書いてあること

  • 主な読者:コスト削減を進めたい経営者
  • 課題:どのような手順で、何を対象に削減していけばよいのか迷う
  • 解決策:利益に貢献しないコストを科目ごとにあぶり出し、アプローチする

1 「ムダ・ムラ・ムリ」とは

ビジネスの「ムダ・ムラ・ムリ」とは、次のような状態を指します。

  • ムダ:時間・労力・経費が無駄遣いされている
  • ムラ:時間・労力・経費にばらつきがあり、効率的に使われていない
  • ムリ:時間・労力・経費が不足して、業務を遂行できない

こうした「ムダ・ムラ・ムリ」は、顕在化しているもの(既に認識されているが、うまく対応できずに発生しているもの)と、潜在化しているもの(認識されていないもの)とがあります。

特に問題となるのは、潜在化している「ムダ・ムラ・ムリ」のほうです。存在すら認識されていないため、無意識のうちに経営資源を浪費し続けることになるからです。まずは潜在化している「ムダ・ムラ・ムリ」を顕在化させるためのポイントを考えます。

2 「ムダ・ムラ・ムリ」が潜在化しやすい業務

1)慣例化している業務

最初から「ムダ・ムラ・ムリ」だと分かっていて導入される業務はありません。当初は明確な目的があり、それを達成するために必要な業務だった(少なくともそう考えられていた)はずが、次第にその業務を行うこと自体が目的化してしまいます。

こうなると、「以前から続いている業務だから」といった“よく聞く理由”で継続することが当たり前となり、「その業務が現在の企業全体、あるいは部門の業務目的に適合しているか」といった検討がなされなくなってしまいます。

2)担当者が頻繁に変わる業務

多くの担当者が引き継いできた業務は、目的が曖昧になりがちです。業務を引き継ぐ際、前任者は自分がいなくても進められるようにと、作業手順を丁寧に説明します。しかし、業務の目的については、新任者も既に理解していると考え、省略しがちです。

引き継ぎ後、新任者は前任者が行っていたように円滑に業務を進めることに注力します。結果として、「なぜ、この業務を現在のような手順や方法で行っているのか」という意識が希薄となり、業務だけが慣例化されてしまいます。

3)特定の人しか理解していない業務

何かのきっかけがなければ、自分の担当業務の目的を思い起こし、「ムダ・ムラ・ムリ」がないかを定期的にチェックしている人はほとんどいないでしょう。「ムダ・ムラ・ムリ」の発見には、管理者や担当者以外の社員の客観的な指摘が必要なのです。

しかし、特定の人にしか分からない業務だと、そのような指摘をすることができません。その結果、「ムダ・ムラ・ムリ」があってもその存在が認識されず、“属人的で複雑な手順の業務”ができてしまいます。

4)責任者を明確に定めていない業務

責任者を明確に定めていない業務も、「ムダ・ムラ・ムリ」が潜在化しやすくなります。例えば、複数の部門間にまたがる業務です。こうした業務では全体を統括する人が不明確になりがちで、「ムダ・ムラ・ムリ」に注意を払う人もいなくなります。

また、実務担当者が「ムダ・ムラ・ムリ」を発見しても、自分たちだけで改善することができず、他部門との調整が必要になります。こうなると、改善に対する取り組みが後回しにされ、結果として「ムダ・ムラ・ムリ」が放置されてしまうことが多いのです。

3 「ムダ・ムラ・ムリ」を発見する

1)業務プロセスなどの明確化

まず、現状の業務プロセスや業務内容の全体像を明確にします。「業務記述書」などを使って自己申告をさせるとともに、不明な部分については、直属の上司などが担当者にヒアリングをして確認するようにします。

次に、企業・部門・社員ごとに業務に対する目標を明確にします。そして、その業務目標に従って、現在の業務内容が目標達成に対して有効な業務であるか否かを客観的に検討します。

2)トラブルを放置しない

また、事前に「ムダ・ムラ・ムリ」の回避策を講じている企業であっても、不意に「ムダ・ムラ・ムリ」が表れます。例えば、日常業務でトラブルが発生した場合、原因をつくった人の「不注意」や「能力不足」といった属人的な批判で終わりがちです。

しかし、その背後において「ムダ・ムラ・ムリ」が原因となっているケースは少なくありません。トラブルが発生した場合、現在の業務の方法などに「ムダ・ムラ・ムリ」がないかを検討してみることが大切です。

