コロナ禍によって新たな課題に直面し、今後の成長の在り方を模索している企業も多いのではないでしょうか。
今回は、株式会社RE-Engineering Partners 代表の稲田将人氏をお迎えして、コロナ禍の下、そしてその後に企業が成長し続けるための組織マネジメントについて話を伺いました。
稲田氏は、豊田自動織機製作所(現・豊田自動織機)の自動車事業部にて、トヨタ車の工場における生産指示を行うシステム開発に従事し、その後、マッキンゼーに勤務後、アオキインターナショナル(現Aoki HD)、ワールド、ロック・フィールド、卑弥呼、日本コカ・コーラをはじめとする数多くの企業にて社長、事業責任者として、売上V字回復、収益性強化を実現してきた企業改革のプロフェッショナルです。事業の再活性化、V字回復を請負うコンサルタントとして独立後には、ベストセラーとなった
『戦略参謀』
『経営参謀』(共に日経ビジネス人文庫)や
『戦略参謀の仕事』、直近では
『経営トップの仕事』(共にダイヤモンド社)、
『PDCAマネジメント』(日経文庫)など多数の書籍も執筆されています。

1 コロナ禍によって、いくつもの課題が表面化した多くの企業

コロナ禍により、事業の環境や就労環境が変化しました。
ネットワークを利用した環境でも、多くの職場ではリモートでも仕事が十分に回ることが明らかになり、ある意味、コロナ禍によって「未来の仕事のスタイル」に向かって背中を押されました。
しかし、変化は常に、見えていなかった課題も顕在化させます。リモートワークの初期の頃には、部下が目の前からいなくなった上司が、家で仕事をしている部下に電話をかけてきて、仕事の邪魔をして困ると言った声も聞かれました。
「対面していない状態で、どのように社員を評価すればよいのか。それだけではなく、そもそも自社のマネジャーたちは、部下の業務の何を管理していたのか」と頭を抱えた経営者もいるはずです。
もともと、製造業を中心に日本企業がグローバルに大躍進していた70-80年代の企業内の上下のコミュニケーションは、少なくとも今よりは、しっかりとなされていました。そして当時、多くの日本企業が取り組んだTQC(Total Quality Control)活動により、業務上の問題解決のためのコミュニケーションの質を上げる様々な作法も工夫され、社内が一丸となって事業に取り組んでいました。
ところが、最近、日本企業内でよく聞かれるようになった「落とし込み」の言葉に象徴されるように、「(本部が)決めたことを(現場に)やらせる」と、例え説明会の開催を伴なっていたとしても、基本的には一方向の指示がなされる場合がほとんどです。そしてマネジャーも、目標数値や指示を伝え、後はやらせることが自身の役割だと錯覚し、肝心の現場の体感を通した確認や部下の言い分をしっかり聴き、担当部門の現場の実態を的確に把握する努力を結果的に怠るケースが増えてきています。
これは、欧米式のマネジメントの方法が正解であると説いた書籍やコンサルタントにより、欧米式マネジメントスタイルを、「組織図上の上位にある部署が決めたことを現場にやらせること」であると、その振舞い様式の真似だけが広がったためです。欧米式のマネジメントのもとでは、指示を「やらせる」場合には、指示をしたマネジャーがすべての責任を負います。よって、自身の指示内容が適切かどうかまで確認し、実態を確認しながら、指示内容の修正も含めて責任を持って部下や現場を動かして成功に導くことになります。
ところが、その皮相的な理解のみで、一方的に言って「やらせればいい」とのスタイルが、日本企業に蔓延してしまったのが今日の姿なのです。

