かつてナポレオン・ヒルは、偉大な多くの成功者たちにインタビューすることで、成功哲学を築き、世の中に広められました。私Johnも、経営者やイノベーター支援者などとの対談を通じて、ビジョンや戦略、成功だけではなく、失敗から再チャレンジに挑んだマインドを聞き出し、「イノベーション哲学」を体系化し、皆さまのお役に立ちたいと思います。
第14回に登場していただきましたのは、経営コンサルタント 梅澤 高明氏です。A.T.カーニー日本法人会長であり、CIC Japan(ケンブリッジ・イノベーション・センター・ジャパン)の会長、クールジャパン機構 社外取締役、ナイトタイムエコノミー推進協議会(JNEA)理事、元バンドマンで現在もDJ活動をされるなど多彩な表情を持つ梅澤氏の素顔とは?(以下インタビューでは「梅澤」)。
1 「『あぁ、音楽で食べていくのはこういう人たちなのか』と諦めがつきました」(梅澤)
John
本日は、梅澤さん、お忙しいところを本当に愛りがとう(愛+ありがとう)ございます!
お話をできることを非常に楽しみにしておりました。
私と梅澤さんの共通項でもある「音楽」や「イノベーション、スタートアップ支援」などの話と、梅澤さんのお人柄や考え方、そしてそれらが現在のご活躍にどう繋がっていくのかなど、順を追ってお聞きしていきたいと思います。
早速ですが、梅澤さんが東京大学時代に結成されたバンド、「G-SCHMITT(ゲーシュミット)」について教えてください。YouTubeに上がってる映像見ましたが、もはやプロですね♪
梅澤
G-SCHMITTは、僕が大学3年の頃に作ったバンドです。音楽雑誌で募集をかけ、メンバーを集めました。
インディーズバンドとして計9枚のレコードを出し、年に1〜2回、全国の主要な都市をツアーで回っていました。
John
梅澤さんは作曲もご担当されていたのですよね。バンドを組む前から、音楽のご経験があったのですか?
梅澤
幼少期からずっとピアノを習っており、音感を磨く聴音のトレーニングを受けていました。それは、バンド活動や作曲・編曲でも役立っていたと思います。
作曲については、僕1人で全てを作っていたわけではありませんが、曲作りのきっかけとなる部分を作っていたような感じですね。
寝る寸前などふとした瞬間に、良いリフが浮かんでくるのです。
忘れないうちに飛び起きて、リフと、それに合わせたコード進行をギターとベースで弾き、カセットテープに録音していました。
その録音を元にスタジオでドラマーがリズムを刻んで、ギターがコードを重ねていき、楽曲として仕上げていく、という流れでしたね。
John
梅澤さん、やはりかっこいいですね! 私も3歳の頃からエレクトーンを習い、小学校に入ってから12歳までピアノを弾いてました。今は、クラシックもディープハウスも聞きますが、20代の頃はオーストラリアでヒップホップやR&Bの大型イベントをプロモーションしたり、ラジオDJをした後、東京でYouTubeで知り合ったラッパーたちと、ヒップホップレーベルを運営していたこともあります。
でも梅澤さんのような、いわゆる「曲がおりてくる」体験をしたことはなかったです。ラップのフリースタイルとかは自然としてますが。梅澤さんの音楽の才能も凄いですね♪ いつもファッションもすごくオシャレですし。
梅澤
ありがとうございます。
それでも結局、「音楽で食べていけるほどの才能ではない」と途中で諦めました。
インディーズながらレコードを出すと、毎回数千枚は売れました。しかし、5000枚くらいが限度だったのです。
いわゆるヒットと言われる1万枚、3万枚には及ばず、どうしたらいいのかと考えていました。
また当時、ギタリストの布袋 寅泰さんが所属するバンドや、レベッカと一緒に何度かライブをやらせてもらったことも、音楽を諦めるきっかけとなりました。
同じライブハウスに出ていた彼らが、瞬く間に世間の注目を集め、デビュー1年ほどで武道館に立つようなバンドとなっていったのです。
そんな彼らを見て、「あぁ、音楽で食べていくのはこういう人たちなのか」と思い、諦めがつきましたよ。
John
音楽だけで食べていくというのは大変なことですよね。才能、独自性、トレンドを見極める能力、マーケティング力、周りのバックアップ、学ぶ姿勢、情熱、スタッフのチームとして総合力など、多くを求められる領域だと思います。
私も一時は、ヒップホップを諦めてビジネスの世界へ飛び込んだ経験を持つ者として、非常に共感します!
