かつてナポレオン・ヒルは、偉大な多くの成功者たちにインタビューすることで、成功哲学を築き、世の中に広められました。私Johnも、経営者やイノベーター支援者などとの対談を通じて、ビジョンや戦略、成功だけではなく、失敗から再チャレンジに挑んだマインドを聞き出し、「イノベーション哲学」を体系化し、皆さまのお役に立ちたいと思います。

第2回に登場していただきましたのは、「NEXTユニコーン調査」で31位にランクイン(2018年10月時点)しているMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の寵児(ちょうじ)「株式会社スマートドライブ」の代表取締役(CEO)、北川烈氏(以下インタビューでは「北川」)です。

1 「アメリカや中国のユニコーンは“目線感”が1桁も2桁も違う」(北川)

John

この対談は、スタートアップのCEOや大企業の方の「イノベーション哲学」をまとめ、今まさに活躍している人はもちろん、次の世代の担う方にお役立ていただけるのではと思って始めた企画です。北川さんがお2人目となります。

お忙しいところ対談をご快諾いただき、愛りがとう(愛+ありがとう)ございます。今日は初対面ですが、楽しくお話ししましょう!

北川

ははは(笑)。ぜひ、よろしくお願いします!

John

さっそくですが、「すごい!」と思ったことは、御社が「NEXTユニコーン調査」で31位にランクインしていることです。まずは、そこからお聞かせください。

北川

分かりました!

John

CB Insightsの調べだと、未上場ながら、企業価値が10億ドル(1ドル=110円換算で1100億円)以上のユニコーンが世界中に356社あって、アメリカでは178社で、中国では92社となっています(2019年1月時点)。

北川さんのスマートドライブもネクストユニコーンと呼ばれていますが、アメリカや中国にユニコーンが集中している現状についてどのようにお考えですか?

北川

実際に我々も去年深センに出張所を開設したので、現地のユニコーン企業と話す機会もあります。そこで強く感じるのは、アメリカや中国のユニコーンは“目線感”が1桁も2桁も違うということです。上場を急がずに、未上場のうちから数百億円の売り上げを達成し、ユーザー数も数億人を獲得するというレベルでチャレンジしています。

John

確かにすごいですね。そのあたりも深センを選んだ理由なのですか?

北川

深センを選んだ理由は2つあります。1つは、我々の事業が、中国もそうですが、東南アジアと相性が良いことです。我々は車からさまざまなデータを集めていますが、それを活用すると渋滞の解消などに生かすことができます。東南アジアにはまだ渋滞が激しい地域が多いので、相性が良いのです。

John

なるほど。確かに東南アジアは相性が良さそうですね。渋滞の解消もできたら最高です。

北川

はい。もう1つの理由は、先ほど申し上げた“目線感”が違う環境に我々も身を置きたいということです。現地(深セン)のスタートアップは「中国でNo.1になれば、世界でもNo.1!」といった発想でビジネスをしています。創業5年など、我々と同じまだまだ若いスタートアップでも、従業員が数千人、資金調達も数百億円以上などを実現しており、実際にユニコーンになっている企業が何社もあります。そうした中で刺激を受ければ、我々の“目線感”も高いところで維持されますよね。

John

素晴らしいですね。先端の環境に身を置くことは、とても大事です。北川さんにとって深センが大きな意味を持つことはよく分かりました。そうした深センに行くきっかけをつくってくださったアドバイザーはいらっしゃったのですか?

北川

もともと「深センって面白いな」と思ってはいました。そのうち、当社の株主であるFoxconn(フォックスコン)がオフィスを深センに移したり、別の株主である産業革新機構(現INCJ)と、日中経済連盟のイベントに参加するため深センへ行ったりと、いろいろとご縁がつながって、深センに決めました。去年(2018年)のことです。

John

最近のことなのですね。現地には何回ほど行って決めたのですか?

北川

それが1回行って、その場で決めました(笑)。今は、オフィスを間借りさせてもらっているので、自社オフィスではないのですが。

John

北川さん、即断即決とは素晴らしい行動力と決断力ですね。ところで、中国での会社登記は、かなり大変だと聞きますね?

