1 哲学対話をやってみよう
哲学対話をやってみたいなら、まずは参加者として近隣の哲学カフェで体験してみるのがよいでしょう。哲学カフェは全国各地で行われており、全国の哲学カフェを紹介したサイト「哲学カフェ・哲学対話ガイド」などで調べることができます(最近はオンラインで開催しているところもあるようです)。
また、哲学対話を広める「カフェフィロ」や「こども哲学 おとな哲学 アーダコーダ」などの、全国規模の団体もあります。そこでは哲学対話のファシリテーター(進行役)の派遣などの活動を行っているので、ある程度の規模のイベントや継続的なイベントを開催したい人は、問い合わせてみてもよいでしょう。
■哲学カフェ・哲学対話ガイド■
https://www.135.jp/
■カフェフィロ■
https://cafephilo.jp/
■こども哲学 おとな哲学 アーダコーダ■
https://ardacoda.com/
2 哲学カフェのやり方
以降では、哲学カフェのやり方を紹介します。哲学対話は特別な道具や技術は必要ないので、仲間たちで遊び感覚で企画するなら専門家を呼ぶ必要はありません。ただ、事前にどのようなものかを知っておいたほうが、安心して参加することができるでしょう。
1)概要
哲学カフェは、専門家が集まって議論する堅苦しい場ではなく、コーヒーを片手に対話できる、自由で開かれた場です。
町中のカフェや喫茶店などで開催することが多いため、哲学カフェと呼ばれています。
2)実施頻度、参加者
開催頻度は多くて週に1回、少なくて年に数回程度です。定期的に開いている場合は月に1回程度が多いようです。
参加者は幅広く、子どもから大人まで参加します。性別の偏りはなく、職業もバラバラですが、自由な発言を促すため、あえてこうした属性を明らかにせずに話すことが多いです。
参加人数は、6人から15人程度がやりやすいでしょう。多過ぎると発言の機会が少なくなり、少な過ぎると多様な意見が集まらないためです。
3)進行役
ファシリテーター(進行役)がいて、対話の交通整理などをしながら進めるのが通常です。ただし、ファシリテーターの役割はあまり決まっておらず、進行役に徹するケースもあれば、いったん対話が始まると参加者のように議論に加わるケースもあります。
対話の時間は通常1時間から2時間、長くても3時間くらいで、1回の対話の中で1つのテーマや問いを掘り下げていきます。
対話の進め方もさまざまで、最初から最後までファシリテーターが問いを投げかけるパターンや最初にテーマに関する講義を聞いてそれについてみんなで対話するパターン、小グループに分かれて議論した後に全体で議論するようなパターンなどがあります。
4)ルール
決まったルールはありませんが、他者の発言をきちんと聞くための工夫が必要です。
例えば、同時に複数の人が話すような状態は避け、人の話をさえぎらないようにするといった具合です。
哲学カフェは自分の意見を主張するための場ではなく、人の話をよく聞いて、その上で自分も考える場であることを周知します。
また、難しい言葉(専門的な哲学用語)などを使わない、人の発言を全否定しないというルールを設けているところもあります。
難しい言葉を使うと、話についていけない人が出てきて、みんなで考える意味がなくなってしまいます。また、「全く違う」「あなたは何も分かっていない」などの発言は、対話をする雰囲気を壊してしまいます。
5)テーマ
哲学対話はどんなテーマでも話題にすることができます。身近な物事をめぐって生じた問いや人生を送るうえで切実に感じられる問いでもよいでしょう。
ただし、扱うのが難しいテーマもあります。あまりにも抽象度の高いテーマ(愛とは何か、死とは何か、など)は議論がまとまりにくくなります。また、政治に関するテーマはいきなり扱うと意見が割れがちになるようです。
3 子どもの哲学
1)概要
子どもの哲学は、小学校・中学校・高校の児童・生徒が参加者となります。学校の教室で授業の一環として行われることが多いですが、親子でやることもあれば、地域のコミュニティーセンターなどで実施することもあります。
2)実施頻度、参加者
実施頻度はまちまちです。学校の場合、授業の一環として実施することもあれば、独自カリキュラム、部活動として実施することもあります。地域のコミュニティーセンターなどの公共施設で開催する場合は、多くて週に1回、少なくて年に数回程度です。
子どもの哲学は参加者の年齢によって集中できる時間の目安が異なります。語彙や知識の範囲も違うので、参加者の年齢をある程度区切る必要があります。
参加人数は、5人から10人くらいがちょうどよいようです。1クラス(40人程度)で実施することもできますが、それには慣れが必要です。
初めて参加する子どもたちは、意見を出しやすくするため5人程度の小グループに分けるとよいでしょう。
3)進行
ここでは、学校ではなく希望者を集めて行う場合を紹介します。
ファシリテーター以外にサポート役がいたほうがよいでしょう。受付などの手伝いだけではなく、子どもたちが飽きたり行き詰まったりしたときに、助け舟を出してもらうことができます。
お互いの顔が見えるよう、初めに輪をつくって座ることが多いようです。未就学児や小学校低学年の子どもは走り回って遊びだすことがありますが、叱らず飽きて対話に戻ってくるのを待つか、アイスブレイク(緊張をほぐすためのワークショップ)をして輪になるように促しましょう。
時間は、30分から2時間が目安です。未就学児は30分もすれば飽きてしまいますが、小学生(高学年)になればやり方次第で2時間続けられるでしょう。子どもは大人よりも緊張したり、恥ずかしがったりしがちです。集中力が切れることも考慮に入れ、議論の途中でも臨機応変にアイスブレイクや休憩時間を入れるようにします。
4)ルール
子どもの哲学も大人の哲学対話と同じように、他者の発言をきちんと聞く、難しい言葉は使わないなどのルールが必要です。
また、子どもの哲学は大人の場合よりもさらに雰囲気づくりが大切です。子どもが大人の顔色をうかがって自由な意見を言わないことや、参加者同士の意見が食い違って気まずい雰囲気になることは少なくありません。話の流れを追い切れず、置いてきぼりにされてしまう子どももいます。
そうしたときはファシリテーターが、子どもたちが安心して話せる雰囲気をつくっていきます。意識してゆっくり話し、理論が飛躍したときは質問して、子どもたちが自分で気付くよう促します。また、自分(大人)でも分からない(正解のない)問題があると正直に伝えてみることも効果的です。
5)テーマ
子どもの哲学では、問い(テーマ)は、基本的には子どもたちが決めるようにします。興味を持っている問いのほうが議論は活発になりやすいからです。
ただし、一から十まで全て子どもたちで決める必要はありません。参加する子どもから意見を聞き多数決などで決める方法もありますが、大きなテーマを事前に決めてその範囲内で選ぶ方法、いくつか候補を出しておいてそこから選んでもらう方法もあります。
また、大人にとっては「議論するまでもないだろう」というような問いが出ることもあります。それでも、子どもがその問いを出した理由も含め、対話を通して明らかにしていきます。「なぜ宿題をしなければならないのか」という問いも、話してみるといろいろな発見があるはずです。
なお、子どもの哲学では、答えを絶対に出さなければならないわけではありません。子どもたちが議論に参加し、自分で考え、他の人の話を聞いて自分の意見を見直すことで、自然と思考力やお互いの考えを理解する力が身に付いていきます。
以上(2023年6月更新)
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