2 「インバウンド需要の高まりも踏まえて、『日本は24時間、観光客をおもてなしできる国になるべきだ』というコンセプトを打ち出しました」(梅澤)
John
バンド活動は諦めた梅澤さんですが、現在DJとして音楽活動を再開されていますよね。どのような背景があったのでしょうか。
梅澤
DJの活動を始めたきっかけは、風営法改正のロビイング活動に関わったことと、一般社団法人 ナイトタイムエコノミー推進協議会(JNEA)という団体を設立したことです。
法改正とナイトタイムエコノミー振興という一連の活動に参加する中で、クラブ・音楽イベントに足を運ぶ機会が増え、「見ているだけじゃなく、自らももう一度プレイする立場になっても良いかな」と思うようになったのです。
アソビシステムのDJ、ChiMyさんに家庭教師としてついてもらって練習して、ある程度自信がついたところで活動をスタートしました。
John
やはり、梅澤さんは、音楽がお好きなのですね!
最近の梅澤さんのSNSなどを拝見すると、ビジネスパーソンというよりもアーティストに見えるほどです(笑)。
風営法改正運動に参加し、ナイトタイムエコノミー推進協議会を設立したということですが、そもそも風営法改正運動に参加するようになったきっかけは、何だったのでしょうか。
梅澤
風営法の改正に向けた署名活動と政治への働きかけをリードしていた弁護士・齋藤貴弘さんとの出会いがきっかけでした。
彼もDJをやっていて、音楽に傾倒している方なのですよ。
そんな斎藤さんが僕を訪ねてくれて、風営法の問題点や、これからどのように変えていきたいかなどを熱く語ってくれたのです。
僕も、もともと音楽のフィールドにいたので、そうした風営法の問題点は実体験として感じていましたし、「そんな活動をしている方がいるなら喜んで協力しよう」と思ったのです。
僕が手伝ったのは主にロビイング。
インバウンド需要の高まりも踏まえて、「日本は24時間、観光客をおもてなしできる国になるべきだ」というコンセプトを打ち出しました。
風営法改正は経済政策の1つなのだ、という考え方です。
結果的に、2015年に法改正が実現し、2016年に施行されました。
しかし、法改正はあくまで第一段階。次に「法改正により経済が動いている」という実態をつくる動きをはじめたのです。
そのために先ほど触れた団体・JNEAを設立し、東京ガールズコレクションの立ち上げを行った永谷亜矢子さんという凄腕のイベントプロデューサーにも加わってもらって、ナイトタイムエコノミーの振興に注力しました。
そうした活動を本格的にスタートしたのは、2019年のことですね。
3 「全体を見て重要なポイントを見つけ出し、大きく物事を解決する力。それがないと会社も社会も、結局は大きく変えられないのです」(梅澤)
John
法改正をスタートと捉え、現在に至るまで「経済が動いている」実態をつくるための活動を続けられているのですね。
お話を伺うと、先ほどのロビイングの「日本は24時間、観光客をおもてなしできる国になるべきだ」というコンセプトもそうですが、梅澤さんの物事の捉え方・見せ方というのは、一瞬で聞き手の脳裏に刻まれる強さがあり、本当に素晴らしいなと感じます。
日米双方での経営コンサルタントとしてのご経験が生かされているのでしょうか?
