以前、経営とは(1)企業の方向づけ、(2)資源の最適配分、(3)人を動かす、の3つだと説明しました。そして、その中で最も重要なのは、方向づけです。企業が「何をやるか、やめるか」を決めることです。方向が明確に定まっていなければ、どんなに働く人が頑張ってもどうにもなりません。今回は、その最も重要な「方向づけ」を行う能力をどのように高めるかということをお話します。
1 経営で最も重要なことは「方向づけ」
「方向づけを正しく行う」。言うのは簡単ですが、実行するのは難しいものです。「方向づけ」とは戦略と言い換えてもいいと思います。それを正しく行うためには、まず、(1)企業として目指すべき、あるいは企業の存在意義である「ビジョン」をベースに、(2)企業がコントロールできない「外部環境」、そして(3)企業の「内部環境」を分析することが必要です。その上で、自社の強みを活かし、他社との違いを明確に出せる市場を決め、製品やサービスを提供しなければなりません。
その際に、「外部環境」の状況や変化を読み取ることが何よりも大切です。「会社」という字は興味深いことに「社会」という字の反対です。どんなに大きな会社でも社会の流れに勝てる会社はありません。自社や自社が属する業界を取り巻く環境を、短期的、中長期的にも読み解いていかなければならないのです。
もちろん、未来はだれにも分かりません。しかし、その分からない未来を、少しでも確率を高めて読み解く必要があるのです。その能力を高めるのにとても有効な手段の1つは、新聞を読むことだと私は思っています。
2 社会の関心を自分の関心に合わせる訓練
多くの皆さんが、毎日新聞を読んでいることでしょう。では、新聞を「経営者的に」読んでいる人はどれだけいるでしょうか。経営者的に読むというのは、社会の流れを読み解くように読むということです。
最良の方法は、新聞の1面トップ記事を毎日読むことです。新聞の1面トップ記事は、新聞社が読者に最も知らせたい重要な記事になります。そのため、自分の関心の高さにかかわらず、多くの人が関心を寄せていると考えられます。そうした情報を毎日収集するのです。これは、いわば「社会の関心を自分の関心に合わせる訓練」ともいえるでしょう。そうして考えると、見出しだけで読む記事を決めている人は、経営者的な読み方ができていないのかもしれません。
忙しい時は、「リード文」を読むだけでも良いでしょう。リード文とは、記事の最初にある4~5行のことで、ここに記事の内容がまとめられていることが多いものです。リード文のない1面トップ記事もありますが、その場合には、最初の数段落を読むと良いでしょう。こういう読み方を3カ月も続けていると、世の中の流れがだいぶつかめるようになってきます。
3 関心のないものは何度見ても見えない
人間は関心のないものは目に入りません。以前、私が『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の冒頭で書いた話ですが、セブン‐イレブンのロゴが「7-ELEVEn」というように最後の「n」だけ小文字であることをご存じでしょうか。
多くの皆さんはこのロゴを何度も見たことがあると思います。しかし、ロゴの最後の「n」が小文字であることに気づいている人は、かなり少ないと思います。関心のないものは見えないのです。しかし、元々は関心の低い記事でも、それらを毎日読んでいるうちに、興味がわいてきます。そうすれば「関心のフック」ができて、さらに新しい情報がそのフックにひっかかるようになり、自分の頭の中のデータベースが拡充していくのです。これは、別に新聞記事に限ったことではありません。
「メモする」ことも大切です。皆さんは、1週間前に食べた夕飯の献立を覚えていますか? これと同じように、以前に読んだ新聞記事の内容を覚えておくのは難しいことです。それを補助するのがメモです。毎日、新聞を読んで気づいたことや関心を持ったことを、短い言葉だけでもいいので、手帳などにメモしてください。私の場合は数字が多いです。それを、仕事の空き時間などに、ときどき見返します。そうすると、自身の脳のデータベースが活性化するのです。
最後にもう1つ、素直さもとても大切です。バイアスがかかっていると、物事を正しく見ることができません。特に、自分の考えを補強する情報だけに注目してしまう「確証バイアス」には注意が必要です。素直に謙虚に物事を見る。このことを、是非、心掛けてください。
以上
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