皆さんは、同僚やクライアントと正しく「議論」することができますか。議論とは、特定のテーマについて互いの意見を論じ合うことです。ビジネスでもしばしば議論することがありますが、これは互いに知恵を出し合い、より良い仕事をするためのものです。
ところが、ビジネスで行われる議論の多くは「勝負」になりがちです。「論破」という言葉に引っ張られるのか、「相手を言い負かすこと」が目的になっているのです。こういう間違った議論では雰囲気が険悪になり、相手から何か言われると自分自身を否定された気分になってしまいます。議論で否定するのは意見の内容や分析であり、相手自身ではないのですが、感情的になるとこの大原則を忘れがちです。しかし、論破されるのは悔しいかもしれませんが、自分にはなかった視点を得て、考え方を見直すきっかけになるわけですから、決して「負け」ではないのです。
また、経験上、議論が「勝負」になりがちなことを分かっている人は、衝突を避けるための努力をします。素晴らしいことですが、やはり方向性を間違えている人が多いように思います。よくあるのは、議論を深めるというよりも、相手をおだてて場を和ませ、折衷案に落とし込むケースです。しかし、こうした折衷案に魅力はありません。
どうすればビジネスでの議論がうまくいくでしょうか。議論の「さしすせそ」と「たちつてと」という興味深い指摘があるので紹介します。
まず、議論の「さしすせそ」は、議論を円滑に進めるための言葉です。具体的には、「さすがですね、知りませんでした、すごいですね、センスがいいですね、そうなんですね」と相手を肯定し、場の雰囲気を和らげる言葉です。
一方、議論の「たちつてと」は、研究者やエンジニアなどがよく使う言葉とされています。具体的には、「例えば? 違いは? つまり? 定義は? 統計的な裏付けは?」と質問し、状況を確認する言葉です。
ここで重要なのは、「さしすせそ」と「たちつてと」を対立項のように捉え、自分がどちらを使ったら有利かなどと考えないことです。「さしすせそ」も「たちつてと」も、議論を進めるためのきっかけにすぎません。議論の展開や雰囲気を考えて、「それは知りませんでした。ちなみに、統計的な裏付けはあるのですか?」と両方を組み合わせて使えばよいだけのことです。
議論には目的があります。お客様にとって良いサービスをつくるための議論であれば、まずお客様への愛がなければなりません。また、議論の相手は、共に良いサービスを検討する仲間であり、そこに尊敬がなければなりません。最後に、議論を深めるには準備、つまり知識が必要です。この「愛」「尊敬」「知識」を意識して議論すれば、くだらない勝ち負けにこだわることはなくなります。今年、皆さんの議論がバージョンアップすることを期待しています。
以上(2021年1月)
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画像:Mariko Mitsuda