書いてあること
- 主な読者:地域企業の経営者、経営幹部。地方創生に取り組む地域の金融機関、自治体
- 課題:若手などメンバーがイキイキと働く環境をつくり、組織を成長させていきたい
- 解決策:本気で課題と解決策を議論し、アウトプットする機会をつくる
1 参加者の90%以上が「良かった」と感じるブートキャンプ
2023年2月の某金曜・土曜の2日間。
「こんなに熱量高い共創ブートキャンプ、多様な参加者の本気度合いがすごすぎる……」
曇天で、チラホラと雪が舞う北陸の地。外の寒さとは対照的に、室内では激アツな2日間のブートキャンプ、議論が繰り広げられていました。
この「共創BOOT CAMP」とは、地域企業の課題解決のために、地域企業と地域経営支援機関、そして都市部など「外」の人材が1泊2日の合宿集中形式でひたすら議論を重ね、地域企業の課題の明確化と、「明日から取り組める」解決プランを作成していくプログラムです。
共創BOOT CAMPの運営は商工中金・アイコック(協同組合全国企業振興センター)・合同会社RBXが運営しており、今回は金沢(石川県)で開催されました。目指すのは、地域企業の課題と解決策の明確化、ひいては地域の活性化、地域を超えた雇用の創出です。
ブートキャンプのプレイヤーは主に3者。課題を抱える地元金沢の企業(参加企業)、課題と解決策を一緒に考える都市部などからの人材(外部人材)、そして商工中金の若手営業担当者です。この3者が1泊2日、カンヅメ状態で課題解決のために議論します。
じっくり現場で2日間、張り付いて見学させていただいて、まさに、
参加企業よし、外部人材よし、商工中金よしの「三方よし」な取り組み
と感じました。そして、聞いているだけで脳みそにも汗をかきそうな圧倒的な熱量の議論。
参加者アンケートでは、なんと全体の93%が「非常に良かった」あるいは「良かった」と回答したとのこと。現場で見た参加者の目の輝き具合からすると、皆が良かったと感じているのは本当だろうと分かります。
この記事では、知恵熱が出そうなこのブートキャンプの内容をお伝えしたいと思います。地域企業がこれから成長するヒント、若手が意欲的に仕事に取り組むヒント、そして人生において「夢中になれるもの」を見つけるヒントなどに、少しでもお役立ていただければ幸いです。
なお、ブートキャンプでは参加企業の「本当の課題」についての議論でしたので、企業名などは伏せ、課題もぼやかしています。ご了承ください。
1日目。はじめに全体オリエンテーションをしている様子(写真提供:アイコック(協同組合全国企業振興センター))
2 三者三様の参加する意義
見学していて、熱量と本気度合いに驚き、感動しまくった2日間。なぜここまでの熱量だったのかを改めて振り返ってみました。
ブートキャンプでは、プレイヤー3者が、参加企業の掲げる課題をより明らかにした上で、具体的な解決策を考えるべく議論していきます。ここでまず注目したいのは、ただ議論して終わりではなく、
アウトプットの形と、ブートキャンプにおける明確なゴールが設定されている点
です。
アウトプットの形としてあるのが「100日プラン」です。これは、課題解決のために「明日から100日間で何をやるか」の具体的な計画です。100日間の計画! 解像度高く考えようとするとかなり大変です。そしてブートキャンプにおける明確なゴールとして、「明確化した課題と、解決するための100日プランを、ブートキャンプの集大成として経営者(あるいはメンバー)にプレゼンする」ことになっています。100日プランを実行するには、プレゼンでOKをもらわないといけない、ということになります。
これを2日間、もっと言えば1日目の午後と2日目の午前なので実質14〜15時間でやらなければなりません。参加者は必死です。しかも、企業として直面している実際の課題なので、本気も本気、超真剣です。参加企業のメンバーのお一人も、「日ごろは目の前の仕事に必死で、こんなに頭を使って議論する機会がない。必死になって考え、話した。こういう経験はしたことがない。とても勉強になった」という趣旨の感想を言っていました。