北川

はい、大変です。深センに限ったことではないのですが、中国の外資規制では、外資が50%以上を持てないことになっています。それから、お金を引き出すのが結構大変だったりもします(笑)。

John

となると、中国の方との共同出資になりますか?

北川

はい、その通りです。ただ、中国には資本以外にもデータを海外のサーバーに持ち出せないなどの規制もあって、最近は東南アジアの別の地域に出ることも検討しています。

John

それは素晴らしいですね。私は4月にマレーシアに行きましたが、ライドシェアにとても活気がありますね。スマートドライブがGrab(グラブ)やUber(ウーバー)など、ライドシェアのサービスとアライアンスを組む可能性については、どうお考えですか?

北川

我々の事業は、基本的に車から集まったデータを解析してさまざまなインサイトを出すので、車がどこにあるのかを管理したり、事故リスクに応じて毎月保険料が変わる保険を設計したり、車の価値の毀損に応じて毎月リース料を変えたりなど、データに基づいたサービスが提供できます。

John

なるほど。

北川

そのため、ライドシェアのようなサービスを全てスマートドライブの名前でやるというよりも、ライドシェアだけではなく「移動」に関するサービスの裏方に回って、解析したデータを提供するというポジションもあると思っています。

2 「まだやっていないことを急に別の地域でやるよりも、我々の強みを生かせるビジネスを展開したい」(北川)

John

今、ライドシェアは世界的にも新規参入が多いですよね。どの会社と一緒にやるのがよいなど、お考えはあるのですか?

北川

やはり東南アジアに可能性を感じます。Uberなど欧米のサービスは基本的に、元タクシードライバーがライドシェアのドライバーになるケースが多いのですが、東南アジアでは何の仕事もしていなかった人が、「Grabのタクシードライバーになると稼げるぞ!」ということで、借金をして車を買ってドライバーになるケースもあります。実際、ドライバー数はどんどん増えています。そうした地域のほうが、車の状態や運転の評価などに関するデータを使ったビジネスが展開しやすいのではないかと思います。

John

なるほど。また、ユニコーンになるには100億円、200億円の調達をしないと1000億円の価値に成長するのは難しいと思いますが、この点はどうお考えでしょうか。

北川

そうですね。我々は今30億円弱ですね。

John

これは、日本だったら「わー、すごい!」「ネクストユニコーン」ということになりますが、グローバルにスケールしていくには、お金の面でいえば、一気に100億円を入れてくれる人が必要じゃないですか。

北川

そう思います。もちろん調達額が全てではありませんが、深センのベンチャーがあれだけ一気に成長できるのは、ある意味、利益度外視で投資できるキャピタルがある点は大きいと思います。深センのベンチャーだと、それこそ数百億円集めてやっているので、そういう出し手がいるというのは、やはり日本とは違うのかなと思います。

John

今後、そういう規模を狙っていくのでしょうか?

北川

調達するお金だけではないですが、深センに拠点を設けているのには、事業拡大に向けてさまざまなオプションを検討したいという意味合いもあります。香港などは、やはりファイナンスとしてもとても機能しているエリアですしね。

John

今後の目標は、どうお考えですか?

北川

ケース・バイ・ケースです。早めに上場すればお金が集まりやすいのはありますが、上場時期を含めていろいろな選択肢についても常に考えています。大事なのは事業を本質的に伸ばすための意思決定をしていくことかと思います。

John

社員や日本の株主はどのように思っているのでしょうか。さまざまなところが株主になっていますよね。

北川

はい。我々はかなり恵まれていると思います。(株主は)早く小さく上場するよりも、事業価値を最大化することを応援してくれているので、そうした意味では、「上場圧力」が強いわけでは全くないですが、事業を拡大させていく上でIPOなり、そういうものはいつかのタイミングで必要になると思っています。

John

なるほど。今、グローバルに見ると、スマートドライブのコンペティターは4~5社くらい存在するように思いますが、いかがですか?

