習慣とは、「学習によって後天的に獲得され、反復によって固定化された個人の行動様式」です。

習慣形成のプロセスには「きっかけ・欲求・反応・報酬」の4つがあります。

 この4つのプロセスは習慣全般に共通していますが、一度習慣化された行動を私たちはほとんど認識することができません。そのため、多くの人がこのプロセスをほとんど自覚せず、できてしまった習慣にやみくもに従っています。

 逆に言えば、この習慣のステップを理解すると、自分がその行動をやめられない理由や新しい習慣が身に付かない理由を分析しやすくなります。また、習慣を変えるには同じ行動を繰り返す必要がありますが、習慣形成のプロセスを知ることで、習慣改善のサイクルを今より効率的に回せるようになるでしょう。

1 きっかけ

 習慣のきっかけはわずかな情報です。私たちの脳は絶えず周囲の状況を観察・分析していますが、十分に練習を重ねると少ない情報から将来の結果を予測できるようになります。そうして、脳が結果を予測できるわずかな情報(きっかけ)に気付くと、私たち自身は自覚がないまま、それに適した行動を取るのです。

 また、脳は記憶している膨大な行動のパターンの中から、わずかな情報を頼りに今採用すべき習慣を決定します。習慣はほとんど自動化されており、ささいなきっかけで欲求を刺激され、自覚しないうちに反応するのです。そのため、自分が変えたい習慣のきっかけさえ自覚できれば、それだけでも自動化された習慣の抑止力になります。

お菓子を食べそうになる状況

 習慣のきっかけを見つけるには、まずは丁寧に自分の行動を振り返ります。例えば、仕事中にお菓子を食べ過ぎてしまうことに悩んでいるとして、自分の行動を一つ一つ振り返ってみましょう。お菓子を食べるのは、仕事が一段落ついたときでしょうか? すぐに解決できない問題が起きて、ストレスがたまったときでしょうか? また、食べるお菓子は休憩コーナーに置いてあるお菓子でしょうか? それとも自分で用意したお菓子でしょうか?

 自分の行動を丁寧に振り返れば、自分がお菓子を食べそうになる状況を少しずつ自覚できるようになります。すでに身に付いている習慣のきっかけは、新しい習慣のきっかけとして活用できるので、自分を責めることなく、冷静に自分を観察しましょう。

2 欲求

 欲求は、あらゆる習慣の原動力です。

 欲求の有無が習慣になるかどうかのカギとなります。たとえある行動の結果好ましい報酬が得られても、欲求がなければ習慣にはなりません。例えば、宝くじを買って1万円が1度当たったとしても、ほとんどの人は習慣的に宝くじを買うようにはならないでしょう。

 しかし、もし宝くじ売り場の前を通るだけで当選した興奮を“期待”するようになった人は、そうでない人よりも宝くじを買う可能性はずっと高くなります。

 期待するということは、報酬が実際に得られる前(例えばきっかけに気付いただけの段階)に、報酬を得られたときの喜びを予感し、待ちわびるようになっているからです。期待は欲求が芽生えている証拠なのです。

 期待が満たされないと人はイライラします。イライラにいつまでも耐えるのは難しいので、多くの人はまた前と同じ行動を取ってしまうのです。

 すでに欲求がうまれ、期待するようになっているなら、自分の意思だけで乗り切ろうとせず、周囲の力を借りるとよいかもしれません。禁煙外来のような専門家に相談するだけではなく、タバコを吸わない人と過ごす時間を長くしたり、家族や友人などに禁煙すると約束したりするなど、周囲の目を積極的に活用しましょう。

 また、欲求の優先順位を変えることも有効です。タバコを吸って得られる爽快感より、健康的な生活や節約できたお金の使い道などを大事だと考えてみてください。最初は無理やり思い込んでいる感じがしても、次第に本当にそう思えるようになるはずです。

3 反応

 反応とは、実際に行う習慣のことです。

 反応は、きっかけに対応した固定化された行動や思考として、無意識に起こります。脳は状況に対する反応を固定化することでたくさんの労力を節約し、より重要な問題に意識を集中しやすくしています。

 しかし、脳が取るべき行動をいちいち判断しなくなるのは、良いことばかりではありません。急ぎの仕事の最中に、メールの通知音が聞こえてついスマホを確認してしまったことはありませんか? 脳はメールを開けばつかの間の気晴らしを得られると学習し、通知音が聞こえたら状況に関係なく、反射的にスマホを確認するようになってしまったのです。

 一度固定化された反応を完全に消すことは、ほとんど不可能です。減量に成功して何年もたったのに、どうしようもないストレスを感じて一気に食べて太ってしまうのは、脳が過去のルーティンを記憶しているためです。

 ただし、アルコール依存症やギャンブル依存症のような中毒症状でもなければ、自分でもその反応が出てこないよう工夫できます。具体的には、今のルーティンを新しいルーティンに置き換えることです。きっかけと報酬はそのままにして、取る行動だけを変更します。ストレスで一気に食べてしまう人は、ストレスと歯磨き、ストレッチなど、リラックスできる別の行動を試してみるのです。

 このときのコツは、やめたい習慣は実行しづらいように、身に付けたい習慣は簡単にできるようにすることです。新しい習慣をつくるには何度も同じ行動を繰り返すと効果的なので、歯ブラシを何本か買って、磨きたくなったらすぐに歯を磨ける環境を整えます。反対にクッキーは棚の一番取りにくい場所に移動して、手を伸ばしにくくします。

4 報酬

 習慣の最終目標です。報酬は欲求を満たし、学習を完成させます。

 報酬の最初の目標は、とにかく欲求を満たすことです。ダイエットと筋トレで引き締まった健康的な身体をつくり、昇進して称賛や収入を得ることです。

 しかし、脳はどうやって満足できる報酬をもたらす行動と、もたらさない行動を区別するのでしょうか? これは、報酬が得られるタイミングが重要になります。なぜなら、実際の行動よりもずっと後から報酬がやってきても、脳はその行動は本当に学習する価値があると、なかなか判断しないからです。

 一方、食事のように行動した瞬間に直ちに心地よい報酬を得られるのであれば、脳は優先して記憶しようとします。つまり、脳にとっては食事を我慢してイライラするより、食べたいだけ食べて楽しい気持ちになるほうが合理的なのです。

 努力してから結果が出るまでに時間がかかるダイエットや貯蓄などの行動を定着させたいなら、すぐに得られる報酬(即時報酬)を準備しましょう。ダイエットなら毎日体重計に乗って記録を取ったり、目標となるモデルの写真を飾ったりすることです。自分の努力がどこに向かっているのかはっきりすると、そうではない場合よりも達成感が得られ、脳も報酬だと感じやすくなります。

 ただし、この即時報酬は自分が目指したい方向と矛盾しないように注意してください。例えば、「運動した後にはお菓子を食べる」という報酬は、進もうとしている方向と真逆になるのでふさわしくありません。

5 まとめ

 習慣形成の「きっかけ・欲求・反応・報酬」という4つのプロセスと、それに適した対応策を紹介しました。自分の習慣を自覚するのは簡単ではありませんが、習慣化に対する知識をもつことで、自分の習慣をより良い方向へ変えていく助けとなるでしょう。

<参考書籍>
「ジェームズ・クリアー式複利で伸びる1つの習慣」(ジェームズ・クリアー(著)、牛原眞弓(訳)、パンローリング、2019年11月)
「習慣の力 新版」(チャールズ・デュヒッグ(著)、渡会圭子(訳)、早川書房、 2019年7月)

以上(2023年6月更新)

pj96921
画像:FrankHH-shutterstock
pixabay

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