書いてあること

  • 主な読者:先代経営者や自分にもしもがあった際の「お別れ」の方法を決めていない経営者と、その会社の総務担当者
  • 課題:縁起でもない話なので生前から準備をするのは気が引けるが、取引先なども集まる場で粗相があっては大変なので、やはり事前準備はしておきたい
  • 解決策:英日で国葬が行われたこの機会を捉えて、もしもがあった際の事前準備を始める

1 英日の国葬が相次いだ今は、「お別れ」準備の絶好の機会!

「おやじ、前社長の立場として、葬式はどうすればいい?」(2代目の現社長)

「社長にもしもの際、どのような葬儀を行えばよろしいでしょうか?」(総務部長)

大事なこととはいえ、本人には聞きにくいですよね。こうした話は、取引先などに不幸があって弔問する際の行き帰りにすることも一案です。ですが、2022年9月に英国のエリザベス女王と日本の安倍晋三元首相の国葬が行われたばかりの今は、こうした話を切り出す良いタイミングです。

「お別れ」の方法を事前に決めておくべき理由はさまざまありますが、主なものは、

  • 後継体制の告知や、社内の結束を図る場として、円滑な「事業承継」に活用できる
  • 多くの取引先など関係者を招いた大事な式典で粗相があれば、会社の評価に傷がつく
  • 親族(故人である前・現経営者の妻など)と綿密に意思疎通を図り、禍根を残さない

ことです。

この記事では、先代経営者や現経営者にもしもがあった際に備えて、事前に「お別れ」の方法を決めておくことをご提案します。「社葬のことなら、もう知っている」という方も、

高齢化やコロナ禍に伴って、近年の「お別れ」の方法は、皆さんがイメージしている「社葬」とはかなり変容している可能性があります

ので、ご一読をお勧めします。

2 コロナ禍や高齢化で変容する「お別れ」の在り方

かつて、先代経営者や現経営者の葬儀といえば、親族が行う「密葬」後に会社が単独で開催する「社葬」や、親族と会社が共同開催する「合同葬」のイメージがありました。

ところが、高齢化やコロナ禍の影響を受けて、「お別れ」の在り方は次のように変容してきています。

  • かつての「社葬」よりも、「お別れの会」や「偲(しの)ぶ会」を好む傾向が強まる
  • 密を避け、参列者を待たせないことが最優先事項に

高齢化やコロナ禍で変容する、会社が開催する「お別れ」の方法

1)かつての「社葬」よりも、「お別れの会」や「偲ぶ会」を好む傾向が強まる

かつての経営者の「お別れ」の方法といえば、寺院や葬儀場などに鯨幕を張り、僧侶などの宗教者を呼んで執り行う「社葬」や「合同葬」が一般的でした。

近年では、会社が単独で開催する場合は、宗教色を抜いた形式とし、焼香などではなく、献花で追悼することを好む会社が多数派になっています。

この背景の1つに、高齢化によって先代経営者の引退後の生活が長期化したことがあります。故人となった先代経営者との直接の関係ではなく、故人の会社との関係から「お別れ」をする参列者が増えており、こうした参列者にも配慮した式典として、「お別れの会」などを選ぶ傾向があるためです。また、2000年ごろから、ホテルが「お別れの会」などのために積極的に会場を提供するようになったことや、コロナ禍になってからは、会社が密を避ける目的で、ホテルや会館など広い会場を希望するケースが増えたことも背景にあるとみられます。

会社が単独で開催する場合、祭壇に遺骨を安置することも減りました(ホテルでは遺骨を持ち込めないことも少なくありません)。遺骨を安置しなくなったため、開催時期は納骨することが多い「四十九日」以前にこだわらず、亡くなってから2カ月近くかけて、入念に準備してから行うケースが増えています。

献花のみを行う場合は、故人の往時の画像や映像を放映したり、故人の好んだ音楽を流したり、展示スペースを設けて故人や故人の会社のゆかりの品を展示したりすることが一般化しています。コロナ対応を万全にするという意味も含めて、会社側は「お別れの会」などの運営に関して、運営ノウハウを豊富に持った事業者に依頼するケースも増えているようです。

2)密を避け、参列者を待たせないことを最優先に

かつては、「参列者が多く集まることが故人に対する生前の評価」と見る風潮もありましたが、コロナ禍によって、一度に集まる参列者を限定し、密を避けて参列者を待たせないことを最優先するようになりました。故人との関係によって参列者を区分し、集まる時間をずらすなどの対応が行われるケースも増えています。

例えば、創業家が経営する会社の場合は、今でも「合同葬」を行うことが少なくないようですが、会社関係者の参列は通夜に限定した上で、通夜を親族・友人が参列する「第1部」と、会社関係者が参列する「第2部」に分離するケースが増えているようです。特に第2部では参列者が滞留しないよう、読経は行わず、来訪した順に焼香をあげ、「通夜振る舞い」も省略して散会するケースもあります。

この他、親族による「密葬」は家族のみで行い、コロナ前であれば「密葬」に参列していたような故人の「会社以外」の関係者も「お別れの会」に参列してもらうケースもみられます。

3 もしもの際の事前準備、これだけはしておいて!

