多くの社長を見てきましたが、会社がそこそこ順調になってくると、それまでの熱心さがなくなってしまう人も少なからずいます。余裕が出てきたので、仕事以外のことに時間やお金を使うようになるのです。

1 これでいいと思わない

もちろん、仕事だけが人生ではありません。しかし、自分の仕事を適当にこなすようになれば、会社の成長も自分の成長もそこで止まり、今度は衰退してしまうかもしれません。以前に、松下幸之助さんと親交の深かった私の知人が、次のように言っていました。「松下幸之助さんほど、自分を抑えて人の話を聞くのがうまい人はいなかった。そして、新入社員さんの話にも『良い話を聞かせてもらって有難う』と必ずおっしゃっていた」というのです。

私は、この話を聞いて2つのことに大いに感心しました。ひとつは、松下さんは「素直」ということをとても大事にされていたので、新入社員さんの話からも人生やビジネスのヒントを得られ、そのことに対して「有難う」とおっしゃっていたことです。もうひとつ、私が何よりも感心したのは、松下さんが新入社員の話を聞いているということです。

私の知人と松下さんが親交のあった頃、松下電器は相当大きくなっていたはずです。国内だけでも数万人の従業員がいたはずです。小学校を4年生までしか行けず、丁稚奉公から日本有数の会社に育て、10年連続で長者番付日本一になった松下さんです。「新入社員の相手は人事部長がすればいい」とおっしゃっても誰も文句は言わなかったでしょう。

しかし、本当に成功する人は違うのです。どんなことでも一歩踏み込む、それも自然にその一歩を踏み込むことができるのです。これは、成功したからそうなったのではなく、大成功される前からも、何事にも一歩踏み込む、徹底するという習慣を持っているから、そのような行動が自然にできるのだと思います。

2 「一歩踏み込む」習慣

私の会社(小宮コンサルタンツ)の事務所は東京の千代田区二番町というところにあり、すぐ近くにセブン&アイの大きな本社ビルがあります。そこには、ファミレスのデニーズが併設されており、当社から一番近いお店ということもあって、私はよくそのお店で親しいお客さまやスタッフと食事をします。多いときには、週に3回くらい行きます。

実は、そのデニーズで食事をする楽しみがもう一つあります。それは、セブン&アイの創業者の伊藤雅俊さんが、よくそのデニーズに食事にいらっしゃることです。これまで何回もお見かけしました。ご高齢ですが、杖をついて、若い方とご一緒に来られて、一般のお客さまと一緒に食事をされています。そのデニーズはセブン&アイの本社ビルと直結なのですが、以前は、わざわざ外から一般のお客さまと同じに入られて、2階まで階段で上がっていました。最近は、中から来られますが、それでもわざわざお店に来られるのです。

私はセブン&アイの本社ビルの中に入ったことはありませんが、創業者であり、名誉会長であるわけですから、きっと立派な執務室があり、秘書もいるはずです。もし、デニーズのものを食べたいなら、秘書に言ってメニューを持ってこさせ、中でつながっているのですから、デリバリーしてもらってもいいはずです。売上高6兆円もの日本を代表する小売業を築いた人ですから、それくらいのことを言っても誰も文句を言わないでしょう。

しかし、ご自身でお店まで来られるのです。お店に来ないと、お客さまがどういうものを食べているのかということや、店の雰囲気や接遇の状況が分かりません。「現場」でないと分からないことがあるのです。これも「一歩踏み込む」ということです。それが自然に習慣として身についているのでしょう。

3 「グッドはグレートの敵である」

「良好(グッド)は偉大(グレート)の敵である」という言葉は、私の愛読書の「ビジョナリーカンパニー.2」(*)の本文の冒頭に出てきます。そこそこ良い「グッド」な状態が実は「グレート」になる最大の敵だというのです。

会社の社長となり、ある程度の実績を上げれば「グッド」な状態となれます。社長だけではなく、従業員もある程度の待遇を得れば「グッド」だと感じます。もちろん、それは、悪いことではありません。

しかし一方で、「グッド」な状態にあると、「これでまあいいか」という感情が芽生えてきがちです。そして、熱心さがなくなってしまうことがあるのです。

本当に「グレート」になりたければ、現状に満足せず、どんなときにも「一歩踏み込む」という習慣を持つことが大切だということを忘れてはなりません。

【参考文献】
(*)「ビジョナリーカンパニー.2」(ジェームズ・C・コリンズ(著)、山岡洋一(訳)、日経BP社、2001年12月)

以上

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