書いてあること
- 主な読者:人手不足に悩むサービス業や流通業などの労働集約型産業の経営者
- 課題:従業員の業務負担の軽減や、省人化を図るためにロボットを導入したい
- 解決策:警備、物流・倉庫、飲食、接客の4種類の業務の現場で働くサービスロボットの事例と実際に導入した企業の生の声を参考に、自社で導入可能なロボットを検討する
1 あなたの隣にサービスロボット
今やロボットは、工場などで稼働する産業用ロボットだけでなく、サービス業や流通業など労働集約型産業にまで裾野を広げています。このような「サービスロボット」と呼ばれるロボットは、警備や接客といった対人業務までこなすようになっており、従業員の業務負担の軽減に役立っています。
この記事では、警備、物流・倉庫、飲食、接客という4種類の業務の現場で働くサービスロボットの事例と、実際に導入した企業の声を紹介します。従業員の業務負担を軽減させることができるか、ぜひご検討ください。
2 警備
1)「ugo(ユーゴー)」(ugo 東京都千代田区)
1.特徴
「ugo」は、施設内を巡回・点検するロボットです。
- SLAM(自己位置推定)技術による自律移動
- 2本の7軸アーム
- 上半身を上下移動できるリフター
- 360度カメラや深度カメラ、衝突防止機能、音声機能など
の機能を持ち、
遠隔操作も可能で、複数体を同時に制御することもできる
そうです。立哨(りっしょう)、巡回、点検をして、人の警備業務を補完します。急な業務内容の変化や不測の事態が発生した場合には、遠隔操作に切り替えて対応することが可能です。
また、警備業務の他にも、映像データの記録、報告書の作成などの事務作業も任せることができます。同社広報担当の荒木祥子さんは、
「ビルの警備では、ugo2台の導入で、 警備員4名分の労働力の補完につながりました。また、データセンターでは、メーターの読み取り、記録、PCヘのデータ入力といった事務作業を代替することで、人が行う作業時間を約50分削減できました」
と言います。
なお、ugoのアームはあらかじめ動作登録をすることで、エレベーターのボタンを押したり、ものをつかんだり、お茶くみをしたりすることもできます。そのため、警備やデータセンター、火力発電所などでの巡回・点検などだけでなく、工場での部材・製品などの運搬、遠隔操作を利用した来客案内やお茶出し、老人ホームでの介護業務のサポートといった、さまざまな現場で導入されています。
2.導入企業の声
2023年3月時点で「ugo」が導入されているのは、データセンター、火力発電所、オフィスビル、工場、介護施設、研究機関などです。導入先の施設からは、次のように評価されているそうです。
- エレベーターの操作ボタンが押せるので、ロボットに連動するエレベーターに改装する必要がなくなった(商業ビル)
- 自動巡回/点検、自動運搬、自動棚卸しなどに加え、遠隔操作もできるので力が必要な単純作業や事務的なルーティンワークが減った(工場)
- お客さまへの簡単な声掛けや食事の誘導、レクリエーションの体操などでも活用でき、作業の軽減につながった(介護施設)
■ugo■
https://ugo.plus/
2)「PATOROR (パトロR)」(ZMP 東京都文京区)
1.特徴
「PATOROR」は、歩行程度の速度で自動運転し、表情と声で人に働きかける警備ロボットです。高さ約109センチ幅約65センチのボディーに、
- 自律移動機能
- 360度カメラ
- 消毒液散布機能
- パトランプ(青色回転灯)
- 液晶パネル、スピーカー
が搭載されています。これらの機能を使い、
カメラで周辺の障害物を避けて走行し、事前入力したマップ情報に従って適切な場所に消毒液を散布する
などの働きをします。また、液晶パネルで表示される目の表情は、状況に合わせて変化するとともに、スピーカーから「右に曲がります」「道を譲ってください」などの声掛けをします。同社ロボセールス&ソリューション事業部の池田さんは、
「営業中の商業施設やオフィスビル、オフィス内などでも人に威圧感を与えずに、親しみを感じていただいています」
と言います。
2.実証実験での声
2023年3月時点で警備ロボットとしての導入実績はありませんが、実証実験は行われています。実証実験を行った機関からは、次のように評価されているそうです。
- 危険度の高い場所や人が行きにくい場所、夜間の公園などの巡回に期待できる(警察)
- 人通りの多い地下街空間でも、人に代わって消毒作業ができるので助かる(商業施設)
- 手すりやベンチ、床面などの消毒も自動で行うので消毒作業が軽減できそう(鉄道)
■ZMP■
https://www.zmp.co.jp/
3 物流・倉庫
ご紹介するのは、物流支援ロボット「CarriRoR(キャリロR)」(ZMP)です。
1.特徴
「CarriRoR」は、物流施設で荷物などを搬送するロボットです。タイプとしては、
- ハンドルが搭載された「台車タイプ」
- ハンドルを取り外してパレット台車の下に潜り込んで搬送する「パレット積載タイプ」
があります。
決められたラインに沿って走る無人搬送車(AGV)と違い、カメラで施設内の標識を読み取り、自律走行します。具体的には、
- 路面に貼られた標識を識別しながら、自動で荷物などを搬送する「自律移動モード」
- ジョイスティックで操作ができる「ドライブモード」
- ビーコン(発信機)に反応し、自動追従する「カルガモモード」
