書いてあること

  • 主な読者:SDGsに本格的に取り組みたいけれど、企業としての損得勘定も気になる経営者
  • 課題:経済性と社会性を両立させるSDGsの取り組み方を知る
  • 解決策:自社の強みを、解決すべき社会課題と政策にマッチさせる。または政策感度を上げて政府や行政が注力するテーマを把握し、自社の事業にマッチさせる

1 コロナ禍で分かった、企業の危機管理と社会課題の解決が直結していること

1)コロナ後の中小企業が向かうべき針路は「SDGs」

2020年の実質GDP成長率が前年比4.8%減と落ち込み、東京五輪・パラリンピックでは多くの試合が無観客で、期待していたほどの経済効果が得られなくなった今、「コロナさえなければ……」と思っている方は少なくないでしょう。しかしながら、社会はコロナ前に戻ることはできません。中小企業の経営者の皆さんも、コロナ禍を機に、今までのビジネスモデルが全く通用しない時代に突入していると実感されているのではないでしょうか。このような中で私たちはどこに向かえばいいのでしょうか? 私は、その答えは、「SDGs」にあると思っています。

国際連合が掲げたSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)とは、個人や企業が地球の社会課題に向き合い、変化に対応していくことで、持続可能な社会を作るための17の目標です。SDGsが採択された2015年以前にも、マラリアやSARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)といった感染症は世界で大きな問題になっていましたが、日本では運良く感染が広がることはありませんでした。今回、

コロナによって初めてパンデミックを経験した日本は、国民と企業と政府が一丸となって感染症の抑止、つまり持続可能な社会づくりに取り組むことの必要性を悟った

のではないでしょうか。

2)経済性に取り組むプロ集団と、社会性に取り組むプロ集団との融合を

私は、これまで日本の企業は、社会課題への感度、また政策への感度が低かったのではないかと考えています。それがコロナ禍を機に、企業の危機管理が社会課題の解決に直結しているということを認識したのではないでしょうか。新しいビジネスモデルへの転換が求められている中で、中小企業はもっと社会課題、そして政府や地方自治体が作る政策に目を向けなければなりません。これは、企業が経済性と社会性の両立を目指すということでもあります。

私が共同代表を務める一般社団法人SDGsマネジメント(以下「SDM」)は、企業が経済性と社会性の両立を実現させるために、SDGsの導入支援をしています。私たち中小企業は、「ビジネス=経済性」に取り組むプロ集団であります。それに対して、政府や地方自治体の職員は、「社会課題=社会性」に取り組むプロ集団であります。企業にとっても社会にとっても、この2つのプロ集団の融合が求められているのです。このシリーズでは、中小企業が経済性と社会性の両立を実現させるためのSDGsの取り組み方について、3回に分けてご説明します。

2 「どんな社会課題を解決する会社なのか?」を打ち出す

SDMでは、SDGsを導入しようとする企業に必ず質問することがあります。

「あなたの会社は、どこの、どんな社会課題を、誰と解決をするのですか?」

この質問をされたときに、まず企業が当たる壁は、社会課題が分からないということです。経営者の感覚的に回答をいただくことはできますが、数値的な根拠=エビデンスをもって回答いただける方はほとんどいません。その理由は、自社の商圏内での政策を見ていないからです。

私たちSDMは、政策の調査研究をします。最初に見るのは、政府がおおむね毎年7月に発表する「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)です。日本の中でもトップクラスの国家公務員の皆様が、自分の省庁の担当政策を、この骨太の方針に1行書き入れてもらうために、粉骨砕身して作り上げられます。日本の課題や方向性が端的に表現されている資料であり、これを読み込まずして日本を知ることはできません。

次に見るのは、商圏の地方自治体の総合計画や「まち・ひと・しごと創生総合戦略」などです。これは、骨太の方針と違い複数年度にわたる計画ですが、商圏の人口動態やそれに伴う社会課題、産業政策などが記載されています。資料はインターネットの検索エンジンを通じて簡単に調べることができます。これらを調査し、読み込み、自分の事業と関わりそうな文面をマークすることで、ようやく自社の事業と社会課題の付き合わせができるようになります。