2 日本企業で、成果主義評価制度がうまく機能しない理由

さて、コロナ禍の中、部下の仕事をしている姿を目の前で見ることのない、このリモートワーク環境で、成果主義の評価制度の導入を考えるトップもおられたと思います。
しかし、安易に「成果主義」の導入を行うと、深刻な弊害を伴うことは忘れてはいけません。
元々、成果主義評価の考え方は、優秀なマネジャーに、より多くのスタッフをつけ、そして予算という経営資源を使える権限を与え、より多くの成果を期待するという、人に任せる「人治」式マネジメントが前提にある米国で生まれました。「人治」式のマネジメントの下では、上長の好き嫌いが評価に色濃く出てしまうため、客観性のある評価指標を設定する必然性がありました。
一方、日本では前述のように、60-70年代のTQC活動の流行以降に米国式の経営手法が有効と考える風潮ができ、さまざまな米国式マネジメントの方法が企業に取り入れられました。しかし、アメリカ企業と日本企業では根底にある文化に大きな違いがあります。
例えば、アメリカの文化の下では個々の社員が、自身のイニシアティブの発揮を重視します。片や企業側は株主からの、株価の上昇、高配当の要求にこたえるために、事業の発展性や収益性を優先させます。そして、損益状況が好ましくない部門などにも利益確保のために、人員削減を促すことも当たり前のように行います。
それに対して日本の場合は、イニシアティブを前面に出して強く主張するタイプの人は少なく、また、企業側もできるだけ人材を経費扱いしないようにして、多くの企業は人材の雇用を維持しようとします。
かつて日本で、「利益の管理が容易になります」と経営効率化のためのITパッケージ、皆さんもご存知のERP(Enterprise Resource Planning、企業資源計画)の販売がなされました。当時、この触れ込みに乗って高価なERPを導入した企業は多く、このシステムを使うと経費項目も仕分けされて、部門別の収益が「見える化」されます。しかし欧米企業では、部門の利益を確保するための打ち手は、手っ取り早く「人切り」です。例えば、ある事業部門での四半期単位での利益目標が達成されていなければ、さっさと人を解雇するように指示が出ます。このシステムを導入しても日本企業の場合は、利益確保のための人切りなどできるわけもなく、結局、高い買い物をしただけで終わった企業もありました。

成果主義の評価制度を単純に導入すると、まず、数字の評価ばかりに意識が向き、本来、日本企業の強みであった、仮に上からの指示が漠としていても、現場サイドで全体最適の視点で、顧客のことを考えて動こうとする文化を壊します。この、成果評価を指向して企業内のエゴイズムの蔓延を促進する事態は70-80年代に欧米でも起き、当時、「欧米病」とも呼ばれました。欧米であれば、イニシアティブが発揮されて「それでいいのか」と声を上げるものが現れますが、日本の従業員の多くは黙ってそれに従ってしまいます。また日本企業の特徴として、事業が停滞状態にある局面などでは、減点評価を恐れて「100点を狙って失敗するリスクを取るよりは、無難に前例踏襲の施策を選んで80点をとろう」と、よく言えば堅実に、言い方を変えれば消極的な選択を行う社員やマネジャーが増えます。
欧米と日本では、さまざまな点で経営やマネジメントの背景にある文化が異なるため、それを考慮せずに成果主義の評価制度を導入してもうまくはいきません。
「(上長が)数字以外もしっかりと見て評価する」というのが正しいあり方です。欧米企業では例えば、「成果の評価の比重は80%。それ以外に、将来のための組織開発や社内活動の貢献などを20%とする」などと明示するのが一般的です。
成果主義評価が拡がる時期の人事系コンサルティング会社の中には、あたかも数字ですべての評価を行うことが推奨されるがごとくに指導をしていたところもあるようです。おそらく人事部の担当者との制度の詰めの作業を通じて、上長による曖昧な判断の余地をなくす方向に着地したのだと思いますが、この20%をしっかりと行えるのがマネジャーのマネジャーたる由縁のはずなのです。それがある程度のレベルでもできないうちは、成果主義の評価制度などは導入を見合わせるべきだったのですが、当時は経営側に、バブル崩壊後の人件費コントロールの目的が腹にあったため、人事部が拙速に導入を進めてしまったのでしょう。
かくして、成果主義のみの評価基準に則り、仮に短期的に数字を上げたとしても、自身の評価につながらない中長期的な課題や、挑戦的な施策に取り組む社員が出てこなくなります。その結果、この評価制度は皆が自分の点数稼ぎを優先させるように作用し、社内にはエゴイズムが根をはり始め、企業成長の停滞につながります。
また、すべての企業は挑戦を通して「学び」を得るのですが、この80点狙いが常態化してくると、事業における「学び」を得られる「挑戦」の機会をことごとく避けて通ることになるために、企業は新たな発展の機会を見出せなくなります。結局、成果主義の評価制度の導入には組織の中の全マネジャーの、指導を含むマネジメントが不可欠になります。
今の日本経済の長期低迷の大きな原因は、企業側がこの点に気が付いていなかったことにあるとも言えます。