という3つの機能があります。
さらに、同社のロボット管理システム「ROBO-HI(ロボハイ)」を導入すれば、
ロボットと自動ドアなどの設備が連携し、CarriRoRの移動に従ってエレベーターが自動開閉するなど、人手を介さないロボットの運用が可能
になります。同社ロボセールス&ソリューション事業部の塚田さんは、
「費用対効果が一番に求められる倉庫や物流センターでは、自律移動モードが一番活用されています。直近では、ROBO-HIを使用して自動ドアやエレベーターなどの施設設備と連携して活用するケースが増えています」
と言います。また、CarriRoRは、物流拠点や工場、小売店の搬送などの他、ホテルなどでも導入されているそうです。
2.導入企業の声
2022年6月の販売開始より「CarriRoR」は累計300社以上の導入実績があります(2023年2月時点)。導入先の企業からは、次のように評価されているそうです。
- 自社のロールボックスパレットの改造などをせずに搬送できる(運送)
- カルガモモードを使うと1人のスタッフで多くの配膳ができるので助かる(旅館)
- 声も出るため、なじみやすい、かわいい(小売)
■ZMP■
https://www.zmp.co.jp/
4 飲食
ご紹介するのは、4品同時に調理できるパスタ調理ロボット「P-Robo」(TechMagic 東京都江東区)です。
1.特徴
「P-Robo」は、パスタの調理ロボットです。幅約4メートルのボディーには、
- 高出力・高回転するIH(電磁調理器)
- 4つのフライパンを状況に合わせてハンドリングするアーム
- P-Roboが何を調理しているか、一目で分かるモニター
などが搭載されています。これらの機能を使い、注文が入ると、
- ソース・食材の投入
- 麺のゆで上げ
- かき混ぜながらの加熱調理(炒め調理)
- 調理後のフライパンの洗浄
の4工程を自動で行います。このため、人が行うのは盛り付けだけです。また、独自開発した4つのフライパンを同時に稼働させることで、メニューによっては、1食目は約75秒、2食目以降は約45秒間隔で調理が可能だそうです。
同社広報担当の杉山さんは、
「P-Robo1台で1~2人の省人化が見込めます。ただ、ロボットが調理するという物珍しさだけでは、お店は続きません。熟練のシェフの味を再現し、ロボットなのにおいしい、と思ってもらうことにこだわって開発しました」
と言います。使いやすさにもこだわり、モニターで食材やソースの残量の確認もできるそうです。
2.導入企業の声
2023年3月時点で「P-Robo」が導入されているのは4店舗です。導入先の企業からは、次のように評価されているそうです。
- レシピの暗記や調理方法を教える時間が減り、接客の指導に集中できるようになった
- 注文から提供まで、通常店は約5分かかるところが1分強にまで短縮した
- 通常の厨房が常時2~3人に対し、導入店は1~2人でまかなえるようになった
- 人間の調理と比べて、味付けにブレがない
■TechMagic■
https://techmagic.co.jp/
5 接客
ご紹介するのは、1人で最大5体のロボットを操作できる「いつでも・どこでも・誰でも働ける、遠隔操作ロボット(以下「遠隔操作ロボット」)」(サイバーエージェント 東京都渋谷区)です。
1.特徴
「遠隔操作ロボット」は、遠隔操作によって1人で最大5体までの接客ロボットを操れるロボットです。このロボットには、
- オペレーターの声をリアルタイムでロボットらしい音声に変換する
- オペレーターの声に合わせてロボットが自動で動く
- 細かい動作はパソコンを通じて操作できる
といった特徴があり、来場者は実際にロボットと話をしているような気分になるそうです。これまで商業施設、スーパーマーケット、アミューズメント施設、空港、保育園、行政施設などさまざまな現場で実証実験を行ってきた結果、
人が直接接客を行うよりも、ロボットを介してコミュニケーションを取るほうが、通常よりも高い立ち止まり率を実現
したといいます。また、通常の対面接客にはない顧客体験を生み出す可能性が発見されているそうです。
同社AI Lab(エーアイ ラボ)の馬場惇(ばば じゅん)主任研究員は、
「実証実験を行った商業施設からは、ロボットを介した質問対応を非常に多く遂行できたことから導入意向をいただきました。行政施設などからも、導入を検討したい意向をいただいています」
と言います。課題は、オペレーターの人件費を大きく上回る接客効果やコスト削減を実現できるかどうかとのことです。
2. 実証実験の声
遠隔操作ロボットの実証実験では、次のような結果が得られたそうです。
- ロボットを通して園児や来場者の人気者になれるので、孤独感の解消や自尊心の向上といったやりがいにつながる可能性がある(オペレーター)
- チラシ配布では通常の約5倍の受け取りに、声掛けの立ち止まり率は1.4倍になった(スーパーマーケット)
- 利用客の約67%がロボットと会話し、また会話の8回に1回は笑いが起きるなど、対面接客にはない新たな『顧客体験』を提供できる可能性を感じた(アミューズメント施設)
■サイバーエージェント■
https://www.cyberagent.co.jp/
以上(2023年4月)
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