書いてあること

  • 主な読者:ヒト・モノ・カネに関して直接的、間接的に海外と関係している企業の経営者
  • 課題:海外との取引における自由化および円滑化に関する政策の方向性を知りたい
  • 解決策:日本が結んできた経済連携協定を、「対象国」「多国間協定への枠組み」「カバーする分野」の3つの点で広がってきていることを踏まえながら確認する

1 3つの広がりで進化する日本の経済連携協定

TPP11、RCEP、AJCEP、日EU・EPA……。このところ、日本と海外との経済連携協定が国名でなく、さまざまな横文字で目にするので、混乱している人も少なくないでしょう。実は、日本の経済連携協定の進化と、名称(略称)に横文字が増えたこととは密接に関係しています。

日本の経済連携協定は、次のような3つの広がりをもって進化してきています。

  • 協定を結ぶ対象国の地域性や産業特性の広がり(締結先がアジア中心の開発途上国および資源・農業国から、欧米の先進国などへ拡大)
  • 二国間協定から多国間協定への枠組みの広がり
  • 協定でカバーする分野の広がり(関税だけでなくヒトの移動や投資、知的財産など経済連携の包括的なルール作りへ深化)

日本の中小企業にとって、日本の経済連携協定の広がりは海外との取引がやりやすくなる、つまり「ビジネスチャンスの広がり」です。この機会に、日本による海外との経済連携の動きについて、この「3つの広がり」という視点で押さえておきましょう。この記事では、2021年10月5日時点の、日本と海外との経済連携協定の締結の動向に関する最新情報を紹介します。

2 協定を結ぶ対象国の地域性や産業特性の広がり

これまでに日本が経済連携協定(貿易協定)を結んでいるのは、18の国および地域連合です。

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2018年までは開発途上国や資源開発や農業を基幹産業とした国と協定を結ぶことがほとんどでしたが、2019年にEUとの間に日EU・EPA(日EU経済連携協定)、2020年に米国との間に日米貿易協定・日米デジタル貿易協定、2021年に英国と日英包括的経済連携協定を結ぶなど、欧米の先進国との協定の締結が進んでいます。

日本を含め、日本が連携している国々の全世界に占める名目GDP(2020年)を合わせると、TPP11の発効までは全世界の約19%でしたが、日EU・EPAにより約37%、日米貿易協定・日米デジタル貿易協定により約62%をカバーするまでになりました。

図表にはありませんが、2020年11月に署名を終えたRCEP(地域的な包括的経済連携)が発効すると、中国と韓国が新たに加わり、全世界の約85%を占めることになります。

3 二国間協定から多国間協定への枠組みの広がり

EPA(経済連携協定)は二国間と多国間の2つのタイプがあります。2016年まではASEANを除き、二国間での協定を結んできましたが、2018年以降は多国間での協定が中心となりました。特にTPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)は、米国の離脱後は実質的に日本が中心となって、米国以外の全11カ国による署名にこぎ着けました。2021年には英国、中国、台湾が加入を申請しています。

また、中国や韓国が参加するRCEPも署名を終え、参加各国の国内手続きを待つばかりとなっています。

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4 協定でカバーする分野の広がり

かつて、国際間の経済連携といえば、関税率の引き下げを目的とした「自由貿易協定」(FTA)が中心でした。外務省はウェブサイトで、FTA(自由貿易協定)とEPA(経済連携協定)の違いを、次のように説明しています。

FTA:特定の国や地域の間で、物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃することを目的とする協定

EPA:貿易の自由化に加え、投資、人の移動、知的財産の保護や競争政策におけるルール作り、様々な分野での協力の要素等を含む、幅広い経済関係の強化を目的とする協定

例えばAJCEP(日・ASEAN包括的連携経済協定)の場合、当初はモノの貿易に関する分野のみの、FTAともいえる内容で発効しました。その後の継続的な交渉によって、2020年8月にサービス貿易、投資、ヒトの移動に関する分野を加えた第一改正議定書が発効し、EPAと呼べる内容になりました。

日本の経済連携協定は、基本的に新たに結んだ協定ほどカバーする分野が増えています。特に日EU・EPAやTPP11は、それぞれ「自由で公正なルールに基づく、21世紀の経済秩序のモデル」「自由で公正な21世紀型のルール」となることを掲げ、さまざまな分野をカバーしています。

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以上(2021年10月)

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画像:pixabay

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