書いてあること

  • 主な読者:Microsoft Excel(エクセル)を使って業務管理を行っている会社の経営者
  • 課題:業務管理の効率化を図りたいが、エクセルを使い続けることには限界を感じている
  • 解決策:エクセルには不向きな使い方をしていないか確認し、それに代わるクラウドサービスの利用を検討する

1 便利なエクセルですが、不向きな使い方をしていませんか?

多くのビジネスパーソンが慣れ親しんでいる「Microsoft Excel」(以下「エクセル」)。その使い方はさまざまで、台帳管理、勤怠管理、予算管理など、業務管理ツールとして使われるケース(以下「エクセル管理」)もあります。

しかし、本来、エクセルは表計算ソフトなので次のような使い方には不向きです。

  • 複数人での同時作業
  • ファイルの更新状態の管理
  • 細かなアクセス権限の管理
  • 複数データの統合
  • 大容量データの蓄積、処理

エクセルに不向きな使い方をしていることに気付いていなかったり、そのまま見過ごしてしまったりして、業務が非効率になっていないでしょうか?

この記事では、エクセル管理には限界があることを踏まえた上で、見直しを図っていく方法を考えていきます。

2 エクセル管理には限界がある

エクセルには不向きな使い方をしていないか、自社の課題を洗い出してみましょう。

1)複数人での同時作業

エクセルファイル自体は比較的簡単に共有できます。しかし、通常の使い方では、1つのファイルを複数人で同時に閲覧することはできても、同時に編集することはできません。

「共有ブック機能」を使うと同時に編集することもできますが、他の人が編集中の情報がリアルタイムに反映されるわけではなく、ちょっとした手順の違いで、入力したはずのデータが更新されていない、ファイルが破損するといったトラブルが発生しがちです。

2)ファイルの更新状態の管理

複数人で同じエクセルファイルを更新する場合、入力ミスがあったときや、誤って削除してしまったときなど予期せぬトラブルが発生した際に原因を特定するのが困難です。

また、各人が自分勝手な命名ルールで「(最新版)***.xlsx」といったファイル名で保存したり、バックアップ用と称してコピーしたファイルをいくつも保存したりすると、どのファイルが正しい最新のファイルなのか(本人ですら)分からなくなりがちです。

3)細かなアクセス権限の管理

例えば、部門や役職によって、特定のメンバーには編集権限を付与し、それ以外のメンバーには閲覧権限だけを付与するといった管理をしようとする場合、エクセルファイルに、細かなアクセス権限を設定して管理するのは現実的ではありません。

4)複数データの統合

例えば、プロジェクトの予算管理にはエクセルを使い、進捗管理には他のツールを使っているという場合、二重入力の手間がかかったり、最新情報の共有に漏れが生じたりする恐れがあります。

5)大容量データの蓄積、処理

エクセル2007以降であれば、1シート当たり104万8576行×1万6384列と、理論上はそれなりの量のデータを蓄積できますが、データ量が大きくなったり、複雑な関数を使ったりすると処理速度が遅くなります。ファイルを開くのにとても時間がかかったり、行を挿入したらフリーズしたり、といったように作業効率の低下を招くことになります。

3 エクセル管理から脱却するには

もし、先ほど説明したエクセルに不向きな使い方を御社がしているのであれば、エクセル管理からの脱却を検討してみてはいかがでしょうか。

1)エクセル管理からの脱却が進まないのはなぜ?

エクセル管理には何となく限界を覚えつつも、なかなか止められないのは、エクセルの使い勝手がよく、それで業務が回ってきたからです。会社側からすると、エクセルは業界や職種を問わず広く普及しているオフィスソフトの代表格であり、操作を覚えてもらうために従業員をトレーニングする必要もないため、わざわざ費用や時間をかけてまで他のツールを使う必要性を感じにくいのかもしれません。

2)クラウドストレージにエクセルのファイルを格納してみよう

クラウドストレージは、一般的に、ファイルのバージョン管理の機能が備えられています。このため、

同じファイルに上書きをした場合、「誰が」「いつ」「どのような」ファイル変更を行ったかが追跡できる

ようになります。ですから、万が一、データを前のバージョンに戻したいという場合も、すぐにデータを復元することが可能になります。

さらに、クラウドストレージならではの強みとして、データのバックアップ場所としても適切です。

事故や天変地異などで、社内の重要なデータを喪失してしまった場合でもデータが保持されています

ので、すぐに業務を再開することも可能になります。近年では、このデータバックアップを主目的として、クラウドストレージを活用する会社も少なくありません。

代表的なクラウドストレージとしては、次の3つが挙げられます。

  • OneDrive(Microsoft)
  • Googleドライブ
  • Dropbox

クラウドストレージは、基本的にはユーザーの数で課金されるケースがほとんどです。クラウドストレージを利用するユーザーの数が多い場合は、月々の利用料がそれなりの金額になるケースがあります。

