書いてあること

  • 主な読者:経営判断の際に外部環境も検討するが、景気の動向について詳しくない経営者
  • 課題:企業の「攻めどき」「守りどき」の判断材料として、景気の動向を把握したい
  • 解決策:景気循環の仕組みを知り、景気の動向に関するレポートや統計・調査を活用する

1 経営判断に欠かせない、景気の動向の把握

経営判断をする際に欠かせない要素の一つが景気です。「攻めどき」と「守りどき」を見誤らないために、景気の動向をしっかり把握したいものです。考え方は経営者次第ですが、例えば、

  • 好景気が到来しそうなので、波に乗って攻めに転じる
  • 不景気だからこそ、次の一手を打っておく
  • 景気が減速に転じそうなので、新たな投資は控えておく

といった判断をするには、少なくとも景気の動向を客観的に読み解いておく必要があります。

この記事では、景気が循環するメカニズムを解説し、景気を判断する上で参考になるレポートと統計・調査を紹介します。

2 景気が循環する4つの要因

1)不景気と好景気は繰り返す

景気は「不景気→好景気→不景気→好景気……」を繰り返し、これを「景気循環」と呼びます。景気循環を分解すると、「谷→拡張→山→後退→谷」という経済のサイクルがあります。この「谷→山」の拡張期間が好景気、「山→谷」の後退期間が不景気に当たります。

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景気が拡張しているときは、経済の状態が「需要≧供給」となるので、供給側は増加する需要に対応するために供給量を増やします。しかし、需要にはいつか限界(=景気の「山」)が到来し、需要増を見込んで増やした供給量が過剰になります。供給が過剰になることで物価が下落し、かつ経済も後退するようになります。そして、最終的には不景気の段階(=景気の「谷」)に至ります。

逆に言えば、供給調整が進み、かつ需要が創出されるような状態が生じることで、景気が回復・拡張に向かうのです。

戦後の日本経済における景気循環は次の通りです。

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2)景気はなぜ循環するのか

企業の生産活動・在庫状況・設備投資など、景気循環はさまざまな要因によって生じます。経済学ではその期間によって景気循環を次のように区分しています。

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各景気循環の期間を見ると約40カ月(キチンの波)から約50~60年(コンドラチェフの波)までと幅広く、ひとくくりにできるものではありません。これは、景気循環の基準を何に置くかによって循環の期間に差があるためです。各循環の概要は次の通りです。

1.キチンの波(短期波動、在庫循環)

キチンの波は、企業の生産活動や在庫調整に注目した景気循環で、経済の短期的なサイクルとほぼ一致するため、一般的に景気を判断する際はキチンの波を参考にします。米国の経済学者であるジョセフ・A・キチンが提唱したので、この名が付いています。

2.ジュグラーの波(中期波動、設備投資循環)

ジュグラーの波は、企業の設備投資に注目した景気循環で、設備の設置から更新の期間に当たる約10年(中期)を基準としています。フランスの経済学者であるクレマン・ジュグラーが提唱したので、この名が付いています。

3.クズネッツの波(建築循環)

クズネッツの波は、住宅・商業施設・工場などの建造物の耐用年数や、人が生まれてから成人になるまでの人口動態の変化の期間(約20年)に注目した景気循環です。米国(ロシア生まれ)の経済学者であるサイモン・クズネッツが提唱したので、この名が付いています。

4.コンドラチェフの波(長期波動)

コンドラチェフの波は、約50~60年という産業革命クラスの大規模な技術革新が生じる期間(長期)に注目した景気循環です。この景気循環の節目を見ると、第一次世界大戦など比較的大規模な戦争が起きていることが多く、戦争が循環のサイクルに影響を与えていると考える経済学者もいます。旧ソビエト連邦(ロシア生まれ)の経済学者であるニコライ・ドミートリエヴィチ・コンドラチェフが提唱したので、この名が付いています。

3 景気を判断する上で参考になるレポートと統計・調査

景気の動向を判断するのは簡単ではありませんので、政府および日本銀行(日銀)の分析や、各種統計情報を参考にするとよいでしょう。

1)政府の月例経済報告

政府が毎月公表する、景気に関する公式見解をまとめた報告書です。景気の現状と先行きに関する見解などをまとめています。個人消費、民間設備投資、生産・出荷・在庫、企業収益・業況判断、雇用情勢など分野ごとの見解をまとめている他、海外経済に関する景気の動向についても見解をまとめています。

■内閣府「月例経済報告」■

https://www5.cao.go.jp/keizai3/getsurei/getsurei-index.html

2)日銀の経済・物価情勢の展望(展望レポート)

日本銀行(以下「日銀」)は、政策委員会による「金融政策決定会合」で経済・物価見通しなどを点検するとともに、金融政策運営の考え方を整理したレポートを公表しています(年4回。原則1、4、7、10月)。景気動向を含めた経済や物価の現状およびリスク要因を踏まえ、経済の先行きなどに関する基本的見解を示しています。

■日本銀行 金融政策「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」■

https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/index.htm/

3)内閣府経済社会総合研究所の景気動向指数

内閣府経済社会総合研究所が毎月公表(おおむね2カ月前の数値を公表)している指標です。生産、雇用などさまざまな経済活動で、景気に敏感に反応する重要な指標の動きを統合して作成しています。

景気の山の高さや谷の深さ、拡張や後退の勢いといった景気変動の大きさや量感を測るコンポジット・インデックス(CI)と、改善している指標の割合を算出することで景気の各経済部門への波及の度合い(波及度)を測るディフュージョン・インデックス(DI)があります。

