書いてあること
- 主な読者:コロナで海外や県外などへの移動がしにくく、現地視察ができない経営者など
- 課題:「リモート視察」の方法としてVR(仮想現実)などの現状を知りたい
- 解決策:VRでできること、メリットなどを把握し、自社で利用を検討する
1 コロナで注目「新しい見学様式」
新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大から、1年近くが経とうとしています。こうした中、外出の自粛が要請されたり、海外や県外などへの移動が制限されたりしています。ビジネスシーンにおいても、Zoomなどのオンラインツールが急速に普及するなどし、「リモート○○」と呼ばれる、「新しい生活様式」に対応するような取り組みが定着しつつあります。
その一つに、VR(Virtual Reality、仮想現実)などの技術を活用し、遠隔地にある工場や倉庫などの生産・物流拠点を、あたかも訪問したような体験ができる「リモート視察」を導入する動きも出てきました。
遠隔地訪問による感染リスクを抑え、さらに出張費用や訪問に掛かる時間まで削減できる、VR関連技術などを活用した取り組み事例や、導入のコツなどを確認してみましょう。
2 「リモート視察」こんなことができる
1)VR海外出張 NEWJI×floorvr
製造業向けに資材調達や購買業務を支援するNEWJI(ニュージ)は、VR関連の映像サービスを提供するfloorvr (フロアブイアール)と共同で、海外工場を国内からオンラインでリアルタイムに視察できる「NEWJI VR」のβ版を、2020年8月にリリースしています。
NEWJI VRは、海外との取引が増える製造業において、購買部門や品質管理部門による人的、経済的な負担の大きい海外出張を軽減するために開発されました。資材の調達先などを視察したい企業の担当者は、NEWJI から提供される専用ゴーグルを装着し、現地に設置された配信機材を通じて、現地の映像を360度シームレスに見ることができます。
海外との取引が多い総合商社や大手メーカーによるNEWJI VR体験事例が紹介されていますが、現場感が伝わってくることや、タイムラグのない高画質などが評価され、高い顧客満足度を獲得しているようです。
NEWJI VRの紹介ページでは、出張予算の簡単なコストダウンシミュレーションも行うことができ、出張予算が年間80万円以上掛かる場合には、コストメリットが見込めそうです。
■NEWJI■
https://company.newji.ai/
■floorvr■
https://floorvr.jp/
■NEWJI VR 紹介ページ(イメージ動画が再生できます)■
https://newji.jp/vr-factory
2)VR展示会 シンボシ
映像やスマートフォン向けアプリの制作を手掛けるシンボシは、仮想空間に展示会場を再現したVR展示会を提供しています。
このVR展示会はVR画像と、その画像に関連する説明動画を組み合わせて表示できるのが特徴です。VR展示会場は、実際の展示ブースを基に生成され、訪問者は仮想ブース内を「Google ストリートビュー」のように移動することができます。展示物の詳細情報は、仮想ブース内に「レ点マーク」で表示され、カタログなどが閲覧可能です。詳細情報には、PDF形式の説明資料の他に、オンラインショップなどのURLも添付できるため、仮想ブース内で商品を確認し、オンラインで注文を促すことも可能です。
また、VR展示会では訪問者数や展示商品の詳細情報のクリック数などのデータを収集することができるため、「展示会に出展してみたものの、効果がよく見えない」という、リアルな展示会にありがちな課題も解消できそうです。
■シンボシ■
https://www.simbosi.co.jp/
3)VRで不動産物件を内見 NURVE
VRコンテンツのプラットフォームを提供しているNURVE(ナーブ)は、VRゴーグルを用いて、マンションやアパートの室内を内見できる「VR内見」を不動産業者などに提供しています。
VR内見は、部屋を探している顧客が、不動産会社の店頭でVRゴーグルを装着して部屋の様子を把握することができます。VR内見を使うことで、内見予定の現地までの移動時間を短縮でき、より多くの部屋を紹介することが可能です。
同社は、VR内見をさらに発展させ、顧客と不動産会社がオンラインで会話しながら部屋を内見でき、商談も同時に行える「パノラマオンライン商談ツール」の提供を、2020年7月から開始しています。
こうしたサービスに加え、旅行先のホテルなどをVRで事前に確認できるサービスなども同社は提供しています。
■NURVE■
https://www.nurve.jp/
(注)「VR内見」「パノラマオンライン商談ツール」は、ナーブ株式会社の登録商標です。
4)3Dホログラム会議 イトーキ×ホロラボ
オフィス関連家具の製造などを手掛けるイトーキは、3D映像などを制作するホロラボと共同で、リアルタイム遠隔3Dコミュニケーションシステム「HOLO-COMMUNICATION」の法人向けの提供を、2020年5月から開始しました。
Microsoftのゴーグル型デバイス「HoloLens 2」や、AIセンサーなどを搭載した開発者向けデバイス「Azure Kinect DK」で構成するHOLO-COMMUNICATIONは、遠隔地の会議参加者の姿を立体的に生成することができます。従来のウェブ会議システムに比べ、映像が3Dで生成されるため遠隔地の会議参加者同士がよりリアルに感じられ、対面での会議と遜色のないコミュニケーションを取ることができます。
