書いてあること

  • 主な読者:経営者として恥ずかしくない立ち居振る舞いをしたい経営者
  • 課題:心がけているつもりだが、本当に経営者として相応しいか疑問
  • ポイント:評価は周囲がしてくれるもの。日々、真摯に活動する

1 ビジネスにおいて重要な「印象」の効用

1)「見た目」が重要?

人は出会ってからわずか数分間の第一印象で、相手のイメージを固めているそうです。第一印象の決め手は人それぞれで、出会った状況にも影響を受けます。しかし、一説では「見た目」が大きな影響を与えるようです。

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表情やしぐさなど、見た目に関することが55%と高く、話の内容に関することが7%と低いのは意外です。これは、米国の心理学者であるアルバート・メラビアンが行った非言語コミュニケーションに関する実験結果を応用した考え方だといわれています。

この考え方には、さまざまな説があったり、前提条件があったりするため、「『見た目』が一番」と単純に結論付けることはできません。しかし、日ごろ、自分が相手のどこを見ているのかという実体験からも、「見た目」の重要度が分かります。

2)「好印象」がもたらすメリット

第一印象は強烈に刷り込まれます。仮に、第一印象が「しっかりしていそうな人」であれば、わずか数分のうちに、ある程度、相手の信頼を得られます。逆に、第一印象が「頼りない人」であれば、それを覆すのには苦労します。

一方、深く話し込んでいくうちに、最初のイメージが変わってくるのはよくあります。ただし、これは相手との付き合いが長く続くことが前提であるため、やはり最初に「もう一度、この人に会いたい」と相手に思ってもらうことが重要です。

2 「好印象」は経営者にこそ必要

相手に与える印象の大切さは、経営者こそ認識しなければなりません。経営者は、その存在自体が企業のブランドであり、周囲の人は経営者自身が思っている以上に経営者のことをよく見ているからです。そして、周囲の人は、経営者の「見た目」「しぐさ」「話の内容」などから、経営者自身や企業の実力を推し量っています。加えて、経営者はその対外的な立場(役職)上、出会ったときから高いハードルを相手から課せられています。にもかかわらず経営者の印象が悪いと、相手はがっかりします。

そうならないために、経営者は印象と言動の一貫性を心掛けましょう。つまり、相手が抱いている「この経営者ならこんな言動をしてくれそうだ」といった期待を裏切らない言動を取るのです。印象と言動が一貫した経営者は、相手から見て頼もしく感じられます。その頼もしさは、経営者にふさわしい風格へとつながります。

風格のある経営者は、対内的にも対外的にも強い求心力を発揮します。人を引き付ける魅力を持つことは、ビジネスの可能性を広げる上でとても重要な要素です。以降では、風格のある経営者になっていくための心構えを紹介します。

3 ギャップを認識し、理想の自分像を固める

1)鏡の姿は本物ではない?

日ごろから大勢の人と接し、また皆の手本にならなければならない経営者は、自分が周囲にどのような印象を与えているのかを気にしています。そのため、例えば見た目については、髪形やひげの手入れをしっかりしていますし、身に着けるスーツや小物にもこだわります。

そして、毎朝、鏡に自分の姿を映し、清潔感があるかなどをチェックするわけですが、鏡に映っている自分の姿を見て、「これでよし!」と考えるのは早計かもしれません。なぜなら、鏡に映っているのは、自分を鏡に映す数十秒のためにポーズを決めた“よそ行き”の姿だからです。

鏡に映ったよそ行きの姿は、背筋がピンと伸び、引き締まった真剣な顔あるいは爽やかな笑顔のはずです。しかし、よほど意識していなければ、その姿を長時間キープすることはできません。ふと気を抜いたときの姿は、頼りないものかもしれません。

話し方やしぐさも同様です。気が緩むと、無意識のうちに経営者にふさわしくない言葉遣いになってしまったり、へらへらと軽い印象を与えるしぐさになっていることがあります。そして、そうした経営者の姿を周りの人たちは確実に見ています。経営者が考える自分の姿と、周りの人たちが見ている実際の姿にはギャップを認識しましょう。

2)理想のモデルを見つけ、徹底的にまねる

経営者は理想の姿を明確にイメージしましょう。例えば、「ビジネスに情熱を燃やす、熱い経営者」といった感じです。ただ、これでは漠然としているので、伝説の経営者、現役の経営者の他、ドラマの主人公など「あの人のようになりたい」という具体的なモデルを決めます。そして、話し方や声の大きさなどを徹底的にまねしてみましょう。それを継続していくと、役者が役作りをするように、自分自身に理想のモデルが刷り込まれていきます。

なお、手本とするモデルは、身近にいるメンターが理想です。ビジネスは刻々と変化し、1つとして同じ状況はありません。伝説の経営者の姿勢から学ぶのも大事ですが、経営者にとっては「今、そのとき、どのように行動すべきか」が重要です。その都度、相談できるメンターが手本であれば、実際に話をしながら学び、すぐに実践することができます。

4 見た目や話し方にこだわるが、型にははまらない

1)「見た目」に投資する

「自分は服装にこだわりがないし、それは仕事の質に関係ない」と考える経営者もいます。しかし、それはあくまでも経営者の個人的な考え方です。服装がだらしなければ、周囲はマイナスの印象を持ちます。

今では、夏場のクールビズやスーパークールビズが普及し、ノータイ、ノージャケットでも違和感がなくなりました。また、業種によって異なりますが、会談にジーンズ姿で現れる経営者もいます。しかし、いくら時代の流れとはいえ、大切な会談の場にジーンズ姿やよれよれのワイシャツで現れる経営者がいたら、違和感を覚える人が少なくないでしょう。