梅澤
生きている部分もあると思います。
僕はアメリカにいた頃と現在とで、2つの異なるコンサルティング手法を取っています。
1つはアメリカにいた頃に得意としていた、定量分析を用いたマーケティング。もう1つは現在得意としている、デザイン思考などのクリエイティブ・シンキングです。
定量分析を用いたマーケティングとは、わかりやすく言うと過去の統計を元に売上予測を立てるということです。
例えばあるメーカーの売り上げをYとおき、様々な変数をXとします。Xに入るものは、価格や割引額、メディアへのプロモーション、その日の天候などです。さまざまな変数の中で、どの変数が売上に大きな影響を与えるのかを導き出していきます。
今ならビッグデータ解析で容易に予測モデルが立てられますが、僕がアメリカにいた20年前はまだそういった技術がなかった。
また、アメリカにも統計学を専門とする人は多くいましたが、マーケティング領域でそれを活かす人は少なかったため、このモデルは重宝されました。
一方で、現在僕が得意としている右脳型のクリエイティブ・シンキングは、この定量分析のマーケティングや、一般的なコンサルティング手法とは全く違うアプローチです。
一般的に、コンサルティングの仕事というのはエンジニアリングなのです。
問題を要素分解していき、解決しやすい単位まで問題を小さくし、1つひとつ解決していく。それを最後に再統合すれば問題全体が解決するはず、という考え方です。
デザイン思考などのクリエイティブ・シンキングはその真逆で、全体性を重視します。
例えば企業の戦略には多くの部門による様々な活動が包含されます。個々の活動に分解して、それぞれを改善することは勿論可能です。しかし、それらの活動は相互につながっており、一つの活動のやり方を変えると、別の部門の関連する活動にも影響が及びます。従って、要素分解して、個別の活動の部分最適を実現しても、必ずしも全体最適が実現されるとは限らないわけです。
デザイン思考などの考え方は、問題を全体として捉え、その中でもっとも重要なポイントを見つけ出し、その最重要ポイントを大きく進化させる手段を考える、というアプローチと言えます。
全体を見て重要なポイントを見つけ出し、大きく物事を動かす力と、要素分解して個別の問題を一つ一つ解決する力。会社や社会の進化には、その両方が必要です。MBA的なトレーニングを受け、個別の問題解決の手法を扱える人材は、産業界でもかなり増えました。だから、僕は多くの会社が苦手としている、全体を俯瞰してクリエイティブな発想を生むアプローチをより重視してコンサルティングを行っています。
John
確かに、問題を要素分解して解決するというのが一般的になっていますね。
梅澤さんの場合は、物事を小さく分解していく思考と、逆に大きく全体を俯瞰していく思考の両方で課題を捉え直すことが出来るので、より柔軟かつ本質的な解決方法が導き出せるのでしょうね。
特に、「大きな変化を生むためには右脳型の発想が必要」というのは今の日本にもっと浸透してほしいと願います。素晴らしい気づきを頂きました。
4 「都市開発・観光・文化、これらが日本では仕事として分断されてしまっていますが、これを繋げないと魅力的な街や素敵な観光体験はつくれません」(梅澤)
John
梅澤さんは現在、A.T.カーニーやCIC Japanなどさまざまな仕事を兼任していらっしゃいますよね。それぞれの仕事をどのように配分して、生活をされているのですか?
