書いてあること
- 主な読者:もっと管理職に期待に応えてほしいと思っている経営者
- 課題:管理職との意思疎通がうまくできていない、管理職が頼りない
- 解決策:経営者がやるべきは、思いの共有、役割の確認、そして我慢
1 経営者から見ると管理職が頼りない?
経営者は、管理職が自分(経営者)の考えや思いを正しく理解し、それを現場に伝えてまとめてほしいと期待します。しかし、これができている管理職は多くはありません。経営者から見ると、管理職が管理職としての仕事をしていないのです。
見かねて管理職のやり方に口を出し、場合によっては経営者自身が細かく指導することもあるでしょう。社員育成は経営者の仕事ですが、細かなところまでやっていては、将来のビジネスの種を見つけ、組織を前に進めるという経営者本来の仕事ができません。
このように、経営者が管理職を頼りないと感じると、経営者と管理職の役割分担がうまくいかなくなり、企業活動に支障を来すことがあります。本稿では、そうならないようにするために、経営者が意識すべきポイントをまとめました。
2 組織のギャップを解消する
1)まずはギャップの認識
理想的な組織は、経営者が掲げる“理想の社員像”を少なくとも管理職が理解し、それに基づく指導を現場で行うことです。しかし、経営者と管理職の考えや思いには次のようなギャップがあり、なかなか認識合わせができません。
2)理解できる? 管理職の経営者に対する不満
経営者が管理職に不満を覚えているのと同様に、管理職も経営者に不満を覚えています。管理職も「管理職としての役割を果たそう」と思ってはいます。「自分がこの組織を回していく!」という責任感や、やりがいを持っている管理職もいます。
しかし、経営者の思いが分からず、自分のやり方に自信が持てない管理職もいるのが事実です。特に、答えが見えにくい部下指導については、自分のやり方が正しいのかどうか迷うことが多いのです。
経営者は、管理職の部下指導が正しくない、迷っているのだろうと感じると口を出します。経営者は指導方法の手本を管理職に見せているつもりですが、管理職にはそれが分からず、「自分のやり方はそんなにまずいのか」と自信をなくします。
そして、経営者が直接社員を指導するなら、「自分は何も言わないほうがよいのではないか」と誤解する管理職が出てきます。経営者は管理職を指導しているつもりが、自信のない管理職は、強烈な“ダメ出し”をされているように感じるのです。
3)経営者と管理職のギャップを埋めるには?
こうした経営者と管理職のギャップを埋めるために、経営者は管理職に2つの働き掛けをしましょう。1つ目は経営者の考えや思いを管理職に伝え、理解させることです。2つ目は、経営者が管理職に対して、管理職として成長させる機会をつくることです。
そのためには、経営者自身が経営者と管理職の役割を整理した上で、「経営者として何をすべきか」「どこまで管理職に任せるか」を考えなければなりません。管理職も、「経営者が教えてくれないから分からない」と言っているだけではなく、経営者の考えや思いを理解するよう努め、部下指導に生かす方法を考えなければなりません。
以降ではそれぞれのやるべきことを見てみましょう。
3 経営者と管理職が考えや思いを共有する
1)経営者は管理職に「何を大切にしているか」をイメージさせる
経営者は、管理職に自分の考えや思いを伝える機会を設けましょう。経営者の考えや思いをある程度理解し、行動に移すことのできる管理職もいます。そうした管理職に協力してもらって、他の管理職に伝えてもらうのも一策です。ただしその場合、えこひいきに思われないよう注意が必要です。
経営者の言うことを“腹落ち”しないと思う管理職もいますが、そうした管理職に対しては、ゆっくり時間をかけて話すしかありません。
2)管理職のほうから経営者に近づく努力をする
経営者の考えや思いが分からない、期待されている役割が分からないという管理職は、遠慮せずに経営者に質問してみましょう。しかし、一見簡単なようでいて、この「経営者に質問する」ことがなかなかできないのが管理職です。
管理職には「管理職なのだから自分でなんとかしなければ」という思いがあるのです。そこでまず、経営者の愛読書や普段よく使う言葉などから、「経営者が何を大切にしているか」を学び取ることから始めてみましょう。
経営者が大切にしていることを学ぶと、経営者と同じ言葉で話ができるようになります。経営者が管理職や他の社員に、考えや思いを伝えるのは言葉です。経営者と同じ言葉で話せるようになれば、経営者の考えや思いに近づくことができるでしょう。
管理職が経営者の考えや思いを理解するために、部下指導について具体的な相談を持ち掛けるのも一策です。経営者の答えとその理由を聞けば、経営者がどのような部下指導を求めているかを知るためのヒントになるでしょう。
3)「耳の痛い話」こそ共有できる関係を目指す
