書いてあること
- 主な読者:資金繰りに不安があり、もう一段のコスト削減を図りたい経営者や財務担当者
- 課題:コスト削減の中でも、手始めに経費削減を行う際のポイントを確認したい
- 解決策:まずは基本的な考え方や進め方に立ち返り、水道光熱費の削減を検討する。クールビズ/ウォームビズやLED照明への交換など、省エネにつながる制度や設備は、容易なものから導入を始めるとともに、従業員への省エネ意識の浸透を図っていく
1 難易度別・コスト削減のヒント
難易度C(ルールの変更や制度の導入をすれば実行が可能)
- クールビズ/ウォームビズを実施する
難易度B(実行するための作業や準備が必要)
- 上・下水道料金の減額措置を申請する
- 電気料金の契約メニューを見直す
- 空調(冷房/暖房)を抑制する
- 照明(室内/室外)を抑制する、LED照明に交換する
- 省エネに関する外部専門家の知見を活用する
難易度A(事業全体への影響の考慮が必要、従業員の自発的な協力が必要)
- 最大需要電力を抑制する
- 業務の効率化を図る(残業時間の削減など)
- 従業員に省エネ意識を浸透させる
2 水道光熱費を削減する際の考え方
水道光熱費は、
上・下水道料金、電気料金、ガス料金、暖房灯油代など
が該当します。事務所・店舗・工場などの建物の種類や業種など、会社によって支出状況は異なります。来店客が多く訪れる店舗や、大量の電力や水道を使用する工場などでは、支出額が大きくなります。
大口需要家などを対象にした減額措置や割安なプランが用意されている場合があるので、こうしたプランを利用したり、利用量を抑えたりするのが、水道光熱費のコスト削減の基本的な考え方です。
また、例えば、自社所有の建物を自社のみで使用しているのであれば、負担するコストは全て自社で消費したものですが、オフィスビルにテナントとして入居している場合は、各テナントの面積で案分された共益費が料金に含まれるなど、負担するコストと自社の消費量が必ずしも一致しないことがあります。
水道光熱費をコスト削減する際は、こうした特徴を踏まえながら、自社に合った方策を検討することがポイントになります。
3 水道光熱費を削減する際の具体的な方法
1)難易度C:クールビズ/ウォームビズを実施する
クールビズ/ウォームビズは、暑いときは涼しい服装、寒いときは暖かい服装で仕事をすることで空調機器の温度設定を調節し、節電を図る取り組みです。近年はこうした取り組みが広く定着しました。クールビズをさらに進化させた「スーパークールビズ」を進める動きもあります。
なお、社外の人と対面する場合、対面する相手や場面によっては、クールビズ/ウォームビズを適用しないことが適切であることもありますので、状況によって対応を変えることも必要です。
2)難易度B:上・下水道料金の減額措置を申請する
飲食業や社会福祉施設など、業種によっては水道事業者に申請することで、上・下水道料金の減額措置を受けられる場合があります。水道事業者によって対象業種や減額幅が異なるため、契約先に確認するとよいでしょう。
3)難易度B:電気料金の契約メニューを見直す
契約メニューの見直しにより電気料金が低減できる可能性があります。電力会社によって多彩なメニューがあるため、契約先に確認するとよいでしょう。電力の小売全面自由化によって、小規模事業所でも自由に電力会社や料金メニューを選択できるようになっています。
4)難易度B:空調(冷房/暖房)を抑制する
空調(冷房/暖房)の抑制としては、使用していない場所では空調機器の電源を切り、空調が必要な場所では設定温度を決めるようにします。また、遮熱カーテン・遮熱ブラインド・窓ガラスに貼る遮熱シートや扇風機を使うことで、冷暖房の効率を高めることができます。
なお、空調(冷房/暖房)の設備がある場合、企業は事務所衛生基準規則第5条第3項に基づいて、労働者がその業務に従事する事務室内の環境について、室温が18度以上28度以下、相対湿度が40%以上70%以下になるように努めなければなりません。節電を過剰に意識するあまり、実施する取り組みが保健衛生、安全および管理の観点から不適切なものにならないように十分な注意が必要です。
5)難易度B:照明(室内/室外)を抑制する、LED照明に交換する