3)クラウド型データベース構築ツールを試してみよう

近年では、クラウド型のデータベース構築ツールが普及し、簡単にデータベースを構築することができるようになりました。エクセルを、業務管理のためのデータベースのような形で使用している場合は、こうしたクラウド型データベース構築ツールを使ってデータベースに移行させることを検討してもよいでしょう。

従来のエクセルをデータベースに移行させる利点としては、次の2点が挙げられます。

1.複数人での利用がしやすくなる

エクセルを利用する場合、入力と出力が1つの画面にまとまっています。使い勝手は良いのですが、その半面、データを編集すべきではない場所を不慮の要因で上書きしてしまった場合、データが壊れてしまうリスクも抱えています。複数人が利用する場合、こうしたリスクが高まります。データベースを導入すれば、

入力すべきデータの種類が明確に規定され、入力の間違いや上書きによるデータ損失のリスクをゼロにする

ことができます。

2.“見える化”が進む

エクセルは入力と出力が1枚のシートにまとまっています。利用者によって見たい項目が違う場合でも、表示項目を切り替えるといった機能は、エクセルには備わっていません。利用者がその都度、表示をフィルタリングしたり、並び替えたりする作業が発生します。

データベースでは、入力と表示が明確に切り離されています。そのため、

それぞれの利用者が画面をカスタマイズして、必要な情報や入力項目だけを表示することができる

ので、“見える化”が進みます。

3)お勧めのデータベース構築ツール

近年、著名なクラウド型データベースの構築ツールとして、サイボウズ社のKintone(キントーン)が挙げられます。

エクセルからデータを直接読み込ませるだけでデータベース化することもできる

ので、プログラミングなどの知識がなくても、簡単に業務アプリを作成することができます。

ユーザー単位の課金となるため、利用者数が多いと金額がそれなりにかかってしまいますが、データベースを多用する会社は、価格以上の価値を得られると考えられます。

他にも、

  • Claris社のFileMaker(ファイルメーカー)
  • NI Consulting社のnyoibox(如意箱)
  • AirTable(エアテーブル。現状では英語版のみの提供)

など、多くのツールが登場しています。自社のニーズと実現したいことを踏まえながら、適切なツールを選択するとよいでしょう。

4 参考:円滑なデータ活用は社内ルールの標準化から

エクセルファイルに限りませんが、社内ルールが標準化されていないと、各人が自分勝手にファイル名を付けて、自分のパソコンのローカルドライブに保存することが横行しがちです。ファイルの命名ルールやフォルダの構成ルールといった基本が置き去りのままだと、クラウド型データベース構築ツールを導入したところで、どこに何のファイルが保存されていて、どれが正しいファイルなのか分からなくなってしまう恐れがあります。

1)ファイルの命名ルールを明確化する

まずは、ファイルの命名ルールを明確化することが考えられます。ファイルの命名ルールにはさまざまなアイデアがありますが、以下に幾つかのルールを挙げてみます。

1.日付を含める(例:「YYYYMMDD_ファイル名」)

ファイル名に日付を含めることで、ファイルが作成された日付が、ひと目で分かるようになります。

2.プロジェクト名や顧客名を含める(例:「社名_ファイル名」)

ファイルが属するプロジェクト名や顧客名をファイル名に含めることで、どのプロジェクトのファイルなのかが、ひと目で分かるようになります。

3.バージョンを含める(例:「ファイル名_v1」「ファイル名_v2」)

ファイルが何回編集されたのかをファイル名に含めることで、古いバージョンと新しいバージョンを区別することができます。

以上のような命名ルールを組み合わせて使うことで、ファイルの管理がより簡単かつ、見つけやすくなります。ただし、命名規則は目的に応じて変えることもできるので、自社の運用形態に合わせた規則を設定することが大切です。

2)フォルダの構成ルールを明確化する

ファイル名の命名ルールと合わせて検討したいのが、ファイルを格納するフォルダの構成ルールを明確化することです。プロジェクト名や業務分野、事業年度など、フォルダ構成を標準化することで、ファイルの管理がしやすくなります。

あまりフォルダの階層を深くしすぎてしまう(フォルダの中にフォルダがあり、そのフォルダの中にフォルダがあるといった状態にする)と、逆に目的のファイルが見つけにくくなるので、2~3階層程度にとどめておくことが望ましいでしょう。

以上(2023年3月)

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画像:IB Photography-shutterstock

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