プレイヤー三者三様の視点でこのブートキャンプの意義・意味を考えると、次のように整理できます。こうしてみると、なるほど熱量が高くなるはず、と思います。
・参加企業(参加している企業のメンバー)
取り組むのは、緊急度は高くないが重要度が高い、「企業のこれからの成長」に必要な実際の課題。課題に対して100日プランを考え、ブートキャンプ最後に経営者(あるいはメンバー)にプレゼンして了解を得て、100日プランを実行していかなければならない
・外部人材(東京など他地域から参戦してきた専門的知識や経験のある人材)
初めて関わる地域、参加企業の課題を「本当にその課題認識で良いのか?」からスタートして具体的な100日プランの組み立てまで持っていくため、手腕、実力がかなり問われる。ブートキャンプ後も、実際にその参加企業と一緒に仕事をするチャンスもある
・商工中金の若手営業担当者
参加企業は若手営業担当者にとって担当の取引先なので、これまでも関わっているものの、企業のメンバーと実際に話したり、具体的な課題を一緒に考えたりするのはほぼ初。実際の企業のビジネス課題を目の当たりにし、初めて腹に落ち、実感できる
3 参加者一人ひとりが持ち帰る色々なもの、今後への可能性
今回、ブートキャンプの参加企業は3社。業種、規模、課題もそれぞれまったく違います。この3社に、外部人材が1人ずつと、商工中金の若手営業担当者が加わって、一つのチームになります。今回は3チームとなり、チームごとに部屋を分かれて2日間、議論しまくりました。
参加企業に声をかけて集めたのは商工中金・金沢支店です。このブートキャンプ発起人のお一人でもある金沢支店長にお聞きしたところ、もともと商工中金・金沢支店と積極的にコミュニケーションを取っており、課題感も割と明確な取引先企業に声をかけ、その企業を日ごろ担当している若手営業担当者がブートキャンプに参加するという形をとっているそうです。中にはまだ20代前半、営業担当になって2年目という若手の方もいました。
この2日間で、商工中金の若手営業担当者が、自分が担当している参加企業のメンバーとたくさん議論し、信頼関係を強めていく様子が印象的でした。参加企業からしてみれば2日間、商工中金が、というより、「その人(担当の若手営業担当者)」が必死で自分たちの課題の解決だけを考えてくれるわけです。
一方、商工中金の若手営業担当者から見れば、普段は知る由もない企業メンバーが何をどう考えて仕事をしているかが分かるので、「血の通ったビジネスの話」が初めてできる感じです。実際に、参加した商工中金の若手営業担当者は次のようにコメントし、目を輝かせていました。
今までは、経営者や財務担当者しか話をしたことがなかったが、今回、メンバーの方とたくさん議論して「こんなに会社のことを思って働いている人がいる会社なんだ」「こういうことに課題感を感じているのか」などが初めて分かって、本当に良かった。
こうした「担当している地域企業の課題に、若手が入り込んでいく」取り組みは、他の地域金融機関にも参考になるかもしれないと思います。そしてこれは、金融機関だけの話ではありません。地域企業にとっても同じです。若手や中堅どころのメンバーが日ごろ感じている課題感を明らかにしたり、その解決策を皆で議論したりすることで、思わぬ発見・成長の可能性も。
実際、以前、金沢で実施したこのブートキャンプの参加企業では、参加した企業のメンバーが普段と違って課題や解決策をバリバリ議論してくれ、経営者側にとってはうれしい驚きがあったそうです。
いずれにしても、必死で14〜15時間議論するので、誰もが取り繕ったり格好つけたりしている時間も余裕もない。一人ひとり、全人格とこれまでの経験・知識を総動員してぶつかり合う。これが、圧倒的な熱量を生む理由の一つかもしれません。大げさでなく、こういうものに参加することが、人生を変える機会や出会いの一つになるかもしれないと思いました。アツい!
