書いてあること
- 主な読者:自社の従業員がイキイキと働いていないと感じる経営者
- 課題:社内のコミュニケーションが良好でなく、職場に活力がない
- 解決策:活発な議論などにより社内の人間関係を良好にすることで、従業員は会社に貢献する喜びを感じるとともに、会社が「人生設計ができる場」となり活力が生まれる
1 人間関係が良好な職場には活力がある
1)社内コミュニケーションを重視したグーグルのオフィス
従業員のやりがいや成長の度合いを測るスケールとして、エンゲージメントが注目されるようになった今、再びコミュニケーションの重要性が見直されています。
グーグルは、なぜオフィスをユニークな造りにしているのでしょうか。それは、人間関係を中心としたエンゲージメントを重視し、従業員間のコミュニケーションが自然に生まれるような空間づくりをしているからだといいます。
複数あるマイクロキッチンには、それぞれに異なるドリンクが置いてあるといいます。あえてどこでも同じドリンクにしていないのは、従業員に自分の飲みたいドリンク目当てに、遠くのマイクロキッチンまで足を運ばせるためということです。いつもと違う場所に行って、普段は顔を合わせない従業員との交流が生まれることを狙っているようです。
こうした試みは「外資系だから……」と捉えられるかもしれませんが、全社を挙げて社内コミュニケーションの改善に取り組んでいる日本企業もあります。
2)自由で活発な議論が職場に活力を生み出す
日本のある会社の経営者と話していて、会社組織としてのエンゲージメントとはどのようなことかという話題になったことがあります。そこで一致したのが、「エンゲージメントが高い会社は、マネジャーがしっかりしているだけでなく、会社の雰囲気が良くて、従業員に活力がある」ということです。従業員の表情がニコニコしているとか、仲が良さそうだという意味ではありません。会話が少なく緊張感が漂う雰囲気だとしても、空気がよどんでおらず、一体感のようなものが感じられる。それが「活力」です。
その経営者の会社では、チームのマネジメントのためにマネジャーだけがエンゲージメントを学び、それを活用するように指示していました。しかし、あるときから方向転換しました。エンゲージメントの概念を書いたカードを作成し、それを従業員にも渡して、「エンゲージメントを高めるために、こうしたほうがいいと思うことがあれば、誰でも自由に発言していい」というやり方に変えたのです。その結果、明らかに職場の雰囲気が変わりました。活発な議論が生まれ、意見の対立があっても人間関係が壊れなくなった。つまり、職場に活力があふれるようになったというのです。
経営トップ自らが「誰もが発言していい」と明言したことにより、みんなが職場の問題を自分事として捉えるようになり、ミーティングでも発言数が増えたそうです。もちろん、発言が活発になったからといって、すぐに仕事の効率や業績アップにつながるとは言えないかもしれません。恐らく定量的な効果は後から出てくるのでしょう。それより前に職場の雰囲気が良くなるなど、質的な変化が表れたのです。
これは、エンゲージメントというキーワードを入り口に、職場での対話が広がった好例であると言えます。逆に言えば、活力のない、停滞している職場には「対話」がありません。
2 良好な人間関係は会社のパフォーマンスを高める
1)笑いはビジネスにメリットをもたらす
社内の良好な人間関係とエンゲージメントには、密接な関係があることを分かっていただいたと思います。また、人間関係が良ければ職場に自然と笑みが生まれるものですが、クスクス笑いや大笑いはビジネスにおいてもメリットがあるそうです。
「笑うことは、ストレスや退屈さを軽減して、エンゲージメントや幸福感を向上させる。創造性を高め、協力を促すうえ、分析の精密さや生産性の向上をもたらすのである」
(アリソン・ビアードがハーバードビジネスレビューに寄せた論文「Leading with Humor」)
2)貢献することへの喜びが能力を引き出す
ラグビーファンの方であれば「One for All, All for One」という言葉をよくご存じでしょう。ラグビーにおけるチームプレーの大切さを説いた言葉です。この言葉が持つ重みは、ビジネスでも同じです。お互いが率先して協力し合う職場は、一人ひとりのエンゲージメントが高く、個人やチームのパフォーマンスが向上し、イノベーションも起こりやすくなります。
