書いてあること

  • 主な読者:社史や自分史を制作したいと考える経営者
  • 課題:何を載せればいいのか分からない、どう作ればいいのか分からない
  • 解決策:制作の目的を明確にし、何を載せるべきか、どう進めるべきかを固める

1 「社史」制作を考える

周年記念事業などとして、社史の刊行を行う企業は少なくありません。それは次のような意義・メリットがあるからです。

1)未来への道標

社史制作は企業の未来への新たな道標を打ち立てる試みです。また、資料や情報の整理と保存という一面もあります。

2)歴史に残す

社史を残すことは、会社の歩んできた事実を残すことです。読んだ人がそこから多くを学ぶことで、最終的に会社に対する好意・親しみなどにつながります。

3)社員教育

特に若い社員にとって、自社の歴史への深い知識は仕事への意欲と誇りの源泉となります。その意味で社史は絶好の社員教育のテキストになります。

4)OB社員・取引先への謝恩、または社外へのPRのツール

社史の制作は、創業期から事業発展に尽くしてきた先輩の苦労をしのび、また、貴重なパートナーシップを長期間保ってきた取引先や関係者に謝意を表す上で、またとない機会となります。さらに、改めて広く社業をPRする強力なツールにもなります。

5)この他のメリット

「業界史としての意義がある」「経営上のヒントが得られる」「実際の業務に資料として活用できる」などのメリットも挙げられます。

2 社史の制作スタイル

現在では、社史の制作スタイルが多様化し、電子書籍など多様な媒体への挑戦も見られ、有用かつ利用しやすい社史の制作が進んでいます。

また、若い社員を意識して、読みやすさや親しみやすさを追求するビジュアル化の傾向も強くなっています。さらに、社歴を詳細に記録した「本格的社史」と併せ、創業期の苦労話などに重点を置き、読みやすくリライトした「普及版」を制作する企業もあります。

「社員のモラル向上」「企業の歴史の継承」といった観点からすれば、社内で取り組むことが望ましいといえますが、中には制作をアウトソーシングする企業もあります。

アウトソーシングのメリットは、スケジュールや品質の面で一定水準のレベルを期待できることです。

アウトソーシングする場合には、次のようなタイミングがあります。

1)社史の発刊が決まる前

社史の発刊のメリットやコストについて意見を聞くことができます。この時点での相談は、無料であるのが一般的なようです。

2)社史の発刊が決まったとき

制作過程全般についてアドバイスを受けながら話を進めます。この段階で、アウトソーシング先に見積書・企画書を提出してもらい、正式に制作を委託することになります。

3)資料収集が一段落したとき

資料収集の作業を通して社史に対するコンセプトが明確になっていくことが多いため、アウトソーシング先に企画案を提出する際に方向付けがしやすいことがメリットです。また、実際の資料に基づいて立案できることもメリットといえます。

4)原稿作成が一段落したとき

この段階で外部スタッフを導入すると、原稿内容のチェックやリライトをしてもらえるメリットがあります。

なお、アウトソーシング先に求められるポイントは次の通りです。

  • 社史についての制作キャリアがあり、ノウハウが体系化されている
  • 見積もりの細目についてきちんと説明ができる(コスト管理についてのノウハウがある)
  • 契約書を用意している
  • 書籍印刷についての管理が行き届いている
  • 企業の風土をよく理解できる
  • 社史を執筆するライターを豊富に抱えており、ライター管理も行き届いている(ただし、ライターは取材したことを原稿に起こしますが、社史の原稿をすべて記述してくれるわけではありません。多くの場合、社史編さんの担当部門が社史に掲載する原稿を各部門に依頼し、当該部門で原稿を作成することになります)

3 社史完成までの一般的なスケジュール

社史の完成までに要する期間は、資料の多寡や求めるレベルの高さなどによって決まりますが、最低1年程度と長期間に渡ることが多いようです。

その間に進められる作業は次の通りです。

  • 企画立案(基本コンセプト、製本形式やページ数、部数などを決定)
  • 資料収集・取材・撮影
  • 原稿作成(内容チェックと修正)
  • 編集・レイアウト作成
  • 校正作業
  • ブックデザイン決定(サンプル本を制作して検討)
  • 印刷製本
  • 納品

4 「自分史」の制作

「自分史」とは、個人が過去を振り返り、まとめたものです。経営者のみならず、一般の人の中にも自分史を制作する人は多く見られます。自分史は、次の2つのタイプに大別されます。

  • 過去の人生に起こった出来事について主に語るもの
  • その出来事に対する自分の感想を語るもの

実際の自分史ではこの2つが混然一体となっているケースが一般的ですが、詳細に見ると、やはりどちらかに力点が置かれているものです。

なお、自分史をまとめる際は、家族や知人のプライバシーに触れることもあるので、これらの人物に関する描写や掲載については、事前に本人の了解を得る必要があります。

自分史を製作する際の費用は大きく2つに分けられます。

  • ハード面:印刷費・紙代・製本などの費用
  • ソフト面:編集・装丁・校正・原稿作成などの費用

このうちハード面については、投入した予算の額が本の出来栄えに直結します。一方、ソフト面については若干の節約が可能です。例えば、原稿を自分で書くのであれば、原稿作成費用を省くことが可能です。

現在、さまざまな業態の企業が自分史の制作を扱っています。出版社もあれば編集プロダクションもあり、また印刷会社や新聞社の一部が自分史の制作を手掛けているケースもあります。

自分史の制作は、社史に比べるとハードルが高くないとはいえ、やはり読者を想定して書かないと客観性や統一性を欠く原稿になってしまうため、的確なアドバイスをしてくれる編集者の存在が不可欠です。

