スタートアップ企業を立ち上げる起業家をアントレプレナー「Entrepreneur」と呼ぶことに対し、大企業や中小企業の中「Inner」で、新規事業開発やオープンイノベーション創出活動をする人材のことを「Intrapreneur」社内起業家(イントレプレナー)と呼びます。

私は全国の大学や高専(高等専門学校)、アクセラレーター(スタートアップ企業向けの教育プログラム)などで、アントレプレナーシップ(起業家精神)の講義を行って、学生起業家やスタートアップ企業を生み出してきました。さらに、大企業や中小企業におけるイントレプレナーを育てるためのワークショップでは、スタートアップ企業を運営する上で重要なことを、擬似体験を通して理解していただいております。

今の大企業の重要な課題の一つであるオープンイノベーション創出では、スタートアップ支援として、アクセラレーターや投資、バイアウトをする以前に、支援者自身がスタートアップの働き方を理解し、同じようなマインドを持つ必要があります。

そのために、私のワークショップでは、「チーム作り」を学んでいただきます。

これまでの私のコラムでも、チーム作りの重要性についてお伝えしてきましたが、今回は、頭で理解するだけではなく、擬似体験を通して学ぶ「ワークショップ」の流れについてご説明いたします。これは、大企業であろうと、中小企業であろうと、リーダーにとって必要な知識ですので、ぜひ社内研修などにご活用ください。

1 ワークショップ全体の流れ

はじめに、チームを作ります。1チームは最低4名から5名は必要で、全体で5チームから7チームくらいあると盛り上がります。それよりも少なくても、全体の内容がより理解できたり、フィードバックを与え合ったりできるので問題ありません。

次に、チームごとにサービス開発(ワークショップでは、デモできる状態まで持っていきます)を行います。

最後に、アクセラレーターのデモデイ(プログラム最終日に、サービスやプロダクトのデモンストレーションを行い、投資家を見つけるもの)を仮定して、チーム全体でのピッチ(資金調達するために投資家向けに3分間でビジネスモデルをプレゼンテーション)を行います。

それを聞いている全員がエンジェル投資家になったつもりで投資金額を決め、調達金額の多い順に、1位から3位までを表彰します。

このようなワークショップは、大企業などでは2.5日間で行うケースもあります。また、大学などでは午前と午後で合計4~6時間で行いますが、最短では2時間で行う場合もあります。

2 CEOを決めよう!

チーム作りは、まず、Founder&CEOがいなくては始まりません。CEOとは、皆さんご存知の通りChief Executive Officerの略で、最高経営責任者、つまり日本でいう社長のことですね。そこで、CEOになりたい人に挙手をお願いします。すると、リーダーになりたい方や、すでにリーダーの方が手を挙げてくださいます。もし、必要な人数に達しない場合は「本当は社長をやってみたい人?」などと問いかけると、実は心の底ではやってみたいと思っている人が意外にいるものです。

では、CEOの仕事とは何でしょうか?

CEOが夢を持たないと、スタートアップを起こそうとは思わないでしょう。CEOが夢を語らないと、誰も集まりません。つまり、世界を変えるような「大きなビジョン」を掲げること、これまで大企業でさえ成し遂げられなかったような社会課題をどうにか解決したいという夢を持つことがCEOの第一の仕事です。そして「なぜこの事業を始めたのか、何を実現したいのか」を、ビジネスプラン(事業計画書、pitch deck)に落とし込んでいく必要があります。

次に、そのビジョンを実現できるチームを作らなければなりません。

最高のスタートアップのアイデアには3つの共通項があり、これはMicrosoft、Apple、Yahoo、Google、Facebookにも共通するものです。

  • 創業者(Founder)自身が望むものであり、
  • 自分自身が構築できるものであり、
  • やる価値があると認識している人が他にほとんどいない

起業当初のスタートアップ企業にとって、Founder自身がエンジニアとして、自らのビジョンを形にできる(サービスやプロダクト開発)に越したことはないですが、全て完成させられる人はほとんどいないでしょう。だからこそチームが必要ですし、ある意味、自分よりも優秀な人材を各分野で招いて、最強チームを作っていくことが重要なのです。

