書いてあること
- 主な読者:さらに成長するためのヒントが欲しい経営者
- 課題:自分の考え方をバージョンアップするためにもがいている
- 解決策:他の経営者の思考習慣も聞いてみる
1 「どうなりたいか」を常に考える
経営者は「自由に時間を行き来する」というのは言い過ぎですが、「自社のあるべき姿」を考えるという意味では、経営者は過去と現在の自社の姿を見つめつつ、未来のあるべき姿に思いをはせています。
しかし、先行きの不透明感が高まる昨今は、未来を考えることが一層難しくなっています。こうした不安な状況を、人は一気に打開したいと考えます。しかし、足元がおぼつかない状況で無理をすると、どこかで反動が出てしまうことを経営者は知っています。
こうしたときは、地道な努力を続けるしかありません。実際、経営者は足元はもちろん、遠くにも視線を向けながら一歩一歩進んでいます。それが「自社のあるべき姿」にたどり着く確実な方法だからです。
今回は、「未来志向で人物評価する」「『石の上にも三年』の経営者的な解釈」「自社の原点から未来が開ける」という3つの思考習慣を取り上げます。経営者が未来を見据える上で何らかのヒントになれば幸いです。
2 未来志向で人物評価する
何かを見たり、感じたりするとき、多くの人は「他とは違う部分」に注目します。例えば視力検査で使う、一部が欠けたアルファベットの「C(シー)」のような図形と、全く欠けていない円の図形があった場合、前者の欠けているほうに注目しがちです。
問題は、欠けている部分の捉え方です。一般的な経営者の場合、ビジネスで知り合う相手の多くから得られるのは、「ある部分は至らないが、他は問題ない」といった評価でしょう。これを先の「C(シー)」に当てはめると、欠けている部分がすなわち「欠点」ということになります。
そして、欠点は時間の経過とともに“強烈”に映るようになることがあります。最初は我慢できていても、付き合いが長くなると欠点に触れる機会が増え、徐々に我慢できなくなっていくからです。
それに対し、成功する経営者は「C(シー)」の欠けている部分に注目しますが、捉え方が異なります。欠けている部分、つまり他とは違う部分を、その人の特徴や可能性として前向きに捉えます。
日ごろのビジネスを通じて、経営者は自分自身も含め、人には至らない点があることを痛感しています。そのため、いつも人の優れたところと至らないところの凸凹をつなぎ合わせて、社内のチームや他社との連携を実現しているのです。
また、経営者はその時点の姿だけで人物評価をしません。その人の特徴や可能性が、将来、どのような成長につながるのかをイメージしながら教育します。こうすることが会社のためになることを知っているからです。
相手の欠点ではなく美点に注目し、未来志向で人物評価をするのが、成功する経営者のやり方です。人には欠点があることを前提に、欠点をカバーする美点がどれだけ成長の余地を持っているのかを見極めることが重要なのです。
3 「石の上にも三年」の経営者的な解釈
「石の上にも三年」ということわざがあります。冷たい石でも、3年間、座り続ければ温まってくるという意味が転じて、「つらいことでも3年間我慢して努力を続ければ、道が開ける」という教えにつながっています。
このことわざは、地道な努力を称賛する日本人の気質に合う面があります。しかし、最近では、なぜ硬い石に座るのか、3年は長過ぎるなど否定的な意見も聞かれます。確かに、見方によっては、「石の上にも三年」というのは“苦行”です。
「石の上にも三年」というのは、経営者にも当てはまります。企業経営とは、現実の石とは比べものにならないほど座り心地の悪いところに、いつ終わるか分からない時間、座り続けなければならないものでもあるからです。
これを苦行と思うか、次へのステップにつながる経験と思うかが大きな分かれ道です。何事も相応の努力をして知識を身に付けなければ、次に進めません。この努力は、自己成長につながる、ある意味でワクワクする経験です。
にもかかわらず、努力をする前から、経営者が「つらい。自分には合わない」と諦めたら企業は潰れます。まずはやってみて、その結果で判断すればよいのです。試みたことが自社にフィットしなかったり、自分(経営者)には不要だと思ったりすれば、きっぱりやめればよいことです。
3年という時間も捉え方次第です。企業が3年の中期計画を策定したとしても、それを実現するのは月次計画です。さらに、月次計画の遂行は日々行われます。つまり、同じことを3年続けるというよりも、短期間の努力をつなぐイメージで捉えます。
「石の上にも三年」ということわざを解釈するときに、「石」や「三年」という言葉に引っ張られてしまうのは残念なことです。大切なのは、環境や期間を問わず、必要なときに相応の努力ができるか否かということなのです。
4 自社の原点から未来が開ける
「先のことは誰にも分からない」のは当然のことです。昨今は特に先行きの不透明感が高まっています。こうした状況は、チャンスにも、脅威にもなり得ますが、これもまた経営者の考え方次第です。
先が読めない時代を勝ち抜くために、多くの人が「イノベーション」を求めます。一瞬のひらめきとともに舞い降りるような、圧倒的に斬新で、かつてないアイデアをイノベーションと捉え、夢見るのです。
経営者も常にイノベーションを求めますが、捉え方が違います。経営者の前提は、どんなに素晴らしいひらめきでも、顧客ニーズを満たしていなければ意味がないということです。そして、先が読めない時代は、顧客ニーズも見通しにくいものです。
こうした状況で、やみくもに組織を動かすのは危険です。「活動している」という実感は得られるかもしれませんが、成果はなかなか上がらないはずです。前提となるゴール(顧客のニーズ)が明確でないからです。
イノベーションには「0から1を起こすタイプ」と、「1と1を足して2にするタイプ」とがあります。多くの人は前者をイメージしますが、実際には「ちょっとした組み合わせ」から生まれる後者のイノベーションのほうが世の中では多いのです。
先が読めない時代だからこそ、焦らずに多くの知識を貪欲に吸収しながら、自社の強みを再確認することが重要です。こうしたタイミングでこそ「原点回帰」し、顧客、競合、自社の状況を見つめ直すことが、新たな事業を模索する機会になるでしょう。
インプットとアウトプットの連続によって、組織の“活動域”は揺らぎながら広がっていきます。不確実性が高い状況なら、自社の得意分野を深く耕しつつ、ビジネス領域を広げていくのも有効な手段です。
以上(2018年10月)
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画像:unsplash