先代経営者や現経営者の「お別れ」をスムーズに行うには、事前準備が不可欠です。特に合同葬を行う場合は、開催までおよそ1週間しかありません。かつては社内で「社葬取扱規程」を作成しておくことが推奨されていましたが、今では社内の一部の関係者のみで共有する「初動対応マニュアル」を作成しておくケースもあるようです。

この背景には、中小企業では「社葬」の対象となる人が少ないので会社規程まで作成しておく必要性が乏しいことや、高齢化に伴って現経営者が逝去するリスクが低下していること、想定する先代経営者に内密に準備を進めるために、あえて会社規程ではなく社内資料にとどめておくなどの理由があるようです。

ただし、事前準備を行うに当たっては、想定する先代経営者本人には内密にしても、その配偶者をはじめ主な親族と綿密に意思疎通を図っておくことが重要です。連携がうまくいかず、親族にとって不本意な「お別れ」になってしまうと、思わぬ禍根を残すことになりかねません。

1)「お別れ」の方法(式典の形式、宗旨、会場)

前述の合同葬、お別れの会、社葬など、どの形式で式典を行うのかを決めるのは最優先事項といえます。少なくとも、「お別れ」の式典は1回だけ(合同葬)なのか、親族による「密葬」と会社が行う式典の2回行うのかは、事前に決めておきましょう。依頼する葬儀業者が決まっていれば、なおスムーズに進みます。

合同葬の場合は、開催までが1週間以内と短時間になりますので、故人(親族)の宗旨を把握しておき、開催する会場(候補)も選定しておくとよいでしょう。

「お別れ」の方法が決まれば、ある程度の予算規模も把握できるでしょう。

2)緊急連絡網

訃報を親族から受ける社内の担当者や、訃報を知らせる役員・社員の緊急連絡網を作成します。

創業家でない経営者に引き継いだりして、故人の親族が在籍していない会社の場合、親族から訃報をいち早く会社に伝えてもらえるための、関係性の構築も不可欠です。

緊急連絡網の作成には、「連絡する人を決める」だけでなく、「連絡網に載っていない人には連絡をしない」という側面もあります。後述しますが、特に「お別れ」の式典を2回行うことにした場合は、情報漏洩した場合のリスクが大きくなります。

3)参列者の人選と通知方法

これは「お別れ」の式典を2回行う場合になりますが、親族が行う「密葬」に、会社関係者の誰を招くのか(誰を招かないのか)を明確に決めておきましょう。

合同葬の1回のみを開催する場合は、関係者全員を一度に招くことになります。会場(候補)を選定しておくためにも、どの程度の参列者を招くか(参列者が集まりそうか)を想定しておく必要があります。

通知状(案内状)を送付する参列者については、連絡先を含めてリストアップしておきます。異動や役職の変更、退職などもありますので、なるべく定期的にアップデートするとよいでしょう。

4 こんな「お別れ」はダメだ! 式典でのトラブル事例

1)「密葬」で参列者をコントロールできず親族の不信を招く

会場が寺院や葬儀場などに限定される「密葬」では、想定外に参列者が多く集まり、会場が密になってしまうことが最も危惧されます。「密葬」と「お別れの会」などの2回の式典を行う場合は、誰をどの式典に来てもらうのか、明確にしておくことが大事です。

今でも「参列者の多さが故人に対する生前の評価」「参列させる社員の数が、故人や開催する会社への誠意」と考える人はいます。故人が懇意にしていた経営者仲間だけを密葬に招いたつもりが、その経営者が“気を利かせ”て、社員を多数連れて参列するようなケースもあるようです。

こうなると、会場が密になる他、「密葬」の時間が長引いたり、駐車スペースが足りなくなったりと、進行に支障を来すことがあります。また、故人の親しかった人だけを集めたかった親族が想定外の参列者に戸惑い、会社側に不信感を持つことにもつながりかねません。

「密葬」に招待する際は、「○○様だけにお越しいただきたい」「他の方には知らせないでほしい」旨を明確に伝えるようにしましょう。

2)情報漏洩で会社の評価に傷がつく

「密葬」でのトラブルが発生する原因には、正式に案内した他の参列者が情報を流すだけでなく、自社の社員が漏らしていることもあります。訃報があった翌日に、社内の朝礼で話をすると、直後に社員がそれぞれ担当する取引先に連絡を入れてしまうケースがあります。こうなると、取引先から、「あの会社は大事な式典もきちんと取り仕切れない」というレッテルを貼られてしまう可能性も否めません。

情報統制を完璧にするためには、訃報が入った際の緊急連絡網の対象者に、情報管理を徹底することを伝えておきましょう。

5 引退して久しい先代の「お別れ」にも事業承継の意義がある

開催する現経営者にとって、先代経営者の「お別れ」の式典は、「もう先代から引き継ぐことは何もないので、事業承継という面での意義はない」と思いがちですが、実際に「お別れ」をしてみると、事業承継に役立つケースもあるようです。

最後に、引退して会社から離れた生活を長期間していた先代経営者の「お別れ」の式典を行った現経営者たちの思いについて、葬儀業者からヒアリングしたエピソードをご紹介します。

  • 先代経営者とともに会社の発展に尽くしたOBが、「お別れの言葉」で述べた往時の苦労話を聞いた現経営者が、「あんなことがあったなんて、初めて聞きました」と涙を流した。
  • 展示スペースに、創業期の掘っ立て小屋の社屋や、ねじり鉢巻きをしてリヤカーを引いている故人の写真などを掲載した。それを目にした若手社員が、自社のルーツを知って感動。幹部社員は、「創業期のことは入社時に話をしたつもりでしたが、このような形で目にすることで、若手社員にも伝えることができてよかった」と話した。
  • 2代目の現経営者は、故人となった先代経営者(父親)とは経営方針について意見が対立することもあったが、参列者から若い頃の故人の苦労話を数多く聞き、「改めておやじに感謝し、お礼をしました」と話した。
  • 現経営者が、「長く付き合いのある取引先から、先代経営者との間で取引が始まったきっかけを聞くことができた」と喜んだ。
  • 現経営者が、「おやじ(先代経営者)が持っていたDNAを、改めて今の社員に強く伝える良い機会を設けられた」と感謝した。

以上(2022年10月)
(取材協力 公益社)

pj00652
画像:ayaka_photo-Adobe Stock

Leave a comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です