梅澤
A.T.カーニーの仕事が50%、CIC Japanが30%、残りの時間でいろんなことに携わっているような状態ですね。A.T.カーニーでは会長という立場ですが、第一線のコンサルタントとしてバリバリ動いていますよ。
僕は「面白そう」と思うと、考えるより先に手が出てしまう人間なのです(笑)。
A.T.カーニーの仕事の割合を50%まで下げたのは、カーニーの外の領域の仕事にも遠慮せずに挑戦できる環境を作りたかったから。ここ3年、そんな動き方をしている内に、いまのような活動の広がりになりました。
どれが特別ということもなく、全部の仕事が楽しく充実しています。
John
梅澤さん、素晴らしい働き方、生き方ですね。それぞれのお仕事に、梅澤さんが携われることで、成功する確率も高まると思うので、お仲間もきっと幸せでしょうね。
しかし、A.T.カーニーの会長でありながら、その仕事の割合を50%にするというのは勇気もいると思います。どうして、ご決断できたのですか?
梅澤
50代になってから「人生100年と言われる中、自分はこのままでいいのか」と考えたことがきっかけです。
100歳まで生きるのなら、98歳くらいまでは現役でいたい。
そのためには、自分にとっての選択肢は広げていったほうがいいし、選択肢を広げるには自己革新を続けないといけないと考えました。
自己革新のために、A.T.カーニーの仕事以外にも、2つ目・3つ目の真剣に取り組む新たな仕事をつくりました。その結果、「経営コンサルタント」という要素以外にも、スタートアップ支援、ナイトタイムエコノミー、DJ、大学教授など、自分の要素が増えていきました。
要素が多いほど選択肢が広がり、人と違う掛け合わせができるのでユニークなポジショニングも取れます。楽しく仕事ができると思います。
John
人生の選択肢を増やすために自己革新を続けること。それが梅澤さんの若々しさ、バイタリティーの秘訣にも繋がっているように感じます。素敵です。
人一倍多くの人生経験を積まれ、多様な表情と幅広い知識をお持ちの梅澤さんですが、ずばり今の日本に足りないものは何だとお考えですか?
梅澤
日本に足りないと感じるのは、オプティミズム(楽天主義)でしょうか。
悲観から入りがちで、なかなか行動を起こせない国民性があると思います。
「GDP成長率が低い」「幸福度ランキングが低い」などと問題視する声もよく聞かれますが、GDP成長ありきの発想はもう捨てていいのではないかなと国の委員会などでも問題提起しています。
幸福度ランキングに関しても、口で言うほど幸福度が低い訳ではないのでは?と思います。そうでなければ、日本を捨てる人が続出するはずですが、そうはなっていませんよね。
実は日本のことが好きな人は多いはずですし、「現状に文句を言うだけでなく、もっと行動を起こしてみては」と思います。
John
「日本の幸福度ランキングが低いと言っても、本当に幸福じゃなければ住み続けないのではないか」という意見は、先ほどの「定量分析を用いたマーケティング」と「右脳型のマーケティング」の話とも共通する部分があるように感じます。なぜランキングが低いのかを分析する必要もありますが、それで悲観的になると物事を大きく変えようとするエネルギー自体も失われてしまうかもしれません。まず行動して、実態を変化させていこうという姿勢は、ナイトタイムエコノミーの振興などにも繋がっているのかもしれませんね。
梅澤
そうかもしれませんね。僕は、ナイトタイムエコノミーは大きなポテンシャルを秘めたテーマだと思っています。
日本の産業を客観的に分析すると、これから強みになってくるのは観光や文化産業です。また、豊かな文化を持つことが観光立国の重要な条件とも言えるので、この2つは非常に密接に関係しています。
「文化の0→1」が最も起こりやすいのは夜です。例えば音楽ベニューのビジネスを例に考えると、昼間や夕方のステージは固定費を回収するために多くの客を集めたい、そのためにはメジャーなアーティストを呼ぶことが必要です。
しかし、深夜のステージになると、固定費はすでに回収しているので、追加の人件費や光熱費が回収できればOKです。だからリスクを取って、新しいアーティスト、実験的なアーティストに機会を与えることもできる。こういう取組みから、新しい文化の芽が生まれるのです。