北川

グローバルでいうと、一部はかぶるものの、“ド競合”はあんまり存在しないという認識です。

もともと、僕が創業したときですら車に制御ポートにデバイスを付けて、「健康診断します」といったアプリを開発している会社が海外で10社以上ありました。でも、それは、BtoBで展開したほうが普及するのではないかと思ったのが発端です。今の我々のように、プラットフォームを展開していて、日本や東南アジアに強みを持っている会社はほとんどないと思います。思い当たるのは1~2社くらいでしょうか。

John

東南アジアでのサービスは、まだ展開されていないですよね?

北川

今年(2019年)から始める予定です。

John

おぉ~、それは素晴らしいことですね! そういったときのローカリゼーション(局地化。その地域やエリアに最適なビジネスを展開)は、どのように進めていくのですか?

北川

まずは現地のスタッフを雇うことですね。東南アジアは日本の企業のプレゼンスが非常に高いので、現地の日本企業が日本語でサービスを使いたいというニーズが結構あります。

John

あぁ~、いいですね。

北川

それから、我々はリスク分析をしてダイナミックに保険料を変えるような場合も、自分たちが保険を設計するのではなく、「アルゴリズムを保険会社に提供する」という裏方のポジションです。だから、現地語に翻訳する必要がないという部分もあるのです。

John

例えば、Grabとの連携で考えられていますか? Grabはソフトバンクの資本も入っているので、いろいろと話がしやすそうですよね。日本人のメリットですね(笑)。それから、Lyft(リフト)は、楽天が筆頭株主ですよね。

ただ一方で、Uberも既に150カ国以上に進出していますよね。可能性がある会社はたくさんありますが、やはりUberの規模は“半端じゃない”ですね。

そうした意味では、どことアライアンスを組むかは重要な判断ですね。

北川

そうですね。さまざまな可能性がありますが、やはり我々に地の利があるのは東南アジアだと思います。

John

東南アジアの拠点はどちらですか? やはり深センですか?

北川

深センももちろんそうですが、他にも候補があります。例えば、タイなど車が多い地域は好ましいですね。逆に、インドネシアやベトナムはバイクも多いので、検討するのはもう少し先のフェーズになるかもしれません。

John

スマートドライブのサービスを、バイクで使うことはできないのですか?

北川

いえ、できるのですが、少し使い方が違ってくると思います。まだやっていないことを急に別の地域でやるよりも、我々の強みを生かせるビジネスを展開したいですね。

3 「ユーザーの生の声をどのように拾っていくかが大事」(John)

John

データを使って渋滞が解消されたら素晴らしいですね。北川さんもシリコンバレーに行かれたことがあると思いますが、毎日、渋滞があります。あの渋滞は、どうすれば解決できると思いますか?

北川

シリコンバレーは少し毛色が違いますが、例えば日本の場合だと、皆が同じところに行くので、移動が集中して渋滞の原因になってしまいますよね。

John

なるほど。分散させればよいということですね。

北川

そうです。例えば、我々の得意とするデータ分析技術は、混雑などのピーク分析と相性が良いですので、「このまま進むと渋滞するから、ちょっと遠回りだけど、こっちの道から行ったほうが早く着きますよ」と伝えて分散すれば、ある程度、渋滞は回避できると思います。

John

日本では都心に住んでいると渋滞をイメージしやすいですが、一方で鉄道のインフラが機能しているので、世界的に見ればそこまでひどい渋滞ではないですよね。それに比べて、ベトナムやマレーシアの渋滞はかなりですよね。あれも解決できるのでしょうか?

北川

できると思います。

John

それができたらすごいですね! そういうサービスも展開されていくのでしょうか?

北川

日本では渋滞の予測をしている組織があって、そうしたところに我々のデータを提供したりしています。こうした取り組みはどんどん進めたいですね。

John

他にも何か応用できそうな気もしますが。

北川

はい、実際にそれに近い話があります。当社の株主で日本GLPという物流施設を持っている会社があります。日本、ブラジル、中国、インドではシェアNo.1です。

物流施設では、バースと呼ばれる荷物を積み卸しするスペースが混みます。なぜかというと、今は荷物を積むのも卸すのも早い者勝ちというルールなので例えば朝一などにトラックが一斉に倉庫に来てしまうからです。それをまずは現状の混雑状況を可視化しつつ、各々の倉庫の状況に合わせた形でバースの予約という方向に導いていくサービスをリリースされているのですが、そこに当社の技術を組み合わせて、物流施設に着くとチェックインを自動で行なったり、将来的には混雑を予測して、「今行くと混むから、ちょっと待ったほうがよい」といったように通知できるようにしていこうと思っています。

John

おぉ~、すごいですね。リリースされたサービス名は、何というのですか?

