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1 9千7百キロメートルを飛び越えさせた夢
日本から約9千7百キロメートル西にあるフランスの首都・パリ。株式会社Feux(フィウ) の代表取締役・松尾龍之介さんは、1年半ほど前、単身でフランスに乗り込んで起業しました。
現在は、得意とするSEO対策やSNS代行などの事業を行いつつ、本業であるアニメ・マンガ関連のビジネスにその心血を注いでいます。
「自分の好きな作品を、もっと知ってもらいたい。その良さを広めたいという夢は、20年間全く変わっていません」
と、代表の松尾さんが語る通り、Feuxの事業の中心は、
日本のアニメ・マンガ作品のキャラクターグッズを欧州で販売すること、また展示会などのイベントの開催により、日本と欧州のコンテンツ市場をつなぐこと。
そして、Feuxの使命は、
日本のアニメ・マンガ作品の魅力を広めること
です。
今年、Feuxは小学館の漫画雑誌「週刊少年サンデー」、コミック配信サイト「サンデーうぇぶり」と協力し、欧州一の規模を誇る日本文化の総合博覧会「Japan Expo」にブース出展。イベントで作品の新たなファンを獲得するために、高画質のパネルやフォトスポットを設置し、視覚的に楽しめる空間を作り込みました。


結果、イベントは大成功。Feuxがプロデュースしたブースは、500人以上もの来場客が訪れ、彼ら・彼女らの反応は想像以上だったといいます。
ただ、日本のアニメ・マンガ作品が欧州、特にフランスで人気を博していることは、すでに広く知られていること。
「欧州のアニメ・マンガ市場は、すでに開拓され切っているのではないか……?」
と、誰もが思うことでしょう。
しかし、今実際にフランスに住み、挑戦し続けている松尾さんは、次のように語ります。
「最初にフランスに足を踏み入れたときから、僕には欧州はブルーオーシャン(未開拓市場)にしか見えませんでした。まだまだ開拓の余地があるし、現地のファンに新しい価値を届けられる手段が無限にあると思う」
松尾さんはいかにして欧州で販路(チャンス)をつかんでいるのか。今回のインタビューでは、その実際の取り組みや行動の哲学を伺いました。
2 質問「これまで販路開拓やチャンスを切り開く中で一番大変だったことは?」
「一番大変だったのは、前職の社員90人近くの会社で、営業活動を自分一人で担っていたときの試行錯誤です。最初は何も分からず手探りでしたが、この経験で得た人脈や作品との向き合い方が、今の自分を作っているんじゃないかな」
松尾さんは現在30歳。物心ついた頃からアニメ・マンガ関連の仕事をするという夢を持ち続け、新卒で就職した会社を経て、念願のアニメ・マンガ関連の広告代理店に転職しました。この前職では、大手出版社などをクライアントに、イベントや海外での関連グッズ販売での作品使用について直接掛け合い、交渉する仕事を担当。営業担当として一人で企画提案や商談を進めていました。
正解が見えない状況での試行錯誤の中、クライアントに何度も連絡を取り、提案資料を送っては返事を待ち、商談の手応えを分析する日々。その中で松尾さんが気付いたのは、
作品への愛が何よりも大切だということ
です。
「まずは作品を最後まで読む。その作品を愛し、解像度を高める。すると、最終顧客であるファンの心理がありありと見えてきて、彼ら・彼女らが本当に求めていることが分かるし、作品の作り手側がどれほどその作品を大切に思っているのかも、彼ら・彼女らの立場から考えることができる。作品とファンと作り手、その全てを幸せにできるビジネスをしたいんです」
商談する作品については第1話から最新話まで徹底的に読み込み、作品に対する解像度を高めた上で話をすることで、営業としての打診にも確かな説得力が生まれます。起業した今なお付き合いのあるクライアントとの信頼関係も、その多忙な営業時代に築かれました。
未知の文化・言語・商習慣の中で単身挑むフランスでの販路開拓は、まさにこの経験を活かす場となりました。過去の営業経験で培った交渉力やネットワーク構築力が、現地での出版社やショップとの信頼関係に直結しています。

