しないため、コストセンターとして位置付けられ、ラインとスタッフの要員バランスが課題となります。

企業では高収益時にスタッフ部門を強化し、ラインのサポート強化と“暴走”を抑制します。一方、収益が低下した場合、コスト削減のためにスタッフからラインへの配置転換を行います。

7 中小企業の外部組織活用

1)中小企業の特徴

中小企業の特徴は、構成員個々人が組織に埋没せず、しかも組織全体が固い結束を持って事業を進めるところにあります。企業の目標が組織構成員1人ひとりに正しく理解され、同じ目標に向かって一丸となってまい進するところが中小企業の良さです。

しかし、規模の拡大に従って、社長と従業員の間に、部長・課長・係長などの管理層が存在し、本来の中小企業の特徴である「風通しの良さ」がなくなってしまうことがあります。

2)中小企業と外部組織

中小企業の組織を考えた場合、内部組織と同等あるいはそれ以上に大切なのが企業の外部組織です。中小企業は大企業に比べて規模が小さいために取引上不利を被ることが少なくありません。

このため「協同組合」などを組織し、不利を克服する努力が続けられてきました。近年では、中小企業の「情報ネットワーク」が著しく広がりを見せ、世界的な規模での事業を展開している中小企業もあります。

具体的な方法としては、「協同組合」はもとより、外部専門能力の活用の観点から「公設試験研究機関」や「大学」に研究開発を委託したり、製品の販売を「専門商社」に任せるといった方法があります。

また、新規事業のアイデアを模索して、異業種企業と接触したり、共同事業化を行う例もあります。金融機関や商工会議所、商工会などが組織する「交流会」なども有効でしょう。

8 理想の組織形態とは

「理想の組織をつくること」は社長にとって永遠の課題ですが、「組織は環境に応じて組み替えられていくもの」であり、環境が刻々と変化する以上、理想の組織も常に変化せざるを得ません。

また、企業は外部環境だけではなく、企業の内部環境(年齢別人員構成など)の変化により、常に自らの組織の改編を迫られています。まさに、組織は“生き物”であり、時代とともに変化していくものなのです。

競争のグローバル化、IT技術を利用したディスラプト、働き方改革など、日本企業を取り巻く環境は急速に変化しています。単に今どきの組織を追い続けるのではなく、環境変化に適合した内部組織の改編や外部組織の活用が必要です。

以上(2019年4月)

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画像:pexels

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