また、バーやクラブなど夜の遊び場では、自然と多様なクラスターの人たちが交差し、社会でのステータスに関係なく名刺抜きで人と人がコミュニケーションをとれます。そんな多様な交わりから、新しい文化やビジネスのアイデアが生まれてくるのです。
それなのに、日本ではそんな夜の遊び場、すなわちコミュニティプレースが、風営法で厳しく規制されてきました。
従って、ナイトタイムエコノミーの活性化は、観光政策でもあり文化政策でもあり、街づくりの重要テーマでもあるのです。
都市開発・観光・文化、これらが日本では仕事として分断されてしまっていますが、これを繋げないと魅力的な街・素敵な観光体験はつくれません。
僕はこの3つを繋げていきたいと考えていますし、実際に都市開発のコンセプト立案の段階で、文化や観光の要素を取り込むような仕事も増えています。
John
確かに、都市開発や文化政策の一部としてクラブを捉える、という発想はないですね。
私は20代の頃、オーストラリアでヒップホップとR&Bの大きなイベントを毎週プロモーションしたことがあるのですが、街の文化はクラブから生まれている、という実感がありました。
文化の最先端として、一流の大学や大企業に属する人、起業家、弁護士、医者、芸能人、アーティストなど様々なお客様もクラブに来て下さってましたし、友達の誕生日を祝うなどさまざまなシーンで活用して頂くための工夫もしていました。クラブと言っても、シドニーのファイナンシャルディストリクトにあるオシャレなバーや、シティのど真ん中にある歴史的建造物をクラブにつかったりして、ラグジュアリー感にエッジが効いた雰囲気を演出するようにしていました。クラブの中で、雪を降らす演出もしたこともあり、最後は、床が水でビショビショになって、モップでみんなで拭いたこともあります(笑)。
海外では、ダンスは生活の一部となっていますよね。
梅澤
そうですね。
僕も海外のさまざまな都市でクラブに行きましたが、20歳から60歳まで、年齢を問わず多くの人が「同じアーティストが好き」という気持ちでクラブに来て、音楽を楽しむ光景を数多く目にしました。
一方、日本では「クラブは25歳までのもの」と思っている人が多い。
クラブもそうですが、日本では遊び方全般を年齢やライフステージでセグメントしてしまっていて、それがすごく不自然に見えます。
メディアがマスしかなくて、みんなが同じTVや新聞を見ていた時代ならまだしも、これだけ情報も増え、趣味趣向が細分化しているのだから、年齢や職業に囚われずもっと自由に好きなものに興じていいと思います。
John
日本のクラブカルチャーで、遊び方や年齢でのセグメント、すごく分かります。若い人しか行ったらいけないような雰囲気がありますよね。
海外から日本に来た友人などに「40代くらいの大人がちょっとお酒を飲みながら会話をし、音楽も楽しめて、少しだけ踊れる、そんなお店はないの?」と聞かれますが、なかなか思いつきません。
梅澤
確かに海外の方からすると不思議かもしれませんね。
まだまだ数は少ないですが、日本にもそうした用途で使えるお店は少しずつ増えていますよ。僕自身もそうした大人向けのベニューでDJをすることが多いです。
典型的な大きなクラブではなく、個性的なDJバーやリスニングバーも日本にはたくさんあります。そういう音楽ベニューが実は海外の文化人にも高く評価されており、重要な観光資源にもなっていると思います。
John
都内はもちろん、各地方都市も含めて、もっとそのような場所が増えると観光業界も盛り上がるでしょうね。超ディープな音を流すオシャレな社交場があると、言葉や人種の壁が一気になくなり、仲良くなれるんですよね♪
5 「コロナ禍により、音楽ファンは、これまで当たり前だったライブやイベントが、いかに価値の高いものだったかということを、再認識したのではないでしょうか」(梅澤)
John
新型コロナウイルス感染症の影響もあり、今後は音楽イベントや観光のオンライン化というのも登場すると思います。
ナイトタイムエコノミーのオンライン化について、梅澤さんはどうお考えですか?
