書いてあること
- 主な読者:さらに成長するためのヒントが欲しい経営者
- 課題:自分の考え方をバージョンアップするためにもがいている
- 解決策:他の経営者の思考習慣も聞いてみる
1 思考習慣のバージョンアップ
経営者は独自の視点と価値観をもって、ビジネスと向き合っています。そうした視点や価値観は、著名な経営者の言葉や、会合などで知り合った経営者仲間から学ぶこともあれば、自身の経験の中で培われたものもあります。
経営者は企業経営において大きな権力を持ち、多くのことを自ら決めることができます。一方、経営者はビジネスから逃げることができません。こうした環境が、経営者ならではの「思考習慣」に結び付いていくのでしょう。
経営者は自分の考え方を大切にしなければなりません。それこそが自身の経営哲学でもあるからです。同時に、経営者が成長していくためには、これまでの考え方をバージョンアップする必要があります。
今回は、「因果関係よりも相関関係を重視する」「『飽き』とうまく付き合う」「けんかの相手を間違えない」という3つの思考習慣を取り上げます。経営者としての考え方をバージョンアップするための何らかのヒントになれば幸いです。
2 因果関係よりも相関関係を重視する
因果関係と相関関係は混同しがちな考え方ですが、意味は全く異なります。因果関係は、「AをすればBになるという原因と結果の関係」であり、原因から結果の流れが一方通行なのが特徴です。
一方の相関関係は、「AとBに関連はありそうだが、原因と結果ではない関係」を指します。因果関係があると思えることでも、よくよく考えてみると相関関係しか見いだせないことは珍しくありません。
例えば、「優秀な営業担当者は、他の営業担当者よりも数多く訪問活動をしており、成約件数も多い」とします。この場合、訪問件数と成約件数に因果関係はあるのでしょうか。それとも、相関関係しかないのでしょうか。
営業には確率の問題という側面もあるため、訪問件数を増やせば成約件数も多少は伸びるでしょうが、成果は限定的です。それに、訪問件数を増やした割に成約件数が伸び悩み、かえって無駄になることもあり得ます。
この点、経営者は目に見えるものが全てではないことを知っています。訪問件数と成約件数に何らかの関係がありそうだと敏感に感じますが、それらが因果関係にあると短絡的に考えず、もっと詳しく状況を分析します。
その結果、「優秀な営業担当者は、有力な見込み客を見つけてアポイントを取る能力が高い」ことが分かります。有力な見込み客を数多く訪問すれば、成約件数も伸びるはずであり、単に訪問件数を増やすより成果を得やすくなります。
ビジネスに因果関係を求める人は大勢います。因果関係が分かれば、やるべきことを迷わないからです。「○○の法則」や「○○メソッド」などと称した書籍を、買ってみるのもこうした心理からです。
しかし、いきなり因果関係が見つかるほどビジネスは甘くありません。相関関係を敏感に察知し、無駄になるかもしれないリスクを覚悟して、本質を見極めるための行動を起こした結果、因果関係に近づけることがあるということです。
このように、ビジネスでは相関関係を突き詰めた先に因果関係があることが少なくありません。これを理解している経営者は、勝利の方程式といえる因果関係の“可能性”として、小さな相関関係であっても大事にするのです。
3 「飽き」とうまく付き合う
ある意味、仕事は同じことの繰り返しです。多少の変化はあっても、進んでいる方向や組織の雰囲気といった根本が変わらなければ、そのうち飽きてしまいます。そして、もっと刺激が欲しいと思うかもしれません。
仕事に飽きたとき、社員は転職することができます。しかし、経営者が転職するわけにはいきません。「経営者は逃げられない」というのは、厳しい経営環境から逃げられないことの他に、飽きから逃げられないことも意味します。
仕事に飽きたときの対応は2つです。1つ目は、やり過ごすことです。飽きたからといって、会社や仕事が嫌になったわけではないので、そこに居続けることはできます。そうして、飽きたことにしばらく耐えていると、飽きていることを忘れたりします。
ストレス対策として、ストレスをためないことばかり考えずに、ストレスとうまく付き合うことが大切だといわれます。経営者が抱える飽きの問題も、これと似たところがあるかもしれません。
2つ目は、自ら積極的に変化を起こすことです。新しい事業を始めたり、会いたい人と会って刺激を受けたりする。こうした大小の変化を起こすことで、飽きを和らげることができます。
とはいえ、特に創業者は「やりたいこと」や「信念」をもって創業したわけであり、それ自体に飽きてしまったのなら、小手先の刺激では満足できないはずです。この場合、事業承継やM&Aなど、自身の出口を考えざるを得ないかもしれません。
このように、経営はある意味で飽きとの闘いでもあります。スポーツではけがをしないことが一流選手の条件の一つですが、ビジネスでは飽きをうまくマネジメントできる経営者が一流だといえるのです。
また、飽きのマネジメントは社員に対しても必要です。優秀な社員ほど仕事の習得や環境への適用力が高く、「この会社はもう卒業してもよい」と考えます。優秀な社員に転職されては困るので、経営者は刺激を与えなければなりません。
そのために、経営者は新しいことにチャレンジして、組織に刺激を与え続ける必要があります。経営者自身についてはもちろん、組織全体の飽きをマネジメントするためにも、経営者の攻める姿勢が大切だということです。
4 けんかの相手を間違えない
ビジネスでは、衝突や対立を避けて通れないことがあります。経営者の立場になると、他社との取引解消のリスクがあったり、社内で深刻な対立が生じたりしても、守らなければならないことがあります。
こうした意味で、会社を背負って立つ経営者は相手と主張をぶつけ合うことに慣れています。逆に、相手に配慮するあまり、きちんと主張することができない社員に対して物足りなさを感じるくらいです。
とはいえ、衝突や対立が当たり前になり過ぎると、「けんかになってもいいから、とにかく主張することから始める」という姿勢になってしまうことがあります。時には、必要のない衝突や対立を生んでしまうこともあります。
経営者が主張を行うのは、自身の理想や志に真っすぐに経営するためです。しかし、その目的を忘れるほど感情的になると、経営者の態度は横柄になり、自分や会社の評価を落とします。正々堂々と主張しようとしているのに、もったいないことです。
このあたり、経営者は良い意味で、したたかになりましょう。相手に取り入るのではなく、相手を利用するということです。これは、経営者が冷静でなければできることではありません。
もし、自分で感情をコントロールするのが難しいと感じるときは、信頼できる部下を同行させます。経営者が感情的になったときに、そのことを指摘してくれるかもしれません。また、経営者としても、隣に部下が座っていれば冷静になれるでしょう。
相手に主張できるようになることは、経営者としての第一歩です。次はそこから進み、けんかする相手やけんかの仕方を心得ることです。感情的になりそうになったら、「なぜ、衝突や対立をするのか」を自分に問い掛けましょう。
最後に、「あれはあれ。これはこれ」といったように、素早く気持ちを切り替えられる柔軟さを持ちましょう。過去のけんかにこだわって未来の可能性を潰してしまうのは、会社のためになりません。
以上(2018年10月)
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画像:unsplash