書いてあること
- 主な読者:自社の従業員がイキイキと働いていないと感じる経営者
- 課題:従業員が、「自分は変われる」という「成長マインド」で仕事をしていない
- 解決策:自分の理想像を目標に掲げるように導く。成長のきっかけやヒントにつながる具体的な指摘や、公平で納得感のある評価を伝えることで、成長マインドを刺激する
1 イキイキ働くための鍵「成長マインド」は入社3カ月で低下?
従業員がイキイキと働くために、極めて重要な鍵となるものが「成長マインド」です。一人ひとりのエンゲージメントに気を配ることも必要ですが、その前に、まず成長マインドを持てる文化や制度を整えること。その前提があって、従業員のエンゲージメントは高まるのです。
ところが、成長マインドを持って入社した従業員が、入社後わずか3カ月で成長マインドを低下させてしまうケースもあるようです。「2019マイナビ新入社員意識調査~3カ月後の現状~」では、「社会人生活にどのようなことに期待をもっていますか」という質問に対して、入社時は、1位が「自分が成長できる」(68.0%)で、2位以下は「収入が得られる」(47.7%)、「新しいことに挑戦できる」(43.0%)、「新しく人間関係を構築できる」(32.0%)、「社会や会社に貢献できる」(29.3%)と続いています。
収入が得られるという現実的な項目よりも、自己成長に対する期待感が強いのが分かります。自己成長だけでなく、新しいことへの挑戦や社会や会社への貢献などの項目も、それを通じて自分が成長しますから、成長に関する項目であるといえます。そして、いずれもエンゲージメントを高めるために重要な要素です。そのマインドが、3カ月という実に短い期間のうちに変化してしまうというのです。
入社から3カ月後の7月に行った意識調査では、「自分が成長できる」は10.8ポイント下がって57.2%、「新しいことに挑戦できる」は10.3ポイント下がって32.7%、「社会や会社に貢献できる」は3.0ポイント下がって26.3%と、エンゲージメントを高める要素が軒並み低下しています。
それに対して「収入が得られる」が11.7ポイントも上昇して59.4%で、「自分が成長できる」を逆転して1位になっています。このマインドの違いは仕事のあらゆる場面で関わってきて、その人の成長を左右します。
2 「成長マインド」の有無で上司への反応が真逆に
1)「成長マインド」を刺激してエンゲージメントを高める
成長マインドは、キャロル・S・ドゥエックが自身の著書『マインドセット「やればできる!」の研究』で提唱した考え方で、エンゲージメントを高めるうえで極めて重要な鍵となるものです。
成長マインドは「自分は変わる」「自分は変われる」という前提で臨む姿勢のことです。上司はさまざまな場面で、部下を評価する言葉を語りますし、時に叱責することもあるでしょう。日ごろの仕事においても、「キミはここをもっと直したほうがいい」「こういうところにもっと力を入れたほうがいい」など、上司から見たフィードバックを与えてくれることもあります。
成長マインドで受け取るならば、「上司の指摘を次の成長の糧にしよう」「ヒントとして活かせる部分を見つけよう」と、その先の成長につながる要素をいくらでも見つけ出すことができるのです。
これを上司の立場から見るなら、上司としては部下の成長マインドにしっかりと訴え、成長のきっかけやヒントとなるような指摘を、なるべく具体的に提示するよう心掛けるべきだといえます。そうした部下の成長マインドを刺激することで、エンゲージメントをさらに高めることができるようになるのです。
2)「固定マインド」の従業員は、自分を評価する上司しか認めない
給料の面での「成功」を得るために必要なものは、上司の評価です。ある程度真面目に仕事をして、上司に気に入られ、それなりの成果も出していれば、上司は評価をしてくれるはずです。その結果、給料は多少なりとも上がることでしょう。
しかしこの場合、部下が上司に対して抱くのは「この上司は自分を評価してくれる。良い上司だ」という、あくまでも自分の都合に合わせて上司の存在意義を規定したものにすぎません。これを「成長マインド」とは逆の意味の「固定マインド」といいます。
固定マインドは、簡単にいうなら「自分は変わらない」「自分は変われない」という考えを前提に置いた姿勢です。
ここで大切なのは、部下の側がそうした言葉を固定・成長のどちらのマインドで受け取るか、つまり部下側の受け取り方です。
