書いてあること

  • 主な読者:主な読者:後継者候補を見つけたい経営者
  • 課題:後継者候補を見つける際の参考となる考え方が知りたい
  • ポイント:ポジティブ、謙虚、勤勉を基準とする

1 経営者の根本的な仕事は2つ

経営者にとって「100年企業」は1つの夢です。この夢を実現するために経営者がやるべきことは、「利益を出し続ける」「人を育てる」です。企業は利益を出し続けなければ存続できません。そして、利益の出る事業を立ち上げて遂行するのは「人」です。そのため、経営者は人を育てなければなりません。

経営者が将来の経営幹部の卵を見いだすに当たって参考になるように、経営幹部に求められる素養をまとめます。

2 ポジティブであること

1)ポジティブだからつかめるチャンスがある

将来の経営幹部に求められる最も基本的な条件は、ポジティブ(前向き)であることです。ポジティブな経営幹部は組織に明るさと活力を与え、ビジネスのちょっとした変化からチャンスを見いだす可能性が高まるからです。

ビジネスでは「規制改革が行われた」「相手の担当者が変わった」など、常に変化があります。ここで、「新しい規制に対応すればチャンス」とポジティブになるのと、「この忙しいのに厄介だ……」とネガティブになるのとでは、次の行動の質が違います。

実際に規制改革がチャンスになるかどうかは分かりません。しかし、やってみなければ何も起こりません。であるならば、前に進むために行動を起こしたほうが可能性も広がります。

経営幹部が組織に与える影響は大きいものです。ポジティブな経営幹部が率いる組織は明るく積極的で、ネガティブな経営幹部が率いる組織は暗く消極的です。ビジネスチャンスをつかめるのは、ポジティブな経営幹部が率いる組織です。

2)失敗しても立ち上がる強さを組織に浸透させる

従業員がポジティブであるか否かは、日ごろの言動を見ていればある程度分かりますし、経営者があえて難題を任せてみるのも一策です。そのとき、「よし! やってやる」と前向きに取り組む姿勢が見られれば合格です。

中には、内心はやる気に満ちているのに、それを表に出さない従業員もいます。こうした従業員は、「やる気を見せたのに、失敗したら恥ずかしい……」と考えているのかもしれませんが、このような考え方は経営幹部としてはふさわしくありません。

「一勝九敗」という経営者がいるように、失敗することのほうが多いのです。そのため、経営幹部には、失敗しても何度でも立ち上がる心の強さが必要であり、それを組織に見せることで「折れない組織」をつくることができます。

3 謙虚であり、短慮でないこと

1)謙虚でなければ成長できない

経営幹部は、常に新しいことにチャレンジしなければなりません。とはいえ、自分一人でできること、学べることは限られています。そのため、経営幹部はたくさんの人と出会い、謙虚な姿勢で人と接し、多くのことを吸収していく姿勢が求められます。

従業員の謙虚さが垣間見られる1つの例は、上司からちょっと面倒な指示を受けたときです。指示の内容をよく考えもせず、反射的に「でも……」「難しいですね……」などと言っているようでは失格です(きちんと考えた上での回答ならば問題ありません)。

部下の立場で考えれば、上司の指示は大概面倒なものであり、「なぜ、そんな細かいことまで指摘されなければならないんだ」と感じることが少なくないはずです。しかし、上司は何らかの目的や意図がなければ部下に指示を出しません。

親の説教のありがたさが、年を取ってから分かるのと同じで、その場では分からないかもしれませんが、上司の指導は部下の成長を促すものです。この点をわきまえ、上司の面倒な指示に聞く耳を持てる従業員が経営幹部に向いているといえるでしょう。

2)短慮は単なる思考停止

ただし、謙虚に相手の話を聞くとはいっても、相手が言っていることや、目に見えたことだけで全部を把握したつもりになり、単純に物事を判断してしまうのでは短慮であると言わざるを得ません。

周囲の人が常に正しいことを教えてくれるわけではありません。上司の指示もしかりです。経営幹部になることを期待されている従業員であれば、相手の話を受け入れつつ、「本当にそうなのか? もっと良い方法はないのか?」と考える姿勢が必要です。

これは相手の話を聞くときに限ったことではありません。例えば、「Aさんが新規取引先を獲得して1000万円を売り上げた」としましょう。まずは同僚の成功を祝福する素直さと、次は自分が売り上げてやるという意気込みが必要です。

ただし、「Aさんはすごい! 1000万円の売り上げのおかげで今月の目標が達成できた。自分も頑張ろう!」と漠然と考え、それで終わっているようでは、経営幹部としては物足りません。