北川

「トラック簿(ぼ)」といいます!

John

分かりやすいネーミングでよいですね!その「トラック簿」に、スマートドライブの技術が生かされているということですね。素晴らしい。

北川

ありがとうございます!!

John

あとは、大きな規模の会社と協業する場合には、ユーザーの生の声をどのように拾っていくかが大事ですね。

北川

それは、大きなテーマですね。「トラック簿」もそうですが、我々は裏方に回ることが多いので、フロントは物流施設や保険会社、リース会社になります。そうしたフロントの会社に、ある意味、第三者的に声を吸い上げていただき、それを参考にして、さらに開発する感じですね。

4 「意思決定は、どちらを正解にしたいかという想いが大切」(北川)

John

「トラック簿」は、先方が提案してくれたのですか?

北川

いえ。「トラック簿」は、一緒にアイデアを出しました。

John

すごいですね。新しい会社との協業というのは、当然ながら経験がないわけじゃないですか。どこと組むかというのは大きな決断だと思いますが、そうした決断力はどこで養われたのですか? やはり、親御さんの影響が大きいのでしょうか?

北川

そうかもしれません。

John

北川さんのお父さまは、グラフィックデザイナーでしたよね。ご商売されている家系で育ち、見えないものに対してどんどん決断をしていくようになったということなのでしょうか。

北川

まぁ、「自由な家庭」だったことは確かですね(笑)。

John

私も親が商売をやっているので分かります。見えないことも決断して、だんだん形になっていくものですからね。

今の北川さんを形成した、生い立ちや幼い頃のエピソードなどはありますか? 例えば、「自由な家庭」の「自由」というのは具体的にどういうことなのか、気になります!

北川

まず、何かを「ダメ」と言われたことがありませんし、「こういうことをやりなさい」と言われたこともありません。自分で決める癖があったので、あまり人に相談したことがありません。大学院に行ったときも、留学したときも、会社をつくったときも全部そうですね。基本的に全部自分で決断してきたのですが、そうした決断力が身に付いたのは親のおかげなのかもしれません。

John

大切なことを自分で決めてきたのですね。すごいな~。今は、会社の方々や、株主さんに相談されているのですか?

北川

もちろん関わる人には相談します。ただ、「どうしたらいいと思う?」といった相談はしないですね。「こういうことをやろうと思いますが、どうですか?」といった感じです。あくまでも、自分で決めていると思います。

John

メンターやアドバイザーはいらっしゃるのですか?

北川

決まったメンターはいませんが、その都度詳しい人に聞いています。

John

シリコンバレーの Y Combinator (Yコンビネーター。シリコンバレーに本拠地を置く世界No.1の実績を誇るアクセラレーター)に出資しているエンジェル投資家のロン・コンウェイ氏が「投資をするときに一番大切なのはチーム! チーム! チーム!」とおっしゃられており、そのチームの中でもメンターの存在がとても大事だと言っています。シリコンバレーのスタートアップのピッチデック(プレゼン資料)を見ると、CEO、CTO、CFO、CMO、COOの5人が記されており、そこにメンター陣がいて、各分野のアドバイザーとなっていますね。

もしかしたら、これからそうした人とのつながりが大切になっていくかもしれないですね。さらにグローバルにスケールするとき、中国のアドバイザーでありつつ、さらに技術的な面でアドバイスができるとか。

北川

そうですね。そういう意味では業界や分野に特化したスキルを持っている方に、アドバイスを求めるということは結構あります。

John

今までさまざまなことをご自身で決断される中で、どちらに行くか、つまりAかBか、はたまたCかDかEか。これを決める、いわば決断のポイントはあるのでしょうか?