HOLO-COMMUNICATIONは、3D映像のニーズ調査や遠隔地との会議などの目的に適したシステム一式の提供プランと、自社アプリの開発を想定した開発パッケージ付きのプランの2つがあります。
■イトーキ■
https://www.itoki.jp/
■ホロラボ■
https://hololab.co.jp/
■HOLO LAB HOLO-COMMUNICATION紹介ページ(イメージ動画が再生できます)■
https://hololab.co.jp/holo-communication/
3 「リモート視察」導入のコツ
実際に「リモート視察」に取り組んでいる企業の評価はどんなものがあるのでしょうか。画像が固まったり、乱れたりして何が映っているのか把握できないことや、「やっぱり現地に行って目で見るのが一番!」という意見もあるかもしれません。導入事例はまだ少ないものの、「リモート視察」導入を進めている企業からは次のような話が聞けました。
海外から産業資材などを輸入する商社の場合
- 導入の背景
主に中国や東南アジアで製造した鉄鋼製品や樹脂製品などを輸入・販売しており、輸入前の製品の確認や、不良品発生時の現場確認などに海外工場へ視察することが多かった。こうした中、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて海外へ渡航することが困難になったため。
- 導入の狙い
当初の目的としては現地視察の代替・補助を想定していたが、海外工場と国内でやり取りがスムーズに進むようになれば、顧客への工場紹介や現地視察の経験が少ない社員・新入社員への事前レクチャーにも活用できそうだと感じている。
- 想定する運用方法
当面は、目視などで済むレベルの業務(製品の外観などのチェックや、不良品発生時の現場の状況確認など)での運用を想定している。不良品などの確認は、映像だけで安易に判断を下せない場合もあるため、実際に現地に足を運ぶ必要がある。
- コスト感について
中小・中堅企業にとって、「リモート視察」の導入コストは、「正直安いものではない」ものの、毎回の渡航・滞在費、現地および国内の人員・日程調整などをトータルで考えると、メリットがあると感じている。特に、中小企業でも海外出張や海外とのやり取りが普段から多い企業の場合、検討に値するのでは。
- 「リモート視察」試してみた“気付き”
本格導入はこれからではあるものの、当初の想定よりも活用方法は可能性があると感じている。例えば、これまでは海外工場を紹介する場合は、パンフレットや画像などで対応していたが、「リモート視察」であれば、その場で細かい質問などのやり取りなどができ、現地の詳細をより理解できると感じる。
また、経済産業省などの関係機関も、民間企業によるVR関連技術のビジネスシーンへの導入を支援しています。近畿経済産業局では、コンテンツ産業支援室が旗振りとなってセミナーの開催や、導入の手引書などを公開しています。
■経済産業省 近畿経済産業局 関西でのVR/AR/MR活用促進の取組■
https://www.kansai.meti.go.jp/3-2sashitsu/vr/index.html
4 大きく伸びるVR関連市場
これまで紹介してきたVRなどの技術は、実は長い歴史があり、古くは1960年代に発明された、ニューヨークの風景が再現されるシミュレーター「Sensorama(センソラマ)」まで遡るともいわれています。その後、幾度のブームと沈静化の波を乗り越え、近年の本格的なブームが到来しています。
VR関連技術などの市場規模としては、IDCやIHS Technologyなどが推計しています。
IDC Japanのプレスリリースによると、日本国内の「AR/VR関連市場」の市場規模は、2023年には34.2億ドル(約3600億円)、2018〜2023年の5年間の平均成長率(CARG)は21.5%と予想されています。
5 最後に:VR? MR? AR?「没入感」がキーワード
ここまで、VRなどの技術について紹介してきましたが、似たような言葉にMR(複合現実)、AR(拡張現実)などもメディアなどで見聞きすることもあるかと思います。さらに、これらを総称するものとしてXR(クロスリアリティ)もあります。
これらは、自身がどれだけ仮想の空間に入り込めるかという「没入感」の程度により分類することができます。簡潔にまとめると、以下のようになります。
VRなどの技術が本格的にビジネスシーンに浸透してきたのはつい最近で、新型コロナウイルス感染症のまん延を背景に、今後は用途も増えていきそうです。
前出の近畿経済産業局によると、従来は大企業が新規事業の一環としてVR関連技術の導入に関心を示していたものの、新型コロナウイルス感染症の影響で、展示会や商談会がキャンセルやオンライン開催となったことを受けて、自社製品のアピールをVR関連技術で検討する企業が増えつつあるそうです。
現時点では、中小企業が導入する事例は必ずしも多くはありませんが、今後も活用シーンの増加や導入コストの低下なども期待でき、動向を注視すべき分野といえるでしょう。
以上(2020年10月)
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画像:unsplash