「こんなことは経営者に言えない」と思い、自ら口を閉ざしてしまう管理職もいるでしょう。特に、自分の部下のマイナス点は「部下のために」「経営者に心配を掛けたくない」と、よかれと思って言わない管理職は少なくありません。
しかし、部下にマイナス点があるのなら、その事実は早く経営者に伝えなければなりません。経営者には、現状を正しく把握し、組織全体の今後を考える責任があります。現場の社員(部下)の現状を、正しく経営者に伝えるのも管理職の重要な役割です。
一方の経営者も、管理職から部下のマイナス点など「耳の痛い話」を聞き出せるように、一緒に飲みに行くなどの機会をつくらなければなりません。耳の痛い話こそ、経営者と管理職で共有していくことが大切です。
4 管理職が管理職としての役割を果たすには
1)経営者はとにかく我慢する
基本的には、「経営者が決めて管理職が実行する」というのが経営者と管理職の役割分担です。経営者が部下指導について決めるのは、会社としてのルール、社員のあるべき姿、そして個々の社員について「どのレベルに達してほしいか」の3つです。
この3つを管理職に伝えた上で、具体的な部下指導の方法は管理職に考えさせましょう。どうしても管理職がうまく指導できないときなどは、経営者が口を出す必要がありますが、原則として部下指導は管理職に任せ、「我慢する」のも経営者の役割です。
経営者から見れば、管理職の部下指導は不十分に思えることが多々あります。その場合も、経営者が直接その部下に指導する前に、管理職に「もし私だったらこうする」と伝えてみるとよいでしょう。そうして管理職を成長させることが必要です。
2)管理職は経営者の決めたことを部下に行動で示す
管理職の役割の1つは、経営者と部下(社員)のクッションになることです。経営者の決めたことを部下が理解できるよう、管理職が自分(管理職)の言葉や行動で、「どうすればよいか」を具体的に示すことが大切です。
例えば、経営者が「自己啓発に積極的に励んでほしい」と決めたとしましょう。管理職がやるべきは、まず、セミナーに参加したり資格取得を目指すなどして、管理職自身が自己啓発に努めている姿を部下に見せ、まねさせることです。
部下にまねさせるには、実績を上げなければなりません。この場合、本気で自己啓発に取り組み、資格取得にチャレンジするなら合格することが大切です。その上で、部下の適性やキャリアなどを考え、具体的に部下が行くべきセミナーなどを指示しましょう。
ルールについても同様です。「挨拶をする」のが会社のルールなら、管理職自身が職場の誰よりも挨拶をしっかりしなければなりません。時間管理を徹底するのがルールなら、管理職がまず時間管理をしなければならないのです。
3)管理職の仕事を取り上げられるのは経営者しかいない
多くの管理職が抱えるのが「時間の壁」です。プレイングマネジャーの管理職は、部下指導に割く時間がないというのが本音です。状況に応じて管理職の仕事を取り上げ、他の社員に振り分けるのは経営者の仕事です。
管理職は、ある程度は自分で差配してなんとかしなければなりませんが、難しい場合はそのことを経営者に相談しましょう。「大丈夫です」と言って無理に仕事を抱え込むのは、管理職として正しい選択ではないことを理解しなければなりません。
5 経営者も管理職も考えるべき管理職の成長
部下指導について経営者と管理職のやるべきことを見てきましたが、重要なのは、経営者が決めたことを管理職が実行できるよう、経営者が管理職を育てることです。同様に管理職は、自ら管理職として成長できるよう努めなければなりません。
経営者が管理職に求めることは、経営者の考え方や会社の規模などによって違ってきますが、「全体を捉えられる大局観」「部下がまねしようと憧れる人間力」「やるべきことを遂行する仕事力」です。そして、これを表しているのが次のカッツ・モデルです。
カッツ・モデルの特徴は、ヒューマン・スキルがどのレベルの管理職にも求められることと、管理職のレベルによって重要度が増す能力(コンセプチュアル・スキルとテクニカル・スキル)が違ってくることです。
しかし、人数の少ない会社では、「上位だから」「下位だから」と言っている場合ではありません。管理職である以上、前述の3つの能力全てを身に付けて成長できるように、経営者も管理職も努めなければならないといえるでしょう。
組織の成長は、日ごろ現場の社員を指導している管理職の成長なくして実現することはできません。人が育つ、人を育てる会社になるには、経営者も管理職も、互いに思いを共有し、力を合わせなければならないことを、いま一度、自覚することが大切です。
- 【参考文献】
- 「一日一話 仕事の知恵・人生の知恵」(松下幸之助(著)、PHP総合研究所(編)、PHP研究所、1999年4月)
以上(2019年4月)
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