書いてあること
- 主な読者:営業担当者が社内にいることが多いと思っている経営者
- 課題:営業担当者の内勤業務を効率化させたい
- 解決策:まずは見積書・請求書・発注書などの取引関連書類のペーパーレス化を行う
1 御社の営業担当者、書類の処理に忙殺されていませんか?
「うちの営業担当者は、社内でデスクワークをしている時間が長いな」と感じている経営者の皆さん。その大きな要因として、
内勤業務における書類のペーパーレス化が進んでいない
ことが考えられます。紙文化から脱却しない限り、営業担当者は
会社に戻って取引関連の書類を作成したり、顧客情報を確認したりすることに忙殺される
ことになります。この状況を改善し、ペーパーレス化を推進すれば、次のようなメリットもあります。
- 業務の効率化
- 好事例のノウハウ共有化とアップデート
- コストの削減
- 上司や経理とのリアルタイムでの情報共有
- 社内スペースの有効活用
- 環境負荷の低減
この記事では、営業担当者の業務効率化に焦点を当て、ペーパーレス化によって得られる6つのメリットと、ペーパーレス化を行う4つの方法についてご説明します。
2 ペーパーレス化で得られる6つのメリット
1)業務の効率化
情報が場所に縛られなくなるメリットは絶大です。リモートワーク中でも情報の確認ができるようになるなど、業務の大幅な効率化が期待できます。
外出先でも閲覧や情報入力ができるようになることはもちろん、紙の書類を1ページずつめくらなくても、検索すれば結果がすぐ見つけられるのでとても便利です。さらに、情報の抜け漏れについても、紙での管理と比べ「見える化」しやすくなります。
2)好事例のノウハウ共有化とアップデート
営業に関する提案書などは、書き手によって成果に差が出やすいものです。また、請求書や発注書を送付する際にちょっとした文章を添えられる営業担当者は、取引先から良い印象を得ることができます。
こうした営業に関連する書類は、好事例を基に書式をテンプレート化すれば、全ての営業担当者の書類作成能力をレベルアップできますし、省力化にもつながります。テンプレート化は紙ベースでもできますが、ペーパーレス化すればテンプレートを日々改良できるメリットも得られます。
3)コストの削減
紙に印刷するコストをはじめ、印刷物や封筒の印刷費・郵送費などを削減できます。また、個人情報が含まれた紙の資料を廃棄する場合はただ捨てるわけにはいかず、シュレッダーで裁断したり、溶解処理を依頼したりする必要があります。こうしたコストも、ペーパーレス化を進めることで削減できます。
4)上司や経理とのリアルタイムでの情報共有
見積もりや請求といった営業事務を紙ベースで行う場合、こうした書類は営業担当者それぞれの管理となります。営業担当者は作成した書類を持って、
- 上司の承認を得る(場合によっては上司の上司からの承認も得る)
- 経理に回す
といった作業が発生します。この点、見積書や請求書をペーパーレス化すれば、上司や経理担当者とも手軽に共有して「見える化」でき、不正の防止にもつながります。
5)社内スペースの有効活用
営業関連の過去の書類をペーパーレス化すれば、紙の書類の置き場所をなくすことができます。空いたスペースは福利厚生などに活用することができるかもしれませんし、オフィス全体のスペースを縮小できればコスト削減につながります。キャビネットなどに溜まった書類整理の作業も削減できます。
6)環境負荷の低減
紙の印刷物が不要となることで紙の消費量が減り、環境負荷の低減につながります。ペーパーレス化はSDGsにもつながる取り組みであり、実際に使用する紙の削減率といった数値化目標や実績を掲げ、社会貢献をアピールしている会社や団体もあります。
3 ペーパーレス化を行う4つの方法
実際にペーパーレス化を進める方法について、取り組みやすい順に説明します。
1)データスキャンによるPDF化
最もシンプルなのがこの方法です。既存の紙の書類をスキャナや複合機などでスキャニングし、PDFの形でデータ化していきます。紙の書類をPDF化した場合の利便性を高めるポイントが2つあります。
1.ファイル名の付け方の統一
この場合に重要なのはファイル名の命名規則です。どのような情報が含まれているのかファイル名から分かれば、検索性が飛躍的に高まります。ファイル名に含める情報の例としては、ファイル作成日、顧客名、書類種別、バージョン(改版がある場合)などが挙げられます。例えば、2023年9月20日に作成したA社の見積書の、2度目の修正データであれば「20230920_A社_見積書_C.pdf」といった命名を行うとよいでしょう。
こうした命名規則を採用する場合は、データ作成者によって入力のブレが生じないよう、明確にルールを規定し、運用していく必要があります。
2.PDFの中身の文書を検索可能にする
ファイルの中身まで検索対象にする場合、「OCR」を活用するとよいでしょう。OCRはOptical Character Recognition(光学的文字認識)の略で、スキャンした文字を認識してデータ化する手法、またデータ化された情報のことを指します。OCR処理を行うことで、完全ではありませんが、内容についても検索対象とすることができます。
Adobeが提供するAdobe Acrobatを使用すると、画像から作成されたPDFファイルに対してOCR処理を行い、文章の文字認識およびAcrobat上での文字列コピーが行えるようになります。自動処理のため、特に手書きの認識精度についてはあまり期待できませんが、検索のヒントにはなるでしょう。より高い精度を求める場合は、専用のOCRソフトが必要になります。
