皆さまこんにちは。いつも私のコラムを読んでくださり、SNSでシェアしていただき、愛りがとうございます(愛+ありがとう)。今回は、インド工科大学でのことをお伝えしたいと思います。
GoogleのSundar Pichai CEOをはじめ、マイクロソフトのSatya Nadella CEO、シリコンバレーにおけるインド出身の経営者やエンジニアの大活躍には、目を見張るものがあります。アメリカの巨大企業もインドのトップ工科大学などに、わざわざ学生をリクルートしに行くほどです。
日本でも、インド出身のエンジニアが求められる時代となっており、楽天やメルカリでもインド人エンジニアを雇用したことが話題となりました。インドのNarendra Modi首相と安倍総理の交流もあり、インドと日本の関係も良いものになっていることは、喜ばしいですね。
世界大学ランキングを見ると、上位にはアメリカの大学が名を連ねていますが、シリコンバレーをはじめ世界中のIT企業には、非常に多くのインド人エグゼクティブやエンジニアがいます。特に、インド工科大学ムンバイ校(Indian Institute of Technology Bombay:略称 IITB)は最難関と称されるほど入学する際の競争率が高い大学で、多くの学生たちがアメリカをはじめとした世界のトップ企業で活躍することを夢見ています。
同校の客員教授である永原正章教授と私は、数年前から「#StatupFire」という学生起業家を生み出すスタートアップイベントの共同開催を福岡県北九州市で行う仲間です。世界で活躍する日本人の育成にも力を入れてきました。
このたび、永原教授との共同研究において、システム制御理論でドローンなどの研究をされているIITBのDebasish Chatterjee教授をご紹介いただきました。彼自身、IIT Kharagpur(IITBと並ぶ名門校)を卒業した後、シカゴ近くのイリノイ大学でPh.D.(日本の博士号)を取得後に、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)にも留学をされています。
今回は、人工知能の研究に従事されているお2人から、学生のために「シリコンバレーのアントレプレナーシップ教育とイノベーション」についての講演依頼があり、9月4日に70分間、英語にて特別講演をすることになりました。私自身も、インドのトップ校の学生たちはどのくらい勉強熱心なのか、起業に対して思い入れが強いのか、なぜシリコンバレーや日本のトップ企業がインド人の人材を必要としているのかなどを知る良い機会になればと思い、非常に胸が高まりました。
講演当日は、ガネーシャというインドの神様を敬うお祭りの週だったにもかかわらず、多くの学生たちが講演に参加してくれました。彼らは真剣に耳を傾け、アグレッシブに手を挙げて質問し、自分の意見を述べていました。「将来、起業したい人」と質問すると、ほぼ全員が手を挙げたことには、さまざまな大学で講演をしてきた私も驚きました。なぜ、学生たちにとって「起業」という選択肢が身近に感じられるのか、その秘密はIITBの中の3つの組織にありました。
まず挙げられるのが、今回の講演会の企画・運営も行ってくれたIITBのTinkers’ Laboratory(Tinkers’ Lab)です。Tinkers’ Labは、1975年に卒業生の多大な貢献とサポートから設立され、一部の教員の指導の下で、ほぼ学生によって運営されているラボです。小さな抵抗器から3DプリンターやCNCなどの洗練された機械まで、さまざまな機械と機器があり、熱心なエンジニアにとってアイデアを実現しやすい場所となっています。
また、Tinkers’ Labでは、革新者や思想家を育て、その創造的なアイデアをエンジニアリング製品に活かすことを目指しているため、学生に何時間でも好きなだけ実験し、チャレンジし続けることができる環境を提供しています。こうしたことから、実験が好きなエンジニアが多く集まり、エンジニアリング教育において高い評価を受けています。
さらに、多くのテックイベントや、学生に技術的なこと(センサー、マイクロコントローラー、プロジェクトの作り方、優れたリーダーになりプロジェクトをリードする方法など)を教えるTinkering WeekendなどのトークイベントやTLトーク(ちょっとしたプレゼンテーション)の実施、スピーカーを招いてのイベントなども積極的に行われています。このような取り組みによって、テクノロジーと起業家精神の両面から、学生たちがイノベーションを起こしたくなるような刺激を与えているのです。
今回の私の講演もTinkers’ Labの運営のおかげで常にスムーズに進み、心から感謝をしています。また、彼らの活動に私も深く共感し、日本に帰国した後、正式にアドバイザーに就任しました。意識の高い学生たちとともに新しい未来を創造できることが楽しみでなりません。
