書いてあること
- 主な読者:「個人情報の漏洩」など、ヒューマンエラーによる事故の防止を図りたい経営者
- 課題:ヒューマンエラー防止策を講じても、事故が発生することもある
- 解決策:防止策を着実に実行させるために、社内にチェック機関を設け、定期的に内部監査をすることが効果的
1 ヒューマンエラーの脅威
十分な対策を講じていても、事故発生のリスクは常にあります。その原因はさまざまで、「ヒューマンエラー(人間の誤認識や誤動作によって引き起こされるミス)」もその1つです。
「個人情報の漏洩」など、ヒューマンエラーによる事故はさまざまな分野で起こり得ます。これらの事故は、「信頼の失墜」「多額の賠償責任の発生」「顧客の安全性の損失」など、取り返しのつかない大きな損害を顧客や企業に与える恐れがあります。
IT化の進展でヒューマンエラーは起こりやすくなり、また想定される被害も大きなものになっています。企業は、日ごろからヒューマンエラーに対する適切な対応をしなければなりません。
2 ヒューマンエラーの類型と対策
1)情報処理のプロセスは3つ
人間による情報処理のプロセスは、「1.入力のプロセス(情報を自身の中に取り込むプロセス)」「2.媒介のプロセス(取り込んだ情報を判断するプロセス)」「3.出力のプロセス(判断に基づいて行動を決定、実行するプロセス)」の3つです。
ヒューマンエラーは、この全てのプロセスで発生する可能性があります。また、各プロセスで生じた個々のエラーは軽微でも、一連の情報処理のプロセスの中でそれらが連鎖することにより、より大きな事故を発生させる恐れがあります。
2)入力エラー
情報を入力するプロセスで発生するエラーです。集中力の欠如、見落とし、見間違い、聞き間違いなどにより、情報を正しく知覚・認知できないことをいいます。例としては、「数字の入力ミス」などがあります。
入力エラーを防止するために、指さし確認を行う、複数の担当者が読み合わせを行うなどの対策が効果的です。また、作業と作業の間に休憩時間を設けたり、集中力の高い朝に間違いやすい業務を行ったりします。
3)媒介エラー
情報を媒介するプロセスで発生するエラーです。油断、誤った知識、経験への依存などにより、情報を正しく判断・決定できないことをいいます。例としては、「正しいはずだという思い込みにより、誤った数字のまま次工程に進める」ことなどがあります。
媒介エラーを防止するために、上司が定期的にチェックして間違いを修正したり、勉強会を行って正しい知識を習得できる機会を設けます。また、マニュアルを作成し、業務や確認事項の統一化を図るなどします。
4)出力エラー
行動を出力するプロセスで発生するエラーです。やり忘れ、やり間違い、勘違いなどにより、作業を計画通りに正しく実行できないことをいいます。例としては、「数字の最終チェックを忘れてしまう」ことなどがあります。
出力エラーを防止するには、「ToDoリスト」(やるべき事柄をまとめたリスト)を作成する、余裕のあるスケジュールを組んで抜け漏れをなくすなどします。また、1つの業務を複数の社員が担当できるようにして、互いに確認し合うのもよいでしょう。
5)ヒューマンエラーの検知
以上のような対策を講じてもヒューマンエラーは発生します。そうしたヒューマンエラーがどのような状況で起こったのか、対策に問題がなかったのかを確認し、改善していくことが大切です。
また、ヒューマンエラーが発生した場合を想定し、損害の拡大を防ぐための対応も検討しなければなりません。具体的には、報告経路を定めて周知したり、クレーム対応の訓練をしたりします。マニュアル化するのもよいでしょう。
3 防止対策の運用上の留意点
過去に発生したヒューマンエラーによる事故を検証してみると、「決められた通りに防止対策を実行しなかったためヒューマンエラーが発生し、しかもその検知が遅れたために損害が拡大してしまった」というケースが多く見られます。
決められた通りに防止対策が実行されないのは、次のような担当者の主観的な判断や、油断によります。「エラーが出ていたが、経験から問題ないと判断した」「自分が確認したので大丈夫と油断し、ダブルチェックをしなかった」。
この他、防止対策が実行されているものの形骸化していて、動作としての指さし確認はしているが、無意識に指を指しているだけで全く確認をしていないということもあります。
こうした問題を改善するために、社内にチェック機関を設け、定期的に内部監査をすることが効果的です。加えて、ヒューマンエラーが起きたときの被害をイメージが湧きやすいように数字などを交えて共有するとよいでしょう。
以上(2018年10月)
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画像:unsplash