3 CTOを見つけよう!

ワークショップでは、CEOが45秒から1分間、みんなの前で、自身の抱く大きなビジョンを語り、CTOになってくれる方を探します。

CTOとは、Chief Technology Officerの略で、最高技術責任者です。技術と経営が分かっている人物で、プロダクト開発の責任者として、エンジニアチームの評価、育成も行います。

CEOだけでは、プロダクトを実際に開発するのは困難な場合も多く、テクノロジーを理解し、エンジニアチームを率先してリードしてくれるCTOの存在が必要になるのです。

つまり、CEOのビジョンを形に落とし込んで、プロトタイプ(デモンストレーション目的や新技術・新機構の検証、試験、量産前での問題点の洗い出しのために設計)できる人物が好ましいでしょう。

4 CFO、CMO、COOを見つけよう!

ワークショップでは、CEOとCTOとで話し合い、自分たちがすでに持っているテクノロジーで、どのような問題解決に取り組むかというビジョンを発表して、チームメンバーを獲得していただきます。

話し合いの間に、CEOとCTO以外の人に向け、私からそれぞれのCXO人材の役割について講義を行います。

CFOとは、Chief Financial Officerの略で、最高財務責任者です。

CEOが掲げた壮大なビジョンを基に、CTOを中心としてプロダクト開発チームを作りますが、そこで開発費用の問題が出てきます。エンジニアを何人雇用するかという「人件費」もそうですが、シリコンバレーの場合、相当高いです。

その値段も含めて、CEOと共に、資金調達について、ベンチャーキャピタルや金融機関と交渉してくれる人物こそCFOです。また、優秀なCFOは、資金調達後も事業戦略の執行も兼ねるケースもあります。金融機関出身のCEOは、CFOの役目を果たすこともあります(エンジニア出身のCEOは、CTOを兼務する場合もあります)。

CMOとは、Chief Marketing Officerの略で、最高マーケティング責任者です。資金調達の前後における大規模なマーケティング戦略をリードする人物で、利益を最大化する最終責任を負います。CMOは、ユーザーの獲得、またはクライアントの獲得のために、最適なマーケティングの手法を選択し、その実行のためにマーケティングチームをリードします。

COOとは、Chief Operation Officerの略で、最高執行責任者です。CEOに続くナンバー2のポジションですが、スタートアップ企業にとって、資金調達ができた後に事業を成長させるために、プロ経営者を雇う段階でCOOの存在が重要になってきます。

有名な話では、Facebookの創業者でCEOのマーク・ザッカーバーグ氏は、マネタイズに悩んだ際に、ハーバードビジネススクールMBAホールダーであり、Googleを大きくした実績を持つシェリル・サンドバーグ氏をCOOとして迎え入れました。その後、Facebookは広告ビジネスとして大きな利益を生み出し始めました。

5 チームができたら、ビジネスモデルを考えよう!

CEO、CTO、CFO、CMO、COOの5名のチームができたら、会社の名前を考え、スタートアップ企業を運営している幹部のように、ビジネス戦略をみんなで話し合います。実際にシリコンバレーで起業したことを想定して、イノベーティブなサービスの開発を目指します。

また、Tech Crunchなどの著名テックイベントでピッチすることをイメージして、チームで、どのようなピッチをしたら投資家たちから出資を受けることができるか話し合いながら、ビジネスの事業計画書(投資家向けのピッチ資料)を作ります。

ワークショップをしていると、時に「斬新なアイデアが思いつかない」と壁にぶつかるチームもあります。そのような場合に私は「社会のどんな問題が気になりますか?」「最近どんなことで困っていますか?」「誰のどんな問題を助けたいと思いますか?」と質問するようにしています。すると自然と「このような問題を解決したい」と答えが返ってきます。

それから私は「あなたたちの研究や技術、テクノロジーで、その問題の解決を試みたらどうでしょうか?」とお伝えします。また、ハッカソン(Hackathon)やアイデアソン(Ideathon)を真似ると良い場合は、その方法もお伝えします。