5 専門業者の活用

社史および自分史の制作に専門業者を利用する場合には、印刷会社・ライター・ブックデザイナー・レイアウター・編集者・カメラマンなどが関係してきます。

社史編さんの担当者や自分史の著者がこれらを自分で指揮して作業を進めることもできますが、最近では印刷会社、出版社、書店などが行っている「自費出版サービス」を利用するケースも増えています。

自費出版サービスの窓口には、主に次のものがあります。

1)印刷会社

自費出版を版下作成から印刷・製本といった「原稿を本の形にする」作業と捉えられば、最も安い費用でできるのは印刷会社となります。

しかし、自費出版に関わる作業は単純な版下作成や印刷・製本作業だけではなく、カバーデザインやタイトル・版型の決定・装丁のイメージ・文章の校正など、「編集」に関する作業が少なくありません。そして、多くの印刷会社ではこうした編集作業に関するノウハウを持っておらず、書籍づくりに関する具体的なノウハウについての助言は、多くを期待できないのが実情です。そのため、印刷会社を窓口に自費出版を行った場合は、こうした編集に関連する作業は原則として自分で行うことになります。

ただし、自社内に編集部門などがあり、編集に関するノウハウを持つ印刷会社も少数あります。こうした印刷会社であれば自費出版に関するアドバイスも期待できます。なお、印刷会社は出版社と異なり取次会社(注)に口座を持っていないため、取次会社を通した書籍の書店流通はできません。印刷会社を窓口とした自費出版を行い、なおかつ書店流通を行う場合には、自分自身で本を書店に持ち込んで陳列販売してもらうための交渉が必要となります。

印刷会社を窓口とした自費出版は、基本的には書店流通を考慮しない私家本として、費用を極力安くしたい場合や、デザインや編集に関するある程度のノウハウをもつ場合に適しているといえるでしょう。

(注)「取次会社」とは、出版社・小売書店の中間にあって、書籍・雑誌などの出版物を出版社から仕入れ、小売書店に卸売する販売会社のことをいいます。

2)自費出版専門会社

私家本を専門に取り扱う会社もあります、これは一種の編集プロダクションといえ、印刷会社での自費出版とは逆に編集に関するノウハウ提供を期待して利用するものです。

自費出版専門会社では、文章作成・原稿整理・校正・カバーデザイン・装丁などの編集作業を含めて自費出版を請け負ってくれます。

ただし、一般的な出版社ではないため、主要な取次会社の口座は持っていないのが通常です。こうした自費出版専門会社で出版した書籍を書店流通させるためには、印刷会社を通じた自費出版と同様に書店と直接交渉する必要があります。

3)出版社の自費出版部門や子会社

中小出版社の自費出版部門や大手新聞社・出版社の子会社が自費出版業務を行っているケースもあります。

これらの企業は書籍づくりに関してはプロであり、原稿作成から印刷・製本に至るまで総合的なノウハウの提供が期待できます。また、取次会社に口座を持っているため、出版物の書店流通も可能です。

ただし、書店流通を行う場合には、最低印刷部数の制限があります。また、「印刷部数のうち、書店配本を行うのは20%以内」といった制限が設けられるケースも多く見られます。なお、取次会社を通した書店流通のサービスは行わない会社もあります。

4)書店

書店で自費出版を行っているケースもあります。例えば、創英社/三省堂書店の自費出版サービスでは、打合せ・見積作成・編集作業・校正・印刷・製本・納品・配本まで一括して提供しています。また、当該自費出版物にはISBNコードを付与することが可能で、全国の書店に流通させることができます。

また、創英社/三省堂書店のISBNコード付きの自費出版物は三省堂書店グループで一定期間の陳列販売をすることができます。

6 印刷にかかる費用

印刷にかかる費用については、出版社から受けるサービスの内容や印刷方法について大きく異なるため、一概にはいえない面があります。

1)社史

社史や自分史などの受託出版を数多く手掛けている日本経済新聞出版社日経事業出版センター(以下「日経事業出版センター」)によると、社史の製作費の一例は次の通りです。

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費用はハード部門(印刷関係、製本代、製函代、用紙代など)とソフト部門(原稿料、写真撮影費、レイアウト・デザイン料、編集費、校正費など)に分かれます。総ページ数やカラーページの量、通史本文ページの執筆に伴う原稿料、撮影費などでハード・ソフト部門の費用が異なります。

2)自分史

日経事業出版センターによると、自費出版の製作費の一例は次の通りです。

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費用はハード部門(印刷関係費、製本代、製函代、用紙代など)とソフト部門(原稿料、写真撮影費、レイアウト・デザイン料、編集費など)に分かれます。

ハード部門ではページ数、カラーページの量、ソフト部門では原稿ができているか否か(ライターに依頼する場合)によって費用は大きく異なります。

7 社史の電子化・電子書籍化

インターネットの普及に伴い、社史および自分史を電子化・電子書籍化して出版・公開しているケースも見られます。電子媒体とすることで、パソコンやスマートフォンなどがあればいつでもどこでも閲覧することができます。また、音声データや動画も閲覧することができます。

最近では、自分で作成できるソフトも登場し、個人でも簡単に電子書籍による自分史を作成することができます。

現在のところ、社史および自分史においては、紙による書籍の出版が主流となっていますが、電子媒体のメリットである「文字の大きさを拡大できる」「音声データや動画も閲覧できる」「検索性に優れている」といった点を鑑みると、今後は電子書籍の利用がさらに進展する可能性もあります。

以上(2018年10月)

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画像:pixabay

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