書いてあること
- 主な読者:日々、部下指導に悩む管理職を励ましたい経営者
- 課題:うまく部下指導ができない、部下に気を使いすぎる。そんな管理職が多い
- 解決策:名言を使って管理職としての自覚を伝えると同時に、経営者が管理職を応援する気持ちも伝える。
1 管理職に対してこそ必要な「メッセージ」
管理職は、部下の指導について多くの悩みを抱えています。部下との意思疎通をうまく図れない、部下がついてきてくれない、部下が思うように成長しない、部下が何を考えているか分からない……。こうした現状に疲弊している管理職は少なくありません。
管理職の話を聞き、励ますのは、経営者の大切な仕事です。特に、組織を率いる立場の経営者から語りかけるメッセージは、管理職の「行動指針」にもなるでしょう。本稿では、「重さ」「弱さ」「強さ」というテーマでそのようなメッセージを紹介します。
2 「重さ」を自覚するための言葉
今、多くの管理職が「部下との接し方」に迷い、悩んでいます。「部下を理解したい」「自分(管理職)の意図を理解してほしい」と思う一方、「部下を叱るとパワハラと言われるのでは」「部下に嫌われたくない」と恐れる気持ちもあります。
こうした気持ちが強過ぎると指導がしにくくなり、部下を避けてしまいかねません。そこで経営者は、「管理職としての部下との接し方」を、改めて管理職に伝えましょう。その際、ミスター・ラグビーと呼ばれた平尾誠二氏の次の言葉が参考になります。
- 「コミュニケーションの頻度を高めることが、コミュニケーションを深めるとは限らない」(*)
数々のラグビーチームを率いた経験を持つ平尾氏の考えは、リーダーが行うコミュニケーションの在り方として、「短絡的に、コミュニケーションは量が多いほうが良いと考えるのは間違いだ」というものでした。
リーダーが安易にコミュニケーションを取り過ぎていると、「肝心なときに言葉が求心力を持たなくなる」と平尾氏は考えていました。そのため、神戸製鋼ラグビー部のキャプテン時代には、他の選手とはあえて距離を取り、メリハリをつけていたといいます。
平尾氏の考え方は、管理職にもあてはまる部分があります。部下を指導する立場にある管理職の発言には、ある程度、「重さ」が必要です。部下に好かれようと気を使い、部下に対して“仲良く”接しているだけでは、管理職としての「重さ」は感じられません。
管理職の役目は、部下を成長させることです。そのため、叱るべきときは厳しく叱る、褒めるときは大いに褒める、挑戦させるときには思い切って部下を突き放し、部下に一人で苦労させるなど、メリハリをつけて接するのが理想です。
しかし、これは簡単ではありません。特に、叱ることや、突き放すことができない管理職は多いでしょう。経営者は、平尾氏の言葉を借りて、管理職に必要な「重さ」を自覚させ、部下との接し方を、改めて考えさせることが大切です。
3 「弱さ」をさらけ出すための言葉
管理職の中には、部下や周りに対して「格好をつける人」がいます。「管理職として部下に良い影響を与えたい」といった思いであれば理解できますが、単に「できる管理職として自分を良く見せたい」という自分勝手な考えが行き過ぎてはなりません。
こうした管理職は、問題を隠したり、部下に対して「いい顔」ばかりしたりすることがあるからです。経営者は、「時にはありのままを見せる大切さ」を伝えましょう。その際、スターバックスの元CEO、ハワード・シュルツ氏の次の言葉が参考になります。
- 「偉大なリーダーも、時にはある程度の弱さを見せ、本心を他人と共有しなければなりません」(**)
スターバックスにとって、非常に厳しいシーズンとなった1995年のクリスマス。売り上げは「絶望的」で、このままでは会社が危機に直面するという状況でした。シュルツ氏は、全社員を集め、厳しい現状と、心配している苦しい胸の内を正直に伝えたのです。
それまで、常勝のヒーローとされてきたシュルツ氏が社員に初めて「弱さ」を見せたため、反発する経営陣もいました。しかし、社員の多くは、自分たちが直面している問題を直接CEOから詳細に説明してもらい、非常に良かったと言ったそうです。
シュルツ氏はこのとき、社員にとって必要なのは、「気勢を煽ることではなく、苦境を具体的に知らせ、実質的な指導をすることだ」と思っていました。これは、会社全体と社員一人ひとりのために自分がすべきことを真剣に考えたからこそといえるでしょう。
ビジネスは、良いこともあれば悪いこともあります。時と場合によりますが、管理職は組織全体や部下のために、悪いことや弱点ほどいち早く明らかにし、具体的な対策を考え、部下に指示しなければなりません。格好をつけている場合ではないのです。
管理職が考えるべきなのは、「自分がどう見られるか」ではありません。組織のこと、そして守るべき部下のことです。経営者は、シュルツ氏の言葉を借りて、真剣に部下を思う気持ちを伝え、管理職に「自分視点」から脱却するよう指導しましょう。
4 継続する「強さ」を持つための言葉
部下の指導に真面目に取り組んでいる管理職ほど、悩みは深いものです。部下が思うように成長しないことに腹立ち、落胆し、つい、「自分で全部やったほうが早い」と自分で手を動かしてしまうことなどは、管理職の“あるある”といってもよいでしょう。
経営者は、部下の指導は地道に行うべきものであること、そして指導をあきらめてしまっては、部下だけでなく管理職自身も成長できないことを繰り返し伝えなければなりません。その際、帝人の元会長・社長である長島徹氏の次の言葉が参考になります。
- 「どうぞあきらめさせないでください」(***)
貧しかった長島氏は幼い頃、野球用のボールを買ってもらえず、何時間もかけて布を巻きボールを作りました。そのボールが竹やぶに入ってしまい、どれほど探しても見つからなかったとき、長島氏は「あきらめさせないでください」と祈ったといいます。
長島氏は、「ボールが見つかるように」ではなく、「ボールを探そう」という自分の気持ちが消えないように、自分があきらめるという考えを抱くことのないようにと祈ったのです。何事も自分の気持ち次第であるという強い意志の表れといえるでしょう。
部下の指導も同じです。管理職があきらめてしまったら、部下の成長は止まってしまうでしょう。管理職にとって“敵”は部下ではありません。あきらめて、「自分で全部やったほうが早い」と部下と向き合うのをやめてしまう管理職自身の気持ちが“敵”なのです。
多くの経営者は、管理職に比べて、社員(部下)を育てることを簡単にあきらめたりはしません。経営者は、会社やビジネスから逃げることができません。覚悟の度合いとそれに支えられた意志の強さが管理職とは違うのです。
とはいえ、経営者も、人を育てることが一番難しいと実感しています。そこで経営者は、長島氏の「どうぞあきらめさせないでください」という言葉を借りて、管理職に、「自分も決してあきらめない。だから一緒に頑張ろう」と思いを共有することが肝要です。
- 【参考文献】
- (*)「人を奮い立たせるリーダーの力」(平尾誠二、マガジンハウス、2017年4月)
- (**)「世界のトップ経営者に聞く!:CNNリスニング・ライブラリー」(『CNN English Express』編集部編、朝日出版社、2012年3月)
- 「スターバックス成功物語」(ハワード・シュルツ、ドリー・ジョーンズ・ヤング(著)、小幡照雄、大川修二(訳)、日経BP社、1998年4月)
- (***)「58の物語で学ぶリーダーの教科書」(川村真二、日本経済新聞出版社、2014年4月)
以上(2019年1月)
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