3 中小企業のSDGsは「事業と政策とのマッチング」で実現

では、具体的にどうやって「自社がどんな社会課題を解決する会社か」を決めるのか、実例を基にご説明します。

SDMの共同代表である西岡徹人さんが代表を務めるSUNSHOW GROUP(以下「SG」)は、第2回ジャパンSDGsアワードを受賞されました。SGでは、毎年SDGsへの取り組みを「SDGs REPORT」としてまとめ、発信をしています。この報告書から我々が学ぶべきポイントは、中小企業のSDGsは「事業と政策とのマッチング」であるということです。

SGは、全社ではなく事業部ごとに政策とマッチングさせています。例えば、SUNSHOW夢ハウスというブランドで低価格住宅の販売を手がける事業部は、主にSDGsの中のゴール1:「貧困をなくそう」に貢献することを掲げています。従来、低価格の商品を売るのは、競合他社に価格競争で勝つことを目的にしてしまいがちですが、SGでは社会課題解決を目的としています。

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では、どのように社会課題を設定しているかを、SGを例に説明します。

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1)事業の目指すべき姿を設定する

まず、SUNSHOW夢ハウスという事業の強み=ローコスト・価格優位性が、経済的価値だけでなく、社会的価値にどのように貢献するのか? を仮説として設定します。この場合は、「相対的貧困の解消」という仮説を設定しました。

2)エビデンスデータを収集する

次に、仮説を立証するためのエビデンスデータの収集をします。先に述べたように、このエビデンスに最も適しているのが、国や地方自治体が出すさまざまな計画です。SGの場合は、国レベルでは「子供の貧困対策に関する大綱」を、県レベルでは「岐阜県子どもの貧困対策アクションプラン」を参照しています。

3)事業指標=ビジネスインディケーターを設定する

その上で、単に低価格住宅を造り、販売するという目標だけでなく、SDGsのターゲットに準じた指標を設定し、事業内容との整合性をとります。この指標設定に役立つのも政策であります。社会性に取り組むプロ集団が作成する政策には、必ずKPI=Key Performance Indicator(重要業績評価指標)が設定されています。

これは、社会課題に対して重点改善項目を設定し、政策を実行することで、いつまでに、どれくらい改善が見込まれるかを指標化したものです。行政の指標なので、視点が大きいものもありますが、その中でも自社の事業に置き換えた場合に、どの指標において貢献できるかを解釈することが可能です。

4 注目のテーマに“便乗”して、新たな自社の強みを作る

これから解決する社会課題を設定しようと考えていらっしゃる中小企業の経営者の皆さんの中には、「うちには社会課題にマッチングできそうな強みがない」という方もいらっしゃるでしょう。そのような方のために、今、最も熱いテーマをご紹介します。これらのテーマに、いわば“便乗”して事業を進めることで、新たな自社の強みを作ることもできます。

そのために注目すべきは、最新の政策です。2021年6月18日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太の方針2021)は、タイトルに「日本の未来を拓く4つの原動力〜グリーン、デジタル、活力ある地方創り、少子化対策〜」と記載されています。要するに、この4つの政策については、「政府としては企業が積極的に取り組んでいただければ、お金=予算もつけますよ! 社会的評価も上がりますよ!」と言ってくれているわけです。従って、わざわざこれを無視して、事業をやる必要はあるのでしょうか?

図表3で、4つの政府の施策と、それに対応するSDGs、社会課題、そしてそれらに対応する自社の事業の例を紹介しています。ぜひ参考にしてください。

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いかがでしょうか。「社会課題を自社の事業にマッチングさせる=社会性と経済性の両立」でポイントになるのは、国や県・市町村が言っている話を、自社の事業に置き換えて解釈することです。SDMではそれをローカライズといっています。社会課題を遠い国の話として人ごとのように聞くのではなく、いかに自分事としてローカライズできるかが、コロナ禍を乗り切る鍵であると考えます。

次回は、自社の事業を社会課題の解決に対応させることで、会社がどのように経済的メリットを享受できるかについてご説明します。

以上(2021年8月)

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画像:Sakosshu Taro-Adobe Stock

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