いずれのインデックスも、先行指数(景気の動きに先行して動く指標)11、一致指数(景気の動きに一致して動く指標)10、遅行指数(景気の動きに遅れて動く指標)9の合計30の指数を基に算出しています。指数の基になっている個別の統計情報も参考になるでしょう。

■内閣府「景気動向指数」■

https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/di/menu_di.html

4)景気の動向を判断するのに役立つその他の統計・調査

1.国民経済計算(GDP統計)

内閣府経済社会総合研究所が公表している国際基準に基づいた数値で、年に8回の「四半期別GDP(国内総生産)速報」と、年に1回の「国民経済計算年次推計」があります。GDP成長率や、民間・家計・公的機関の需要および輸出入の大まかな動向、国民資産・負債残高など、国内マクロ経済の基本的な数値を見ることができます。

■内閣府「国民経済計算(GDP統計)」■

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/menu.html

2.全国企業短期経済観測調査(日銀短観)

日銀が四半期ごとに公表している数値で、大手・中小企業の業況・需給・価格・在庫水準・投資・人員・資金繰りなどに関する回答結果を数値に置き換えたものです。さまざまな経営者の景況感を見ることができ、特に大企業製造業者による業況判断は、景気に関する先行指数になるといわれています。

■日本銀行 統計「短観」■

https://www.boj.or.jp/statistics/tk/index.htm/

3.景気ウォッチャー調査

内閣府が毎月公表している数値で、タクシー運転手や小売店の店長など景気動向に敏感な立場の人が見た景況感を指数化したものです。他の指標には表れにくい、生活実感に基づいた皮膚感覚の景気動向を捉えるのに便利で、「街角景気」とも呼ばれています。

■内閣府「景気ウォッチャー調査」■

https://www5.cao.go.jp/keizai3/watcher/watcher_menu.html

4.消費者物価指数(CPI)

総務省統計局が毎月公表している数値で、世帯の消費構造を基準に、家計に関わる財やサービスの小売価格を総合した物価の変動に関する指数です。中でも、「生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数」は、一時的な要因(国際情勢、天候など)の影響を受けにくいことから、経済の実態に即した物価動向を把握しやすいとされています。

■総務省統計局「消費者物価指数(CPI)」■

https://www.stat.go.jp/data/cpi/

5.法人企業景気予測調査

財務省財務総合政策研究所が四半期ごとに公表(調査は内閣府経済社会総合研究所と共同で実施)している数値で、企業から見た景況感、企業の現状などを総合的に調査したものです。企業活動の実態を捉えることができます。

■財務省財務総合政策研究所「法人企業景気予測調査」■

https://www.mof.go.jp/pri/reference/bos/

6.消費動向調査

内閣府経済社会総合研究所が毎月公表している数値で、消費者の意識や動向を「消費者態度指数」として指標化しています。抽出した世帯への、暮らし向きや物価の見通し、主要耐久消費財の保有・買い替え状況などのアンケート調査に基づき作成されています。

■内閣府経済社会総合研究所「消費動向調査」■

https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/menu_shouhi.html

7.労働経済動向調査

厚生労働省が四半期ごとに公表している数値で、労働時間・労働者の過不足・雇用調整・採用計画などの雇用環境を調査したものです。消費者心理に直結する雇用情勢の変化を見ることができます。

■厚生労働省「労働経済動向調査」■

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/43-1.html

8.家計調査

総務省統計局が毎月公表している数値で、家計の収入・出費の内訳、貯蓄・負債の状況などを調査したものです。世帯ごとの家計の状況を基に、消費者動向をつかむことができます。

■総務省統計局「家計調査」■

https://www.stat.go.jp/data/kakei/

9.鉱工業指数(IIP)

経済産業省が毎月公表している数値で、製造業などの生産・出荷・在庫・生産能力・稼働率などを指数化したものです。製造業全体および個別の業種における大まかな動向を見ることができます。

■経済産業省「鉱工業指数(IIP)について」■

https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/iip/

10.機械受注統計調査

内閣府経済社会総合研究所が毎月の実績と四半期ごとの見通しを公表している数値で、設備用機械類の受注状況を調査したものです。設備投資の動向を見ることができます。

■内閣府経済社会総合研究所「機械受注統計調査報告」■

https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/juchu/menu_juchu.html

11.経済産業省生産動態統計調査

経済産業省が毎月と年に1回の年報を公表している数値で、個別製品ごとの生産・出荷・在庫状況を調査したものです。より特定の業種に絞った動向を見ることができます。

■経済産業省「経済産業省生産動態統計調査」■

https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/seidou/

12.第3次産業(サービス産業)活動指数

経済産業省が毎月公表している数値で、情報通信業・金融業・サービス業など第3次産業の経済活動の状況を指数化したものです。個別サービス業の業態における大まかな状況をつかむことができます。

■経済産業省「第3次産業(サービス産業)活動指数」■

https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/sanzi/

13.商業動態統計

経済産業省が毎月公表している数値で、商業を営む事業所・企業における販売活動の現状などを調査したものです。業態や取扱商品別に見た小売業・卸売業の動向をつかむことができます。

■経済産業省「商業動態統計」■

https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syoudou/

14.サービス産業動向調査

総務省統計局が月次調査および年に1回の拡大調査を公表している数値で、サービス業を営む事業所・企業の売上高や従業員数といった現状などを調査したものです。業種別に見たサービス業の動向をつかむことができます。

■総務省統計局「サービス産業動向調査」■

https://www.stat.go.jp/data/mssi/

以上(2023年9月更新)

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画像:mageFlow-shutterstock

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