アンケートから抜粋した参加企業のコメントを一部ご紹介します。参加企業から見ると、他地域の外部人材や商工中金の若手営業担当者などは、普段語り合うことのない「外の人」なので、その視点が入るのは新鮮で、かつ大いなる気づきがあったのではないでしょうか。
【参加企業からのコメント】
・プログラム名(ブートキャンプ)の通り、 2日間で火付けを考えることができ、とても良い勉強になった。
・自社の見たくない現実を見るという観点で成長につながった。
・会社の利益貢献をしていく上で、現在の課題を客観的に見つめ直す良いきっかけとなった。
・普段の業務では社外の方と課題について話し合う機会がないため、銀行の視点、コンサルの視点(異業種の方の視点)を併せて考えることができ勉強になった。
・今まで経営について考えることがなかったため、数字(経営)の考え方も学ぶことができ大変勉強になった。
実際に、多種多様な人が集まって議論するので、さまざまな化学反応も起きていました。例えば、「売上を上げたい」という課題(ぼやかしています)を掲げた参加企業に対して、外部人材から「誰からの売上を上げる? そもそも対象としている顧客は誰か?」といった問いが発せられ、改めて「自社にとっての顧客」を考えてみた。すると参加企業のメンバーだけでは出て来なかった新しい課題が浮き彫りに。「根本的な課題はそこか!」となったりもしていました。
4 2日間の最後はプレゼン。ここからがスタート!
このブートキャンプを通じてずっと感じていた圧倒的な熱量ですが、それには事務局として全体のファシリテーター役のRBXの皆さん、そしてアイコックの皆さんの本気度のすごさも大いに関係している気がします。3チーム、それぞれ部屋も分かれて2日間議論、プレゼンするのですが、RBXの皆さんは、3つの部屋を行ったり来たりしながら、議論が停滞・拡散しすぎたりすると、軌道修正を図ったり質問を投げかけたりします。
当日2日間だけでなく、前準備も後工程も含め、事務局側も本気、必死です。「地域企業や地域金融機関、ひいては地域を活性化させよう」「地域で働く外部人材を発掘しよう」という思いがなければ続けられることではないな……とすごさを感じます。事務局では、金沢の次回や、他地域でのブートキャンプなども企画しているそうです。こうした取り組みが、ぜひ全国に広がってほしいと思います!
さて、2日目の午後。ブートキャンプの集大成、プレゼンが行われました。プレゼン対象である参加企業の経営者・経営者層が土曜日の午後にこのプレゼンのためだけに時間をつくる、会場にやってくる。このことも参加企業の本気度が伺えます。そして商工中金は、本社人事部がオンラインで参加。確かに若手の育成にとってはとても良い経験かもしれません。
「育成」というより、イキイキと意欲的に自分ごととして意見を言ったり必死で議論にくらいついていったりすることが、参加した本人の大きな宝物になっているのは間違いないでしょう。
「よくここまで100日プランをつくれたな。すごい」
これがプレゼンを聞かせていただいた率直な感想です。2日間の議論を見学している中で、「あれ、本当に課題はこれだっけ?」と、そもそも論まで出てきて課題感が変わってきたり。
参加企業のビジネスモデルを外部人材が理解して目線を合わせるのに思った以上に時間がかかったり。
そういう場面もあったようにも見えましたが、見事に100日プランを仕上げてプレゼンまで持っていったのは、これは外部人材の力もさすがだなと思わさせられました。
特に2日目の朝は、それぞれのチームの外部人材が、議論をゴールに持っていくようにギアを一段上げた感。この手腕は、見ていてとても勉強になりました。参加企業のメンバーや商工中金の若手営業担当者も、外部人材の仕事のやり方、考え方、知識、ファシリテーターとしての進め方などにかなり関心を持ち、非常に勉強になった様子。「外の世界を知る」ことの大切さを改めて感じます。ここにも人や企業が成長するためのヒントがあるような気がします。
今回のブートキャンプは終わりましたが、参加した方々にとって、これは新たなスタートです。「ブートキャンプ」の名の通り、「課題解決に取り組むための火を付けた」ので、大事なのはここから先です。100日プランの成果に期待!
そして、このブートキャンプがもっと多くの地域に広がり、地域企業の成長、地域の活性化に大いにつながってほしい! そうした未来をぜひつくっていきたいと感じた怒涛の2日間でした。ブートキャンプ事務局の方々をはじめ、関係者の皆さま、お世話になり本当にありがとうございました!
今回のブートキャンプの概要は次のURLからもご確認いただけます。
「共創BOOT CAMP」プログラム@金沢のご案内
https://regionallearning.jp/kanazawabootcamp202302/
2日目。最終プレゼン後、全体で共有している様子(写真提供:アイコック(協同組合全国企業振興センター))
以上(2023年4月)
pj80166
画像:VectorMine-Adobe Stock