来月から新年度ですね。今日はビジネスの鉄則「三方よし」をテーマに話をします。三方よしは、「売り手」と「買い手」がともに満足し、「世間」にも良い影響を与えられるのが本当の商売であるという、江戸時代から伝わる有名な経営哲学です。ただ、私は最近、買い手や世間への“行き過ぎた配慮”が、「三方よし」の妨げになっているのではないかと思うことがあります。

例えば、テレビ業界で使われる「コンプライアンス」という言葉です。本来は「法令遵守」という意味ですが、テレビ業界では「道徳的に守らなければならないルール」といった意味でも使われており、最近のバラエティー番組では、痛みを伴う罰ゲームが減り、人の容姿をいじることがNGになるなどの影響があるようです。

コンプライアンス自体は尊重すべきで、差別につながり得る表現などは是正されて当然です。ただ、最近はハリセンで人をたたくことさえ目にしなくなり、売り手であるテレビ局が、一部の視聴者からのクレームを避けたいだけのように思えることもあります。買い手である視聴者への配慮が“行き過ぎ”て、無難な番組しか作れなくなれば、視聴者が楽しめる番組がなくなります。表現の規制が本来必要なレベルを超えてしまうのは、世間にとっても良くありません。うがった見方をすれば、クレームを避けたいテレビ局のエゴともいえます。「三方よし」の考え方に照らすと、「売り手だけよし」の状態といったところでしょうか。

私たちのビジネスでも、同じようなことがあるでしょう。分かりやすいのは、お客さまから、提供している商品やサービスに対して「価格を下げてほしい」と言われた場合です。もちろん、お客さまの要望にある程度歩み寄ることは必要ですが、そこにとらわれすぎると、何かを犠牲にしなければならなくなってしまいます。この場合、売り手である私たちの事業継続に支障が出るほど利益を損なうことになるか、お客さまの利便性を悪化させかねないほどにまで品質を落とすしか、対応方法がないでしょう。2つの対応のいずれかを取った場合、「三方よし」の考え方に照らすと、「買い手だけよし」、もしくは「三方わるし」の状態になってしまいます。

そうではなく、本当の意味での「三方よし」を実現するためには、私は買い手や世間への“行き過ぎた配慮”を卒業する必要があると思います。それはつまり、私たちが売り手としての存在意義を自覚し、お客さまに対しても譲れない部分を明確にすることです。お客さまの不利益になったり、道徳に反したりすることは許されませんが、そうでないのなら、「私たちは、商品やサービスを通じてこんな価値を提供できる」という自分たちの強みを、自信を持ってプッシュしていくのです。お客さまや世間からそこへの共感を得てこそ、「売り手、買い手、世間よし」ではないでしょうか。まずは「自分を出す」ことから始め、エネルギッシュな新年度にしていきましょう。

以上(2023年3月)

pj17135
画像:Mariko Mitsuda

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