北川

感覚なのですが、意思決定にはあまり差がないと思っています。皆さんもそうではないかと思うのですが、迷うのはだいたい48対52のような選択肢じゃないですか。「48だと思っているけど、もしかしたら55くらいになるかもしれないな」というような話なので、どちらが正解なのかは、正直に言えば、あまりないと思っています。

それよりも、自分がどちらを正解にしたいのかという意思が大切だと思います。「今は40だけど、これから70にしたい」と思えるかどうかという感覚で決めていますね。

John

そうした意思決定に後悔はないということですね。

北川

そうですね、「こうしておけばよかった」というのはないですね。

北川氏の画像です

5 「僕は『移動』がサービス業になると思っています」(北川)

John

次は起業のきっかけについてお伺いします。ボストンへ留学に行かれてましたよね。そこで起業のきっかけがあったのですか?

北川

学部のときに海外を見てみたいなと思って、ボストンに1年間だけ交換留学に行きました。ただ、そうした制度はなかったので、行きたかった大学の教授に頼み込んで、1年間、籍を置かせてもらいました(笑)。

John

何を学ばれたのですか?

北川

コンピューターサイエンスです。その後、東大の大学院に行っても感じたのですが、研究というものは、社会に実装されるまでが長いのです。もちろんそれはそれで素晴らしいのですが、僕は研究のように完全にゼロから何かを生むよりも、「あるものをより広げる」とか、「何かエッセンスを加えて新しいものをつくる」とか、そういうほうが向いているなと感じました。だから、研究者ではなく、事業をやることにしたのです。

John

勉強以外に海外で学んだことはありますか? 印象に残っていることなどがあれば教えてください。

北川

強く印象に残っているのは、とても頭が良い同級生に関することです。彼は「こういう研究をしたい」と言って、いつも、ホールの入り口の椅子に金曜日の夜からずーっといました。そして、寝ないで、金曜日の夜から月曜日の朝までやりたいことに没頭するのです。それで月曜日の授業は全部休むのですが(笑)。

そういうことを別に誰もとがめないし、だからといって単位をもらえないということもなくて。素養がある人をひたすら伸ばそうとするようなところはありましたね。

John

素晴らしいですね。天才を、ちゃんと天才として扱う。アーティストみたいな感じですね。そこは日本とは全然違うかもしれませんね。

北川

そうです、そうです。その人が何を生むかは分からないのですが。

とにかく、「1つのことにガーッと取り組んで、他は何もしない」という人にはかなわないと思う経験でしたね。

John

なるほど。北川さんが研究者ではなくて、ビジネスパーソンになろうと思ったのも、そうした経験が影響しているのでしょうか?

北川

研究というものは要素がとても限られているというか、やはり「本当に世の中にないものをつくり出していく」という孤独に対する覚悟や、才能は、僕にはあまりないなと感じました。しかし、ビジネスは “総合格闘技”のような面があるので、一つ一つのスキルがそれほど高くない僕でも、何かを言い続けていたらできるかもしれないと思いました(笑)。見えないものをうまく形にしていくような総合力の勝負だったら、僕が出せる価値もあるかなと思って。

John

何年くらい先まで未来を見ていますか?

北川

うーん。面白いのが、(起業したての)当時は5年、10年先を思い描いていました。実際、事業を進めていくと、「なんか面白いやつがいるぞ」ということで、次々と情報が入ってきましたし、いろいろな機会もいただきました。そうすると、より先のことが思い描けるというか、解像度が上がっていく感じなのです。そういう意味で考えると、「何年先」という明確な期間はないですが、実際にビジネスを進めていくことでより先が見通せますし、より解像度が上がっていく感覚はありますね。

John

私自身、CBインサイトやマッキンゼーなど、未来を予測する情報がありますけど、そうした情報を見るのが好きで、パリやイスラエルの交通はどうなるのかと想像して楽しんでいます。去年イスラエルに、ある有名な投資家の先輩と行ったときに、ジェフリーズというニューヨークの証券会社がやっているイベントに参加しました。そのとき、GMはいるしUberもいるし、有名な会社のエグゼクティブクラスがイスラエルまで来て、同じパネルで未来のモビリティについて語っていました。モビリティの仕事をしている人が同じパネルで語ることって素晴らしいじゃないですか。日本もこういうふうに大企業、スタートアップ問わずに同業者、ライバルなどと語り合ったらよいなと感じました。