稲田氏の画像です

3 マネジャー層のマネジメントを健全に機能させる

誤解をしていただきたくないのですが、社員に数値目標を課すこと自体が悪いわけではありません。成果評価の部分以外もしっかりと確認して評価ができるように、マネジャーたちがその能力をつける努力を行わなければなりません。
そしてトップは、

「初めて導入する制度は必ずしも完成度は高くない現実を受け入れ、導入後の実態をトップと本部機能がしっかりと現実を確認し、躊躇なく修正を重ねているか」
「事業の各業務の特性をよく理解した上で、会社として各機能部門に何をして欲しいか、業務の『丸投げ』することなく、適切な『業務定義』、つまり成功率を高めるための手順が明確にされているか。そして、KPI以外の努力をちゃんと把握して、評価につなげているか」

を常に確認をする必要があります。
評価とマネジメントにあたり、トップを含むマネジャーは何を心掛けるべきかをあげてみると、以下のようになります。

1)数値だけの評価ではなく事業の全体観を持ち、中長期視点での事業価値を考えて評価を行う

例えば、新しい業態が成功してイケイケどんどんの状態にある小売業にありがちなのが、立地開発担当者を、「本年度、何店舗を出店したか」で評価を行うケースです。
出店立地を探すだけであれば、何も難しいことではありません。重要なのは、新店舗は「競合店よりお客様が行きやすい、有利な立地の物件を押さえられたのか」に加えて、「中長期にわたり収益が出る立地か」です。
店は出したら終わりではありません。
店の出店数だけで評価を行えば、不採算店舗の山が出来上がることもあり、実際にそのために絶好調だった企業が、周りの忠告も聞かずに店を出し続けて、経営危機に陥ったケースもあります。

2)安易に部下に「丸投げ」をせず、正しく業務に関与し、指導を通して、あるべき「躾」を行う

経営者は「(部門や店の)責任者には、経営者感覚を持って欲しい」と願うものですが、安易に指示の『丸投げ』を行うのは禁物です。
前述のようにそれまで、「落とし込み」と称して、その実、「黙って言われたことをやればいいのだ」と上から指示を与えるような、一方的な組織運営をしていた企業が、ある日突然、現場への権限移譲を言い出してもうまくいくものではありません。「現場をよく知る君たちにも、経営視点で考え、判断してほしい」という言葉が発せられるのは、多くの場合、トップダウン、あるいは本部からの一方的な指示の押し付けで組織運営を続けてきた企業が、そのやり方では、二進(にっち)も三進(さっち)も行かなくなった局面です。

「経営感覚を磨いてもらいたいので、数字に責任を追ってほしい」
「あなたがマネジャーと決めた目標を基に成果を評価します」

聞こえは良いのですが、業務の押さえどころも明確に定義をせずに経営側が、欲しい数値目標のみを「丸投げ」してしまっていることが多いものです。
拙著『経営トップの仕事 戦略参謀の改革現場から50のアドバイス』(ダイヤモンド社)でも実事例を挙げてお伝えしていますので詳細はそちらを参考ください。
自社が、組織が自律的に判断し、機能するように運営するべき段階に入ったと考えるのであれば、そのための知識や方法を体得させるために、トップの意志の元に組織に対する真剣な指導を始めることになります。そして同時に、各業務の『業務定義』を進めることが重要です。優良企業を除くと意外に行われていないのが、この『業務における成功則の見極めとその手順の明確化』です。これらがなければ、ただの責任の「丸投げ」となり、社員は一方的に押し付けられた数値目標を追いかけざるを得なくなります。「気合いのマネジメント」の下では、一時的に数字が回復することはあっても、多くの場合は製品・サービスの質が低下するといった組織の機能不全を進める結果になります。
この「丸投げ」は、本来はトップとの連動が重要な本部業務への「丸投げ」から始まり、本部から現場への指示の「丸投げ」という連鎖が起きます。
組織の発展のためには、結局はトップをはじめとするマネジャーたちの持つ文化と役割が重要になるのです。

