1 材料費を削減せよ!
このシリーズでは、架空のサクゲン株式会社を舞台としたコスト削減の取り組みをシミュレーション付きで紹介しています。今回のテーマは「材料費」で、コスト全般の削減シミュレーションは以下からエクセルをダウンロードしてください(ウェブで閲覧の場合に限ります)。ダウンロードしたエクセルに、御社の数字を入力して使うことができます。
材料費の削減は、値下げ交渉か材料・仕入先を変えることが中心となります。しかし、近年は物価高などの影響で、直接的な値下げ交渉は難しいかもしれません。また、材料・仕入先の変更は、品質の確認から取り組まなければならないため、削減効果が出るまでに時間がかかります。
材料管理に関連する人件費を削減するために、在庫管理システムなどを導入するという方法もありますが、導入費はシステムの構成や内容によって、数百万円から数千万円までと幅があるので、提供会社に自社の実情を理解してもらった上で、最適なシステムを提案してもらいましょう。
2 材料費の削減方針
営業部長と製造部長が材料費の削減方針について話し合っています。
営業部長:材料費の削減方針をまとめよう。
製造部長:まず値下げ交渉だが、これは難しそうだ。逆に、値上げを要求されているよ。交渉できるとしたら、ここ数年で始めたEC関係の資材くらいかな。
営業部長:なるほど。まずはEC関係の仕入先をリストアップしてみるか。あと、材料を変えるのは難しいかな?
製造部長:原材料は商品の品質に関わるから難しいな。ただ、別件で話をしていた改良予定の「冷凍牛肉コロッケ」なら、より安い材料に切り替えることはできるかも。
営業部長:あぁ~、それはそうだな。
製造部長:あと、入出庫・在庫・棚卸しの管理システムを導入するのはどうだろう。
営業部長:システム導入は大きな支出になるのでは?
製造部長:確かに大きな投資だが、毎日、在庫確認に人手を取られていることなどから試算すると、3年以内に削減効果は出る見込みだよ。
この会話を受けて、削減方針を次のようにまとめました。
材料費
- 定 義:商品そのものを構成する材料(直接材料)、もしくは、商品の一部として特定しにくい材料(間接材料)を購入するための支出
- 支出内容:主要材料費(原料費、製品の主要部分に用いられる材料の費用)
- 削減方針:仕入先を変える、購入単価を変える、材料を変える
- 削減目標:350万円
さらに、提案があった削減方法のアイデアの取り組み難易度を決め、1年間の削減効果と削減に必要となる追加支出をシミュレーションして、取り組みの優先順位を決めました。具体的には次の通りです。
なお、図表中の削減効果は、サクゲン株式会社のシミュレーション条件によるものです。実際の効果は会社ごとに異なります。
3 材料費の削減シミュレーション
1)より適正な価格の材料に切り替える(難易度:中)
顧客があまり価値を感じていない材料は、適正な価格の材料に変更することで、コスト削減につながります。
サクゲン株式会社では、年間販売数量19万個の家庭向け冷凍牛肉コロッケ(黒毛和牛A5等級100%使用、牛肉含有量10%、1個90グラム)について消費者にアンケートを取ったところ、A5等級100%であることから生じる、ある種の脂っこさが改善点であることが判明しました。
そこで、原材料の牛肉のうち、50%をA5等級(2.6円/グラム)からA4等級(2.2円/グラム)に変えることにしました。その場合、1年間の削減効果は次のようになります。
34万円≒(2.6円/g-2.2円/g)×90g×10%×50%×19万個
2)入出庫・在庫・棚卸しの管理システムを導入する(難易度:中)
材料の入出庫・在庫・棚卸しにおける確認や記帳作業などは、管理システムを導入することで、コスト削減につながります。
サクゲン株式会社では、商品個別の重量が異なる食肉特有の煩雑さから、これまで材料の入出庫管理をしておらず、在庫確認は、毎日、4人で1時間かけて行っていました。また、月1回の棚卸し作業は、実地棚卸しに6人で6時間、棚卸し表の作成に1人で2時間かけていました。