でも、当たり前ですが、結局、どんなにすごい方々でも、2030年とか2050年といった未来は分からないのですよね。

北川

そこも海外留学で1つ学んだことがあります。僕が留学していたのは技術系に強い学校なのですが、未来を予測しすぎるなという校風がありました。未来のことは自分で考えて創っていくという発想です。別の切り口でいうと、皆がこうなるだろうという未来が実現されると思っています。未来ありきというか、「皆がそう思ったら、実際に未来はそうなる」という世界があると思っています。

John

それは、すごく深い考えで素晴らしいですね。

北川

例えば、ロボットと聞いてイメージするのは「ドラえもん」だったりしませんか? それは、皆が小さい頃から目にしていて、ロボットといえばドラえもん、という世界が来ると思っているからですよね。これって少なからず実現すると思っています。ドラえもんは1つの例ですが、僕は「こういう世界ができたらいいのではないか」というものを、ちょっとずつ啓蒙していけるといいなと思っています。

John

そういう意味でいうと、車、バイク、公共の乗り物、PMV(パーソナルモビリティ・ビークル)の可能性ってどうなのでしょうか。私の故郷は下関なのですが、地方は1人に1台の軽自動車がありますね。4人家族なら一家に4台も車がありますが、移動手段として必要なのです。ただ、軽自動車じゃなくてもいいかもしれないとも思います。もっと小さくていいし、その人その人に合ったオーダーメードの車があったらいいですよね。

北川

はい。そう思います。

John

東京であれば、タクシーがたくさん走っているからUberはいらないかもしれないですよね。ただ、決済の面とか、ルートの面とかこれから変わるところはあるかもしれません。電車もそうですよね。インフラとしてはいいのですが、たくさん路線があって大変です。こうしたものがもっと便利になればいいと思う一方で、大切な人的サービスもある。この前、知り合いが電車の中で体調が悪くなったのですが、車掌さんが本当に丁寧に対応してくれました。逆に、こういう人的サービスはUberにはないかもしれないですね。緊急事態の対応を学んでいるプロというのは、やはり安心です。

北川

僕は「移動」がサービス業になると思っています。例えば、自動運転の技術が本当に確立されたら、移動という体験自体にそれほど差は出ないと思います。渋滞もどんどんなくなっていくでしょう。

そうしたときに、なぜトヨタの車を買うかといえば、車内がとても快適だったり、サービスが充実していたりということで選ばれると思います。ホテル選びに近づく感じですよね。移動は、空間とか体験を売るサービスになるということです。

6 「AIの会社が車をつくる時代になっている」(John)

John

そもそもなぜ「移動」に、一番、人生を懸けようと思ったのですか?

北川

「大きいテーマをやりたい」という思いが根底にあります。それから、僕自身、移動に対する苦痛があります。朝の通勤・通学ラッシュ、車の渋滞とかが苦手です。乗り物に酔ったりするので、あまり車に乗りたくないというのがあります。人類は移動に結構な時間を取られていますが、そこの苦痛は取り除かれていないなと思いました。

それが、今後、何十年先かもしれないですが、コネクテッド化や自動運転で移動が大幅に良くなりそうですね。そこにスマートドライブが存在することで、そうした変化のスピードが上がり、より素晴らしいサービスが実現されたら面白いなと思っています。

John

それは素晴らしいですね! 渋滞の解消やサービスももちろんですが、もう1つ大事なのが高齢者の事故の問題です。自動運転が進めば、高齢者の方が運転しなくてもよくなりますね。

北川

自動運転の技術が進めば、そうなりますね。ただ、それはかなり先でしょうね。それと、完全に自動運転される車に突然シフトするわけではなく、今のように人が運転する車と混在する期間がありますよね。

John

完全に自動運転できる車、そこまで進化したら最高ですね。

北川

そうなると、移動が移動ではなくなるというか、この空間というか、部屋がそのまま移動する感覚です。移動がサービス業になって、やはり体験や、ブランドが大事になりますよね。

John

最高に楽しいですね! 去年、パリのVIVA Technologyで見ましたが、AIの会社が140億円くらい調達して車をつくっていました。それに試乗させてもらったのです。中は会議室みたいになっていました。中央にテーブルがあって、4人で乗って、おしゃべりもできる。こんな素晴らしいものをつくった人がいるのだなと思いました。しかも、AIの会社が車をつくる時代になっているということを感じました。

北川さんは、今、世界で注目している会社などはありますか?