照明の抑制は、社外の看板や廊下・事務室内の不要な照明を消灯することで節電を図る取り組みです。また、消費電力の多い従来型蛍光灯をLED照明に交換することも、広い意味で照明の抑制に当てはまります。
民間企業の中には、LED照明への交換サービスをリースやレンタル、ローン、サブスクリプションといった方式で提供し、初期費用を抑えて月々の電気代の節減分で賄うことを可能としている事業者もいますので、チェックしてみるとよいでしょう。
なお、事務室内の照明の抑制を実施する場合、日本産業規格「JIS Z9110 照明基準総則」を参照するとよいでしょう。事務所衛生基準規則第10条第1項で定められた、室内の作業面の照度について最低限の明るさ(一般的な事務作業300ルクス以上、付随的な事務作業150ルクス以上)よりも、詳細に定めています。
6)難易度B:省エネに関する外部専門家の知見を活用する
外部専門家の知見を活用するのも1つの方法です。例えば、省エネルギーセンターでは、中小企業などの省エネ・節電の推進をサポートするため、「省エネ最適化診断」や、無料の「講師派遣(省エネ・節電説明会)」実施しています。
また、ESCO・エネルギーマネジメント推進協議会では、無料の「ESCO・エネルギーマネジメント説明会の講師派遣」を実施しています。ESCO(Energy Service Company)事業は、工場やビルの省エネルギー改修に掛かる費用を水道光熱費の削減分で賄う事業です。省エネルギー診断、設計・施工といった直接工事に関わるサービスとともに、運転・維持管理、資金調達などに関する全てのサービスを提供することによって、実現した省エネルギー効果の一部を報酬として受け取るサービス事業です。
7)難易度A:最大需要電力を抑制する
契約電力500キロワット未満の実量制契約の場合、契約電力は、当月を含む過去1年間の各月の最大需要電力(デマンド値。使用電力量を30分ごとに計量し、そのうち月間で最も大きい値をいいます)によって決まります。最大需要電力を抑制することで契約電力が抑えられ、基本料金の低減につながります。
最も電力需要が多いときには、不要不急な電力以外を使用しないようにする「ピークシフト」ができれば、最大需要電力を抑制することにつながります。
また、最大需要電力があらかじめ設定した目標値を超えそうな場合に警報などで知らせたり、自動的に電気機器を制御したりする、デマンドコントロールシステムの導入を検討してもよいかもしれません。
ただし、使用電力を抑制するのは、業務に支障が出ないことが大前提になります。電力使用を抑制した場合の影響を十分に考慮する必要があるでしょう。
8)難易度A:業務の効率化を図る(残業時間の削減など)
何より業務の効率化が水道光熱費のコスト削減につながります。例えば、1人の従業員が毎日1時間の残業をした場合、残業代だけではなく、その1人のために事務所の照明、パソコンの電気、空調など1時間分のコストが毎日積み重なっていきます。部門内で協力して、定時に全ての業務を終了させれば、毎日の1時間分の水道光熱費をコスト削減できることになります。
また、リモートワークが広がって、オフィスに出社する人が減った場合、密にならない程度に座席の配置を変更し、スペースの効率活用を図ることが、光熱費の削減にもつながります。従業員がいなくなったスペースの電気を消しておくよう、管理者側が指示しておくとよいでしょう。
9)難易度A:従業員に省エネ意識を浸透させる
細かいことですが、「使用していない電気をこまめに消す」「必要以上の水量を抑えて蛇口をひねる」「冷蔵庫の中に不要なものを入れたままにしない」といったことの積み重ねが、水道光熱費のコスト削減につながります。
こうしたことを、管理者側が機械的に指示するだけでは、従業員の間で徹底させるのに不十分だといえます。コスト削減だけでなく、SDGsなどの点からも省エネ意識の大切さを強調してみたり、細かい省エネの積み重ねが、実際にコスト削減や環境保全にどれくらい貢献するのかを数値化して示したりすることで、従業員への省エネ意識の浸透を図るのもよいでしょう。
以上(2023年2月)
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画像:pexels