例えば、納期に遅れてしまった場合、営業担当者が忙しさのあまり、必要な手続きや納期の確認をしていなかったなど、業務の進め方に「ムラ」や「ムリ」があったことが原因かもしれません。この辺りは、しっかりと確認する必要があります。

4 「ムダ・ムラ・ムリ」の改善

1)やめる

「ムダ・ムラ・ムリ」の改善方法として最も効果的なものは、「ムダ・ムラ・ムリ」の発生原因を根本的になくすことを考えてみることです。すなわち、その業務自体を「やめる」(廃止・削除など)ことができないかという視点です。

2)減らす

「やめる」ことができない業務については、「減らす」(回数・頻度・数量・重さ・サイズなどを減らす)ことを考えてみます。例えば、毎日行っている報告書の提出を週単位や月単位にして、提出頻度を「減らす」といった方法です。

3)変える

「やめる」ことも「減らす」ことも難しい業務については、「変える」(形・色・位置・場所・順序・手順・材料・部品・担当などを変える)ことを考えてみます。より効率的な業務の進め方を検討することが大切です。

5 改善例

1)問題となった事例

営業部門のAさんは、「営業成績の報告」をするために、各営業担当者の日報から営業成績を計算し、その数値を報告書フォーマットに入力して報告書を作成していました。プリントアウトした報告書は経営者・各部門長に手渡します。

毎日、前日分の営業成績を営業担当者別に集計し、経営者・各部門長に報告書を提出しています。加えて毎週月曜日には、先週分の営業成績を営業担当者別に集計し、経営者・各部門長に報告書を提出しています。

この業務の「ムダ・ムラ・ムリ」について、「やめる」「減らす」「変える」に基づいた改善例を考えてみます。

2)「ムダ・ムラ・ムリ」を「やめて」みる

Aさんは、「日単位と週単位の報告書は、本当に両方とも必要なのだろうか」と考え、上司や各部門長、経営者に確認しました。すると、「日単位の報告書は週に何回か確認しているが、週単位の報告書はほとんど見ていない」という現状を把握できました。

そこで、関係者の了承を得て、試験的に1カ月間、週単位の報告書を「やめて」みました。すると、日単位の報告書があることから、経営者・各部門長から再度作成してほしいという要望は上がらず、1カ月後には週単位の報告書の廃止が決定しました。結果的に、Aさんは「ムダ」な業務を「やめる」ことができたのです。

3)「ムダ・ムラ・ムリ」を「減らして」みる

次に、Aさんは日単位の報告書について、「営業成績は1日でそれほど大きく変わらないし、経営者・各部門長も週に何回かしか確認していない。週2回の報告でもいいのでは?」と考え、関係者の了承を得た上で、報告書を週2回に「減らして」みました。

すると、製造部門からは「生産計画を立てる際の参考にするために、週3回は報告書が欲しい」という要望がありました。また、経営者からも「収益は気になるので、毎日もらう必要はないが、週2回では少ない」との要望がありました。

そのため、Aさんは報告書の提出回数を、週2回から1回増やして月曜日・水曜日・金曜日の週3回に変更しました。それでも報告書を毎日提出していた従来の方法に比べると、回数を「減らす」ことができました。

4)「ムダ・ムラ・ムリ」の原因となるやり方を「変えて」みる

さらにAさんは、報告書を作成するやり方を見直して「ムダ・ムラ・ムリ」を改善しようと考えました。Bさんから、「もっとパソコンを上手に活用すると効率的だよ」というアドバイスを受け、早速、パソコンをもっと活用したやり方に「変えて」みました。

具体的には、これまではエクセル上で足し算をしていたやり方を、関数を使った自動的な集計に変えてみました。同時に、報告書を経営者・各部門長に手渡ししていたやり方を、電子メールで送信するという方法に変更しました。

最初は新しいやり方に手間取った部分もありましたが、慣れてくると、今までよりも1時間以上早く終わるようになりました。従来の方法を「変える」ことで、Aさんは時間の短縮に成功したのです。

このように、「ムダ・ムラ・ムリ」の改善は、企業にとって貴重な経営資源の浪費を防ぐことにつながります。企業は「ムダ・ムラ・ムリ」の発見と改善に積極的に取り組むとよいでしょう。

以上(2018年12月)

pj40019
画像:pexels

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