3 松尾さんの販路(チャンス)開拓のポイントは3つ
1)「思い込み」でチャンスを見逃さない
前職時代、イベント運営のために訪れたパリにて、「作品のファンが多いにもかかわらず、キャラクターグッズは現地ではほとんど売られていない」という現実に気付きました。
例えば、起業してからクライアントになったジュンク堂パリなどの書店では、本のみを販売しており、日本の書店のように関連グッズは置かれていなかったそうです。思い込みでチャンスを見逃すことなく、現地の状況を自分の目で見極めてブルーオーシャンを見いだす力が、今につながっています。
2)愛からビジネスが生まれる
「作品を愛し、解像度を高める」ことで、グッズを購入する最終顧客であるファンの心理を理解できます。その気持ちは原作者や編集にも伝わり、現地での商談や信頼関係構築の礎になります。
3)文化の数だけビジネスモデルがある
欧州では高品質でラグジュアリーな路線が好まれることに着目。松尾さんは今、日本でも人気があり、自身にとっても思い入れが深いグッズであるキャラクターモチーフの指輪などを、現地向けに企画・提案することを考えています。また、一般的に国外人気が高い、いわゆる「和風」の作品や派手なアクションシーンがある作品を重要視することは大切ですが、特にフランスで好まれる視覚的に美しい作品を広め、現地のファンを作ることにも活路を見いだし、リサーチを続けています。
一方、作品の元締めである出版社や制作会社は日本国内に拠点を持っているので、マイナス8時間(サマータイムではマイナス7時間)の時差があるフランスで暮らす松尾さんは、日本の時間に合わせて夜中の3時に起床して活動を開始。各会社と円滑に連絡を取ることを心がけているそうです。
4 質問「販路開拓に必要な情報とは? どうやって入手するか?」
販路開拓に必要な情報として松尾さんが最も重視するのは、「消費者の生の声」です。
「商品を売ったとして、そこに消費者はいるのか。実際に現場を見て、肌で感じることが重要です」
実際にパリ市内を歩き回り、書店やショップを一軒一軒チェックする中で、どの作品が人気か、どの層がターゲットかを肌で感じることができました。このリアルな観察が、次の販路や商品企画に直結します。
例えば、欧州では日本のアニメ・マンガが大人気ですが、関連ショップを観察すると、関連商品は原作マンガとフィギュアしか置かれていません。一方、日本・韓国などの東アジア諸国はグッズ販売の文化が発展しており、種類が豊富です。つまり松尾さんは、実際に現地を歩いて情報収集することによって、「供給できる商品とファンの需要があるにもかかわらず、未開拓の市場が存在している」ことに気がついたということです。
「情報はとにかく自分の足で探す。街を実際に歩き、人の雰囲気を感じる。海外での情報収集では、これが何より大事です」
5 最後の質問「販路開拓で一番大事なこととは?」
松尾さんが最も重視するのは、「夢の実現のための行動力」です。
「改めて語ると気恥ずかしいですけれど、子どもの頃から抱いていた一つの夢(=自分の好きな作品の魅力を多くの人に知ってもらうこと)を大切にし続けたから、ここまで来られたのだと思います。自分の夢のためであれば、どんなことでも……例えばいきなりフランスに移住してしまう、とか(笑)、本当にどんなことでも、ためらいなくやってみたい。チャンスは自分の足で見つけ、いち早く自分の手でつかみたいんです。そのハングリー精神が、今につながっているんじゃないかな。」
実際、欧州で起業することを思いついた際も、夢を実現する絶好の機会だと考え、心理的なためらいは一切ありませんでした。松尾さんは常に、「まずは飛び込んでみる」姿勢で挑み、現地で自分に何ができるかを柔軟に判断し、即行動に移しています。

将来的には、フランスでの商材フォーマットを完成させた後、スペインやイタリアなど他のヨーロッパ諸国にも展開し、愛する作品の魅力を世界に伝えていく予定です。それぞれの国で「ウケる」作品は異なりますが、日本の作品を現地で愛してもらうことが、日本人に自信を持ってもらうきっかけになると松尾さんは考えています。
「大切なのは愛です。自分が心から好きなものを信じて行動することが、販路開拓の原動力になります」
松尾さんは、欧州での挑戦を通じて、作品への愛と行動力が販路拡大の核心であることを体現しています。
以上(2025年12月作成)
pj10093
画像:株式会社Feux