梅澤
まず、音楽やコンテンツをオンラインで配信してファンに届けるというのはコロナ以前から当たり前のものとなっていましたよね。
ではクラブに行っていた人たちが、オンラインでDJのプレイが聴けるようなイベントに参加したり、コンテンツに同じようにお金を払ったりするか? と言うと、答えはNOです。
それが日本における現時点の状況だというのが私の理解で、欧米を含めてまだ成功例は見たことがありません。
大きな要因の1つは、オンラインイベントの場合、聴覚も視覚もPC上の限られた体験でしかないということ。
リアルイベントでは、大音量で音質が良いのはもちろん、視覚の刺激も、匂いや臨場感もPC上の視聴とは桁違いです。
その結果、リアルコンテンツが3000円だとした場合、オンラインで1000円で販売しても、なかなか買ってもらえないという結果に至ってしまうのです。
ビジネスセミナーやイベントはオンラインでもそれなりの価値は提供できますが、音楽やスポーツなどエンターテイメントの分野はやはり違いますね。
John
なるほど。とはいえ、コロナ禍でリアルなイベントが開催できない中、ミュージシャンやコンテンツを提供する側に、何かできることはないのでしょうか?
梅澤
状況にもよりますが、リアルの強みを活かして付加価値を提供できれば、今後、これまで以上の価格でチケットを購入してもらうことは可能だと思います。
コロナ禍により、音楽ファンは、これまで当たり前だったライブやイベントが、いかに価値の高いものだったかということを、再認識したのではないでしょうか。
例えばこれまで3000円だったライブチケットでも、今後はもっと高い金額を払ってもらうことは可能だと思います。
リアルへ誘導するために、オンラインで擬似体験をしてもらえるような動線をつくるのも重要です。
オンラインで多くの人にお試しでイベントを体験してもらい、リアルへ誘導する。リアルはよりこれまでよりも高い金額を設定し、最高の体験を提供する場とする。そんな組み合わせになっていくでしょう。
John
なるほど。オンライン上で試し、リアルで体感したいと思ってもらえるような仕組みにしていくのですね。
個人的には、アーティストの活動を社会全体で支えるような動きも出てきてほしいと感じます。
海外では、国がアーティストを保護し、住居を提供して給与を支払っている例などもありますよね。今、日本ではビジネスばかりが取り上げられていますが、文化面で新しい価値を産み出そうとする人をもっと応援する社会になってほしいですね。
6 「世の中を変えるためにはもっといろいろなスタートアップが必要で、そのためにはいろいろな起業家が必要。ダイバーシティはそのための、当然の与件なのです」(梅澤)
John
ここまで梅澤さんのアートやナイトタイムエコノミーに関するお話を伺ってきましたが、スタートアップを支援する活動についてもお聞かせいただきたいです。
梅澤さんが手がけられた、2020年10月1日オープンのCIC(ケンブリッジ・イノベーション・センター)とは、どのような施設なのでしょうか。
梅澤
CIC Tokyoは国内最大規模の都心型イノベーションキャンパス。「日本の起業環境を劇的に改善すること」をミッションにしています。
まずはスタートアップの数を増やす、続いてGO GROBALのスタートアップを増やしたいと考えています。
また、僕たちは「スタートアップエコシステムのダイバーシティを高めたい」という想いもあるので、女性起業家・外国人起業家・外国発スタートアップのサポートをしていくというのも目指していきます。
場所は虎ノ門ヒルズの隣にできた新築ビル、虎ノ門ヒルズビジネスタワー。15・16階を使い、占有面積は6000平米以上、最大250社までの企業が入れる広さです。
2人用の部屋から50名規模の部屋まで用意していますので、スタートアップ企業の成長に合わせて、CIC内でオフィスを拡張していただけます。
CICは世界9都市に展開しており、スタート時から世界につながる場として活用いただけます。
John
現在CICに入居が決まっている企業はどのような規模・業種が多いのでしょうか?
