人はただ さし出(い)づるこそ よかりけれ軍(いくさ)の時も先駆けをして
豊臣秀吉は、戦国時代を代表する武将「三英傑」の一人です。2026年の大河ドラマ「豊臣兄弟!」では、秀吉とその弟・秀長の物語が描かれます。今年、改めて注目を集める人物でしょう。近年の創作では嫌われ役を担うことも多いですが、農民(諸説あり)から成り上がり、主君であった織田信長亡き後、天下統一を成し遂げたその手腕は誰もが知るところ。努力と才覚で自らの地位を切り拓いた、日本史上屈指の成功者といえるでしょう。
冒頭の言葉は、秀吉が信長の家臣だった頃、同僚に「しゃしゃり出すぎだ」と言われた際の返答とされています。「何事も率先することが大切だ。私は戦うときだって真っ先に動く」という意味です。秀吉らしい言葉ですが、彼は常にその姿勢を結果に結び付けてきました。「さし出づる」という言葉からは、「言葉と行動を一致させる」という秀吉の覚悟も読み取れます。
例えば、信長が美濃の斎藤軍攻略に向け、墨俣(すのまた)に城を建てようとしていた1566年。信長の他の家臣が何度も築城に失敗する中、秀吉は「自分なら瞬く間に城を作ってみせる」と言い放ち、実際にそれを成し遂げたといわれています。世に言う「墨俣の一夜城」です。また、信長が浅井・朝倉連合軍と戦った1570年の「金ヶ崎の戦い」で、信長が撤退を余儀なくされた際、秀吉は、敵の追撃を一手に引き受ける殿(しんがり)に自ら志願しました。逃げ場のない危険な任務でしたが、秀吉はその役目に手を挙げただけでなく、信長の退却を見事に成功させたのです。
秀吉のこうした姿勢は、彼の家臣にも影響を与えていました。信長が明智光秀に討たれた本能寺の変の直後、秀吉は敬愛する主君の死に激しく同様したといわれています。しかし、家臣の黒田官兵衛が「今こそあなたが天下を取る好機です」と秀吉に言い聞かせ、さらに他の家臣たちも「次の天下を取るのは秀吉様だ」と奮い立ちます。これにより立ち直った秀吉は、主君のあだを討つため「中国大返し」を決行、光秀を打ち破ったのです。
発言や理想を語ることは簡単ですが、それだけでは人の心は動きません。秀吉のように、語った言葉を現実に変えるために自ら動くリーダーだからこそ、部下は「この人についていきたい」と思うわけです。そして、リーダーが部下たちに与えた希望は、回り回って、いざというときリーダー自身を助けてくれます。信長の死に打ちのめされた秀吉を家臣たちが立ち直らせたように、リーダーがピンチに陥ったとき、部下が「あなたならやれる」と支えてくれる。それが組織の強さなのです。「大きく出る」勇気は、部下を導く灯火であり、組織を成長させる原動力となるわけです。
今年は秀吉にあやかり、掲げた理想を達成する姿を社員たちに見せることを意識して、経営者自ら動いてみるとよいかもしれません。秀吉の気分で先陣を切り、社員皆を驚かせて士気を上げる、有言実行の一年を目指しましょう。
出典:「戦国武将名言録」(楠戸義昭著、PHP研究所、2006年)
以上(2025年12月作成)
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