シリーズ第1回「社長は『経営』という仕事を全うする~小宮一慶の社長コラム」では、「経営という仕事」について話をしました。1.企業の方向づけ、2.資源の最適配分、3.人を動かす、の3つがその本質です。会社が小さくても大きくても、経営者がこれを行わなければ、会社は成り立ちませんし、会社を大きくしようと思うならなおのことです。

1 経営者は必死で働くべし

もちろん、会社が小さなうちは、経営者であっても、経営という仕事だけでなく、営業や製造などの現場の仕事も必死でやらなければなりません。とにかく、必死で働くことが大切です。

なぜ、こういう話をするかというと、人間は弱いもので、ともすれば楽なほうに流れがちです。もちろん、創業間もないころには、お客さまも少なく、働く仲間もそれほどいないことが多いので、自分や社員の家族の生活を支えるためにも、必死で働くと思います。創業期から、楽をしているなどという創業経営者は少ないでしょうし、それでは成功しないのは明らかです。

しかし、問題は少し軌道に乗り始めたころです。その時期になると、気が緩むものです。私の好きな言葉に、「良好(グッド)は偉大(グレート)の敵である」(*)というのがあります。そこそこ良い状態が、そこからの飛躍を阻害するのです。食べられるようになっても、必死で働く社長でなければ、会社の成長は止まります。一生懸命働く社長がいるからこそ、部下も必死で働いてくれるのです。

成功して楽をしたいと思う人も少なくないと思います。ビジネスで成功すると、確かに経済的には豊かになれます。サラリーマンよりも格段に豊かになる人も少なくありません。自由度も格段に増します。しかし、ある程度になれても、楽をしていてはなかなか成功しないというのも事実です。

私は、よく「なれる最高の自分になる」ということを言います。社長も部下も、仕事で自己実現をすることが大切なのですが、その大前提が「なれる最高の自分」を目指すことなのです。そういった意味でも経営者は、つねに自分のベストを尽くし、「なれる最高の自分」を目指し、それとともに「なれる最高の会社」づくりを行うことが大切なのです。

2 どこまでが仕事か?

どこまでが仕事の範囲かということを考えることも大切です。業界団体の付き合いや経営者仲間の付き合いも大切なことですが、それもほどほどにしておくのが賢明です。最初は会社のためにと思っていても、それらの団体活動に多くの時間をとられる経営者も少なからずいます。そして、それらの中での自分の地位を上げることに重きを置くようになる経営者もいます。「見栄」や「面子」もありますし、格好良いところを見せたいという思いもあるからです。

また、業界団体のための仕事ならまだしも、そういう団体での飲食やゴルフコンペなど、いわば「遊び」も、拡大解釈すれば、仕事の範疇に入ってしまいます。そして、一部の人にとっては、それらのほうが、本来の仕事よりも楽しいのです。

もちろん、人脈づくりや多くのことを経験するということは経営者にとって、とても大切なことです。しかし、それも会社を良くし、業績を上げるためです。遊びを優先して成功するほど、世の中は甘くないのです。

3 「明るく、元気、おおざっぱ、見栄っ張り」の社長が会社をつぶす

私は、経営コンサルタントとして独立してもう20年以上になります。一代で一部上場会社をつくるほど大成功した社長もたくさん見てきた一方、会社をつぶした社長も少なからず知っています。会社をつぶした社長の性格に共通するのは「明るく、元気、おおざっぱ、見栄っ張り」ということです。「明るく、元気」でないと社長など務まりませんから、これらはもちろん問題ではありません。一方、「おおざっぱ、見栄っ張り」は問題です。とくに「見栄っ張り」の人がトップに立つと、経営状況が良くない場合でも、無理をしようとします。

とくに業界団体や、経営者仲間の中で見栄を張ろうとすると、そこそこのお金をかける必要があります。会社の業績が良い時なら、それも十分にやれるかもしれませんが、業績の悪い時も、人によっては借金をしてでも、見栄を張ろうとするのです。それもこれも、社業に専念せず、団体活動などに注力するからそんなことが起こるのです。

「企業は社会の公器」だと、松下幸之助さんはある時に気づかれたそうです。ヒト・モノ・カネを社会から預かり、それらの資源を有効に活用して、それらの資源以上のものを社会に還元するのが会社の使命であり、そのかじ取りを行うのが経営者の仕事です。

もちろん、経営者にも息抜きは必要です。しかし、息抜きや遊びのために仕事をするというのは本末転倒です。会社を良くし、働く人たちを幸せにし、社会に貢献する良い仕事をすることに楽しみを見出せるようになった時から、本物の経営者としての第一歩を踏み出せるというくらいに考えていてちょうどいいと私は思っています。

【参考文献】
(*)「ビジョナリーカンパニー.2」(ジェームズ・C・コリンズ(著)、山岡洋一(訳)、日経BP社、2001年12月)

以上

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