梅澤
7割以上がスタートアップです。
それ以外は、スタートアップを支えるエコシステムのプレイヤーを想定しています。
具体的には、アカデミア、弁護士・弁理士や税理士・会計士、HR企業、VC・投資家、大手企業のオープンイノベーション部隊、さらに政府のイノベーション関連部局の出島などに入ってもらいます。
こだわったのは、現代に即したイノベーションエコシステムをつくり上げること。
例えば、シリコンバレーの初期のスタートアップは、ガレージ発のIT企業と投資家がいれば成長できました。
しかし、第4次産業革命以降ではリアルとオンラインを繋げたビジネスモデルが中心となっています。
リアルの世界にデバイスをばらまき、センサーで情報を集め、ソフトウェアで解析し、サービスという形で出力する。そのようなビジネスモデルなので、スタートアップ一社と投資家だけでは成立しないのです。
デバイスを広くばらまくためには大企業と組むことも必要だし、サービスの出力についても自動運転やドローンの飛行といった国の規制に関わってくるものが多いので、「レギュレーションを変えること」がビジネスモデルをつくる過程に必須で入ってきます。
このようなイノベーションを実現するためには、スタートアップと行政の繋がりも必要不可欠です。
そういった背景もあったので、スタートアップ・大手企業・行政などが全部集まれる場が必要だと考えていました。そんな時に、すでに世界でそうしたイノベーションの場を実現しているCICの日本参入の意図を知り、そのプロジェクトに飛び込んでリードすることになりました。
John
梅澤さん、さすが、素晴らしいお考えですね! スタートアップが成功する背景には、彼らを支えるエコシステムが欠かせません。CEOの熱意や優れたプロダクトはもちろん大切ですが、いかに良いチームを作るのかを忘れるとスケールは難しいですね。
入居するスタートアップについて、特にジャンルの制限などはないのですか?
梅澤
基本的に幅広いセクターをカバーしますが、ヘルスケア、環境・エネルギー、スマートシティ等のクラスターは初期からつくっていこうと思っています。
JETROや諸外国の政府関係機関とも連携していくことで、海外企業も積極的に受け入れていく方針です。
John
CIC Japanが目指す姿のお話の中で、「女性起業家・外国人起業家・外国発スタートアップのサポート」ということも掲げておられました。
なぜ、特に彼らを支援しようと考えてらっしゃるのでしょうか。
梅澤
イノベーション=新結合ですよね。
ということは、結合する要素の多様性が非常に重要です。
これまでの日本のスタートアップは割とBtoCのWeb/モバイルサービスが中心で、意外と同質性が高かったと思います。
僕たちは世の中を変えるお手伝いをしたいと思っているのです。
世の中を変えるためにはもっといろいろなスタートアップが必要で、そのためにはいろいろな起業家が必要。ダイバーシティはそのための、当然の与件なのです。
7 「世界中に魅力的な都市がたくさんある中で、何を磨いて発信するか。地方都市に住む人々が、自分たちの魅力について、徹底的に考え抜くことからではないでしょうか」(梅澤)
John
梅澤さん、素晴らしいですね、賛同致します。私も講演などでよく「Diversity of ideas」と伝えています。立場や育った環境が違う人同士が集まる利点は、多様なアイデアを得られやすいことにあるのではないかと思います。
また、私もスタートアップやイノベーションエコシステムによる地方創生という領域に取り組んでいるのですが、梅澤さんのお話をお伺いしていると、これは地方にも取り入れられるのではと感じています。
どのような活動をしていけば、地方でそうしたエコシステムを生み出したり、中小企業を活性化させたりして経済を回していけるようになるのでしょうか。
梅澤さんのアドバイスをいただきたいです。
梅澤
地方でできることはもっとあると思いますし、それを認識されることからではないでしょうか。
CIC Tokyoの姉妹組織として、ベンチャー・カフェ東京という団体があります。
ベンチャー・カフェはイノベーション創出のためにさまざまな交流イベントを企画・提供する団体で、過去2年半の間に115回ほどのイベントを実施し、のべ2万5千人もの方にご参加いただきました。
