書いてあること
- 主な読者:コスト削減を進めたい経営者
- 課題:どのような手順で、何を対象に削減していけばよいのか迷う
- 解決策:利益に貢献しないコストを科目ごとにあぶり出し、アプローチする
1 アウトソーシングの考え方
アウトソーシングは、経営の効率化や環境変化に対応するための手法の1つです。アウトソーシングを活用する目的は、人材の効率的な活用やコスト削減などのように、「経営の効率性を高める」ことと、自社の人材をコア部門に集中させるなどのように、「経営資源を集中させ、企業の競争力を高める」ことに大別されます。
2つの目的に共通するのは、アウトソーシングによって「自社の生産性・競争力の強化を目指す」ということです。本稿では、自社の生産性・競争力の向上につながるアウトソーシングを「戦略的なアウトソーシング」と位置付け、中小企業がアウトソーシングを活用する際の考え方を紹介します。
2 アウトソーシングの検討ポイント
1)自社のコア部門(本業)の確認
一般的なアウトソーシングは、自社の経営資源をコア部門(本業)に集中させ、本来の業務とは離れた業務(付随業務)を外部に委託して、経営の効率性・有効性を高める手法です。そのため、アウトソーシングを活用する際は、自社の強み・弱みをしっかりと、分析し、コア部門(本業)を明確にしておく必要があります。
自社の強み・弱みを見極めることによって、経営資源を投入すべきコア部門(本業)と、外部に委託して効率化を図ったほうがよい部門とが明確に分かります。自社の強み・弱みを見極める際には、「SWOT分析」を用いるとよいでしょう。
また、最近では金融機関が取引先企業の成長性などを見極めるために、強みや課題を洗い出す「事業性評価」に力を入れています。金融機関の営業担当者と一緒に、自社の強みなどを把握するようにするのも一策かもしれません。
2)既存業務の洗い出しと見直し
自社の強み・弱みを見極めた後は、重複業務のムダ・ムラ・ムリを把握して、委託する部門や業務の範囲を明確にします。例えば、ウェブサイトの制作と運営など、一括して委託したほうが費用対効果が高い業務もあります。そのため、既存業務を見直した後は、「どのような選択が自社にとって最も有益であるか」という点を、費用や効果の面から十分検討しましょう。
3)人材・業務遂行力の適正配置
「戦略的なアウトソーシング」を実現するためには、人材の適正配置が必要です。入力やチェック作業など単純作業の一部をアウトソーシングすると、従業員はこれまで行っていた単純作業から解放され、他の業務に集中できるようになります。
人材の適正配置の結果、その部門に余剰人員が生まれたとすれば、その余剰人員を自社のコア部門(本業)である開発設計部門に回し、自社の商品開発力を強化することが可能です。
4)アウトソーシングする業務範囲の決定、効果の算出、確認の仕組みの構築
アウトソーシングする業務を決定した後も、いきなり“丸投げ”するのではなく、業務範囲の確認、効果の算出、是正ポイントの確認などを行いながら、段階的に進めていきます。
こうすることで、その業務が本当にアウトソーシングに向いている業務であるか、求めている効果が本当に得られているかなどが確認できます。是正ポイントが見つかったら、素早く改善します。
3 事例から考えるアウトソーシング
1)A社の現状を整理する
A社は従業員15人の企業です。経理や総務など従業員の役割は一応決まっているものの、ほとんどの従業員がシームレスに多分野の業務をしています。A社は従業員が少なく管理が容易なため、新たな取り組みを始める際も自社の従業員でカバーするという発想が強く、アウトソーシングしようとは考えていませんでした。
このようなA社が、情報発信のために自社のウェブサイトをリニューアルし、SNSを導入することになりました。今回も自社の従業員でSNSの導入・運用を行う考えでいます。仮に、SNSの導入・運用などをアウトソーシングした場合、約100万円(初期費用のみ)のコストが発生します。
SNSの導入・運用をA社従業員だけで取り組んだ場合と、アウトソーシングを活用した場合の「取り組み比較」は次の通りです。単純に表中の項目だけで見た場合、コストの面以外は、アウトソーシングを活用することに分がありそうです。
2)アウトソーシングすべきか否か
A社の目的が、SNSの導入・運用などのノウハウ蓄積であれば、A社従業員だけで取り組むのもよいでしょう。しかし、アウトソーシング費用という目先のコストを嫌っているだけなら、金額には表れないムダやコストを抱え込む恐れがあります。
仮に、SNSの導入・運用を、A社で営業活動を主体に行っている従業員Yに任せるケースを考えてみます。通常、従業員Yは得意先回りや取引先の開拓に精を出しています。帰社してからは営業報告や日報の整理、その他部下の指導もこなすA社の貴重な戦力です。
この従業員Yが、これまでの業務の他に、SNSの導入・運用に関する業務も毎日行うようになってから、従業員Yの業務スケジュールは次のように変わりました。
アウトソーシングを活用した場合、初期費用の100万円に加え、ランニングコストが毎月数万円発生します。その半面、質の高いサービスが期待できることや、従業員に新たな業務負担が発生しないというメリットがあります。
一方、A社従業員だけで取り組む場合は、構築のための時間、完成後のメンテナンスに必要な時間、およびそれに付随する人件費などのコストも考慮しなければなりません。
このようにはっきりと数字で表れるコストを検討することはもちろん、従業員Yが本来、主として行う業務で得られたであろう期待利益が損なわれていることにも、目を向ける必要があります。これらを併せて比較検討してみると、単純なコスト比較でも、どちらがA社にとってメリットがあるかは、はっきりしています。
A社は、自社に欠けている弱みの部分に関しては外部資源を活用し(SNSの導入・運用をアウトソーシングすること)、自社の強みである部分をより生かしていくこと(従業員Yには営業業務に専念し成果を上げてもらうこと)が正しい選択といえるでしょう。
アウトソーシングによってコスト削減を図るというのは、人件費の削減といった目に見えるコストを抑えるというだけではなく、「期待利益を大きくする」「生産性を損ねるムダを削減する」という大きな意味があります。
4 中小企業に求められる姿勢
中小企業がアウトソーシングで生産性向上を図るためには、コスト削減だけに着目するのではなく、「自社のコア部門(本業)に経営資源を集中させる」「生産性を損ねるムダを削減する」といった視点を持つことが不可欠です。
最近は、インターネットを通じて外部から必要な人的資源を調達する「クラウドソーシング」も盛んであり、業務分野によっては活用できるでしょう。また、アウトソーシングではありませんが、会計ソフトなどを使うことでも省力化が図れます。
中小企業は、自社の従業員だけで業務をこなそうとする“自前主義”に陥りがちです。しかし、視野を広く持ち、既存の業務遂行体制を疑いながら、アウトソーシングの活用なども検討することが、自社の今後の成長につながります。
以上(2018年9月)
pj40011
画像:pexels