管理システム(取得価額500万円、耐用年数5年)を導入することで、毎日の在庫確認がなくなり、実地棚卸しにかかる時間は3人で6時間に減り、棚卸し表の作成も不要になります。なお、毎日の入庫作業は必要になるものの、出荷時の作業負担が軽減されることなどから、累計作業時間には影響しないものとします。また、これらの作業に関わる社員の平均時給は1700円とします。その場合、1年間の削減効果は次のようになります。
104万円={[(4人×1時間×20日+6人×6時間+1人×2時間)×1700円×60カ月]-[(3人×6時間)×1700円×60カ月+500万円]}÷5年
3)仕入価格の値下げ交渉を行う(難易度:高)
仕入価格は、「取引数量を増やす」「現金仕入れにする」「支払いサイトを短縮する」などを交渉材料に値下げ交渉を行うことで、コスト削減につながります。
サクゲン株式会社では、自社ECサイトの商品用の梱包資材(ギフトボックス370円/枚、月700枚購入)を、資材の主な仕入先(A社)とは別の会社から購入していました。この仕入先をA社に一本化することで10円/枚の値下げに成功した場合、1年間の削減効果は次のようになります。
8万円≒10円/枚×700枚×12カ月
また、法人取引の場合、仕入先を見直す機会はあまり多くありませんが、値下げ交渉が不調となってしまったときには、仕入先の見直しが必要です。例えば、仕入れルートが元卸・1次卸・2次卸と多段階になっていると、中間マージンがかかる分、仕入価格が高くなります。直接メーカーから仕入れることができれば最良ですが、それができなくても、メーカーに近い商社や問屋などから仕入れる努力をしましょう。
4 材料費を削減するときのポイント
1)製品の機能の価値と実現コストを評価する
製品は様々な材料・部品で構成されますが、全ての機能が本当に必要とは限りません。例えば、他社との差異化を図るために様々な機能を付加したものの、製品をリニューアルしていくうちに当初の目的が曖昧になったり、多くの他社製品にも同様の機能が付加されて、すでに差異化要因にならなくなったりしているケースがあります。
材料費を削減するときは、製品の機能の価値と、それを実現するための材料・部品にかかるコストを評価します。評価は、製品の機能が顧客にどれだけの価値をもたらすのかという視点で行い、コストがかかる割に価値が低い機能があれば見直しましょう。
ただ、製品の生産が始まってからでは見直しが難しくなります。できるだけ、開発段階から材料設計を行い、部品の点数を減らせないか、部品の加工に必要な工数を減らせないか、標準化した部品を組み合わせてモジュール化できないかなどを検討します。そして、生産が始まってからは、より安く仕入れる方法を考えることが大切です。
2)安い材料への切り替えは慎重に検討する
材料は、より安いものに切り替えられないか検討することは大切ですが、それによって製品の品質や価値を低下させては意味がありません。会社の信頼にも関わりますので、材料を切り替えた場合の影響を、様々な視点から検討しましょう。また、材料の切り替えによって、加工費が高くなってしまわないかなども考慮する必要があります。
3)材料市況や為替など外部環境の変化に備える
材料費は材料市況や為替などによって変動するため、景気指標などを押さえた上で、先行きを見据える必要があります。
例えば、「PMI(Purchasing Manager’s Index、購買担当者景気指数)」は、購買担当者が知っておきたい景気指標の1つです。製造業やサービス業の購買担当者を対象にアンケート調査や聞き取りなどを行い、新規受注・生産高・受注残・価格・雇用・購買数量などの指数に一定のウエートを掛けて算出されます。通常、数値が50を上回ると景気拡大、下回ると景気後退と判断されます。
英国の金融情報・調査会社IHSマークイットが各国のPMIを算出している他、米国ではサプライマネジメント協会、中国では国家統計局・中国物流購買連合会がPMIを算出しています。
なお、材料費以外のコストの削減アイデアは、それぞれのリンクから見ることができます。
以上(2025年2月更新)
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画像:Mariko Mitsuda