北川

自動車をつくるところは、やはり自動運転のアルゴリズムをつくる会社がたくさん出てきているので、どこが勝つかなと思っています。ただ、アルゴリズムが競合優位性の領域では、結局、大きいところがより勝ちやすい世界かなと思っています。例えば、画像認識などのAIやディープラーニングの技術なら、どれくらいのデータを集められるか、優秀なエンジニアを採用できるかが肝なので、GAFA以外が勝つのは本当に難しいですよね。そうやって考えると、僕は例えばライドシェアでいえば本命はUberだと思っています。

John

なるほど~。ところで、「移動」に人生を懸けている中で、資金調達での苦労話などはありますか?

北川

我々の事業はデバイスもハードウエアもつくっていきますので、初期に資金が必要で、売り上げが立つのが結構先だったりします。よくある“死の谷”が深いのです。売り上げも立っていないのに、より大きな資金が必要になり、その資金を正当化するには、ある程度のものをつくらなければならなくて。そのギリギリのところで、個人でお金を借りて、数千万円をつなぎ(資金)で入れたこともありますし、初期の段階は特に苦労しました。そうした状況でしたので、創業から2年くらいは給料がほぼゼロでした。

John

(個人で入れた)数千万円はどのように工面されたのですか?

北川

知人から借りたりしました。増資など守秘義務に関わるところは社外の人には言えませんので、「もう、とにかく理由は言えないけど貸してくれ!」という感じで(笑)。

John

それは返せたのですか?

北川

はい。その後、資金調達がうまくいきましたので、しっかり返すことができました。

John

やはり、皆さん、そういうご苦労がありますよね。それで、これならいけるなと、死の谷から抜け出し始めたと感じたのはいつごろですか?

北川

ちゃんとしたパートナーや、実際に我々の製品を使ってくれるクライアントが付き始めたときですね。絵に描いた餅ではなく、実ビジネスとして認めていただいて、優秀な人も入ってきてくれて、資金も集まってきた。ただ、そうなったのは、本当に少し前のことです。もちろん、創業メンバーや、社員にも支えられました。

John

本当にチームの存在は、とても大切ですよね。北川さんのリーダーシップがあって、たくさんの素晴らしい方々がジョインされて、今後ますます楽しみですね。

北川氏と森若氏2人の画像です

7 「『愛』があれば自然にイノベーションが起こる」(John)

北川

僕もJohnさんにぜひ、お聞きしたかったことがあります。Johnさんの、グローバルイノベーション創出という発想は、どこから生まれたのですか?

John

やはり、日本を爆発的に良くしたいことですね。豊かさを取り戻すためには、「愛」しかないと思います。今は、日本でもスタートアップや起業が盛んになってきていますが、本当は、「愛」があれば自然に起業家が生まれ、世界をより良くするイノベーションも起こると思います。加えて、正しいリーダーシップや決断が必要ですが、そういうものが失われている気がします。となると、やはり日本に必要なのは愛のあるイノベーションと思うのです。

北川

なるほど。「愛」あるイノベーションですね。

John

イノベーションを誰が起こすかといえば、すぐに思い浮かぶのは若者ですが、それだけでは大きなイノベーションを生み出せないということに気付いて、大企業のオープンイノベーションやアクセラレーター、インキュベーターなどエコシステムを整えようとしています。

日本国内だけで見れば整っているように思えますが、グローバルなアクセラレーターやアントレプレナーシップの教育をできる人がいなければ、若者や子供がグローバルに育つことはない。となると、(海外に)出ないといけないですよね。出なければいけないというのは、義務ではなくて、2~3カ国に住むのが当たり前という感覚です。

私自身も経験しました。19歳からオーストラリアに単身留学で7年半いましたが、やはり、イノベーションを起こすのはアメリカが中心なのだな、と気付きました。1から100にするのがハーバード、ゼロイチはシリコンバレーであることも分かりました。ハーバードのエグゼクティブコースやスタンフォードやバークレーのVCコースに行ったり、アクセラレーターに直談判して入れてもらったりしました。

北川

Johnさん、すごい行動力ですね! シリコンバレーだけではなく、他の地域も見ているのですか?