2)WordやExcelなどのオフィスソフトの活用
新規の書類やデータのペーパーレス化を行う場合は、Word(ワード)やExcel(エクセル)などのオフィスソフトを使うことを検討してもよいでしょう。
ビジネス用途ではMicrosoft Officeの普及率が圧倒的なので、これらのソフトで作成されたデータは汎用性も高く、取引先も使用している可能性が高いです。取引先に対して、WordやExcelに入力した情報をメールやメッセージングソフトで送付し、取引先から内容を追記して送り返してもらう、というワークフローを構築することも可能です。
ただし、これらのソフトが苦手とするのが、複数人が1つのファイルを扱う場合です。各人が同じファイルに同時に書き込みを行った結果、他の人が入力したデータを上書きして消してしまうことは珍しくありません。
3)クラウドの活用
複数人が1つのファイルを扱う問題の解消のために、DropboxやGoogleドライブなどのクラウドストレージにファイルをアップし、履歴データを残して修正する方法があります。
また、Word/Excelの代わりに、Googleが提供するビジネスツールGoogle Workspaceの1機能であるGoogle ドキュメント/Google スプレッドシートを使うことも一策です。複数人が同時にデータにアクセスして情報を書き込むことができます。
Google ドキュメント/Google スプレッドシートは、それぞれWord/Excelと互換性がありますので、これまでWord/Excelを使っていた会社も、容易に移行できます。
4)専用ソフト(システム)・会計ソフトの活用
より専門性の高いデータの場合、専用のソフトやシステムを導入する方法が考えられます。専用のアプリケーションが多数存在するので選択肢は豊富ですが、自社のデジタル化が不十分な段階で高度なソフトを導入しても使いこなすことは難しいので、段階的に導入を図っていきましょう。
この他、営業に関する情報に関しては、営業管理ツールであるSFA(Sales Force Automation)や、顧客管理ツールであるCRM(Customer Relationship Management)の活用により、顧客情報や案件情報、事例共有などのデータを見える化し、効率的な企業活動、営業活動を行うことができます。
4 ペーパーレス化のための課題とデメリットにも留意を
ここまでペーパーレス化によるメリットを挙げてきましたが、デメリットもあります。よく聞かれるデメリットについて述べていきます。
1)情報が見づらい
B4判やA3判いっぱいに印刷された数値資料など、大判の印刷を前提としたデータは、ディスプレイ上での確認では可読性が大幅に落ちてしまいます。こうしたデータはA4判に収まるようにフォーマットを調整するなど、ペーパーレス化を前提として情報の見せ方を変更しましょう。
2)データ消去のリスク
紙の書類の場合は現物が存在するため、きちんと管理を行っていれば紛失のリスクは低いです(盗難や紛失のリスクはゼロではありません)。
一方、データはうっかり消去してしまうリスクが高まります。また、社内サーバに保管していた情報が落雷によって全て消えてしまうというケースを目にしたこともあります。こうしたリスクは、情報のバックアップ体制を整えることである程度回避できますが、運用コストの増大を招くケースもあります。
3)運用コストの増大
ペーパーレス化を進めれば削減できるコストがありますが、逆に増えるコストもあります。例えば、バックアップやストレージのコストは、データの増加に伴って年々増大していきます。書類データは基本的に画像になるため、テキストデータに比べるとデータ量も増えがちです。また、セキュリティー対策にもコストがかかります。
4)避けて通れない印鑑の電子化
見積書や請求書についてまわる「印鑑」の問題も見逃せません。ペーパーレス化を図っても、承認の段階で一度印刷、捺印(なついん)を受けて、紙になった書類を再度データ化するというのは、多大なムダであることはお分かりいただけるでしょう。
電子印鑑のサービスも増えてきており、紙を経由しない完全ペーパーレスのワークフローも現実のものとなりつつあります。こちらは顧客とのやり取りが発生する事柄のため、自社だけでは解決しにくい面はありますが、社会的にも脱ハンコの流れは進んでいます。
5)電子書類の保持義務
ここまで実運用の話に絞ってお話ししてきましたが、電子データの保存・保持についても配慮が必要です。すでに国では電子帳簿保存法やe-文書法といった法律が整備され、ペーパーレス化の推進に向けた法的な整備も進みつつあります。
今回取り上げた営業関連の書類に関して、見積書や契約書、納品書等は電子帳簿保存法の対象となり、7年間の保存が義務付けられています。専用ソフト・会計ソフトの中には、電子帳簿保存法に対応したものもあります。
なお、電子帳簿保存法について詳しくは国税庁の特設サイトをご参照ください。
■国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」■
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/
以上(2023年9月更新)
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画像:pixabay