「固定マインド」で受け取ると、上司が良い評価をしてくれたときは「良い上司だ」と思う半面、上司に怒られたときは「この上司とは合わない」「悪いところしか見てくれない」と考えてしまいがちです。これでは、その先の成長につながる要素を何一つつかむことができません。
3 従業員の「成長マインド」の育て方
1)自分の理想像を描き、心から納得できる「目標」を掲げる
成長マインドのトリガーになるのは「目標」です。人は自分がそうなりたいと願う理想像を描き、それを目標として掲げると、現状とのギャップがおのずと浮かび上がり、「そのギャップを埋めよう」というマインドになっていきます。このように目標を掲げることで成長意欲を引き出す手法は、コーチングでもごく一般的なものです。
目標に向かって努力しているのに成長マインドになり切れていない人は、目標と自分のなりたい姿にズレがあるのかもしれません。エンゲージメントを高めるには、自分が心から納得できる目標を掲げることが大切です。
2)「報われない感覚」が成長意欲をそぎ、バーンアウト(燃え尽き症候群)を引き起こす
ストレスなくイキイキと働くためには、労働時間の長さよりエンゲージできているかどうかが大切です。いくら短時間でも仕事がつまらないと感じればストレスがたまり、逆に仕事が楽しければ、多少は長く働いても精神的な疲れが蓄積していくことはありません。ただ、がむしゃらに働いていたのに、ある日突然、風船がしぼむようにして気持ちが萎えてしまうことがあります。いわゆるバーンアウトです。
バーンアウト研究の第一人者であるオランダの心理学者シャウフェリは、バーンアウトの特徴として、「疲労感」「皮肉感(仕事や会社に対する嫌悪感や、それを自覚しつつも働き続ける自分に抱く自嘲的な感覚)」を挙げています。
疲労感や皮肉感を左右する重要なものに、対価・報酬と公平感があります。自分は会社に貢献しているつもりなのに、それに対して正しい対価や報酬が支払われない。この報われない感覚が疲労感や皮肉感のもとになり、成長意欲をそいで、燃え尽き症候群を引き起こすのです。
3)公平で納得感のある評価を行い、フィードバックする
従業員の成長意欲が活発でエンゲージメントが高く、疲弊退場型の退職が少ない会社の多くは、褒める仕組みや納得感のある評価制度が整えられています。
納得感の高い評価制度を導入している会社の一つがグーグルです。どれだけパフォーマンスを出したのかというKPI(重要業績評価指標)も評価対象になっていますが、根底にあるのは、「Googly(グーグルらしさという意味の造語)」の評価だそうです。グーグルらしさに明確な定義はありませんが、話を聞いていると、従業員は個人プレーではなくチームワークを重視して働くことをグーグルらしいと捉えているようです。興味深いのは、それを360度、つまり上司だけでなく、同僚や部下も評価するという点です。例えばチームワークをうまく促せず、メンバーの能力を発揮させられないマネジャーは部下から悪い評価を下されます。上からだけでは一面的になりかねない評価も、360度で見ることでより公平なものになる、という考え方のようです。
そうした評価が全員にフィードバックされることも特徴の一つといわれています。最終的な評価だけが伝えられるのではなく、何がどう評価されたのかを確認できるので、次の年度に改善すべき点がはっきりと分かります。成長マインドを持つ人は、上司から足りない点を指摘されたとき、それを受け止めて理想の自分に近づく努力をすることができるといいました。従業員全員に評価をフィードバックしてくれるグーグルは、成長マインドの人にとって理想の環境といえるでしょう。
従業員が組織に貢献することで、周りから褒められたり正しく評価されたりする仕組みによって、働く人がきちんと報われる感覚を持てれば、バーンアウトするのではなくエンゲージメントの高い状態を保つことができ、さらに組織に貢献してくれます。
褒められたり正しく評価されたりする環境があることは、働く人の成長マインドも促します。一人ひとりが成長マインドで仕事に取り組めば、組織としても成長しやすくなります。マネジメント側の責任は重大です。
【参考文献】
「楽しくない仕事は、なぜ楽しくないのか?」(土屋裕介、小屋一雄、2020年2月)
以上(2021年4月)
(執筆 日本エンゲージメント協会 佐々木拓哉、小屋一雄)
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画像:Gutesa-shutterstock