「ビジネスの世界で勝つには、『何がなんでも』という気迫で、なりふり構わず突き進んでいくガッツ、闘魂がまずは必要である。」(*)

出所:「燃える闘魂」(毎日新聞社)
  

冒頭の言葉は、

  • 「経営者の揺るぎのない信念や情熱が、企業を成長させる原動力となる」

ということを表しています。

稲盛氏は、心をベースとした経営を説くなど、経営において「心」が重要な要素であると考え、また、それを実践することで、オイルショックをはじめ、さまざまな困難を乗り越え京セラを世界的な企業へと導いてきました。また、最近では、2010年1月に会社更生法の適用を申請した日本航空グループ(現日本航空株式会社。以下「JAL」)の再生に尽力した稲盛氏ですが、順調に再生への歩みを進めることができた要因も、従業員の心の変化にありました。

JALの再生に際しては、賃金ダウンなどの労働条件の悪化、路線の大幅な縮小、航空機をはじめとした機材や設備も当初は更新せずに古いものを使用するなど、再生に対して“追い風”となる要素は、ほとんどありませんでした。こうした厳しい状況の中で、良い方向に変わったものは、人の心であったと稲盛氏は述べています。

稲盛氏は、当初、「倒産した」という危機意識が希薄な従業員などに対して、その事実を認識させると同時に、「人間として正しいことを追求する」を経営の判断基準とするなど、京セラなどで実践してきたことを研修などを通じて伝えて、従業員の意識改革に取り組みました。その結果、幹部、従業員一人一人の中に、自分のためだけではなく、会社のため、お客さまのため、社会のために何ができるかという真摯な心が根付いてきました。こうした心の変化が“追い風”となりJAL再生の大きな原動力になったのです。

経営における心の重要性を知る稲盛氏の目には、経営不振の原因を経済環境や市場動向といった外部環境に求めることのある最近の経営者は「燃える闘魂」が欠けていると映っています。「燃える闘魂」とは、弱肉強食の厳しいビジネスの世界で勝ち抜いていくためには、いかなる格闘技にも勝る激しい闘争心が必要だということを示したもので、稲盛氏が事業を成功に導くための普遍的な要諦をまとめた「稲盛経営12カ条」(注)の一つとしても知られています。稲盛氏は、敗戦後の厳しい環境の中から、世界的な企業を育て上げてきた松下幸之助氏や本田宗一郎氏などの名経営者たちの姿や、自身の経験から、定めた目標を何がなんでも実現してみせるという強い心があれば、どんな困難でも乗り越えられると言います。稲盛氏のその信念は次の言葉にも表れています。

  

「不可能を可能に変えるには、まず『狂』がつくほど強く思い、実現を信じて前向きに努力を重ねていくこと。それが人生においても、また経営においても目標を達成させる唯一の方法なのです。」(**)

  

経営者であれば、誰しもが、情熱を持って経営に当たっているはずです。しかし、経営者も人間である以上、困難な状況に直面したり、思うような成果が得られなかったりしたときには、諦めや弱気な気持ちが心中をよぎることもあるでしょう。また、外部環境という経営者自身がコントロールできない要因に経営が翻弄されてしまうことも紛れもない事実です。

しかし、トップである経営者が、「もう無理だ」と諦めてしまえば、会社が成長・発展する道は閉ざされてしまいます。逆に、いかなる状況に直面しても、経営者が「燃える闘魂」を持ち続けて経営のかじ取りを行えば、それが企業を成長・発展させる原動力となり、前進するための道を切り開いていくことができるのです。

そうした意味では、本当に困難な状況に直面したときでもなお、「何がなんでも企業を成長に導く」「必ず目標を達成する」という不退転の決意を経営者が持つことは、厳しいビジネスの世界で会社が生き残っていくための必須条件といえるでしょう。

(注)「稲盛経営12カ条」とは、「1.事業の目的、意義を明確にする」「2.具体的な目標を立てる」「3.強烈な願望を心に抱く」「4.誰にも負けない努力をする」「5.売上を最大限に伸ばし、経費を最小限に抑える」「6.値決めは経営」「7.経営は強い意志で決まる」「8.燃える闘魂」「9.勇気をもって事に当たる」「10.常に創造的な仕事をする」「11.思いやりの心で誠実に」「12.常に明るく前向きに、夢と希望を抱いて素直な心で」の12カ条からなります。

【本文脚注】

本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

いなもりかずお(1932~2022)。鹿児島県生まれ。鹿児島大学卒。1959年、京都セラミツク株式会社(現京セラ株式会社。本稿では「京セラ」)設立。1966年、社長就任。

【参考文献】

(*)「燃える闘魂」(稲盛和夫、毎日新聞社、2013年9月)
(**)「生き方 人間として一番大切なこと」(稲盛和夫、サンマーク出版、2004年8月)
「稲盛和夫 OFFICIAL SITE」(京セラ株式会社)

以上(2022年9月)

pj15100
画像:mariyaermolaeva-shutterstock

Leave a comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です