また、「服装など見た目に気を使えない人は、仕事も大ざっぱで、細かなことに気が付かないのでは?」と考えられてしまいます。華美な格好をする必要はありませんが、経営者にふさわしい格好を心掛けなければなりません。イメージコンサルタントに相談すれば、パーソナルカラーや似合う髪形などを診断してくれるので、そうしたサービスを利用するのも1つの方法です。

2)マナーにこだわり過ぎない

正しい言葉遣いや礼儀正しい立ち居振る舞いは、相手にプラスの印象を与えます。ただし、マナーを意識し過ぎるのも問題です。例えば、せっかく面白い話をしているのに、表情は真面目なまま、手は膝の上かテーブルの上で重ねられたままだと、相手はロボットと話をしているような感覚になってしまうかもしれません。

また、相手が「もう、かなり打ち解けたつもり。あるいは打ち解けていきたい」と考えて、少しラフな話し方を織り交ぜてきているのに、こちらが常に真面目なだけの一本調子だと、相手が「この経営者は、こちらと打ち解けるつもりがないかもしれない」と勘違いします。同様に、経営者が終始表情を変えずに真面目な顔をしていると、相手に「この経営者には余裕がないのではないか?」と思われることもあります。

マナーを重んじるのは大切です。しかし、しゃくし定規では面白みがなく、相手と深く打ち解ける機会をなくしてしまうことがあるので注意が必要です。難しいのは、どの辺りまでマナーを崩してよいかというレベル感ですが、基本的に基準は相手にあります。

つまり、相手が打ち解けてきたら、相手よりも少しだけ礼儀正しくしていればよいのです。これであれば、常に相手よりも礼儀正しいことになるため、相手から「失礼だ!」と思われることはないでしょう。

5 常に謙虚な姿勢で、物事に応じて力強く主張する

1)本業はしっかり突っ込む、それ以外も人より突っ込む

相手と話をする際は、話の内容や相手の立場(こちらとの力関係)に応じて、話す時間と聞く時間のバランスを考えましょう。中には、相手が話している話題を強引に自分の話題に置き換え、自分の話ばかりをする経営者もいるようですが、これでは相手に自分勝手な印象を与えてしまいます。

ただし、どのようなシーンであっても、経営者は「自分の会社の本業」(以下「本業」)については、時間をかけてしっかりと話さなければなりません。経営者たるもの、本業について誇りを持ち、誰にも負けないくらいに深く突っ込んで考えていて当然です。

逆にそこが不十分で、本業について質問を受けても「よく分からないのですが……」とか、「そこについては情報が不足しておりまして……」といったような回答しかできないようでは、相手に不信感を与えてしまいます。

加えて、本業に関係のないことについても、他の人よりも少しだけ深く突っ込んで情報収集し、自分なりの考えをまとめておく習慣をつけましょう。相手は、「経営者なのだから、自分なりの主張があって当たり前」と考えています。新聞の一面やテレビのニュースで報じられた内容をそのまま話すのではなく、そこに自分なりの考えを加えると発言に重みが出てきて、相手は「やはり、経営者は物事を深く考えているな」とプラスの印象を持ちます。

2)威張るのは論外、しかし主張を控え過ぎるのも影が薄い

経営者の社内での権限は大きなものであり、大抵のことについては自分が思うように社員に指示することができます。社員を導くことは経営者の役割であり、強いリーダーシップを発揮したいものです。社外の人に対しても同様です。企業を代表する経営者の影響力は社外でも強く、皆、経営者がどのような発言をするのか注意深く見ています。

しかし、これを「自分の力」と勘違いしてはいけません。社内と社外を問わず、経営者という役職に対して敬意を払っている人も多く、必ずしも経営者自身の人間性を認めているわけではありません。そのため、経営者は謙虚な姿勢を崩すことなく、どのような相手に対しても真摯に接することが基本です。

6 自信は周囲が与えてくれるもの

経営者は自分に自信を持ちたいと思っています。企業経営の根幹に関わる決断をしなければならない経営者にとって、自分の能力や決断をどれだけ信じられるかが勝負の分かれ道になることもあります。

しかし、経営者の実感としては、「よし、うまくいったぞ!!」という感情は一瞬にして過ぎ去ります。逆に「あのとき、こうしていれば違う結果になったかもしれない……」という感情に支配される時間が長くなりがちです。

このようなとき、もっと自分や社員を信じて頑張ろうと自分自身を奮い立たせます。ただし、無理やり自信を持とうとしてみても、なかなか自分の意識の中に定着していきません。そのような自信は、から元気のようなものだからです。

自信は周囲が与えてくれるものです。例えば、会社の業績が好調ならば、自分のやってきたことは間違いなかったと自信を持つことができます。あるいは、社外の人から「この前の商品は着眼点が素晴らしいですね。ぜひ、話を聞かせてください」などと言われると、素直にうれしい気持ちになり、そうした成功体験は大きな自信となります。

そして、周囲から与えられた自信を定着させていくために必要なのが、たゆまぬ努力です。自信が持てるような成功体験をしたら、それに慢心することなく成功の要因を探り、次にもっと素晴らしい成功を収めることができるように努力しなければなりません。

こうした取り組みを通じて、周囲から与えられた自信が自分の中に定着し、いざというときに「あのときも頑張れた。今回だって成功させてみせる!!」というポジティブな考え方につながっていきます。

そうしたポジティブで情熱的な経営者は、周囲に「元気」を与えます。相手に好印象を与える要素には、「見た目」「しぐさ」「話の内容」などがありますが、それ以上に、経営者の場合は「情熱」が求められるでしょう。

以上(2019年4月)

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画像:pixabay

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