John

やはりグローバルにスケールする大切さが分かったのですが、シリコンバレーだけ学んではいけないと思って、イスラエル、フランス、フィンランド、エストニア、中国、ルクセンブルクなどに行き始めました。ルクセンブルクは1人当たりのGDPが世界1位なので、最終的な国策や経済的な戦略について学び、将来的には政府のアドバイザーといった存在になりたいと思っています。また、そういった目線で日本を復活させることが私の原動力です。

世界中の人がほどほどに生きることができる社会というのは、自分自身が起業家になって、コーファウンダーやコーメンバーがいて、一緒にコアとして働く社会ができたらすてきなのではないかと思っています。

北川

なるほど。とても素晴らしいですね。

John

りそコラ(りそなCollaborareの通称)のようなメディアを通してスタートアップの人たちと話す中で、実ビジネスのトップ層にもどんどん近づいていくことができると思います。それで、そうした人が集まってパネルができたらすごいことだし、グローバルに日本人のプレゼンスを上げていくことにもつながると信じています。“グローバルジャパニーズ”を増やしたいですね!

北川

ぜひ、やりたいですね!

John

私たちは、日本人であることも大事にしたい。華僑というのは世の中にたくさんいるので、私たちも“和僑”を世界に広めたいですね。アメリカでの日本人プレゼンスを上げて、日本人が絡むスタートアップをシリコンバレーから世界中に展開できるような、そういう体制を早くつくりたいです。

何か楽しいことや、大きな偉業を成し遂げたい。100年後、1000年後に、「ああ、クレージーJohnっていう面白いやつがいたな」というふうになれたら最高ですね!

北川

Johnさん、素晴らしいですね!

John

1人だけが目立つ時代ではなく、同じ会社だけでなくてもいいので、皆で変えていけるような良いコミュニティーをつくりたいですね。見えないけれど勝手につながっている、それが本当のエコシステムだと思いますし、外国人もたくさん入ってきてもよいでしょう。そうした社会にしたいと思っております。

森若氏の近影です

8 「99%を愚直にやりきった残りの1%にイノベーションがある」(北川)

John

対談も終わりに近づいてきました。最後に、ぜひ、北川さんの「イノベーションの哲学」についてお聞かせください。そもそもイノベーションとは何か、なぜそれを起こさないといけないのか。いわば、ご自身の中にあるパッションですよね。

北川

そうですね。他の方もおっしゃっていることですが、僕にとってイノベーションとは、何か新しいものが天から降ってきたというよりも、99%は既にあるもの、他と変わらないものです。それで、「99%を、普通の人よりも愚直に、精度をものすごく高めてやりきる」。これができて初めて、残りの1%に、自分と違う領域の人たちから学んだことが生かされると思います。

例えば、グラフィックデザイナーである父は我々のビジネスとは全く関係ないですが、学ぶことはとても多かったです。他にも、服をつくっている知人、音楽をやっている知人などから学ぶこともありました。

そうした本質的なところを別の角度から見るときに、自分の専門領域に新鮮な形で還元されるという体験があります。全然違ったエッセンスがたまたま融合して、とんでもない成果になったり、我々にしか創造できない価値になったり。それが事業のコアになったこともあります。

John

素晴らしいですね。99%を愚直にやりきった先にイノベーションが見えるということですね。マラソンレースというか長距離の障害物競走みたいですね。そして、この対談記事を、北川さんのお父さまがご覧になったら、きっとお喜びになりますね!

北川

ありがとうございます。父も喜ぶと思います(笑)。

John

いや~、イノベーションフィロソフィー対談の2回目も、素晴らしいお話をお聞きすることができました! 北川さん、愛りがとうございます!

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年6月18日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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