その他にも、IITBには起業家を育成する土壌があり、特にSINEとE-Cellが有名です。 SINE(Society for Innovation & Entrepreneurship)は、ムンバイにおける主要なインキュベーターの1つであり、研究活動を起業家ベンチャーへの転換を促進することでIITBの役割を拡大しています。また、経営、財政支援も提供しており、約15~17社のスタートアップの入居対応が可能です。
私は実際に訪ねて、SINEのビジネスエコシステムのディレクターとミーティングさせていただきました。施設内には、パソコンに向かって真剣に働いている多くの学生起業家が、男女ともにたくさんいました。現在、140以上のスタートアップが生まれ、450人以上の起業家が育っており、3800人以上の雇用を生んでいます。
E-Cell(Entrepreneurship Cell)は非営利団体で、潜在的に起業家精神を養う目的で、学生によって運営されている巨大組織です。ヘルシーなアントレプレナーエコシステム構築を目指し、若い起業家によるワークショップ、ハッカソン、スピーカーセッション、ビジネスプランコンペティションを毎年開催するなど、精力的に活動しています。
E-Cellのビジョンである「Empowering youth to create ventures with innovative solutions that enrich lives.(人生をより豊かにするためにイノベーティブなソリューションを生み出すベンチャーを創造する若者をエンパワーする)」に共感し、私もメンターとして今後、より良い起業家を生み出すサポートをすることになりました。以下にE-Cellの主な取り組みをご紹介します。
●E-Cellの7つのイニシアチブ
- Eureka:5カ月間の著名なビジネスコンペティションを開催
- National Entrepreneurship Challenge:全国にある他校のE-Cellの学生達に起業家精神を養うサポート
- E-Summit:2日間のカンファレンスの開催、120名のスピーカーセッション、ネットワーキング、ハッカソン、資金調達のチャンスを設ける
- Entrepreneurship and Business(EnB) Club:ビジネスコンペティション、ブートキャンプ、ワークショップ、ミートアップ、スピーカーセッションをして、IITB内でのスタートアップエコシステムを強化
- E-Connect Internfair:インド工科大学のトップ6校から、特に優秀な生徒だけを著名スタートアップに紹介して、インターンシップで実務経験を積ませる
- Startup Service Platform(SSP):SSPを通して、スタートアップ企業向けに、最も重要なサービスのいくつかを通常の市場に比べて、譲歩的な価格で提供している
- Social Initiative:毎年、社会問題に対してテクノロジーを使ったり、人的なリソースを使ったりして、解決に取り組む
IITBだけでも、このように、Tinkers’ Labのように学生が自由に実験できたり、SINEのように実際に起業できたり、E-Cellのように巨大な学生起業家団体があったりと、起業家になるための土台がしっかり作られています。もし彼らが卒業後、起業をせずに就職したとしても、学生時代に起業家になるための学びを得たなら、社内起業家として活躍することでしょう。
このように、学生時代に高い専門性はもちろん、将来働く上で必要な多くのマインド教育やビジネススキルを磨く機会を通して、ビジネスパーソンとしての実践力を身につけていることが、インド人エンジニアを積極的に雇用したいと思わせる理由なのではないでしょうか。シリコンバレーの著名企業がこぞって、インドのトップ校の学生が欲しいと思う気持ちが理解できた気がします。
また、インドには、特有の考え、教えがあります。ハーバードビジネススクールのDean (学部長)であるNitin Nohria教授(インド生まれ)は、バンガロールでの特別講演「アントレプレナーシップ」において、インド特有の考え方であるJugaadという、ヒンディー語で「目の前にあるモノで、新しいモノを創造する」についても語っています。
この意味はつまり、資源が限られている中で、工夫と機知でよりイノベーティブな解決方法を見つけることが大切だということです。ハーバードビジネススクールのイベントも、たびたびインドで行われているといいます。それもそのはず、ムンバイには、ハーバードビジネススクールのエグゼクティブプログラムが受けられるHBS Campusがあります。
インドにおける素晴らしい教育と、特有の考えから、私たちは多くのことが学べるのではないでしょうか。いつも、お読みいただき、愛りがとうございます。森若幸次郎ことジョンがお届けいたしました。
以上
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