地方都市からも引き合いが多く、愛知県名古屋市や茨城県つくば市での定例イベントも8月にスタートしました。
そんなベンチャー・カフェのイベントの一環で、先日京都の方々とお会いする機会がありました。
その際、現地の方々が「京都には東京のような大企業がないのが弱みです」とおっしゃっていたのが印象に残っています。
僕からすると「京都のほうがよほど、世界で戦えるそれぞれの分野のドミナントプレイヤーがいるじゃないか」と思います。
さらにそういった企業の多くは、創業家が経営していてビジョナリー。東京の大企業よりも勝るものをたくさん持っています。
東京じゃないとダメなのではないか、その固定観念を取り払ってほしい。
John
なるほど。まず自分たちが自らの強みに気づくべき、ということでしょうか。
梅澤
そうですね。
世界中に魅力的な都市がたくさんある中で、何を磨いて発信するか。地方都市に住む人々が、自分たちの魅力について、徹底的に考え抜くことからではないでしょうか。
ミニ東京・ミニ大阪はいりません。それなら東京や大阪に行った方が良い。自分たちにしかないものを見つけて磨くべきです。
John
日本全国で、その土地のカラーに合ったさまざまなエコシステムやコミュニティを生み出していくのが重要なのですね。
参考にするとしても、みんな揃ってシリコンバレーを目指すのではなく、自分たちと似た属性を持った国の成功事例やその一部を取り入れてみる、そのような方法がいいのかなと、今のお話をお伺いして感じました。
梅澤
そうですね。CICも今、多くの国からラブコールをいただいていますが、それはCICがボストンモデルと言われており、シリコンバレーではない”第2のベンチマーク“となっているからだと思います。
しかし、そんなCICも日本とボストンでは大きく違います。東京でボストンの真似はできないし、それが最適解でもありません。
これは企業にも同じことが言えると思います。
大企業のマネではなく、ユニークな強みで魅力的な中小企業には、お客様も未来の従業員も集まってくるものです。
大手企業に目を向けるのではなく、自分たちは何を目指しているのだろう?何をやりたくて事業をやっているのだろう? ということを常に考えた方が良いと思います。
やりたくないことは、やめてしまってもいい。
僕はそう考えています。
John
自分達の魅力やビジョンに根ざした最適解を模索する重要性がよくわかりました。
まだまだお伺いしたいことはたくさんあるのですが、最後の質問です。
梅澤さんにとって、「イノベーションの哲学」とは何でしょうか。
梅澤
僕のイノベーションの哲学は、「本質を見る直観力」です。
物事の本質を捉えることからスタートしないと、本当に意味のあるイノベーションはできません。
本質とは、世間や業界の常識とは少しずれたところにあることが多いし、そのずれが大きいほど、大きなイノベーションの価値があります。
世間や業界の常識と本質のずれに気がついても、自分の直感が信じられないという方もいると思います。
しかし、人が作ったルールや物差しの中で競争するのは面白くないですよね。
それで勝てる人は少数で、勝てない人は辛いだけ。
まずはレールから外れて自由になることが、イノベーションの第一歩ではないでしょうか。
John
梅澤さん、本日は貴重なお話を愛りがとうございました! これからも一緒に、世界中から日本に多くの方々が働きに、遊びに来たくなる国にして行きたいですね。また、日本と世界を繋いで、スタートアップやアーティストと一緒に、より楽しい、より健やかなエコシステムをデザインしましょう! CIC設立本当におめでとうございます!
以上
※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年9月30日時点のものであり、将来変更される可能性があります。
※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。
【電子メールでのお問い合わせ先】inquiry01@jim.jp
(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)
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