そして、「One for All」を意識することで、発揮できる能力そのものも引き上げられるのです。他者への貢献を自分の喜びとすることで、人は自分の限界値を上げてポテンシャルを発揮できるようになります。自分の能力以上のばか力が発揮できるのです。
ここで考えたいのは、「One for All」のAllは誰かという問題です。真っ先に思い浮かぶのは、普段一緒に働いている仲間や、いつも支えてくれる家族や友人の顔でしょう。ただ、身近な個人にとどまらず、彼ら彼女らを含むチーム、組織へとAllの射程を広げてみるのもいいと思います。自分が会社に貢献したいと思い、会社のほうもあなたの貢献を望み、その貢献に正当な評価で応える。これはまさしくエンゲージしている状態であり、パフォーマンスのさらなる向上が見込めるでしょう。
3)社会と相思相愛の会社は強い
可能なら、さらにその向こうまでAllの対象を広げたいところです。具体的には、会社の事業を通してつながっている顧客や取引先、業界、市場、地域、国、そして地球……。ここではそれらを総称して「社会」と呼ぶことにしますが、自分が社会の役に立ちたいと思い、社会からもそれを求められ、実際に貢献できている実感を得られれば、これほど強いエンゲージメントはありません。
自分が社会に貢献することを望み、社会からもそれを求められて、相思相愛でつながっている実感を、私たちは「ソーシャル・エンゲージメント」と呼んでいます。自分の仕事を通じて直接的に社会貢献できれば、ソーシャル・エンゲージメントと同時に、ワーク・エンゲージメントを高めることができるので一挙両得です。
3 自分を高める「人生設計ができる場」は活力を生む
バイタリティーを感じさせる中小企業の組織を観察してみると、共通した傾向があります。それは、会社が働く場であると同時に、「人生設計ができる場」になっているということです。
そのような中小企業の特徴とは、どのようなものでしょうか? 共通している特徴は、従業員に仕事を提供するだけでなく、個人のプライベートの時間、そして思考力を高めることを大切にしているのです。給料では大企業に及ばないかもしれません。しかし、小さい家族的な組織の中でお互いの個性を尊重し、会社の成功と自分の幸せという人生の本質をしっかり議論し、お互いを高め合って人として成長できる職場であれば、それは、従業員にとってかけがえのないものになるのです。従業員は職場で常に自分を高め、「人生設計」をすることができているからです。
こうした中小企業では、従業員の強みを伸ばすワークショップ、勉強会、相互コーチングなど、従業員を成長させる仕組みを業務以外で用意しています。さらに、次世代のリーダーを育成し、そのまた次の世代の可能性にも投資しているので、将来にも期待が持てます。すると従業員はますます会社の将来にワクワクします。こうした中小企業はまさにエンゲージメントのあるべき姿を体現しています。
4 終わりに:中小企業でもエンゲージメントは高められる
エンゲージメントの向上というと、大企業の人事部主導の活動という印象を受けるかもしれませんが、実はエンゲージメントの波は中小企業にも及んでいます。
中小企業には、企業規模が小さいからこそエンゲージメントを築くための施策を取り入れやすい環境があり、実際に取り入れてうまくいっている会社も数多くあります。
経営トップの決断が組織全体に大きく影響する中小企業では、経営トップが施策を素早く推し進めることができます。しかも、ある程度エンゲージメントが定着すると、早いタイミングで組織として自走し始めるケースが非常に多い印象です。ぜひ取り組んでみてください。
【参考文献】
「楽しくない仕事は、なぜ楽しくないのか?」(土屋 裕介、小屋 一雄 2020年2月)
以上(2021年5月)
(執筆 日本エンゲージメント協会 佐々木拓哉、小屋一雄)
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画像:Gutesa-shutterstock