企業経営の観点からいえば、1000万円を売り上げた理由やその手法を分析し、横展開して再現することが重要です。成功は一瞬にして次の取り組みのプロセスに組み込んでいかなければならないのです。

Aさんがどのような営業手法を取ったのか、あるいはAさんの他にその活動を側面サポートしたBさんの功績が大きいのではないかなど、物事の本質を捉える姿勢は常に求められます。

これはとても大切です。経営幹部になると、自分の部下だけではなく、顧客や取引先も評価しなければならなくなります。経営幹部の役割は、目に見えることを正確に把握しつつ、それを深掘りして将来を見据えた戦略を検討・遂行することです。

4 勤勉であること

1)意気込みだけでは太刀打ちできない?

ビジネスは決断の連続です。正しい決断ができる確率を高めるには、会計・法務・労務など多分野にわたる正確な知識が不可欠です。そのため、経営幹部には、ビジネスの多分野にわたる正確な知識を貪欲に吸収し続ける勤勉さが求められます。

決断すべき事項や局面によって異なりますが、経営幹部として最低でもその分野の入門書と初級の専門書をそれぞれ1冊読むべきです。それらを読んだ上で生じた疑問を解消するため、専門家からコメントをもらう程度のことも必要でしょう。

一方、何かを決断する際、情熱や意気込みが重要だとする従業員がいます。確かに情熱や意気込みは不可欠ですが、知識が圧倒的に不足している状態で動くのは危険過ぎます。知識と情熱のバランスを取る必要があります。

2)勤勉+勉強好き=指導力

経営幹部は勤勉でなければ務まりませんが、加えて勉強好きであることが理想的です。自分が知らないことを一から勉強するのは楽ではありませんが、勤勉でしかも勉強好きな従業員であれば、楽しみながらコツコツと取り組むことができるでしょう。

一生懸命に勉強すれば「分からないことが分かるようになる」という、ごく当たり前のことを経験している従業員が経営幹部になれば、自身の経験も踏まえ、勤勉であることの大切さを部下に教えることができます。

部下がその影響を受けて勤勉になれば、組織全体の知識量が増えていきます。そうして蓄えられた知識や物事を学ぶ姿勢は、何か新しいことを始めるときだけではなく、既存事業の見直しの際にも役立ちます。

一方、勤勉でない人は知らないことから逃げる癖がついています。そうした従業員が経営幹部になると、自分が知らないことは部下に丸投げし、部下から上がってきた報告書の質を判断することもできず、そのまま上司や顧客に提出してしまいます。

従業員が勉強家であるか否かは、日ごろの仕事への取り組みを見ていれば分かります。知識は勉強量に比例して増えていくため、勉強している従業員の発言や報告書の内容は明らかにレベルアップしていきます。

これに対して、いつも同じことばかりを言っている従業員は勉強していない可能性があります。発言に進歩がないのは、勉強して自分の知識や意見をブラッシュアップしていない証拠だといえるでしょう。

5 全体の利益を考えられること

1)24時間仕事のことを考えられるか?

「24時間仕事のことを考えられるか?」というと、違法な長時間労働を強制したり、人権を無視したような言動を繰り返したりする「ブラック企業」を連想する人がいるかもしれません。

ここでいう「24時間仕事のことを考えられるか?」というのは、文字通りに24時間働くということではなく、「どれだけ当事者意識を持って仕事に取り組むことができるか」ということの1つの例えです。

経営者にとって仕事は自分の一部であり、夢の中で出てきたアイデアを枕元に置いてある紙にメモをすることもあるほどです。文字通り、「寝ていても仕事のことを考えている」わけです。経営幹部にも、こうしたマインドが求められます。

2)全体を意識して行動できるか

全体を意識して働くことは、当事者意識を持って働くということに他なりません。従業員が当事者意識を持つと、視野が広がり、自分のことだけではなく全体の利益を意識できるようになっていきます。こうした従業員の意識の変化は、ちょっとした行動にも表れます。

例えば、定期的に社内清掃をしている場合、従業員の動きを確認してみましょう。全体のことを考えている従業員は、いつも共用スペースの掃除から始めます。自分のデスクは日ごろから整理整頓されているので、すぐに共用スペースの掃除ができるのです。

自分を犠牲にするわけではありません。しかし、仕事と真剣に向き合うと、会社や同僚のために自分は何をすべきかを考え、それが言動に表れてきます。社内外の全体に目を配れる視野の広さや部下への配慮は、経営幹部が人を導く上で不可欠な素養です。

以上(2020年7月)

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画像:photo-ac

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