講演中の稲田氏の画像です

4 社員の成長を促す組織マネジメント

では、自律的に判断し、機能する組織を育てるにはどうしたらいいのでしょう。ここで、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスの主力事業であるドン・キホーテの組織運営を例に挙げます。
店内を見ると、一見ジャングルのように見えるドン・キホーテですが、実は数値の管理単位を160部門×店舗数のマトリックスに分割しています。そして、このマトリックスごとの売上高、粗利益高、在庫回転数の伸長で評価し、現場の責任者たちにその数字を達成する責任と権限、成果に見合った報酬を与えています。これらの数値を見ると、細かく割った単位で、経営者と同等の判断を行う権限が与えられており、現場のメンバーが商売人として腕を磨くプラットフォームとして機能していることがわかります。ドン・キホーテでは、社長からエリアマネジャーに、現場の店長に指示を出さないように告げられており、現場の責任者である店長が、本部が仕入れた商品であっても店頭に並べるかどうかの最終判断を行い、さらには商品全体の40%までは独自の判断で仕入れることさえも許されています。B to Cのビジネスでは、顧客にとっての楽しさや利便性が大きく影響します。その反応を直接見ている現場の責任者が自律的にPDCAを廻すことのできる、完成度の高い仕組みが、皆さんご存知のニトリと並ぶドン・キホーテの永続的な成長を支えているのです。この仕組みも、一朝一夕に出来上がったものではありません。創業者である安田隆夫氏が側近と共に、いかに大きな組織を自律的に動かすのかを考え、制度づくりのPDCAを廻し続けた賜(たまもの)なのです。

5 コロナ禍だからこそ、オンラインの会議のメリット面を活かす

リモートワーク下では、「部下と対面していないので、指導は難しい」と考えがちですが、見方を変えると、「オンラインだからこそ、むしろチャンスだ」とも言えるでしょう。
私は、企業の指導の会議の際は、ギャラリーとしての参加者は別として、参加メンバーにはできるだけ一人一台PCを用意してもらい、それぞれの顔を映して行うようにしています。実践フェーズにおいては、支援先企業の社長自ら参加していただき、あらかじめ指名された方に、ご本人が業務で廻しているPDCAを発表してもらいます。資料の共有が簡単にできるだけではなく、本人の表情も確認できるため、以前よりも各自の理解度を判断しやすくなっています。
ちなみに、今は多くの会社で、パワーポイントの利用が一般的になってきていると思います。パワーポイントは、自身の思考を「見える化」してまとめるための道具であり、しっかりとしたものが出来上がれば、もはや、パワーポイントで作った資料など不要になるほど、発表者の頭の中に、明確なイメージが出来上がっており、話も明快になるものです。
個々の部下と向かい合って、まずは話をよく聞く。そして、Q&Aを繰り返すことで「部下の頭の中を創り」あげ、担当業務における優秀な人材となるべく指導を行う。
対面であってもオンラインであっても、これがマネジャーの最も重要な役割であることには変わりはありません。

6 「フェアネス」の重要性を再認識する

競争力のある商品、業態を持っているのに業績が振るわない会社を見かけることがありますが、内情を見ると、社長の周囲に、イエスマンばかりという企業が多いものです。トップは孤独なもので、知らず知らずにのうちに癒しを求めます。時として、会社のためにと進言してくる幹部をうっとうしいと感じ、結果的にエゴイズムや保身が腹にある、トップからは、一見、使いやすいイエスマンを側近として周りに集めてしまっていることがあります。
結局、「お客さまのため、会社のために当たり前のことを、しっかりやる。それがきちんと評価される」ことが社内で徹底され、全員がそれを疑いなく信用していれば、組織が傾くということはありません。
組織の「フェアネス」が実践されている組織では、「足の引っ張りあい」や「自分さえよければ良い」といった行動をとる社員は減り、例えばトヨタのように組織力が強化されていきます。そしてそれが巡り巡って、顧客の満足に繋がり、事業の永続的な発展につながっていくのです。
社長が率先してその重要性について話し、自ら率先して体現することで、組織に「フェアネス」を浸透させていく努力が必要です。

企業が低迷している時は、例外なく『市場との乖離』を起こしています。売上というものは上がるか下がるかのどちらか

であり、事業活動を市場が評価していれば、必然的にその成長は「右肩上がり」になるものです。

稲田氏の画像です

7 最後に

ここまで、稲田氏のお話をお伝えしてきました。経営者としての在り方を振り返り、コロナ禍でも企業を成長させるためのヒントを掴めたのではないでしょうか。是非その学びを日々の会社経営に活かして頂けると嬉しいです。
稲田さん、貴重な学びのシェア、愛りがとうございました!(愛+ありがとう)

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年10月8日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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