ハッカソンとは、チームメンバーのアイデアや持っているスキルを合わせ、短期間に集中してサービスやアプリケーションを開発することです。COOの役割の代わりに、デザイナーがいても良いチームになる場合もありますし、IT技術者が多ければ行いやすいでしょう。ピッチの際もプロダクトを見せながら話せば、説得力も上がります。ちなみに、Facebookの「いいね!」ボタンも、ハッカソンからアイデアが生まれました。

アイデアソンとは、よりアイデアを出すことに重きを置くもので、ディスカッションを通じでアイデアをブラッシュアップしていきます。行う際のポイントとしては、「実現可能かどうか」などは重要視せず、突拍子もないと思えるような大胆なアイデアでもどんどん褒め合い、とにかく新しいアイデアが出しやすい環境を作ることです。凝り固まった頭で考えても、イノベーティブな発想は湧きにくいので、拍手やハイタッチなどを取り入れ盛り上げながら行うことで、思わぬ良いアイデアに辿り着きやすくなります。

6 3分間ピッチの準備をしよう!

チームで話し合い、ピッチ資料とプロトタイプを作ったら、3分間のピッチの準備をしましょう。

ピッチのやり方については、7つの順序を以前の記事で書いていますので、こちらをご覧ください。

7 3分間ピッチをしよう!

チームごとにピッチを行います。シリコンバレーのスタートアップのCEOのように、堂々とみんなの前で、チームで練り上げたビジネスについて3分間ピッチしてください。

全てのチームの発表を聞いて、ジャッジを行います。審査員がいない場合は、お互いにエンジェル投資家になったつもりで自分以外のチームの点数をつけてみましょう。先ほどのピッチの7つのポイントに沿って点数をつけても効果的でしょう。

8 表彰とフィードバック!

ジャッジの点数を集計して、優勝チーム、準優勝、3位の表彰を行います。結構ドキドキして盛り上がります。また、各チームに点数を公表すれば、点数が表す面と向かっては言えないオネストフィードバック(正直な感想)から学ぶこともあるでしょう。

審査員がいる場合は、どうしたらもっと良くなるか、感想を伝えることで学びを深めることができます。また、ユーザー目線のフィードバックも貴重なので、参加者同士で意見を伝え合える時間を作ることも大切です。この時、表彰状なども準備しておくと盛り上がります。

9 チームと個人の今後の目標!

チームごとに短期間で0から1を作るチャレンジをした後は、お互いの良いところを褒め合い、チームでの今後の成長と個人としての課題をきちんとノートに書いて復習に役立てましょう。

普段、個人で頑張っているエンジニアも、いざCTOの役割をすると意外にコミュニケーションを仲間と取るのが難しいという発見をするかもしれません。良かった点や悔しかった点を踏まえ、今後どうしたらより成長できるかを話し合うことが重要なのです。

このような私のワークショップを通して、実際に大企業からスピンオフして社内企業ができたり、大学生起業家が生まれたり、スタートアップやベンチャーキャピタルでインターンを始めた大学生も出てきました。また、ワークショップの途中で話す、シリコンバレーやハーバードで学んだことや、世界中のスタートアップエコシステムの話などにインスパイアされ、アメリカやエストニアに羽ばたいていった学生たちもいます。

こうした参加者の変化によってイノベーションを起こすカルチャーが生まれたり、社内起業家や学生起業家が増えたりすることは嬉しい限りです。また、自分たちでスタートアップを起業しない場合でも、スタートアップ企業とコラボレーションをする際に、相手の立場に立って考えられるようになり、より協業がスムーズになるようです。

オープンイノベーションという言葉はよく聞くようになりましたが、実際にどうしたら良いのか手探りなことも多いでしょう。そのような方々が、ワークショップによる擬似体験を通して、オープンイノベーションを加速するマインドやスキルを身につけ、より良いイノベーターとなるためのお手伝いをこれからも行いたいと思います。世界により良いイノベーションが溢れることを願っております。

皆さん、最後まで読んでくださり、愛りがとうございます(愛+ありがとう)。森若幸次郎ことジョンがお届けいたしました。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年11月18日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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